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アセアン生活者流ポジティブにコロナ禍を乗り切る方法

2020.07.02
#ASEAN#グローバル#生活総研#生活者調査
新型コロナウイルスの感染拡大は、たった数か月で世界中の生活者の意識・行動に様々な影響を与えました。生活者の意識や行動の何が、どのように変化しているのでしょうか。変化は世界中で同様に起きていますが、国々によって、生活者の意識や対処方法に特徴が見られます。本レポートでは、博報堂生活総研アセアンのManaging Director、伊藤祐子が、アセアン6か国の定量調査と定性調査のデータから、その特徴をレポートします。

『コロナによる生活影響は9割が実感』

まず、コロナによる生活への影響度について。「大きく変化があった」と「やや変化があった」の総計は94%。また、9割が「COVID-19は人生で最もインパクトのある出来事だ」と答えています。
グローバルで見ると9.11、リーマンショック、日本では阪神・淡路大震災、東日本大震災を始めとした自然災害など、我々の意識や生活、社会経済活動に大きなインパクトを与える災害や事件があります。一方で、アセアンでは同程度の大きな出来事が1990年代に起きた「アジア通貨危機」だと言われており、その当時を知らない若年世代を中心に、今回の新型コロナは彼らにとって初めて体験する「未曽有の出来事」になりました。

コロナによる影響度

具体的に変化のあった項目について聞いたところ、アセアンでも外出禁止、WFH(work from home、テレワーク)、店舗の閉鎖、などの措置が取られているため「仕事」が7割とトップ。次いで「ライフスタイル」「買い物」が6割と続きました。

コロナで具体的に変化のあったことTOP5

*「コロナによる生活変化があった」と答えた回答者ベース

こういった変化が起きている中、アセアン生活者や企業は、独自のポジティブさや陽気さでこの難局をみんなで乗り越えています。
例えば、ベトナムでは国立労働・環境衛生研究所が作った「手洗いソング」(https://www.youtube.com/watch?v=BtulL3oArQw)を芸能人やSNSのインフルエンサーがコピーをして次々にSNSに投稿し大ヒット。タイでは交通機関(https://www.youtube.com/watch?v=7Se7Su6SOJc)やショッピングセンターが社員を起用した感染予防対策の歌とダンスで生活者に啓蒙。真面目に深刻に注意喚起をしても受け入れづらいことも、歌とダンスであっという間に流布させてしまう手腕に脱帽です。

また、ユニークな「ソーシャルディスタンシング(=社会的距離)」対策も生まれました。エレベーターではテープでたつポジションを指定し、壁に向かってたちます。また「ボタンを直接触らずに爪楊枝で押してください」と爪楊枝がエレベーターの壁面に大量に貼られています。これは日本でもすぐに導入できそうですね。

一方で生活に変化があっても「SNS映え」を忘れないアセアン生活者。マスク姿の自分も抜かりがありません。フィリピンでは、ブランドショップの包装用リボンで飾った「高見え」手作りマスク、タイでは、「服とマスクのコーディネート」や、マスクで覆わない目元を強調したアイメイクを教える投稿なども見受けられました。

『Stay at homeにかけるお金、時間が増加』

コロナ禍で「支出」と「時間」の増減変化を項目ごとに聴取しました。

コロナによる「出費」と「時間」で増減したことTOP5

※映画、ライブ、カラオケなど

まさにUnderコロナ期のタイミングでの調査だったため、”stay at home(家で過ごそう)”するための物資、衛生や予防まわりのカテゴリーの支出が増えています。
国別では、「インスタント食品」の支出が他国に比べて増えたタイと、「サプリメント・栄養」の支出が多いインドネシアと、それぞれのお国柄が出るスコアもありました。

また、時間についても、家の中で過ごす時間全般が増えています。外食率が高いアセアンでは「家の中での食事」が増えたのは大きな食文化の変化をもたらしています。また、スマホ大好き、利用時間が世界で一番長い東南アジアの生活者*(*We Are Social and Hootsuite 2019調べ)ですので、家の中で持て余す時間の多くをスマホに費やしていることも分かります。

