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ポストコロナに向けた企業経営のあり方~デザインによる組織変革とイノベーション~
(HAKUHODO DESIGN × IDEO Tokyo × SYPartners共催ウェビナーレポート)

2021.12.10
#イノベーション#コンサルティング#デザイン経営
先が読めない時代において、企業は今、変化に対応できるしなやかな組織を構築し、イノベーションを生み出していくことが求められています。その中で、物事をより良くすることを目的とし、常に人を中心に考える「デザイン」は、これらの企業活動の実行性を高め、共感を生み出していく力となります。
デザイン経営の推進に取り組んでいるHAKUHODO DESIGNと、数多くのグローバル企業の組織変革やイノベーション支援を手掛けてきたIDEO TokyoとSYPartnersがこのたび協働して、企業経営にデザインを取り入れ、持続的な成長を実現するための実践型プログラム「Design for Purpose」を開発しました。本記事では、3社のデザインとビジネスに関するスペシャリストたちが、経営にデザインの手法を取り入れる実践的な方法論について解説したウェビナーの内容をレポートします。

永井 一史 HAKUHODO DESIGN 代表取締役社長 アートディレクター/クリエイティブディレクター
福田 卓郎 SYPartners クリエイティブディレクター
田仲 薫 IDEO Tokyo シニアデザインディレクター
※発表順

【Part 1】オープニング:企業経営になぜデザインとクリエイティビティが必要か(HAKUHODO DESIGN 永井一史)

HAKUHODO DESIGNの永井です。はじめに、現在のビジネスを取り巻く現状について整理したいと思います。大きく5つの要素が挙げられます。

第1に、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代で、先行きが見えない状況になっていること。第2に、科学的経営、業務効率化が限界を迎えていること。第3に、SDGsやESGの機運が世界的に高まり、企業は自社の利益だけでなくさまざまな社会課題と向き合って経営していくべきであるという要請に迫られていること。第4に、デジタルトランスフォーメーション(DX)を重要な経営課題として取り組むことが求められていること。
これら4つの要素は以前から言われていたことですが、さらに第5の要素として加わったのが、新型コロナウイルスのパンデミックの影響です。経営環境の変化により、成長戦略の見直しを迫られているだけでなく、働き方も大きく変化しています。

ますます先が見えにくくなった社会変化の中でも、企業には持続的成長が求められます。そこで不可欠なのが、デザインやクリエイティビティの力であると我々は考えています。

日本では2018年5月、経産省と特許庁によって「デザイン経営宣言」が発表されました。私もこの研究会のメンバーとして1年ほど議論に参加しましたが、多くの参加者の問題意識は、日本ではまだデザインやクリエイティビティがうまく経営に生かされていない、ということでした。デザイン経営とは、デザインを企業価値向上のために重要な経営資源として活用する経営の方法論です。これを推進していくことが、日本の産業競争力を高める上でも非常に重要です。

「デザイン」とは非常に広い概念ですが、私自身は、「より良くすること」を目的に、「人から考え」、「美と調和を大切にする」という思想のもと、「考えとカタチを往復」する活動だと思っています。自分の考えを頭の中だけにとどめず、具体的な形にして検証することで精度を上げていくことがデザインです。
従来は、「論理性」や「経済性」、「部分最適(それぞれの部署・領域で最適であること)」が強い企業に求められていましたが、それに対しデザインの力を活用した経営では、「創造性」や「文化性・社会性」、「一貫性(社内外からの見え方や、個人と組織の意識が一貫していること)」を非常に重視していきます。

【Part 2】デザインによる組織変革とイノベーション創出の実践 ―①パーパスを作る(永井一史)

では、デザインによる組織変革とイノベーション創出とは、具体的にどのように実践していくべきなのでしょうか。図は、我々が開発したフレームワーク「O.P.O. model(オーピーオーモデル)」です。「Organization(組織)」「Purpose(パーパス:企業の社会的存在意義)」「Offering(提供するもの:商品・サービス)」の頭文字を取ったもので、パーパスを起点に、組織や商品・サービスが作られることを表しています。そして、「Internal Design(社内向けのデザイン)」と「External Design(社外向けのデザイン)」の両者を密接に交わらせていくことによって「Culture(企業文化)」が醸成され、それを発信していくことで企業らしさ、つまり「Brand(ブランド)」が作られていくわけです。

