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クリエイティビティを追いかけて、国境を越える──グローバル統合ソリューション局局長 木村健太郎 【博報堂のクリエイティビティとは何か・第3回】

2020.03.04
#クリエイティビティ#グローバル#生活者インターフェース市場
昨年、「クリエイティビティで社会に新たな価値を提供していく」と宣言した博報堂。しかしその根拠となるクリエイティビティは、暗黙知的に共有されてきたもので、言語化されているものは多くありません。この連載では様々な切り口から「博報堂になぜクリエイティビティがあるのか」を紐解いていきます。 第3回では、世界を舞台に博報堂のクリエイティビティの発信に取り組む木村健太郎に話を聞きました。
プロフィール
木村 健太郎(きむら・けんたろう)
株式会社博報堂 グローバル統合ソリューション局 局長
兼 株式会社博報堂ケトル 取締役 エグゼクティブクリエイティブディレクター
(詳細なプロフィールは文末に掲載)

ずっと前から、博報堂のクリエイティビティの言語化に挑んできた

──木村さんは世界中に広がる博報堂グループのクリエイティブとマーケティングを統括する立場にあり、またカンヌ・ライオンズ(カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル)をはじめ国際広告賞の審査員を数十回も務めるなど、博報堂の中で最もグローバルな活動をしている1人です。そもそも、なぜグローバルな仕事にこれほど深く携わるようになったのですか?

木村
いくつか経緯があります。1つはとてもシンプルな話で。若い頃って、自分の企画がチーム内で認められると嬉しいですよね。すると、次はクライアントに採用してもらって実現したくなる。それができたら、今度は市場で企画をヒットさせたいと思うようになる。業界で話題になるヒットが打てるようになったら、今度は田舎の親戚のおばちゃんも知ってるような、日本中の人に届くホームランを打ちたくなる。その先にあるのは、日本人だけじゃなく、世界中の人に通用するクリエイティブです。そうやって自然にグローバルへと行き着いてきました。
もうひとつ、自分が「成長した瞬間」を振り返ってみると、そのほとんどが外国のすごい人と一緒に仕事をしたときや、海外でやったことのない活動に挑戦したときなんですね。海外のエージェンシーのシンプルで深い企画やスマートな働き方を目の当たりにしたり、国際賞の審査員たちと深い議論を交わしたり、そういう国内では絶対にできない経験が自分を伸ばしてくれたという成長実感が、どんどん自分を外に開いていったように思います。

──より広げる、より高めることを志向してきた延長に海外があったのですね。

木村
これは僕だけに特有のことではなくて、クリエイティビティの本質に関わる話でもあると思います。クリエイティビティを測る基準の一つは、インパクトの大きさだと思うんです。人々にどれだけポジティブなインパクトを与えて、心を動かしたり、行動を変えられるか。
かつてスティーブ・ジョブズのスピーチライターをしていたkyuのSYPartnersという会社のキース・ヤマシタさんが、「10億人にインパクトを与える仕事をしよう」ということを話していて、僕はこの言葉が大好きなんです。これは10億人にリーチする大型キャンペーンを作ろうという意味ではなくて、“10億人規模の人に共感してもらったり影響を及ぼしたりするようなものを作ろう”という意味なのですが、僕はまさにクリエイティビティが目指すところはそこにあると思っています。「昨日のランチは美味しかったね」という話題は一緒にいた仲間にしかわからないし、「今年の紅白歌合戦には誰が出るかな?」という話題は日本人以外には通じない。でも、例えば「オリンピックの主役は、選手たちを育てたお母さんだ」というストーリーは、おそらく世界中の多くの人たちが共感できるでしょう。クリエイティビティを追求していると、10億人規模でインパクトを与えられるストーリーやアクション、いうなれば10億人にとっての”すべらない話”を志向するようになる。そうなると日本という枠を越えて、おのずとグローバルにたどり着くわけです。

──さまざまな国際広告賞にも長年関わってきています。

木村
世界中のいろんなタイプの広告賞に参加したり挑戦したり受賞したりしましたし、審査員や審査委員長もかなりの数やってきましたが、僕がクリエイティビティと最も向き合ってきた場はやはりカンヌライオンズですね。
そもそも博報堂に限らず広告産業がクリエイティビティ産業を志向することが方向付けられたのは、2011年にカンヌが「アドバタイジング」という名前を捨てたときでした。(※2011年に「カンヌ国際広告祭」から「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」へと名称変更された)
縁あって2013年に機会を得て実施したカンヌでの公式セミナーがすごく好評で、それ以来、7年続けてカンヌでセミナーを開催し、そのうちの5回は自らも登壇しています。僕らはセミナーを通じて、「博報堂のクリエイティビティとは何か?」「博報堂は世界に対して何を発信できるのか?」を誰よりも深く考え、膨大な時間をかけて、その言語化に取り組んできたつもりです。それは自分たちの存在価値そのものを言語化する作業でもありました。

