THE CENTRAL DOT

【コンテンツファン消費行動調査2019分析リレーコラム】#3(アニメ・特撮篇)「サブスクリプションサービスを起点とした コンテンツとの出会いと消費の新潮流」

2019.10.07
#コンテンツビジネスラボ

アニメをどこで見ているか?

従来、アニメコンテンツはTV番組で鑑賞するのが一般的でしたが、最近ではAmazon Prime VideoやHulu、Netflixなどのサブスクリプションサービスの登場で、過去の作品、オリジナルの作品を観ることが可能となりました。今回のコラムではこのようなサブスクリプションサービスを使ってアニメを観るユーザーがどんな人達なのか、そしてアニメ市場全体にどのような影響を与えているかについて、我々が実施している『コンテンツファン消費行動調査』のデータを元に検証し、今後のアニメ市場への影響を考察していきたいと思います。

※本レポート内のデータは、全て『コンテンツファン消費行動調査2019』(2019年2月実施)からの出典です。

まず、アニメ利用層のサブスクリプションサービス利用率は3割を越えており、前年対比で8pt増加と、他のサービスと比較しても大きく伸長しています。

図1 調査対象者全体とアニメサブスクリプションサービス利用層の性年代(単位:万人)

全体でおよそ225万人の増加が見られ、その4割を男女10−20代の若年層が占め、次いで男性30-40代層が3割を占め、この2つの世代がアニメ利用層におけるサブスクリプションサービス利用率をけん引しています。

次に利用率が増加しているサブスクリプションサービスですが、2011年のHulu、2015年のNetflixサービス開始以降、現状様々なサービスが提供されています。生活者はどのサービスでアニメを見ているのでしょうか。

図2 サブスクリプションサービスの利用率

アニメサブスクリプションサービス利用層がどのサービスを利用しているか、利用率を見てみると(図2)、様々なサービスを内包しているAmazon Prime Videoを除いて、HuluやNetflixをはじめ様々なサービスが20〜30%程度の利用率だということがわかります。
この層においては突出して利用率が高い動画視聴サブスクリプションサービスがない状態であり、今後どのサービスでアニメを視聴するようになるか今後注目していきたいと思います。

サブスクリプション×アニメはもはやギークの楽しみではなくなった

次に、サブスクリプションサービス利用率の上昇によってどのような変化が起きているのかを見てみましょう。

図3 アニメサブスクリプションサービス利用層の年間コンテンツ支出金額

アニメサブスクリプションサービス利用層のコンテンツへの支出額を年間で比較すると、昨年に対して約25,000円の伸びがあることがわかります。(図3)
この伸びは、アニメを嗜好する層のアニメへの支出が増加したことによるものではないようです。
アニメサブスクリプションサービス利用層について、2018年と2019年の支出ジャンルを比較してみると(図4)、「スポーツ」「レジャー施設・ライブイベント」「タレント」「ドラマ・バラエティ」などでの支出が増加しているのがわかります。
従来のアニメ利用層はアニメ以外では、マンガやゲームでの支出が多いのが特徴だったのですが、サブスクリプションサービスの伸長により、アニメ以外のコンテンツを消費していたユーザーが新たに流入してきたのではないかと推測されます。
“アニメギーク”が中心だったアニメ利用層は、いまやサブスクリプションサービスの登場によって新たなファン層を魅了し、拡大し始めています。

図4 アニメサブスクリプションサービス利用層の支出ジャンルごと支出金額(2018年・2019年比較)

サブスクリプションサービスにより、コンテンツと出会う機会は増えていく

このように新規流入層はどのようにアニメに出会っているのでしょう。ここにもサブスクリプションサービスの大きな影響があります。
サブスクリプションサービスの特徴として、レコメンド機能があります。何かしらの作品視聴を行うことで、関連する作品や作品ジャンルなどが「おすすめ」として提示されるようになり、新たな作品等に出会える機能です。このレコメンド機能によって、例えばSF映画を視聴したユーザーに対して、SFアニメ作品が提示されるなどが起こりえます。
レコメンド機能の影響を検証するために、サブスクリプションサービスに対して持っているイメージについて、アニメサブスクリプションサービス利用層とアニメ利用層全体で比較してみました(図5)。

図5 アニメサブスクリプションサービス利用層とアニメ利用層全体の持つ
サブスクリプションサービスへのイメージ比較(差分降順)

差分が大きい順にグラフに図示していますが、アニメサブスクリプションサービス利用層の反応が特に大きい項目は、「自分にあった作品が分かる」「自分の知らない情報に出会える」であり、レコメンド機能に影響を受けていることが推測されます。
サブスクリプションサービスに加入する動機はなんであれ、ユーザーは、レコメンド機能により、映画やアニメといったカテゴリをまたいで作品と出会う機会が増加します。
アニメ自体に強い興味を持っている層でなくとも、彼らに対してアニメと出会う機会を創出していることが、サブスクリプションサービスのもたらす変化・影響と言えるかもしれません。