ここからはO.P.O. model(オーピーオーモデル)に従って、デザインによる組織変革とイノベーションの創出を、「①パーパスを作る」「②組織を変革する」「③イノベーションを起こす」という3つのパートに分けて説明します。私からは「①パーパスを作る」についてお話しします。

パーパス作りには、3つのステップがあります。
ステップ1は「広げる」です。あらゆる企業は、事業活動の中でさまざまな経験をしており、その経験が自社のパーパスと必ずつながっているはずです。過去の経験を、歴史視点(起源や歴史を見つめる)、文化視点(どんな暮らしを提案できるか)、社会視点(世の中にどう役立つのか)、機能視点(何が自社の強みか)、関係視点(生活者から期待されていることは何か)という5つの視点で見つめながら、パーパスにつながりそうな要素をたくさん挙げて徹底的に広げていきます。

ステップ2で、それを「取捨選択」していきます。ステップ1でたくさん挙げた要素の中で、自社が今後も守っていくべきこと、もう必要なくなったこと、今はないけれど強化していくべきことなどを整理して、パーパスを形作る要素を固めていきます。

ステップ3では、それを具体的な「カタチ」にします。長々とした文章ではなく、共感を持って社内外に伝わるようなコンパクトな言葉に落とし込んでいきます。

パーパス作りは、デザインの考え方を経営に取り入れていくプロセスの起点となるため、自社の歴史や創業の原点を大切にしながら、多様な視点で自社を見つめることが重要です。パーパスは、企業らしさが反映され、組織内外の共感を生み、社員の行動の原動力になるような言葉であるべきということをぜひ覚えておいていただきたいと思います。

【Part 3】デザインによる組織変革とイノベーション創出の実践 ―②組織を変革する(SYPartners 福田卓郎)

SYPartnersの福田です。私からは「②組織を変革する」をテーマに、パーパスを規定した上で組織をどのように変革をしていくかを、SYPartnersの事例を交えながらご紹介します。

私たちSYPartnersが、企業の組織変革に取り組む際に重視していることが2つあります。
一つは、人々を組織変革に駆り立てるような「Beautiful Question(本質的な問い)」を立て、経営陣や従業員の間で共有すること。そしてもう一つは、組織変革を継続的なものにするために、人々に新しい行動や振る舞いを促す「Culture Design(組織文化デザイン)」を実行することです。

今回は「Culture Design」を実践した例をご紹介します。
図は組織文化を動かしていく要素を示したもので、我々はこれを「Culture Levers(カルチャーを動かすテコ)」と呼んでいます。組織において人々の行動に影響し合う要素を、さまざまな角度から検討するためのツールです。

この中の主要な要素を取り入れて組織を変革していった事例として、日本IBMと当社が取り組んだプロジェクトをご紹介します。

2012年当時の日本IBMは、市場シェアの縮小とそれに伴う社員の士気の低下、イノベーション創造力の低下などさまざまな課題に直面していました。当時日本IBMのCEOだったマーティン・イェッター氏は、その様子を見て変革を決意され、プロジェクトが始まりました。イェッター氏とディスカッションを重ねる中で、一番の課題は営業担当者のマインドセットと行動様式にあることがわかり、その行動変容を促す取り組みを検討。まず、営業の方に新しいカルチャーとスキルを学んでいただくための研修プログラム「Smarter Selling Academy」を開発しました。大きな会場に約5000人の営業担当者を一同に集め、日本IBMの新しい戦略を伝えながら、コーチングやコラボレーションなど様々なテーマのブレイクアウトセッション(分科会)を行い、彼らの顧客との実際の課題を題材にして、実践的に新たな行動様式を習得していただきました。

さらにこのプロジェクトでも、パーパスがとても重要な役割を果たしました。IBMのパーパスである「Be essential.(最も必要とされる存在になる)」を中心に、それを実現するための「3つの価値観と9つの取り組み」を定義。具体的にどういったことを実践すればパーパスが実現できるのかを明確化し、日々の活動に取り入れやすくしました。