一方で「減っている時間」は、家の外で行うものがTOP5に上がっており、旅行や家の外で行うレジャーが軒並み減っていることがわかります。日本も同様の傾向が見られると思いますが、このあたりの項目はWithコロナ期以降のタイミングで「近隣で行えるもの」から徐々に回復、または「コロナが落ち着いたらやりたいこと」として挙がってくるのではないでしょうか。

外食する機会が減っても、コロナをチャンスに変える動きも見られます。テイクアウトやデリバリーのメニューとして、ベトナムでは、コロナウイルスを模したハンバーガーなどのメニュー、輸出できなくなったドラゴンフルーツを使ったピンクのお菓子、タイでは、子供向けにマスクをしたケーキ、等がトレンドになりました。

『家の中で楽しく過ごそう』

経済的なダメージや健康不安がありながらも、83%の人が「外出を控え、家の中でできる娯楽を楽しむようにしている」と答えました。

『コロナによるストレスは強く、対処法は“家族と過ごすこと”』

コロナ禍でストレスを感じている人はアセアン全体で81%に及びます。楽観的だと言われる東南アジアの人々ですが、一方で情報に左右されやすく(SNSの見過ぎという面もありますが…)簡単にパニックになりやすいのも事実です。

コロナによるストレス度

そういった中で、ストレスの対処法1位は「家族と過ごす」(54%)。家族と暮らす、大家族で住んでいることが多いアセアンでは、コロナ禍で家族の絆がより深まったり、家族の大切さを改めて感じていたりする生活者が多いようです。

ストレスの解消法TOP5

家族との過ごし方でアセアン生活者の中に見られたのは「家族一緒に楽しむ」ことと「ティップスのシェア」です。これまで外部サービスに一存したり、ひとりで行っていたことを、家族と家の中でやってみる。うまくできたらSNS上でシェアをして、みんなのstay at homeのクオリティを高め合う。こうしたポジティブな活動が散見されます。特に、SNSで話題になったのは、タイの家で楽しめる「デコレーションケーキキット」を洋菓子店が販売、シンガポールの親子がヨガにチャレンジ、ベトナムの親が考えた「子供の時間割」等でした。

このように、コロナの影響でアセアン生活者は大きく「働き方」「食生活」が変わり、「家族関係」に深みが増しているようです。また、スマホへの依存度も一段と高まっていることは、消費・情報収集行動、スマホで利用するサービス内容の変化にも関わりそうです。

現在、ベトナムやタイでは制約解除を段階的に進めており、いくつかの側面で既に「元通り」に戻っているものも多く見られます。解放される喜びが出始めているアセアンで、アフターコロナに向けたポジティブな生活変化、“ニューノーマル”に関する生活者の意識などを定期的に分析していきたいと思います。

【調査概要】
新型コロナウイルスに関するアセアン生活者の意識調査

定量調査
対象者:20~49歳の男女
調査対象国:タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、ベトナム、フィリピン
サンプル数:各国300サンプル、計1800サンプル
調査手法:インターネット調査
実査期間:2020年3月27-31日

定性調査
調査対象国:タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、ベトナム、フィリピン
調査手法:HILL ASEAN各国研究員によるデスクリサーチ
実査期間:2020年3月

伊藤 祐子
博報堂生活総研アセアン
Managing Director

2003年博報堂入社。入社以来マーケティングプラナーとして、トイレタリー、パーソナルケア、コスメ、自動車、飲料、食品、医薬品、教育、アパレルなど幅広いクライアントを担当。
生活者を深く見つめるインサイト発掘起点でのコミュニケーションデザインに加え、商品開発、ワークショップのモデレーター、DMPを活用した業務も多数実施。
2018年4月に博報堂生活総合研究所アセアン(タイ・バンコク)に着任。生活者研究と共に、アセアン各拠点のクライアントサービス、研修によるナショナルスタッフ育成にも従事。2020年4月より現職。

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