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【別解が生まれた瞬間 #5】別解とは、技術の「新しい使い方」を見つけること。 ~クリエイティブディレクター須田和博 「MRミュージアムin京都」プロジェクト

2019.09.26
博報堂のクリエイティビティには「“別解”を生み出す力」がある、と考えます。論理的に考えてたどり着く“正解”では解決できない課題が増え続ける社会において、常識を打ち破る“別解”で課題を突破し、新しい価値を生み出していく。すでに博報堂グループの中でもさまざまな別解の芽が生まれ、未来を切り拓く挑戦が始まっています。
このインタビューシリーズでは、別解を生み出し、その社会実装に取り組むプロジェクトのメンバーに「別解が生まれた瞬間」を尋ねます。第5回では、「MRミュージアムin京都」を手掛けた須田和博に話を聞きました。

京都最古の禅寺×最新デジタル技術

――「MRミュージアムin京都」は、誰もが知る文化財をMR(Mixed Reality:複合現実)で鑑賞体験できるイベントとして、2018年の開催時には多くの来場者が訪れ、メディア等でも話題になりました。本プロジェクトが生まれた経緯について教えてください。

須田
「MRミュージアムin京都」は2018年に、京都最古の禅寺と言われる大本山 建仁寺で、国宝「風神雷神図屏風」と最新のMR技術を組み合わせて実施したイベントです。マイクロソフトが開発した「HoloLens(ホロレンズ)」というMRデバイスを装着して俵屋宗達が描いた屏風を見ると、風神や雷神が三次元空間に立体的に浮かび上がります。絵画にこめられたストーリーを解説するのは3D撮影された僧侶。文化財鑑賞へのMR技術の応用においては、世界に先駆けた取り組みだと思います。

さかのぼること、このさらに1-2年ほど前から博報堂と博報堂プロダクツで、VR(Virtual Reality:仮想現実)やAR(Augmented Reality:拡張現実)を使った開発を行う「hakuhodo-VRAR」というチームが立ち上がっており、御縁があってそこに合流しました。自分は6年ほど前から、ずっと「新しい技術を使って、新しいコミュニケーションのプロトタイプをつくる」「広告の新商品をつくる」ということをテーマに“スダラボ”というプロジェクトを続けており、基本的にはその同じ考え方で、スマホの次の技術潮流であるVRやARの分野にアプローチしようと思いました。

MRミュージアムin京都

ちょうど同じ頃、別のきっかけで、スダラボでは「京都の観光施策に関連して何かできることはないか?」と模索を続けており、VRと京都を組み合わせるのが何か良さそうだなと思っていました。京都の町を移動しながら楽しむVR体験はどうだろう?でも、VRだと京都に行かなくても体験できちゃうよなぁ、VRよりも本当はリアルな京都を見てもらいたいんだよなぁ・・・などと考えていた頃に、日本に上陸したばかりの「HoloLens」を体験する機会があり、その時に「そうか!MRなら現実空間やリアルな物体の上に、情報レイヤーを重ねるわけだから、本当に京都に行ってもらう必要がある。実際に、建仁寺に行って、本物の『風神雷神図屏風』の前に立ってもらう必要がある!」つまり、これなら「京都に行く理由」がつくれる!と気づいたんですね。そして、これが実現できれば、新しい文化財の鑑賞の仕方も生み出せるし、新しい観光プロモーションのスタイルも開発できるんじゃないかと思い、ラボの皆でやってみよう!と決意しました。

―――「新しい技術を使って、新しいコミュニケーションのプロトタイプをつくる」とは、どういう意味ですか?

須田
わかりやすくいうと、「技術そのもの」ではなく、「技術の使い方を考える」ということです。これは、広告会社がやるべき、大事な仕事だと思っています。

「MRという新しい技術を、文化財鑑賞に使った」というのがMRミュージアムで、国宝にMRを重ねることで、鑑賞体験を新しくできる。実物の作品を見ながら、その歴史的背景や内包される意味を同時に体験として学ぶことができる。いままでの文化財の鑑賞方法では得られなかった理解が、鑑賞と同時に得られるという体験がつくれた。また、これまで文化財に興味がなかった若い世代が、新しい体験型コンテンツとして関心を持ってくれました。

これは、MRの使い方としては、かなり「邪道」なんだろうな、と思います。この技術が開発された時には、おそらく「想定されていなかった用途」でしょう。でも、それが大事なんです。こういう「使い方」を実行することで、MRに新しい可能性が見つかったわけです。

