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左脳要素と右脳要素を統合して行う新たな価値創造。極意は勘に頼らない意志決定(連載:愛されるDXはカタチにできるのか Vol.4)

2021.10.11

「広告朝日」の新連載「愛されるDXはカタチにできるのか」の第4回、生活者エクスペリエンスクリエイティブ局/クリエティブストラテジスト/統合ディレクター 東 晃弘の記事が掲載されました。

博報堂グループにおいて、クライアント企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を、マーケティングDXとメディアDXの両輪で統合的に推進する戦略組織「HAKUHODO DX_UNITED」。その唯一のクリエイティブ部門である「生活者エクスペリエンスクリエイティブ局」は、“潜在需要を発掘し、生活者の新たな好意・行動を喚起し、よりよい生活、社会を創り出す”といった価値創造型のDXをリードする部門です。キーワードは、「愛されるDXは、カタチにできるか?」。このテーマに取り組むメンバーたちの多様な視点をご紹介していきます。
連載第4回は、博報堂生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 クリエティブストラテジスト/統合ディレクターの東晃弘が登場。東は、左脳要素と右脳要素を統合した施策で、新たな顧客と価値を創造し、クライアントの事業収益拡大に貢献しています。グロースハッキング施策を設計し、実装していくプロセスについて聞きました。

「確からしさ」は数字でしか示せない

──統合ディレクターとは、どういった仕事なのでしょうか。

生活者エクスペリエンスクリエイティブ局(以下、XC局)に統合ディレクターは数名いて、私は「理性(左脳要素)と本能(右脳要素)でグロースハッキングを攻略していく」というスタンスで仕事をしています。

実際には、データ分析を基礎としたデータ・ドリブンと、小さく試して効果があったものを大きく展開する運用型施策(プルーフ・オブ・コンセプト型コミュニケーション/PoC型COM)の左脳要素と、コンバージョンに結び付く仕掛けや演出などクリエイティブ・ドリブンと購買ファネルに応じたコミュニケーションの設計(ファネル最適クリエイティブ)をあわせた右脳的要素を統合していきます。

このプロセスにアジャイルで対応できる左脳要素と右脳要素を生み出すチームがあり、私はそれらを統括する立場です。生活者の気持ちを「客観的に理性で考えるチーム」と「生活者の気持ちを直感的に本能で考えるチーム」のどちらも編成できて、それらを統合して新たな価値や新規顧客を創造できることは、XC局の強みだと思います。

少し話はそれますが、今後、サードパーティーCookieが廃止になると、リターゲティングはできなくなります。そうした状況を踏まえ、当社では、既存顧客を基にした類似した顧客ではなく、完全な新規顧客の獲得と新たな価値創造に注力していきます。アッパーファネルで潜在顧客とつながり、エンゲージメントを高めながら、持続的な顧客との関係を築くことは、博報堂が得意とする領域。生活者個人の意識や実態を幅広くつかむことができる博報堂オリジナルのデータベース「HABIT(ハビット)」などの調査データをはじめ、広告効果を最大化するための広告メディアビジネスの次世代型モデル「AaaS(アース/Advertising as a Service)」などの基盤があることも、博報堂の強みの一つです。

※ ハイア=hire(雇用) : クレイトン・クリステンセン教授の「ジョブ理論」において、 「どんな顧客にも解消したい問題や満たしたい欲求(ジョブ:job)があり、それを解決するために商品を購入する(雇う:hire)」という考えに基づいた定義。

──グロースハッキングの定義は。

 一番の目的は、クライアントのビジネスの拡大のため、顧客を創造し、顧客となった人たちにサービスを使い続けてもらうことです。そのために、まず価値を伝達してサービスを利用してもらい、コンバージョン以降のリテンション率を高めるための施策を設計します。その設計に欠かせないのが、データです。