──博報堂のクリエイティビティの特徴を、グローバルな舞台でどのように伝えてきたのでしょうか。

木村
7年間、様々なテーマを通して我々が提供できるクリエイティビティとは何かを世界に発信してきましたが、振り返ると、大きく二つのことを伝えてきたような気がしています。
1つは、前例やロジックではたどり着けない本質的な解決策を社会に生み出す、クリエイティブジャンプの力。まさに「正解より別解」を生み出すクリエイティビティについてです。
もう1つは、「マーケットデザイン」という博報堂独自の概念とその可能性。僕たちのクリエイティビティは広告以外のもっと広い産業でも発揮できるんだという話です。今でいう「生活者インターフェース市場」につながる話です。
この2つが博報堂のクリエイティビティの最大の特徴であり、博報堂自体のパーパス、ユニークネスだと思っています。
少し具体的に紹介します。これは2013年にカンヌで一番大きな3000人収容の会場を満席にして行った初めてのセミナー、題して「Creative Alchemy(創造性の錬金術)」です。

このセミナーは、こんな象徴的なショートストーリーから始まります。
「昔々、太陽の光がささない王国がありました。あるとき王様が城にふたりの家来を呼んで、国全体を明るくする方法はないものかとたずねました。ひとりめの家来は街の中をくまなく歩き回り、最先端のテクノロジーを使った明るいランタンを見つけましたが、それでは国全体を明るくすることはできませんでした。ふたりめの家来は森の中をあてもなく何日もさまよった結果、偶然発見した錬金術を使って、森で見つけた材料を組み合わせてまばゆい光を放つ魔法の石を作り上げ、それを城に持ち帰りました。王様の前でその石が入った箱を開けると、国全体がパッと明るくなりました。」

このストーリーの中で、街は「意識」の世界、森は「無意識」の世界を象徴しています。そして、ランタンは「ロジック」、光を放つ魔法の石は「アイデア」です。街の思考が、データや前例で証明できる範囲の正解を生み出す「最適化の思考」である一方、森の思考は、ロジックだけでは決してたどり着けない別解を生み出す「価値創造の思考」なのです。
博報堂のクリエイティビティとは「森を旅する思考」、つまり別解を生み出すクリエイティブジャンプであると思います。セミナーでは森の歩き方、クリエイティブジャンプの飛距離の出し方を、5つのアルケミー(錬金術)として紹介しています。
このセミナーは今も世界各地で実施していて、もう10数ヶ国で、100回以上講演してきています。

──もう1つの「マーケットデザイン」は、長く博報堂が掲げてきた独自の概念ですね。

木村
そうです。クリエイティビティを使って、広告だけでなく様々な形で新しい市場やビジネスを創出していくという概念です。博報堂以外にも、クリエイティビティを発揮している企業はたくさんありますが、我々の場合は、生活者発想をベースにした「人間を動かすことのプロ」としてのクリエイティビティを持っていて、ありとあらゆる産業と仕事をしてきた蓄積もある。その力を発揮できる場は、広告領域の外側に銀河のように果てしなく広がっているのではないか。2014年のセミナーでは、その考え方をもとに10年後の未来の広告産業のあり方を3つのキーワードで提言しました。

世界の広告産業は、特定のフィールドや業界に細分化、専門化していく傾向があって、実は博報堂のように「何でもやる」というモデルは珍しく、これも我々のユニークネスと言えると思います。
それ以降、僕たちはカンヌのセミナーで、クリエイティビティ論と産業論を交互に発信してきました。8年目の今年は、クリエイティビティ論の“ど真ん中”の内容のセミナーを考えています。

