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「東京は未来のラボである。」Future Innovators Summit TOKYO レポート

2018.06.04
#イノベーション#クリエイティブ#テクノロジー#博報堂ブランド・イノベーションデザイン

去る5月25日(金)から27日(日)の三日間、東京ミッドタウンにて、「Future Innovators Summit TOKYO」が開催されました。
「Future Innovators Summit」(フューチャー・イノベーターズ・サミット 以下FIS)は、世界的なクリエイティブ機関「アルスエレクトロニカ」と博報堂が共同開発した体験型ディスカッション・プログラムです。
FISは、アーティスト、デザイナー、科学者、技術者、起業家、哲学者など異なる背景・専門性を持ったイノベーターたちが世界中から集い、未来への問い「クリエイティブ・クエスチョン」を生み出す“生きるシンクタンク”として2014年より、オーストリア・リンツ市で開催されるアルスエレクトロニカ・フェスティバルを舞台に実施してきました。
今回、東京で初めて開催されたFIS TOKYOは、課題先進国である日本で、社会課題の真の解決には何が必要なのか。そもそもの課題設定を見直す「クリエイティブ・クエスチョン」と、その問いに対して企業・アーティスト・イノベーター・市民の様々な立場で考えるプログラムが実施されました。今年は14名・6カ国のイノベーターが参加しています。

FIS TOKYOは、アート作品・プロトタイプ展示、ディスカッション・プログラム、トークセッションという大きく3つのプログラムで構成されています。

東京ミッドタウンB1アトリウムで展開された、アート作品・プロトタイプ展示。 ショッピングにきた方など、たまたま通りかかった方々も多く立ち寄っていました。

まず、アート作品・プロトタイプ展示では、FIS TOKYOへ参加するイノベーターの作品・活動・プロジェクト、企業による未来のプロトタイプが展示されました。鑑賞者に、驚きや発見、共感など様々な感情を呼び起こすような刺激的な作品たちは、今回のFIS TOKYOにて設定された3つのテーマ(DEATH-LIFE in Tokyo、TECH-SKIN in Tokyo、PUBLIC-PRIVATE in Tokyo)について考える機会を与えてくれます。会場の中心には、東京をよくしていくための意見を共有するための地図「THE FIS MAP」があり、来場者の方々もそれぞれの意見を旗に書き込んでいました。

東京をよくしていくための意見を共有するための地図「THE FIS MAP」。 多くの来場者意見を書く姿が見られた。
(‎Amy Karle “Regenerative Reliquary” / Kyle McDonaldExhausting a Crowd” )

イベント初日は、屋外スペースのコートヤードにて、トークセッションが行われました。
オープニングセッションでは、アルスエレクトロニカ 総合芸術監督のゲルフリート・ストッカー氏、アーツカウンシル東京の石綿裕子氏、博報堂 取締役常務執行役員の北風勝が登壇し、本イベントへのそれぞれの想いや期待を語りました。

(右)アルスエレクトロニカ総合芸術監督 ゲルフリート・ストッカー氏 (中央)博報堂 取締役常務執行役員 北風勝

アートとインダストリーのコラボレーションという視点でみたFIS TOKYOの意義について、北風は、以下のように語りました。
「企業の経営者はアートやアートディレクションが経営に必要な事項だということは何十年も前から気付いているが、アートをどのように活かしたらいいかわからない状態が続いていた。企業がアーティストを社外取締役のような形で取りこむパターンもあるが、その場合、アートの力が小さくなってしまうのではないだろうか。私は、インダストリーの”作る”パワーと、アートの”問いを発する”パワーがイコールバランスにならないと解決できないと考えている。そういう意味でFISという仕組みは、その二つをバランスさせる力があると思う。

私たちは、“問い”に対して“答え”を一対一対応にする癖がある。しかし、答えは沢山あっていいと思うし、アーティスト・イノベーターからの問いに皆で沢山の「答え」を出すという環境づくりが必要だと思っている。FISのアーティスト達は、答えを出そうとするのではなく、問いと答えの間にある“いい答えを出すための場”を作っていると思う。解決のための種が含まれている原石を、アーティストがノミで掘るように露出させて広げていく。FISを訪れた人々がそれに触れて様々なパースペクティブから答えを出す、これがFISの本質ではないかと思うんです。」

(左)アーツカウンシル東京の石綿裕子氏

行政が芸術・文化を支援していく意味について、アーツカウンシル東京の石綿氏は、
「それは“未知数に対する支援”ではないかと思う。これから何が起こるか、何が生まれるか分からないものに対して支援していくこと。先程、“原石”という話があったように、未知数が新しい価値となって、そして普遍的な価値になっていく。それが、人々に対する新しい刺激であったり、都市の新しい価値を見出すことにつながったりする。そういった未知数のものに対して付き合っていくことがアートを支援する意味だと思っている。」と語りました。

(右)アルスエレクトロニカ総合芸術監督のゲルフリート・ストッカー氏

アルスエレクトロニカのストッカー氏は、FIS TOKYOで見出すことが出来るアートの力について、
「かつてアートは、いわゆるアートワーク(作品)ではなく、より広い”スペース(場)”のことであり、アートやアーティストという存在が社会を創っていた。アートは現在のソーシャルイノベーションに、とても有益であると思う。アーティストとの協働は、予想しないこととの出会いや、良い問いや機会を見つける可能性をより一層高めるものだ。」
と語り、すぐに正解が出ないものと向き合っていく上で、今こそアートが社会、企業にとって重要だという考えを示しました。

最後に、北風はストッカー氏の言葉に呼応して、以下のように語りました。
「ストッカーさんが語っていたように、アーティストのイメージはいわゆる美術作品を作る人というイメージが強いが、アーティストは実践者ではないだろうか。アーティストというのは、何か本質的な問題を見つけたら、何らかの方法で形にする人だと思う。アーティストをそのように捉えると、創造的な問いをもって何らかの答えをいくつも出す時に、形にすることを見据える、ということが大事ではないかと思う。具体的に形にすることで、アイデアの良し悪しが分かる。アーティストの実践者としての部分、形づくる人としての部分を、我々が上手く活かせば、インダストリーの課題も、都市が抱える問題も、もう少し進んだ形で解決できるのではないかと思う。」

オープニングセッションは、FISTOKYOの掲げる3つのテーマを紹介し、後に続くトークセッションにつなげていく形で終えました。

今回、東京にて第一回目の開催となったFuture Innovators Summit TOKYO。

都会の中心でありながら緑あふれる東京ミッドタウンのコートヤードでは、席でメモをとりながら聞き入る人や、そばを通りかかって思わず足を止めて立ち見する人が見られました。皆が心地よい風を感じながら、登壇者は未来への問いを投げかけ、観客は好奇心に目を輝かせて話を聞いている、その環境自体が新しく感じ、印象的でした。
アーティストや学者から、子ども達、通りすがりの通行者まで、様々な人々が交わり合い、このFIS TOKYOから発信される感情を揺さぶるような刺激や静かな問いかけを、それぞれの立場で受け止めて感じたことを持ち帰っていく。複雑化していく都市の課題を解決していくための、多様な問いと答えを引き出す新たな場の可能性を感じるイベントでした。

Future Innovators Summit Tokyo オフィシャルムービーは、以下よりご覧ください。

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