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HAKUHODO Creators Bookshelf VOL.5
本山 敬一

2019.10.25
#クリエイティブ

本棚を見れば、その人の人となりが見えてくる。 博報堂クリエイター達が「大切にしている一冊の本」を紹介する連載です。
第五回は、クリエイティブディレクター 本山敬一です。

僕が選んだ一冊は、『ATG映画の全貌[日本映画篇]』です。

ATGというのはアート・シアター・ギルドの略。1961年から92年まで、日本に存在した映画会社です。元はゴダールとか、ベルイマンとか、海外の芸術的に価値の高い映画を上映する配給会社だったんですが、だんだん日本の監督と一緒に、自分たちで映画を作る方向に行きました。この本は彼らが国内で製作/配給した作品のガイド本です。

中学生くらいの頃から「監督で映画を観る」ってことをずっとやってて。世代的に、タランティーノ、ベッソン、ジャームッシュ。あとは巨匠といわれる監督たち、スコセッシ、キューブリック、黒澤明、北野武とかとか。映画ファンなら、誰でも通る人たちが中心でした。でも大学生になって「上映センター」という映研に入ったら、サークルの先輩に「ATGの作品を観ていないなんて全然駄目!!ありえない!!」って怒られて(笑)。90年代のサブカル的というか、とにかく小難しくてマニアックな映画をたくさん観てマウントするカルチャーの全盛期だったんですよ。
それからは、古本屋で買ったこの本を片手にATG作品を片っ端から見ました。名画座はもちろん、ATG専用のレンタルコーナー(もちろん、VHS)があった新宿TSUTAYAにはよく通いましたね。ATGが発行してたパンフレットも、シリーズになっているんですが、見つけたら即買うって決めてて。気がついたらこんな量になっちゃいました(笑)。

当時、映画の製作費が5,000〜6,000万ぐらいだった時代に、ATGは1,000万くらいで作っていたらしいんですよ。ほんとに1,000万で作れていたかはちょっと謎なんですけど(笑)。でも低予算だからこそ、大手の会社じゃできないような自由な表現にあふれていました。大島渚、相米慎二、今村昌平、岡本喜八、黒木和雄といった日本を代表する監督もATGで実験的な作品を作ってたんです。

例えば、大島渚監督が『忍者武芸帳』っていうアニメを撮っているんですけど、アニメといっても漫画のコマを切り抜いて連続で映しているだけ。そこにセリフとSEが入ってるという、紙芝居をちょっとリッチにしたみたいなものなんです。低予算がゆえのアイデアだと思うんですが、漫画の絵を映画館の大きなモニタで観る機会なんて普段はないんで、原作の白土三平さんのタッチもふくめて、妙〜な迫力があるんですよね。
他にも、映画の途中で淀川長治さんが登場して締めのセリフを話すメタ構造をもった松本俊夫監督の『薔薇の葬列』。
今村昌平監督の『人間蒸発』はドキュメンタリーの体裁だったのが、撮る側と撮られる側が融解していく過程で、ドキュメンタリーでもフィクションでもない何か別のものに変容していきます。
学生の革命軍をテーマにした若松孝二監督の『天使の恍惚』は、組織内のコードネームが格好よくて。幹部は「春夏秋冬」その部下は月や週で呼び合ってて、セリフが「春が夏を裏切ると、十月は言うのか」みたいな感じなんですよ。すごくグッときます。
篠田正浩監督の『心中天網島』の、浮世絵と巨大タイポグラフィーと黒い柱で作られた超現実的なセットは一度観たら忘れられませんし、松田優作さんが出演して有名な『家族ゲーム』もATG作品。横一列で夕食を食べながらカオスになるシーンは映画史に残る名シーンですね。まぁ、こうして語るとキリがないんで、そろそろやめておきますが(笑)。

とにかくATGの作品には新しいことをやろうという意志があった。
現代だと世界中に流通するために「普遍性のある、理解しやすい表現」が重んじられるじゃないですか。もちろん映画に限らず広告もそうで、分かりやすさに価値が高く置かれている。結果、大抵の人は「誰かがやったこと、できたこと」しかしなくなる。けど、ATG映画は全く逆。予算がないからこそ工夫して、これまで見たこともないものを作ろうしている。どんなタブーにも臆せず、既存の映像のルールや、常識を軽々と超えていく。

そもそも、僕はガイド本を読むのが大好きなんです。新しい何かを観るモチベーションを与えてくれるから。僕が学生の頃はインターネットもないし、新しいことを知りたい時はまず、こういったガイド本から情報を仕入れてました。テクノを知りたいと思ったら、「テクノ必聴盤100」みたいな特集の雑誌を買って、それを片っ端から聴いた。コンプリートすると、なぜだかテクノのすべてがわかった気になるんですよね。その錯覚が、趣味にあわなくても強引に聴いてみようという原動力になっていました。最初は意味不明でも、強引に聴いてるうちに開眼して、メチャクチャ好きになるなんてことも多々あるんですよ。

今回選んだこの本は、僕に感性を強引に広げることの価値を教えてくれました。
ATG作品を全て観る。そう決めたら、自分の好き嫌いを完全に無視してとにかく大量に観る。単純だけどすごく大事な手法だと思うんです。

今は新しい何かを知りたいと思ってネットで検索すると、無限の答えが出てきてしまう。そしてその大量の選択肢に溺れ、結局なにも選択できなくなる。結局、いつも好きなものばかり消費するようになって、生活者のタイムラインは好きなものに偏ってしまっています。

自分の感性も、個性であると同時に牢獄みたいなものでもあって、大人になればなるほど閉じこもってしまう。居心地はいいんですけど、未知のものを知ろうとする好奇心が摩耗していく。クリエイターとして、それは致命的ですよね。

僕らは案件ごとに、異なる課題に対して異なる答えを出す必要がある。生活者のタイムラインを突破するためにも、新しい答えを求められ続けます。とはいえ、新しいと思って作った表現も実はすごく普通だったり、自分が知らないだけで、過去にやられている可能性もありますよね。とにかく大量に、過去から最新まで、ジャンルを問わず幅広い表現を掘っていれば、何が普通で何が普通じゃないか、何が新しくて何が新しくないか直観的にわかるようになるんです。

僕は生活のほとんどをコンテンツ消費に費やしています。隙あらば本や漫画を読むし、ゲーム、アニメ、もちろん映画も、とにかく観まくる。間が嫌いなんですよ。
ミシェル・ウエルベックっていう好きな作家の作品で、主人公がビーチに行くとき本を忘れてしまうシーンがあるんですけど、「大変だ、自分の人生と向き合わなければならない」って言うんです。まさに僕も同じ。人生と向き合いたくないので、死ぬまで間を埋め尽くしていきたい、と思っています。

本山 敬一が選んだ一冊

ATG映画の全貌[日本映画篇]
佐藤正隆 著
夏書館

本山敬一(もとやま・けいいち)
SIX インタラクティブ クリエイティブディレクター

1977年倉敷生まれ。クリエイティブ・ディレクター。博報堂を経て2013年SIXを設立。「A Fusion of Technology with Humanity」をテーマに、メディアを問わず人の心に残る体験を作る。主な仕事に、2018年 紅白歌合戦グランドオープニング、amazarashi 武道館公演『新言語秩序』、BEAMS 40th 今夜はブギー・バック、Pokémon GOグローバルトレーラ―、Google Chrome 初音ミクなど。カンヌ、ACCをはじめとした国内外のアワードで受賞多数。

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