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5G環境下での新しい生活者価値創造とビジネス開発

2019.11.27
#生活者インターフェース市場
来春、日本における5Gサービスがスタートします。5Gサービスが広がり始めると業種にかかわらずあらゆるビジネスに大きな影響を与え、生活者のライフスタイルを大きく変えると言われています。
先日行った「HAKUHODO Executive Forum 2019」にて、通信会社3社のキーマンの方から、それぞれのビジョンやビジネス開発におけるパートナーシップの考え方、5Gを基盤とした市場や生活者価値創造への課題と成功の鍵などについてご説明いただき、ディスカッションさせていただいた様子をご紹介いたします。

<パネリスト> ※50音順
NTTドコモ
経営企画部 5G事業推進室長
太口 努氏

KDDI
コンシューマ事業企画本部 次世代ビジネス企画部長
長谷川 渡氏

ソフトバンク
常務執行役員 法人プロダクト&事業戦略本部 本部長
藤長 国浩氏

<モデレーター>
博報堂
常務執行役員
渋谷道紀

5Gによって生まれる新しい価値

渋谷
次世代通信ネットワーク「5G」がいよいよ2020年春からスタートします。4Gまでの通信は、主に人と人をつなぐものとして発展してきました。5Gは、人、家、家電、クルマ、店舗、街など、あらゆるものを制限なくつなぐ技術として期待されています。その特徴として「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」などが挙げられます。その5Gの圧倒的な力が、博報堂が提唱する「生活者インターフェース市場」を大きく広げていくインフラになることは間違いありません。「5Gサービスが広がり始めると2-3年で世の中ががらりと変わる」、そう言う人もいます。では、何がどのように変わっていくのか。まずはその点について、各通信会社の皆さんのご意見を伺いたいと思います。

太口
5GはIoTやAIなどと同じく、デジタルトランスフォーメーションの基盤となる技術の一つです。5GによってUI/UXが抜本的に新しくなり、革新的なサービスが生まれ、生産性が向上することになります。その結果、「新たな価値創出」と「社会的課題解決」が実現すると私たちは考えています。

長谷川
5Gの登場は、あらゆるものがつながり続ける時代になることを意味します。重要なのは、「つながり続ける」こと、つまり通信を使ったサービスを絶え間なく使えることです。
もっとも、5Gは2020年春以降すぐに日本全国でくまなく使えるようになるわけではありません。当面は、現行の4Gをピカピカに磨き上げながら、スペシャルな5Gとのハイブリッドネットワークを提供することになるかと思います。

藤長
ネットワークはこれまで、音声、データ、サービスの順で進化してきました。5Gが新しいのは、「産業」を中心としたネットワークであることです。5Gによって企業のデジタライゼーションが一気に進み、ビジネスモデルが変わり、人々の生活が変わる。そのような変化がこれから進んでいくことになるでしょう。

リアルな世界を変える5Gの力

渋谷
では具体的にどういう風に産業やライフスタイルが変わっていくのか、各社様のビジョンを共有いただけますか。

太口
5G活用の中心的なデバイスはスマートフォンですが、それが多様な周辺機器とつながりながら、新しい体感のサービスを生み出していくことになります。さらに、人手不足、防災・防犯、医療介護といった社会課題の解決もそこから実現することになるでしょう。繰り返しになりますが、「新たな価値創出」と「社会的課題解決」。その2つが、5G時代に私たちが目指すべきビジョンであると考えます。

NTTドコモ 経営企画部 5G事業推進室長 太口 努氏

長谷川
私たちは、5Gの時代を今までの制約から解放された「UNLIMITEDな時代」と捉えています。それを表現したのが「au UNLIMITED WORLD」です。加えて私たちは、「AUGMENT」というキーワードを提唱しています。AUGMENTとは「拡張」ということであり、新しい体験が創造されること、今までできなかったことができるようになることを意味します。私たちはこの考え方を、スポーツ、街、エンターテインメントなど、さまざまな領域に当てはめながら、「新リアル体験」を生み出していくことを目指します。