そして、組織全体に新しい仕事のやり方を浸透させるためのツールやリチュアル(日々繰り返し行う業務プロセス)なども開発しました。それらを通して、日本IBMの営業担当者は顧客との関係性を深め、コラボレーティブに課題解決をするようになっていきました。つまり、IBMのパーパスにあるように、彼らはEssential Partner(最も必要とされるパートナー)になっていきました。

この取り組みの結果、日本IBMは15四半期連続の成長と約1700億円の売り上げアップを実現しました。また、日本で大きな成功を収めた「Smarter Selling Academy」は、その後北米やヨーロッパ、アジアなど72カ国に展開されて行きました。日本発のパーパスを中心とする行動変容と組織変革を推進する取り組みが、世界各国のIBM拠点に広がっていったわけです。

【Part 4】デザインによる組織変革とイノベーション創出の実践 ―③イノベーションを起こす(IDEO Tokyo 田仲薫)

IDEO Tokyoの田仲です。最後のパートでは、「③イノベーションを起こす」をテーマに、パーパスの規定と組織変革を経て、いかにイノベーションを起こすようなプロダクト/サービスを打ち出していくかについて、IDEOの事例とともにご説明します。

このパートで我々はまず、変化を体現する「ビーコン(Beacon)」を策定します。ビーコンとは「灯台」の意味ですが、「光を照らして組織が進むべき方向性を示すもの」を指します。図はビーコンの概念図です。組織が円だとすると、組織変革とはパーパス(図の①)の方向に向かって形が変化していくことを示しています。パーパスに向かって伸びているところがビーコン(図の②)。ここで組織が少し背伸びをし、新たなことに挑戦していきます。単に新しい商品を作るだけでなく、それに取り組むチームも変化を体感しながら学んでいき、その学びを組織全体に還元する役割を担います。そして学びながら成長する文化を醸成していきます。

ビーコンの活動は、「(1)Commit」「(2)Discovery」「(3)Alpha」「(4)Beta」「(5)Live」という5つのフェーズからなります。
「(1)Commit」と「(2)Discovery」は、取り組み内容を検討するフェーズ。「(3)Alpha」と「(4)Beta」は、文字通りアルファ版、ベータ版として商品を徐々に世の中に出していくフェーズ。最後の「(5)Live」フェーズでスケールしていくという流れです。

ここでは、IT会社である日本事務器(NJC)が立ち上げた、青果の生産者と卸業者の間で出荷情報を共有できる「fudoloop(フードループ)」という新サービスのケースを通じて、各フェーズを説明したいと思います。

NJCはシステムの開発から運用・保守にいたるソリューションやサービスを提供する会社ですが、100周年を数年後に迎えるにあたり、独自の新規サービスを立ち上げようとプロジェクトチームが立ち上がりました。チームには営業、企画、エンジニアなど幅広いバックグラウンドの人が参加し、新サービスのテーマを検討するところからスタートしました。

「(1)Commit」フェーズでは、まず「社会貢献」という大きなテーマが挙げられ、「社会貢献→地方創生→食産業→農業」とブレイクダウンされ、さらに農業の中でも「生産者(農家)と他のステークホルダーをどうサポートできるか?」という問いに深化していきました。
このフェーズではトップダウンでパーパスを決めようとするのではなく、個人のパーパスを元にディスカッションを通じて、チームや組織のパーパスに昇華させていくことが重要です。NJCはまず「社会貢献」という大きなテーマを掲げ、そこからメンバーが自ら意志を持ってテーマについて考え、議論を重ねる中で「農業」に行き着いたわけです。

