THE CENTRAL DOT

サーキュラーエコノミーという新時代の視点
~ 循環型のビジネスが経営にもたらす5つのインパクト~

2021.02.05
#SDGs
SDGsへの取り組みが模索される中、この達成のための重要なアプローチとして「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」の実現に注目が集まっています。2020年10月、博報堂ケトルはサーキュラーエコノミー視点での新しいビジネス支援を目的に、Metabolic社と協業しプロジェクトチームを創りました。サーキュラーエコノミーについて、そして日本の企業がどのようにサーキュラーエコノミーにシフトしていくべきかについて、博報堂ケトル クリエイティブディレクターであり、プロジェクトチームのリーダである清水祐介が解説します。

コロナ禍を経て“公共の福祉”に目覚めた日本人

私はさまざまなクライアント企業の広告制作やマーケティング企画に携わるかたわら、博報堂ケトルで今まさに国際的な潮流になりつつあるサーキュラーエコノミーの推進プロジェクトのリーダーも務めています。サーキュラーエコノミーは、日本でも徐々に概念の認知が進んでいますが、理解や実践についてはまだ途上の段階かと思います。ここでは、サーキュラーエコノミーの概要と潮流について、また具体的にビジネスにどのような影響があるのかを解説していきます。

サーキュラーエコノミーとは、ひとことで表すと「ニューノーマル時代の資本主義のルール」だと考えています。2020年はコロナ禍の影響で、世界中で新しいスタンダードが確立され、“ニューノーマル”という言葉も多く聞かれました。その中で日本人はどのように変化してきたかというと、1つ目に「公共の福祉に目覚めた」ことが挙げられると思います。4月に最初の緊急事態宣言が出された折には、一人ひとりが市民としての振る舞いを考えて外出を自粛し、その後に解除されたという流れから、私たちはある種の成功体験を得たのではないかと感じています。

その経験を経て、2つ目の変化として「企業/行政に対しても、社会正義の実践を強く意識するようになった」ことが挙げられます。社会が良くなるように、アクションを起こしている企業が支持される傾向が強くなりました。これは、特にこれから消費の中心を担っていくZ世代で顕著です。実際に最近、高校生が製菓メーカーに過剰包装の脱却を提案したことがニュースになっていたりしました。我々がこの先ビジネスをしていく上では、社会問題や公共性を意識してアクションしていくことが、ますます重要になっていると言えます。

社会正義の実践を、どのようにビジネスのリターンにつなげていくか。新しい競争戦略が求められています。そのアプローチのひとつとして、世界がサーキュラーエコノミーに向かっているというのが大きな潮流です。

世界は“成長前提”の資本主義から脱却しようとしている

この潮流をもう少し俯瞰すると、以前から、成長を前提とする資本主義社会から脱却していく流れがありました。サーキュラーエコノミーと対極にあるのが、これまで我々が続けてきた現在の経済行為、リニアエコノミーです。これはさかのぼると270年前、18世紀半ばから始まった産業革命で生まれたと言われています。当時の世界人口は約7億人、対して現在は70億人で、さらに2050年には100億人近くになると予測される中、いまだに我々は当時からの経済システムで動いているわけです。

リニアエコノミーとは、簡単にいうと地球上から資源を採取し、モノをつくって売買し、消費が終わったら捨てるという一直線の経済です。とても短いスパンで大量生産・大量廃棄が繰り返され、“前年比”という大きな呪縛の中で、計画的陳腐化のようなことを実行せざるを得ない状況もあります。ベースにあるのは、GDPという指標です。これを伸ばすべく、現在も一方向のベクトルで経済が動いています。

ですが、このGDP偏重を見直していこうという意識も生まれてきています。GDPはお金の多寡という一元的な指標であり、環境汚染や資源の枯渇といったマイナス面の配慮がなされていません。結果、GDPが増えたとして「僕らは本当に幸せになっているのか」という問いが生まれています。

そこで新たな考え方および指標として注目されているのが、ドーナツエコノミーです。お金の規模だけでなく、持続性を指標にして総合的に評価して、より健全で幸せな社会を目指そうと提唱されています。多様な視点で経済を見ていくとき、おのずとリニアだった経済行為も変わっていきます。そこで、変化した形として登場しているのが、サーキュラーエコノミーなのです。帰着点が廃棄ではなく、ぐるぐると循環することで“ゼロ・ウェイスト”の世界を目指す。ここに今、移行しつつあります。