藤長
5Gは社会のあらゆる領域を変化させることになるはずですが、中でもとくに大きく変わるのが移動手段であると私たちは考えています。5Gによって自動運転が当たり前の世の中になり、データ活用による交通渋滞のない世界が実現する。そしてそれによって、「移動」に関する社会のルールや常識も大きく変わる。それが、私たちが掲げるビジョンの一つです。

渋谷
現在でも、XR(AR=拡張現実、VR=仮想現実、MR=複合現実などの総称)は体験できます。では5Gになると、そのXRの世界も大きく変わるのでしょうか。

太口
映像が高解像度になり、リアルタイム性も向上することで、圧倒的な「没入感」が実現すると考えられます。

長谷川
現在のXRはほぼ屋内で利用されていますが、それが屋外に拡張していくことになります。いつでもどこでもXRが利用できる。そんな時代になるのではないでしょうか。

KDDI コンシューマ事業企画本部 次世代ビジネス企画部長 長谷川 渡氏

渋谷
5Gは生活者の消費体験も変えそうですね。

藤長
ショッピングのスタイルが大きく変わると思います。店頭やネットでモノを買う時代から、VRやARを使って商品やサービスを体験して購入する時代になるのではないでしょうか。そうなると、リアル店舗は購買する場所ではなく、ロイヤルカスタマーとより深いコミュニケーションを図る場所に変わっていくかもしれません。

渋谷
これまで、デジタルテクノロジーはバーチャルな世界を豊かにしてきました。5Gになると今度はリアルな世界をも大きく変えていくといえそうですね。

企業間、業種間のパートナーシップが必須に

渋谷
総務省の「電波政策2020懇談会」は、5Gの経済効果をおよそ46.8兆円と試算しています。この数字は、通信会社だけが創っていくものではなく、各業界の企業が5Gを活用して新しい価値を生み出すことを前提にしたものです。もちろん、一社のみで新しい価値を創造することは簡単ではありません。今後は、5Gを軸とした企業間のパートナーシップが必要になると考えられます。では、どのようなパートナーシップがありうるのか。お考えをお聞かせください。

太口
私たちは昨年1月に、ビジネスパートナーとともに新たなビジネス創出を目指す「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」を立ち上げました。全国11拠点の「ドコモ5Gオープンラボ」を拠点に、協創のプラットフォーム「ドコモオープンイノベーションクラウド」を活用してさまざまな実証実験を進めています。この枠組みには、すでに3000社超の企業・団体等にご参加いただいています。通信会社と企業がそれぞれのアセットを持ち寄って、新しい価値を生み出していくこと。それがこの枠組みの目標であり、5G時代のビジネスのあり方であると考えています。

長谷川
私たちは、昨年9月に5G/IoT時代のビジネス開発拠点として「KDDI DIGITAL GATE」をスタートさせました。現在、スタートアップ、大企業、自治体とのコラボレーションを進め、5G開始を睨んでビジネス開発体制を拡充しているところです。

藤長
新たなビジネスを生み出すには、まさに共創が必須です。私たちは、トヨタとMaaSの新会社「MONET」を設立し、移動に関する課題解決や価値創造に取り組んでいます。例えば、過疎地や遠方地に自動運転車を使ってサービスを届けるといった仕組みを今後実現させていきたいと考えています。
共創のもう一つの取り組みが、KDDIとの基地局資産相互利用です。基地局を共同でつくって、共同で利用することを目指しています。これまで通信会社は、通信の速さや容量を競い合ってきました。今後は、「5Gを使ってどのような価値を生み出していくか」という方向に競争の軸は変わっていくことになります。そのためには、ときに通信会社間でコラボレーションをすることも必要になると考えています。

ソフトバンク 常務執行役員 法人プロダクト&事業戦略本部 本部長 藤長 国浩氏

太口
従来の通信会社の役割は「回線の提供」でした。これからは企業の皆さまからニーズや課題を聞かせていただきながら、回線の上にどのようなアプリケーションやソリューションを乗せていくかをともに考えていく時代になると思います。

長谷川
5Gというテクノロジーをどのように使えばいいのか。これは、通信会社だけではわからないことです。企業の皆さまがどのような困りごとを抱えていて、どのようなことを実現したいと考えていらっしゃるのか。それをお聞きしないと、新しい価値を生み出すのは難しいですよね。