次の「(2)Discovery」は、ユーザーリサーチやプロトタイピングを行いながら、ソリューションを考えていくフェーズです。NJCの場合、初期の段階から生産農家を訪れ、困りごとをデジタルで助けようとさまざまなプロトタイプが検討されました。その中で注目したのは、生産者と青果卸業者とのやり取りです。ヒアリングすると、日々の出荷に関するやり取りは電話などアナログ中心の仕組みで行われているようで、この方法ではデータを集約しづらい。ここに何らかのソリューションを提供することで、生産者の出荷予定をデータベース化し、それにより青果卸業者は計画的、安定的に小売りへ供給できるようになる。さらに生産者の状況を正確に把握できるため、生産者の収益も上げていかれるかもしれないと気づくことができました。

「(3)Alpha」と「(4)Beta」は、いよいよ形にする段階です。NJCのケースでは、「(2)Discovery」フェーズの最中にタイミングよく農業関連の展示会に出展することができたため、プロトタイプを来場客に見せてフィードバックをもらい、価値の検証を行うことができました。その後、外部のディベロッパーとともに、アルファ版のプロトタイプを作成し、ソリューション自体はニーズに応えているという確信を持つことができました。そこから、実際に運用できるかを検証するためのベータ版を作り、限定的に生産者や青果卸業者の方に公開することでフィードバックをいただきながら、最終形にブラッシュアップしていきました。
最後の「(5)Live」フェーズで「fudoloop」を正式ローンチし、現在彼らの手により改善を重ねている段階にあります。

組織全体を変え、イノベーションを生み出していくことは非常に難しいものです。ビーコンは変革に向けて第一歩を踏み出すきっかけとなるものであり、イノベーションの創出だけでなく、一連の活動を通じて得る学びや経験、自信によって、変化を許容できる人の育成と組織づくりに貢献するものだと考えています。

デザインによる組織変革とイノベーションの創出を、「①パーパスを作る」「②組織を変革する」「③イノベーションを起こす」という3つのパートから事例を交えてお話ししました。さらなる事業の成長に向けた取り組みのヒントとなれば幸いです。

永井 一史
アートディレクター/クリエイティブディレクター
株式会社HAKUHODO DESIGN 代表取締役社長
多摩美術大学教授
TCLエグゼクティブスーパーバイザー
(Tama Art University Creative Leadership Program)

1985年多摩美術大学美術学部卒業後、博報堂に入社。2003年、デザインによるブランディングの会社HAKUHODO DESIGNを設立。様々な企業・行政の経営改革支援や、事業、商品・サービスのブランディング、VIデザイン、プロジェクトデザインを手掛けている。
2015年から東京都「東京ブランド」クリエイティブディレクター、2015年から2017年までグッドデザイン賞審査委員長を務める。経済産業省・特許庁「産業競争力とデザインを考える研究会」委員。
クリエイター・オブ・ザ・イヤー、ADC賞グランプリ、毎日デザイン賞など国内外受賞歴多数。著書・共著書に『幸せに向かうデザイン』、『エネルギー問題に効くデザイン』、『経営はデザインそのものである』、『博報堂デザインのブランディング』『これからのデザイン経営』など。

福田 卓郎
クリエイティブディレクター
SYPartners

SYPartnersでは、Google、IBM、Airbnb、GE、Starbucksといったクライアントの経営陣たちと共に組織変革や企業文化醸成に取り組んでいる。また、博報堂DYホールディングスの戦略事業組織kyuの一員として、グローバルなクリエイティブ・コミュニティ醸成に貢献している。以前は、softdevice(京都)とIDEO(パロアルト)においてデザインにおける実験的領域に携わる。京都工芸繊維大学でインタラクション・デザインとエスノグラフィー・リサーチの修士号を、スタンフォード大学で組織文化デザインの修士号を取得。

田仲 薫
シニアデザインディレクター
IDEO Tokyo

ユーザー・エクスペリエンス、ブランディング、マーケティング、デザイン・リサーチ、サービス・デザイン等の幅広い実績を活かし、クライアントやチームの戦略・実行プロセスを支援するデザイン・ディレクター。オンラインとオフラインのエクスペリエンスの融合から日々の生活を楽しくするアイディア作りに熱心である。経済産業省、JEN、慶応大学、京都大学、東京大学などでもワークショップを開催した経験を持つ。博報堂で国内外のブランディングを担当。2006年にIDEOとの共同プロジェクトのリーダーを務めた。

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