さらに補足すると、この変化の根底にあるのは、プラネタリー・バウンダリーという概念です。地球にはさまざまな観点の限界があり、それを超えると我々の生活も維持できないという考え方です。したがって、それを超えない範囲で暮らす、幸せを目指すことが求められます。そのための指標がドーナツエコノミーであり、具体的なゴールがSDGsだという構図です。

逆にみると、SDGsを達成していく方法論が、サーキュラーエコノミーだという関係性があります。

サーキュラーエコノミーとは、ビジネスの新しい「視点」

SDGsはかなり理解や実践が進んでいますが、それだけに課題も出てきています。よくあるアプローチは、「SDGsのために何かしなくては」と本業と異なるところでの取り組みを始めてしまい、業績があやしくなると打ち切られてしまうことです。これでは持続性が低く、具体的なゴールを見据えていても結局は変化が起きにくいです。

一方で、すでにサーキュラーエコノミーの実践が進む欧米の企業では、そのアプローチがそもそも循環型で考えられています。あるいは、現状のビジネス上での強みを使って、新しいサーキュラーな事業を生み出せないかと考えている。いい意味で、しっかりと儲けを出せる形で循環型経済が志向されているから、継続性が高い、というわけです。

サーキュラーエコノミーは、要はリサイクルしていく経済なのですが、日本におけるいわゆる資源のリサイクルとは少し違います。可能な限りリサイクルするが、使えないモノや無駄なモノは廃棄する、という取り組みではなく「経済行為において汚染や廃棄を出さない」ことが前提です。その点では、日本でのビジネスの考え方はまだ少し遅れていると思います。

では、どうしたらサーキュラーエコノミーにシフトできるのか。ポイントは、自社の活動の中にSDGsに当てはまるアクションを探すのではなく、「自社のビジネスそのものを循環型にする」という発想で新しいビジネスモデルを探ることだと思います。ここまで紹介したような新しい概念を聞くと、義務感を抱いたりコストアップを懸念したり、結局はただのトレンドで終わるのではと思ったりされるかもしれません。ですが私としては、サーキュラーエコノミーに関しては、それは杞憂だとお伝えしたいと思います。

サーキュラーエコノミーは考え方であり指標であり、我々が推進すべき経済的な行動のアプローチでもありますが、私がお伝えしたいのは「サーキュラーエコノミーは視点である」ということです。より多く売る、儲けるという視点をビジネスの出発点にするのではなく、サーキュラーなビジネスを模索するという新しい視点で自社の事業を見つめ直すのです。新しい視点からは、新しい発想のビジネスチャンスを見出せます。今後、この潮流が主流になる世界では、今がチャンスメイクするときだと捉えていただきたいと思います。

海外で続々と登場するサーキュラーエコノミー事例

こうした発想で生まれている海外でのビジネスの好例として、電気機器メーカーによる“明かり”のサブスクリプションサービスが挙げられます。照明の管理や保守点検をメーカーが行い、ユーザーは明かりを使った分だけ利用料を払う仕組みです。利用状況はデジタルでセンシングされ、メーカーがデータを蓄積して分析・活用されます。電球が切れてもユーザー側で廃棄する必要はなく、そのメーカーが回収して再生産し、また次の顧客へ提供します。

この取り組みは、双方にとってのメリットがとても大きい仕組みとなっています。ユーザーは企業の適切な照明管理により、エネルギーコスト(電気代)を節約でき、自分で照明消耗品を購入する必要もありません。一方企業は定期契約のため事業の安定性が見込め、自社リサイクルの徹底でそのコストも大幅に低減できます。さらに素晴らしいのは、利用状況データの活用によって、既存のビジネスでは生まれないであろう商品が開発される可能性もあることです。サーキュラーエコノミーの視点で確立したPaaS、Product as a Serviceの世界なら、技術的なイノベーションを誘発する可能性もあるのです。