技術そのものよりも「技術をどう使うかが大切」というのは、実は昔から繰り返されて来たイノベーションが起こる時の鉄板のプロセスなんです。電話というものは、今のような使われ方を想定して発明されたわけではなかったと聞きます。「声が遠くに届くだけだから、電信より使い道はないかもね」なんて言われてたとか。コンサートホールの演奏を家で聞けるようにする今の有線放送のような使い方が試された時期もあったそうです。でも、ある時、電話でしゃべって連絡するという使い方で必需品となった。

また、エジソンが蓄音機を発明した当初は、これを「遺言を残すため」に使おうとしていたそうで、まさか「音楽を録音して、プレスして量産して、一大産業にする」なんてことは、夢にも思ってなかったとか。世界で最初の「カメラ付き携帯電話」が発売された時、ほとんどの人は「そんなの何に使うの?」と思っていたといいます。こういう逸話が自分は大好きで、ここにこそ「イノベーションの本当の姿」が隠れているし、これこそが「別解」だろうと思います。

技術は、常に「後から」使い方が見つかる。新しい技術は、「いい使い方」が見つかることで普及してゆき、それで「結果的に」産業が生まれる。皆、最初からわかって発明しているわけでも、最初から事業計画ができてるわけでも、ない。この歴史的事実が、ものすごく重要なんだと思います。新技術に出会い、その「使い方」を発見し、それがユーザーに喜ばれるポイントをいちはやく洞察し、他者に先駆けて試して、さらに喜ばれるように配慮し続ける人が、新しい産業を興す人なんじゃないでしょうか。

まさに、ここに自分たちのような「広告を生業として来た人間」の「働きどころ」があるはずだと思っています。「商品の伝え方」や「新技術がもたらす素敵な暮らし」を描き出すプロだった思考法を、「技術の喜ばれる使い方」を思いつき、それを皆に見せられるような「カタチにする能力」に転換する。これは従来の職能と、まったく地続きなことで、ちょっとトレーニングをすれば、広告会社の人間なら誰にでも出来ることなんです。やるか、やらないかの違いだけなんです。

―――MRミュージアムin京都は、どんな反響がありましたか?

須田
全国のテレビや新聞など、本当にたくさんの媒体に取り上げてもらいました。それだけ話題にしてもらえたのは理由があります。この取り組みが、とにかく、とっても「わかりやすかった」からです。日本人なら誰でも知っている国宝の「風神雷神」と、誰も見たことないような最新の「Mixed Reality」という技術。文化の観点でも、観光の視点でも、テクノロジーの面でも、エンタメとしても、どんな切り口でも興味が持てるものになっている。結果的に、今年(2019年)の「日本イベント大賞」のグランプリである「経済産業大臣賞」をいただきました。

スダラボでは、いつも「最古×最新」というキーワードでアイデアを説明します。最古というのは「人間だったら誰でもわかる」くらい鉄板のネタで、昔からある普遍的で変わらないもの。最新というのは「見たこともない最新技術」や最新のヤリクチ。この2つを掛け算することで、「誰でもわかるけど、誰も見たことない」ものがつくれる、というシンプルな考え方です。

スダラボは、「技術の新しい使い方」を見つけて、試しにそれを「カタチ」にして、すばやく「実施」して、それに対する生活者の率直な「反応」を観察して、その「新しいコミュニケーション」における「ユーザー心理のポイント」とか「企画のツボ」を、誰よりも先に「洞察」する。過去6年、ずっとそれをやっています。なるべく新しい技術を試してみたいと思っているんですが、「最新技術」を使って何かをする時は、それが最新であればあるほど、それと組み合わせる側のネタは、できるだけわかりやすい、「ベタなネタ」にしておいた方が、「理解不能」なものにならずにすむ。そう思っています。

やってみないと絶対にわからない

――このプロジェクトで別解が生まれた“瞬間”を挙げるとしたら、いつでしょうか?

須田
MRミュージアムの「プロトタイプ0号」とでも言えるようなものを、京都の関係者の皆さまに最初にお見せした時が、「別解が生まれた瞬間」と言えるかもしれません。

「MRミュージアムin京都」という名前もカタチもまだない頃、京都の文化財や観光の担当の関係者の方々に「MR技術で何ができるのか?」を実機でデモしながら、ご説明する機会がありました。マイクロソフトの皆さんと一緒に京都を訪問したのですが、アメリカ本国で開発されたホロレンズのデモ用のコンテンツだけだと、これを文化財にどう使うのか、わかってもらえないだろうな、と思い、ものすごく簡単なものだったんですが、説明用のコンテンツを作りました。