私は「確からしさ」は数字でしか示せないと思っています。全て数字で意志決定を行い、勘と経験には頼らない。様々なビッグデータや調査データを駆使して、「これが確からしい」と言える数字を用意します。KPIやKGIを起点にバックキャスティングして、成長のための設計をする。それが、データ・ドリブン グロースハッキングです。

一連の作業としては、HABITや調査データを基に何人の人を感動させられるか把握し、どんな行動を促したら何%の人を動かすことができるか、その因果関係を弊社オリジナルの共分散構造分析ツールで分析します。そして、ヤフーのビッグデータをブラウザ上で調査・分析できるツール「DS.INSIGHT」をはじめ、Google、Twitterなどのプラットフォームデータからインサイトを探りだし、アジャイル型のクリエイティブで、様々なメディアに出稿。効果測定を行って一番効果のあるクリエイティブを運用し、改善を繰り返していきます。

プラットフォームデータは、検索、閲覧、視聴といった無意識に行っている自然行動のデータなので、一般的な調査データより本音に近いと感じています。そのために、生活者の意識の動きや変化などの兆しやシグナルをキャッチしやすいと思います。

──クライアントからは、どういったオーダーがあるのですか。

5、6年ほど前から、ユーザー数を何%増加させたい、そのためのシミュレーションをして欲しいといった具体的な相談が増えています。依頼された内容にもよりますが、最初に行うのが本質的な課題についての分析です。目指している状況に達していない、そのギャップは何か。なぜ、達していないのか。あらゆるデータを基に、ストラテジックプランナーと共に仮説を立てながら、本質的な課題を見つけ出します。そこで見い出した課題を基に、ターゲットを定め、どういうことに興味を持って、どういう頻度で何をしているかなど、分析の解像度も上げていきます。100%正解とは限りませんが、「確からしさ」の確率は上がるはずです。

あるIT企業の仕事では、月間アクティブユーザー数(MAU)を3ヶ月後、どのくらい増やすか。そのために月ごとに何をするか。どのチャネルが、新規顧客獲得に貢献しているかなど、さまざまな分析を基にシミュレーションを行いました。

──そして、小さく始めて上手(うま)くいったものを展開し、検証や実験によって受容度の高いアプローチを見極めていく「PoC型COM」を行うのですね。

かつては計測できなかったのですが、今はIDとタグを紐づけて追跡が可能になりました。この時は、YouTubeのTrueView広告をPoC型COMの起点にしました。複数種類のタグラインの広告を実験的に小規模出稿し、一番効果の高いものをBumper広告やランディングページ、PRなどに展開していきます。ここでは受容度を見るのですが、その判断は「勘」ではなく、プラットフォームデータで価値観や属性など根拠をチェックして、アプローチを変えていきます。

──右脳要素の「ファネル最適クリエイティブ」とは何でしょうか。

潜在顧客や既存顧客に対して、購買ファネルに応じた会話をして、獲得の最大化を図るというものです。その企業やブランドを知らない潜在顧客に向けて、いきなりビジョンやパーパスを語るのは効率が悪い。それは人間関係と同じだと思います。出会っていきなり自らの思想とか語られたら、なんか重たいですよね。どのタイミングで、何を話すか。それを考えることはとても大切なことだと思います。

事例にもよりますが、基本的には企業やブランドが持っている特徴や差別化できるポイントは複数あると思います。それぞれのインサイトを見い出し、こんなPAIN(悩み/不安)に対して、こういう訴求が顧客の獲得につながるのではないか。そんな仮説を基に、マルチに展開していきます。

事前設計がしっかりしているので、広告効果測定(CVR)は非常に高い。かつ、さらに改善を行うので、精度は高くなっていきます。生活者分析、メディア設計、データ分析、統計解析など、私が単独で操作可能なツールはいくつもあります。