ほかにも、オランダのアパレルブランドのMUD JEANSは、デニムパンツのサブスクリプションサービスを展開しています。ユーザーがデニムをレンタルし、着古して返却すると、企業側で繊維までばらしてデニムを再生産し、またレンタルへと展開します。このビジネスのポイントは、顧客に「デニムがある暮らし」を提供し続けられること、しかも新規の素材の利用を最小化しながらそれを実現していることです。我々のビジネスはこれから、最新が最良だとは言えない時代となるのかもしれないと感じます。

さらに小売店でも、欧州を中心に、パッケージを省いた“ゼロ・ウェイストストア”が登場しています。店舗は生産者から商品を個包装なしで仕入れ、顧客の側はビンなどの容器を持って買いに来るという量り売りの店なので、処理の難しいプラスチックなどの廃棄物を最小化します。これまでパッケージは、消費者に有益な情報を与えるものという意味が大きかったですが、今後は純粋に中身の価値で勝負するビジネスが増えていくかもしれません。

サーキュラーエコノミーの経営への5つのインパクト

では、サーキュラーエコノミーは経営へどのようなインパクトを持つでしょうか。この視点で自社のビジネスを見直すと、いくつものチャンスが見えてきます。ひとつは商品開発の可能性、これまでにないイノベーションの創出です。

次に、コスト削減。廃棄物を捨てることにもお金がかかるので、それをカットし、さらにリサイクルによって資源として次に生かせれば、経営的なインパクトは2倍になります。

3つ目は、顧客とのエンゲージメントです。冒頭で、企業の社会問題への取り組みが問われていると述べましたが、サーキュラーエコノミーを念頭にアクションを起こしているという事実をもって顧客に愛され、競合と差別化するという効果も見込めると思います。

4つ目として、将来のリスク回避も挙げられます。我々はさまざまな資源を調達してビジネスを推進していますが、それらが将来にわたって確保できるかの保証はありません。地球上から枯渇するとか、その懸念から突如として規制の対象になる可能性もある。そうしたリスク回避にも、サーキュラーなビジネスは有効です。

最後に、特にまだ日本では規模感のある実践例が少ない中で、マーケットリーダーになれる可能性があります。早く着手して成果を上げられれば、サーキュラーエコノミーの先駆者としての立場も確立できます。すると、ESG投資を始めとした市場からの注目も集められます。

ここで挙げた5つの経営へのインパクトを、サーキュラーエコノミーの意義に置き換えてみます。サーキュラーエコノミーは、なかなかモノを売りにくい今、これからの成長のドライバーになっていく。「何が良い製品・サービスなのか」を再定義してイノベーションを誘発し、特に若い世代とエンゲージするポイントにもなる。かつ、リスクが増大する中での自己防御になり、企業価値を向上させるエビデンスとしても機能する――。海外の潮流と要請により、いずれ取り組む必要があるのなら、ぜひ早く着手して競合に対して優位に立つことをお勧めします。

欧米に10~15年ほど遅れをとりながらも、日本のサーキュラーエコノミーの実現には高いポテンシャルがあると考えています。それは、もともと日本にはサーキュラーな文化があるからです。例えば、機器などを小さく効率化する技術。ミニマルなデザインの追求や、伊勢神宮の式年遷宮にみられるような“循環”して守るといった美学。さらに、生命礼賛の価値観や“もったいない”という生活観などの態度。こうした文化は、海外にはとてもサーキュラーなものとして映っています。

その一方で、やはりビジネスとしてはこれを実現できていません。裏を返すと、日本からすばらしいサーキュラービジネスが生まれたら「なるほど、日本はやはりそういう国だから」と受け止められ、国際的な競争力にも結び付くはずです。資本主義のルールチェンジを、今後の成長のエンジンに変えていきたい。その思いで、我々博報堂DYグループも企業の方々に並走し、まだ見ぬイノベーションを実現できればと考えています。

清水佑介
博報堂ケトル クリエイティブディレクター

2003年博報堂入社。営業職でみっちりと広告ビジネスのいろはを叩きこまれた後、
ストラテジックプラナーへ。事業戦略や新商品開発、コミュニケーション戦略立案、
ブランディングからプロモーションまで幅広く担当。
2012年より博報堂ケトルでキャンペーン全体を戦略からエグゼキューションまで統括する。

博報堂に関する最新記事をSNSでご案内します。ぜひご登録ください。
→ 博報堂広報室 Facebook | Twitter

FACEBOOK
でシェア

X
でシェア

関連するニュース・記事