宴会用の「サムライ」コスプレ衣装を着た自分を3Dキャプチャーし、もったいぶった声で「おのおのがた、この屏風の虎を見よ!」というと、ユーザーが見つめた虎の屏風から、日本画のテクスチャを貼り付けたCGの虎が「ガォー!」と跳び出すというものです。いま見ると、ものすごい雑な仕上がりですし、恥ずかしい以外の何物でもないんですが、これをホロレンズで見てもらったら、いっぺんで何をやろうとしているのか、わかってもらえました。

MRというものを難しく説明するのでなく、「要するに、どういうことなの?」というのを、もっともベタに、一瞬で誰にでもわかりやすく伝えるなら、やっぱり一休さんの「屏風の虎を出してみよ!」という、あのネタだよな、と考えて、それを「さっさと試作」したわけです。

もし普段の仕事で、「屏風から虎が跳び出す企画です!」って言ってプレゼンしたら、「お前、もっとアイデア考えろよ!」と怒られるはずです。「ど新人かよ!」って。でも先ほども言いましたが、MRのような「新しすぎる技術」を使う時は、これぐらいシンプルで、ベタで、わかりやすすぎるくらい、わかりやすくて「ちょうどいい」んです。そうでないと、技術が新しすぎて、何なのかが、まったくわかってもらえない。

映画がこの世に初めて登場した時も、TVCMが初めて放送された時も、そんな感じだったはずです。南仏でリュミエール兄弟が初めてスクリーンに上映した映画を見た人々は「わ!汽車がコッチに向かって来るぞ!」と驚いたというし、日本で初めて放送されたTVCMは「7時をお知らせします」っていう「時報広告」でした。TVの使い方を、まだ送り手側も模索してた頃だったからだと思います。生活者が新技術になじみ、制作者がその技術に慣れて、ようやく表現が熟し、そうして初めて「情緒訴求」とかになって行くんだと思います。

我々がやってるのは、この世に出現したてのメディア。その技術が、こう使われるのは、初めてというものばかりです。なので別解というものは、この世に初めて出現した時は、「え?こんなんでいいの?」というようなカタチをしているものなんだ、ということを言っておきたいです。その時、生まれたての、その芽を「仕上がりが拙い」という理由で、摘んではならない。僕らはその「拙い芽」を見抜き、守り育てなくてはならないし、「え?こんなモンが?」というものが、後に大きなイノベーションに育っていくものなんだ、ということを、常にキモに銘じなくてはならないと思います。「別解を生む」というのは、そういう態度なんだと思います。

――プロジェクトで難しかった点はありますか?

須田
映像の文法が使えなかったことです。これはVRを初めてやった時にも痛感したことなのですが、VRもMRも「映像だけど、映像じゃない」。VRは視界そのものが映像だから、カット割りもズームもないし、MRは現実の場そのものに「施工する」ので、映像とは演出の仕方がまったく違います。ユーザーは動きまわりながら体験するので、見る角度によって見るものも変わるし、必ずしも見て欲しいところを見てくれるわけでもないから、今までの動画の演出方法は、そもそも使えないんです。むしろ、舞台演劇やイベントブースをつくるような感覚に近い。初めの頃「絵コンテで考えたらダメです」と注意されて、その言葉の意味がわかりませんでした。「画角というものがない」から、絵コンテで把握したり、構想を詰めたりできないんですよ。台本と「ラピッド」と呼ばれる「体験できるラフ」で詰めていくんですね。この辺は、やりながら失敗しながら勉強させてもらい、MRにおけるコミュニケーションのコツを学んでゆきました。

――実際に進める中でコツを発見したんですね。

須田
そうですね。別解というのは、従来解とは違うということですから、予感と可能性を信じて、解を求めて別領域に飛び込む必要がありますよね。そういう時には、必ずぶちあたる壁だと思います。思考というのはカタがあってこそ出来るものですから、人間は別領域でも、つい「従来の思考法」で考えてしまうんですよね。従来のやり方は全く通用しないんだ、そもそも原理が違うんだ、というようなことは、やってみて転んで、初めて気づく。

「どうやればうまく出来るのか?」なんてことの前に、「そもそもコレは何なのか?」ということさえ、やってみないと絶対にわからない。こんな風に偉そうに言ってますけど、本当に、わからないんですよ。やってみなければ、わからないから、やってみるしかない。だから、そもそも「絶対うまくいきます!」とか「確実に儲かります!」とか、言えるはずがない。やる前に「計画的な予算申請」なんか、できるわけがない。やってみて始めて、どんな計画が引けそうか、ようやく少しずつ、わかるんだと思います。

お客さんが、その「新しいコミュニケーション」に接した時に、どんな気持ちになるかも、実際にやってみて、接してもらって、反応を観察して、洞察力全開で聞き耳たてて、ようやくわかるんですよ。

MRミュージアム3D撮影風景

思わぬご縁が別解を連れてくる

――あらためて、須田さんにとって“別解”とは何ですか?