愛されるDXとは、好意を高めるコミュニケーション

──統合ディレクターである東さん自ら、分析や統計解析などを行うのですか。

とにかく高速で検証や改善をする必要があるので、分析だけでなく、バナーやLPなどを自ら制作することもあります。

ニュートンの運動方程式「F=ma」(F:物体に働く力、m:質量、a:加速度)と同様に、仕事のスピード(a:加速度)を上げることで、ビジネスインパクト(F:物体に働く力)を高めることができると思っています。クライアントから相談されたことも、即対応する。その積み重ねで、信頼関係が築かれることもあるのです。

──東さんは、なぜ左脳要素と右脳要素を統合することができるのですか。

両方の視点を持っているからだと思います。私のスタンスは、各分野の細かいところまで知ることです。デジタル広告配信を実際に自分で実行してみたり、データ分析のエクセルの表の作り方にもこだわります。かつてF1ドライバーの中嶋悟さんが、「F1ドライバーが、なぜ運転が上手いか」という質問に「レーサーはメカニックの隅々まで頭に入っていて、部品の形や機能など、F1レーシングカーがなぜ動くのかというメカニズムの細かいところまで知っている。だから、運転が上手い」と語っていました。それが頭に残っていて、日頃から意識しています。だから、右脳要素と左脳要素を統合する立場ですが、フォトショップやイラストレーターで自らバナーをデザインする、R言語で統計解析やカイ2乗検定を自ら行うなど、パーツの細かい部分まで理解し、把握します。

──XC局は「愛されるDX」を標榜しています。その実現に向けて、東さんはどんなことを行っていますか。

愛されるDXとは、つまり好意を高めるコミュニケーションだと考えています。それを再現できる方法を、様々なクリエイティブの調査データなどを基に分析しました。その結果、導きだした好意要因は、「Familiar」「Charming」「Positive」「Energetic」の4つ。この4つの要因が組み込まれたクリエイティブであると好意、つまり愛される確度が高まる。今は、これに準じて施策を企画しています。

──持続的な顧客化のために必要なことは、何でしょうか。

2つあります。1つは、事前のUXで、期待を揃えることです。商品と事前の期待値をなるべく揃えることで、ギャップをなくす。もう1つは、いかに使いやすいサービスであり、価値を感じられるか。事後のUXを整備するのは、クライアントの範疇ですが、もちろん私たちも協力します。コンバーションの前後に期待値の波を作らず、フラットにしておくこと。それが持続的な顧客化につながると考えています。

──東さんはXC局を体現しているような方ですね。

私は実のところ、極めて強烈な面倒くさがり屋なんです。目標は、頑張って、頑張らなくてもいい「仕組みを作る」こと。それが僕の仕事だと思っています。

数年前、イタリアの高級車の製造工場の動画を見たのですが、とても美しくて驚きました。流れ作業なのですが、ミュージアムのような空間で働く人たちは黙々とエレガントにエンジンなどを組み上げていく。ある枠組みの中から、芸術品を大量生産していくことに共感します。

今後は、私と同様に運用まで設計できる統合ディレクターを増やしていきたい。そのためのマネジメントシステムなど、スキームを構想している段階です。右脳要素と左脳要素の統合とは、ある意味壮大な枠組みですが、前述したようにDX領域の拡大に伴い様々な解析ツールを駆使しデータをマージすることで、継続的な顧客獲得のしくみを可視化していくことが飛躍的に容易になりました。今後はより領域を広げてさらなる可能性にチャレンジし「愛されるDX」をより具現化していきたいと思っています。

東晃弘(あずま・あきひろ)
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
クリエティブストラテジスト/統合ディレクター

TVCMを中心としたマスデジキャンペーン、アクチュアルデータを分析し運用する獲得系デジタルマーケティング、流通力学を組み込んだアクティベーション施策等、クライアント事業のグロースにダイレクトにコミットする施策を設計。はじめから正解を決めるのではなく、実験して成功確度を高める施策を体系化し、実装する。

※「ウェブ広告朝日」より転載
(21-3049 朝日新聞社に無断で転載することを禁じます)

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