アニメサブスクリプションサービス利用層によるアニメファンの新潮流

このように新たにアニメを楽しむようになった層は、サブスクリプションサービスでアニメを見て終わり、というわけではなく作品関連の支出をしています。(図6)
いずれの支出カテゴリについても、アニメサブスクリプションサービス利用層はアニメ利用層全体に対して支出率が上回っています。
特に有料オンデマンドでの視聴や、映画館での視聴、関連商品の購入などが全体よりも高く、サブスクリプションで触れた作品のオンデマンドでの購入や、映画版の視聴など、周辺でも支出をしていると推察されます。

図6 アニメ利用層全体とアニメサブスクリプションサービス利用層での支出内容比較

アニメサブスクリプションサービス利用層が特に高い項目は、「有料オンデマンドサービスでの視聴」「映画館での視聴」「イベント・コンサートへの参加」など体験型や、作品を何度も鑑賞できるメリットを持った項目が目立ちます。
一方で「専門カフェ・喫茶店の利用」「キャラクターグッズなど関連商品の購入」や「ファンクラブの利用」など、以前のアニメギークが消費していたような作品世界にディープダイブする項目やコミュニティ要素の強い項目は、比較的差分が小さくでています。

私自身も、かつて学生時分はキャラクターグッズを購入するためにアニメショップを友人と訪れていましたが、近年アニメを好きになった友人はキャラクターグッズなどには興味を示さず、「劇場版公開のときには一緒に見に行こう」と誘ってくれるなど、楽しみ方が変わっていることを体感します。
今後、サブスクリプションサービスによってアニメと新たに出会う層がさらに増加していく中で、利用層に対して提供するべき内容も変化していくと考えられます。
例えば、ファンミーティングや作品キャラクターのグッズなど作品世界へのディープダイブだけでなく、作品世界をより手軽かつ機能的なメリットも享受しながら体験できる、「ゆるキャン△」に見られるキャンプツールなどの企業コラボグッズ、特別編やOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)のオンデマンド配信やサブスクリプションサービスでの再視聴などがますます重要視されていく兆しを図6のグラフは示しているかもしれません。

もはやアニメとのコラボグッズ開発などは珍しいことではなくなっており、市場のアニメの活用の仕方は変わっています。 生活者のアニメの楽しみ方も変わって来ており、企業やコンテンツホルダーは、更に生活者に楽しんでもらうためのプラニングを刷新していく必要があります。
例えばとある女性向けアパレルブランドでは、定常的にアニメとのコラボレーションTシャツや痛バッグを販売しています。また、日本のアニメ文化とファッションとを融合させることを目指したブランドが設立され、様々なアニメやゲームとのコラボレーションファッションアイテムを提供しています。
既に多くのユーザーやファンを獲得している企業やブランドとのアニメコラボレーションも目立っています。大手求人情報検索サイトやアパレルブランドと「ONE PIECE」などのコラボレーションなどが挙げられます。

サブスクリプションサービスの隆盛によるアニメ利用の拡大によって、これまでのアニメ嗜好が強い層だけではない、より広い利用層を楽しませるアプローチの変化が今後ますます増えてくることが考えられます。アニメ=キャラクターグッズという楽しみ方だけではなく、アニメを様々な現実空間で楽しむことが進化していくと考えられます。
スマートイヤフォンやスマートヘッドフォンとアニメのコラボレーション例に、バッテリー残量などの通知をアニメキャラクターが行ってくれる商品が既に存在しますが、これからは道案内などをキャラクターが行う、加えてAR技術等によりその道案内が進化するなどといったことも可能かもしれません。カフェ等のコラボレーションも、キャラクターコースターやメニューといった領域だけでなく、購入者、来場者がキャラクターや声優と食事ができるAR技術の活用など、新しいアニメ利用層を楽しませる、幅広い三次元での楽しみ方の提供が必要となり、それがアニメ市場のさらなる活性化と拡大につながるのではないでしょうか。

後 皓介
コンテンツビジネスラボ(博報堂 研究開発局、博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター)

2010年博報堂DYメディアパートナーズ入社。2016年より研究開発局、マーケティング・テクノロジー・センターにてコンテンツファンマーケティング、位置情報データ、メディアログデータ、MMM、デジタルマーケティングなどの研究開発に従事。2013年からの3年間はメディアプラナーとして外資系クライアント、スタートアップクライアントのメディア戦略、メディア投資戦略のプラニングに従事。2010年から2013年はテレビタイムビジネス局にてテレビビジネスとテレビ×デジタルの施策開発に携わる。

FACEBOOK
でシェア

X
でシェア

関連するニュース・記事