渋谷
5G時代においては、インフラが主役なのではなく、そのインフラを使ってさまざまなサービスを創り上げる企業が主役である。そう言ってもいいかもしれませんね。

5G時代にふさわしいインターフェースを

渋谷
さらに具体的な事例を伺いながら、何が5G活用の成功の鍵になるのかを見極めていきたいと思います。

太口
私たちの最近の取り組みの一つが、MRの技術開発をしているMagic Leap社との資本・業務提携です。今後、MRをコアとしたXR市場をともに創出していきたいと考えています。また、公益社団法人日本プロゴルフ協会とのコラボレーションによるゴルフレッスンの遠隔提供や、ワコムとの協業によるXR環境での3Dデザインの新しいワークフローづくりにも取り組んでいます。私たちの強みとパートナー企業の強みを掛け合わせることが、5G活用の成功の鍵となる。そう考えています。

長谷川
先にご紹介した「AUGMENTED」の一つとして、「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」という取り組みを進めています。これは、渋谷区観光協会、一般社団法人渋谷未来デザインともに、テクノロジーの力によって渋谷を毎月アップデートし、5G時代の新しい体験を提供するものです。その第一弾として、渋谷の街全体をデータ化し、スマートフォンを通して見ると街の姿が変わる仕組みをつくりました。さらに第二弾として、渋谷音楽祭に合わせて「渋谷の街が、音楽プレーヤーになる。」をテーマとしたAudio Scapeという試みにチャレンジしています。

藤長
5Gは自動運転を実現するための基盤となるテクノロジーです。私たちは、SBドライブという会社を立ち上げ、自動運転車の公道実証実験を進めています。自動運転を実現するには、私たち通信会社、車両メーカー、地図事業者、保険事業者、インフラ事業者など、業界をまたいだ「横断的なデジタル化」に取り組む必要があります。テクノロジーと各産業の知見を組み合わせながら、社会のルールを含めた移動に関する環境を進化させていくことで、自動運転は実現すると考えています。

渋谷
最後に、5Gで新しい価値を生み出していくに当たって、私たち博報堂はどのような役割を果たしていけばいいのか、期待も含めてご意見をお聞かせください。

博報堂 常務執行役員 渋谷道紀

長谷川
5Gで何ができるのか、どんな新しいことが実現するのか、企業の皆さまや一般の生活者にはまだまだ見えないのが現状だと思います。広く世の中に向けて「こんなことができる」ということを伝えていっていただきたいですね。

藤長
テクノロジーを活用するエンドユーザーは、それが優れたテクノロジーだから使うのではなく、たんに便利だから使うわけです。私たちは、テクノロジーファーストにならずに、常に使い手のことを考えてサービスやソリューションを生み出していく必要があります。その「使い手の視点」を大切にしたインターフェースづくりにぜひ力を発揮していただきたいと思います。

太口
こうして通信3会社が一堂に会するのはとても珍しいことです。私たちはライバルでもありますが、5G時代を迎え協創によって新しい価値を生み出していきたいという思いを共有する同志でもあります。通信会社間、さらに5Gを活用する企業と会社、企業と企業の間の距離を縮め、双方向のやり取りの中で新しい価値を創造していける関係をつくる。その働きかけをする役割を博報堂には期待しています。

渋谷
ありがとうございます。AIやIoTの進展に5Gが加わることによって、いよいよ生活者インターフェース市場が本格的に動き出す準備が整いつつあります。生活者インターフェース市場は、人とモノをつなぐ単なる接点ではありません。人を惹きつけ、ワクワクさせ、感動させて、行動を促す。そのような体験をつくることで初めて動き出すものです。そしてそこで作られる体験が各企業のブランディングそのものになります。博報堂グループは、通信会社様や各企業の皆様といっしょに、5Gを活用したサービスやビジネス、そして新しい時代にふさわしい生活者インターフェース市場の創出に力を発揮していきたいと思います。

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■プロフィール

太口 努
NTTドコモ
経営企画部 5G事業推進室長

長谷川 渡
KDDI
コンシューマ事業企画本部 次世代ビジネス企画部長

藤長 国浩
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渋谷 道紀
博報堂
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