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【博報堂のクリエイティビティとは何か】第2回 粒ちがいのセッションから生まれるクリエイティビティ(執行役員 嶋浩一郎)

2019.12.04
「クリエイティビティで社会に新たな価値を提供していく」と宣言した博報堂。しかしその根拠となるクリエイティビティは、暗黙知的に共有されてきたものであり、言語化されているものは多くありません。この連載では、博報堂のDNAや文化として根付く様々なキーワードで、「博報堂になぜクリエイティビティがあるのか」を紐解いていきます。
第2回では「別解」を入り口に、博報堂独自のクリエイティビティの生み出し方について、執行役員の嶋浩一郎に話を聞きました。
プロフィール
嶋 浩一郎(しま・こういちろう)
株式会社博報堂 執行役員
兼 株式会社博報堂ケトル 取締役・クリエイティブディレクター
1993年博報堂入社。2002~04年博報堂刊「広告」編集長。2004年「本屋大賞」創設に参画。2006年博報堂ケトルを立ち上げ多数の統合キャンペーンを実施。雑誌「ケトル」の編集等コンテンツ事業も手がける。主な著書に『欲望する「ことば」~「社会記号」とマーケティング』など。カンヌクリエイティビティフェスティバル、ACC賞など多くの広告賞で審査員も務める。

「別解」を生む組織風土

──博報堂は、常識を打ち破る「別解」を提示していくことが自分たちのクリエイティビティである、と宣言しましたが、この「別解」とはそもそも何なのか。どう定義されるものなのでしょうか?


「別解」とは、一言でいえば「その手があったか!」と思わされるようなオルタナティブな解のこと。「正解」ではなく「別解」を追求しようとする姿勢は、博報堂のクリエイティビティの独自性を象徴的に表していると思います。

一般に、特定の業界や領域のことを知り抜いている人ほど、その分野の常識から脱却するのが難しい。でも、いいアイデアは本筋とは全然関係ない方向から来ることが多いのです。かつて新幹線のパンタグラフは、フクロウの羽の構造を取り入れたことで騒音を劇的に減らすことに成功した。それは鉄道会社の社員に日本野鳥の会のメンバーがいて、「フクロウはなぜあんなに静かに高速で飛べるのだろう」と考えたのがきっかけだったそうです。パンタグラフだけを見ていても解決の糸口が見つからなかったものが、“あさっての方向”から来たヒントを結びつけることで課題解決につながったわけです。
パンタグラフの専門家からすれば、フクロウの羽を調べるなんて余計なこと、無駄なことに思えたかもしれない。しかしパンタグラフだけを研究し続けても、おそらくある程度の「改良」しかできなかったでしょう。そこに一見無駄と思える知識や情報を取り込んでいったことで、誰も予想もしなかったような別解に行きついたという例です。

僕は、こういう一見関係ないことを結びつける能力を「あさって力」と呼んでいて、博報堂はこれがすごく得意な会社だと思っています。一見なんの関係もなさそうなところから、別解を生み出し続ける。それがまさに博報堂のクリエイティビティの一つの特徴だなと。
別解は、これからの不確実な時代を切り開いていくために不可欠なものです。正解は過去からの積み上げから出てきた想定内の答えにすぎず、そこから想定を超える未来は描けませんから。

──そういったクリエイティビティが、組織レベルで博報堂に存在していると言える根拠はどこにあるのでしょうか。


博報堂のクリエイティビティの基盤にあるのはダイバーシティ(多様性)です。会社のDNAとして浸透している「粒ぞろいより粒ちがい」という理念があって、異なる個性や多様な価値観を尊重しようという社風が現場の仕事から採用方針にまで深く根付いています。

しかし、単にいろんな考え方の人が集まっているだけでは、アイデアもイノベーションも生まれません。粒ちがい、つまり多様な異分子同士が、異なる意見や価値観をぶつけ合うことで劇的な変化が起こるのです。一つのチームの中に、できるかぎり多様な異分子を共存させて、価値観をぶつけ合わせることを繰り返して初めて、今までになかった新しいアイデアが生まれる。

僕たちはそういうセッションを無数に積み重ねてきているから、組織運営でも会議の仕方でもどんなメンバーでチームを作るのがベストかを理解しているし、だからこそ多様な個性が多様なまま存在できる風土を大事にしてきました。自分とは違う世界を持った人間はリスペクトするし、嫉妬もする。他人の意見を否定しないし、正解を教えようとする文化もない。年齢や社歴、実績なんかに一切関係なく、一番大きなアイデアを考えたやつが偉いよねと。

こんなふうに異分子が共存する組織を維持するのは簡単ではありません。一般にチームビルディングというと、同じ方向を向いた、近い価値観の人を集めがちですよね。そういう組織の方が効率的で、居心地もいいですし。でも僕たちは、一見非効率だけど、あさっての方向を向いた人間たちがそれぞれ自由な登り方で山を登っているような組織の方が、結果として良いアイデアに到達できることを本能的に知っているんです。

──多様性そのものではなく、多様性をぶつけ合うセッションを起こすことが重要ということですね。


「博報堂は変わった人が多い」と言われることもあるけど、そこは本質じゃない。異なる価値観をリスペクトすることと、そのぶつけ合い方を熟知していることが強みで、その経験値が、組織的なクリエイティビティを支えているのだと思います。外形的には、博報堂より多種多様な人材が集まっている企業はたくさんあるかもしれない。でも、その人材を無数のプロジェクトごとにチームにして、社内のあちこちでいろんなチームがマッシュアップしている組織というのは、あまりないんじゃないでしょうか。