グローバル・ダイバーシティとクリエイティビティ

──長年木村さんが言ってきたことと、今博報堂が言いはじめていることはまさに合致しているということですね。

木村
そうかもしれません。博報堂が2019年度にVIを変えてクリエイティビティを掲げたことのポイントは、これからの博報堂のドメインを「アド」から「クリエイティビティ」にシフトしていくことを明確に宣言したことだと自分は捉えています。「アド」の中に「メディア」や「クリエイティブ」や「マーケティング」があるという構造から、「クリエイティビティ」の中に「アド」や「コンテンツ」や「サービス」があるという構造へのシフトということです。
先日(2020年1月)、ラスベガスで行われたCES(Consumer Electoronics Show)に行って本当にワクワクしました。トヨタがクルマで培ったテクノロジーを注ぎ込んだ街を発表し、ソニーはエレクトロニクスで培ったテクノロジーを注ぎ込んだクルマを発表しましたよね。博報堂もアドで培ったクリエイティビティを注ぎ込んで、生活者インターフェース市場と我々が呼んでいるさまざまな領域で、ワクワクする生活を創っていきたいと思いました。
そんな中で、僕はグローバル領域で挑戦しています。博報堂を「海外に展開しているジャパニーズアドエージェンシー」から、「日本にルーツを持つグローバルなクリエイティブカンパニー」へと進化させていくことへのチャレンジです。

──博報堂をインターナショナルな企業にしていくということでしょうか。なぜそう考えるのですか?

木村
僕は、クリエイティビティを高めるのは「多様性」だと確信しているからです。似た者同士で仕事をしていても、新しいものは生まれない。裾野が広いほど高い山ができます。多様性があればあるほどクリエイティブジャンプも高く跳べる。
日本はとても小さい国。同質性、同調性が強くて、残念ながら多様性には限界があります。これからは、国を越えて、できるかぎり海外の人たちと仕事をするスタイルでいかないと、想定内の正解を超えた新しい視点やアイデアを手に入れることが難しいと思うんです。例えば、海外のスタッフと打ち合わせをしたり、色々な国から集まった審査員たちと議論するだけでも、予想もしていなかった意見や考え方に衝撃を受け、自分の殻を破ってくれます。毎回、日本にいる自分がいかに井の中の蛙なのかを思い知らされるんです。
博報堂を海外に開いて、グローバルな多様性を加速させていくことが、クリエイティビティの拡張と、個の成長にもつながっていくと思っています。
かつて、マス四媒体と呼ばれる広告には歴然とした国境がありましたが、デジタル化、インターネットによって、もはやコンテンツやサービスに国境はなくなってきています。商品やサービスを売るにしても、アイデアやアクションを発想するにしても、グローバルに考えないとどこかでうまくいかなくなる時代です。日本の常識が、日本以外の国では非常識であるということも起こりがちです。我々はすでに、グローバルセンスで発想したり判断したりしないといけない時代に生きているのだと思います。

──多様性の強化は、博報堂のDNA「粒ぞろいより粒ちがい」を進化させていくことにも繋がりますね。

木村
博報堂はもともと多様性の大切さを深く理解している企業ですが、僕から見るとまだまだ全然足りない。多様性をもっと推し進めていかないと生き残れないという危機意識を持っています。
僕はGIS局(グローバル統合ソリューション局)と博報堂ケトルという二つの組織を通じて、国内外の社員にこのマインドを浸透させていきたい。海外スタッフの受け入れ制度や交換留学制度、海外拠点ネットワークの強化やグローバルアライアンスの構築など、多様性を取り込んでいくための様々な施策も始めていますが、まだ緒に就いたばかり。博報堂が本当の意味で突き抜けたクリエイティブカンパニーになるために、必要なことにはどんどん挑戦していきたいと思っています。10億人を動かすクリエイティビティに、みんなでたどり着きたいですね。

木村 健太郎(きむら・けんたろう)
株式会社博報堂 グローバル統合ソリューション局 局長
兼 株式会社博報堂ケトル 取締役 エグゼクティブクリエイティブディレクター

1992年に博報堂入社後、ストラテジーからクリエイティブ、デジタル、PRまで職種領域を越境したスタイルを確立し、2006年共同CEOとして博報堂ケトルを設立。マス広告を基軸としたインテグレートキャンペーンから、デジタルやアウトドアを基軸としたイノベーティブなキャンペーンまで幅広い得意技を持つ。これまで8つのグランプリを含む150を超える国内外の広告賞を受賞し、カンヌライオンズチタニウム部門審査員、アドフェスト審査委員長、スパイクスアジア審査委員長など25回以上の国際広告賞の審査員経験を持つ。海外での講演も多い。2017年からケトルに加え、博報堂のアジアパシフィックチーフクリエイティブオフィサー兼グローバル統合ソリューション局局長として、グローバルのクリエイティブを統括する役職を兼任。

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