ただ、こうしたことは暗黙知として博報堂の長い歴史の中で継承されてきたもので、ほとんど言語化されていません。この環境が当たり前すぎて、自覚できていない社員もいます。でも「博報堂はクリエイティビティで未来をつくる」と宣言した以上、これからは言語化して、自分たちのクリエイティビティをより意識的に磨いていく必要があるし、新たに出会う社外の人たちにも自分たちを理解してもらわなければいけない。「クリエイティビティの言語化」は大きな課題だと思うので、ここはぜひ取り組んでいきたいと考えています。

博報堂はみんなが“辺境の情報発掘家” イノベーションは辺境からやってくる

──自身がクリエイティビティにおいて大切にしていることは?


いつも言っているのは、日常の違和感を大事にするということ。例えば「おひとりさま市場」は、いまでは成長市場の一つとして広く認識されていますけど、この概念は2005年に牛窪恵さんというジャーナリストが著書で提唱したものです。彼女がこの市場の存在に気づいたきっかけが、お知り合いのフレンチのシェフが「フレンチはカップルで食べるものなのに、最近ひとりで来る女性がいるんだ」と話すのを、たまたま聞いたそうなんですね。フレンチも焼き肉もカラオケも、誰かと一緒に行くのが当たり前と思われていた。でも、ひとりで行動したい人も少なからずいる。友だちがつぶやいた些細な「違和感」から、そういう社会の新しい欲望の胎動を発見した。そしてそれを「おひとりさま市場」という表現で提言することで、実際に市場が立ち上がり、世の中の常識自体も大きく変わっていったわけです。

僕が発起人の一人となった「本屋大賞」も、違和感が出発点にあったと言えます。当時、博報堂の「広告」という雑誌を作っていて書店にプロモーションに出かけると、書店員さんたちが「自分なら直木賞にこの作品を選ぶのに」と言っているらしい、という話を多数聞いたんです。彼らが感じていた「違和感」ですよね。それを聞いて、だったら「書店員が選ぶ賞」を作れば、売り場からベストセラーが生まれるかもしれないなと。当初は、受賞作が軒並み大ヒット作品になる賞にまでなるとは想像していませんでしたが。

結果的に徒労に終わるかもしれないけど、イノベーションを生み出すには、こういう違和感を察知する努力がとても大切だと思っていて。そのためには、無駄な情報が豊富にあったほうがいい。誰も気にしていない辺境を歩いて、今の時点では何の役に立つかわからない情報を絶えず拾ってくるプロセスが必要なんです。

僕だけじゃなく、博報堂の人たちはみんな辺境の情報発掘家だと思います。一見なんの役にも立たない風景や、人が辺境だと思っているところから得られる情報が、いつか世の中を変えるかもしれない、と色々な辺境を探っている人がたくさんいる。人の家の冷蔵庫の中身を調べ続けたら、何かが見つかるかもしれないとか。普通なら見落としてしまいそうな人間の些細な行動から、新たな欲望の胎動を発見する力を身に着けている。イノベーションは中心からは生まれないんです。

──しかし、辺境にも膨大な情報があります。なぜその中から、何かにつながりそうな情報を選び取って、発想やイノベーションにつなげていけるのでしょうか。


やはり、僕たちには「生活者発想」がベースにあるからだと思います。ここにあるモノやサービスをどう売ろうかじゃなく、いまリアルに生きている生活者は何を求めているのか、そこから見えてくる新たなニーズや次なる生活の息吹は何だろうかと、常に生活者を観察して、生活者側からヒントを探ろうとする思考習慣が体に染みついている。どんな辺境も、ちゃんと生活者発想で歩いているんです。

──嶋さんはクリエイティブディレクターとしての活動のほか、雑誌の編集や書店「B&B」の経営など、常に分野横断的な活動をしています。このことも、自身のクリエイティビティと関係しているのでしょうか。


CMも作るし、イベントも運営するし、雑誌もラジオ番組もつくって……。質的にまったく異なるものが同時多発的に進んでいるほうが、僕にとって単純に心地いいというのはあります。何本もの電車が同時に走っているのを見ると興奮する体質なんです。(笑)。
無駄なことや余計なことはたくさんやったほうがいいんですよ。そうしていると「あさって力」が磨かれるし、自分の中で価値観のぶつかり合いが起こって新しいことを思いついたりする。いろんな種類の仕事を横断的にやっていると、ここでやっている仕事のアイデアがあっちの別の仕事に役立つ、いうことが日常的に起きるようになります。

博報堂が培ってきたクリエイティビティを生み出すセッションの力を、今後はもっと外部の人たちとのチーム構築にも活かしていくべきだと思っています。新たなVIのシンボルの「センタードット」に起点・結節点という意味を込めているのも、まさにそういうことです。博報堂だけ、あるいはクライアントだけでは解決できない社会的課題があるなら、博報堂が誰かと何かを結びつければいい。まったくの異業種同士や、まったく分野が違う専門家同士を結びつけて、異なる常識や価値観をぶつけ合わせながら、今までになかった解を見つけていく。そうやって博報堂独自のクリエイティビティを社会の中で拡張していくことが求められているのだと考えています。

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