須田
くりかえしになりますが、私は常に、すでにある技術の「新しい使い方」を見つけることが、アイデアそのものであり、コミュニケーション制作者がやるべきことだと思っています。そして、まだこの世に出現していない「未来の産業」も、すでにある技術の「新しい使い方」から生まれて来る以外にないと思っています。「別解」というのが、何のことなのかは、正直わからないのですが、技術をオリエン通り使うのではなく、「新しい使い方」を見つけ、それによって老若男女、誰でも「へぇー、面白いね」とか「ちょっと感動したわ」とか「これは使えるね」と言って、喜んでもらえるようなものを、なるべく早く多く見つけて、世の中に提案し続けることが、これからの広告会社がやるべき仕事なんじゃないかな、と思っています。

それを実現するためには、常に、人間の普遍的な価値観や感受性と、日々刻々と出現する最新技術トレンドとの両方に敏感であり続け、日常の中での人々の反応や喜びように、気づきつづけるような気持ちの柔軟さや洞察力、そして仲間との日常的な仮説構築力のぶつけ合いが、必要だと思います。博報堂には、そのための良い仲間もいるし環境もありますし、「いいこと思いついたら、試しにやってみよう」こそが、別解を生む社風を育んでいくのだと思います。

一方で、別解は、計画通りには生み出せないということも強く感じます。無計画という意味ではありませんが、「未計画」というか「超計画」というか、自分たちも想像していないような別解を作り出すには、計画を超越したような「偶然性」がとても重要なんです。「エフェクチエーション」を積極的に我が物にすることが大事ですね。

――MRミュージアムin京都も、偶然の出会いから始まったのですよね。

須田
HoloLensとの偶然の出会いと、それよりだいぶ前から京都で何かやろうと試行錯誤していたこと。タイミングも含め、このどちらが欠けても、生まれなかったでしょう。マイクロソフトさんからHoloLensのことを聞けたのも、その前に「Face Targeting AD」を同社のクラウド技術を使って開発していたからです。また同じ様に、この「MRミュージアムin京都」がきっかけの出会いが、その後、様々な新しいプロジェクトにつながっています。

スダラボでは、これを「わらしべ長者」と呼んでいます。はじまりは「ワラ1本」、でもそれを手放さず、そのワラの価値を信じて、思いもよらぬ出会いをつなぎながら、アブ、ミカン、反物、馬と、想定外の発展と転がりを、むしろ積極的に楽しみ、予想外の御縁を最大限に活かしてこそ、未知の領域に行けるのだ、と思っています。これを「御縁とテック」と呼んで、いつも感謝しています。

別解を生み出すのは、独力では不可能です。自分たちだけで生み出せるのは「既存解」だけでしょう。常に、自分たちにないものを持っている方々との出会いこそが、最重要になります。ただし、その時、「自分たちにできることは、一体、何なんだろう?」という自問自答と自己認識、および代替不可能な独自の価値を持っていなければ、ダメだろうと思います。「あんた誰?」「何できるヒト?」って言われるし、場合によっては、速効で「いなくていいよ」「トバすよ」でしょう。

自分たちの価値をきちんと把握し、それを日々磨き続けた上で、様々なる未知の相手と出会い、積極的に協働していくことが、別解に近づいていく唯一の道なのではないかと思います。文字通り「日々精進」ってやつですよね。

洞察力と仮説構築力という「ワラ1本」を元手に、新しい御縁を求めて、ひるまず臆せず、アチコチに興味本位でクビを突っ込み、始まった時は「どうなるかサッパリわからないもの」でも、「なんかあるかもよ精神」で、まずは「やってみるべき」だと思います。その繰り返しの中で、また新たな御縁が生まれていくのだと思います。

hakuhodo-VRAR:https://hakuhodo-vrar.jp/
スダラボ™:http://suda-lab.jp/

プロフィール

須田和博(すだかずひろ)
博報堂 BID局 エグゼクティブ・クリエイティブディレクター
スダラボ 代表 / hakuhodo-VRAR 所属

1990年博報堂入社。アートディレクター、CMプラナーを経て、2005年よりインタラクティブ領域へ。2009年「ミクシィ年賀状」で東京インタラクティブアドアワード・グランプリ受賞。2014年スダラボ発足。第1弾「ライスコード」で、アドフェスト・グランプリ、カンヌ・ゴールドなど、国内外で60以上の広告賞を受賞。2015年ACC賞インタラクティブ部門ゴールド受賞。2016〜17年 ACC賞インタラクティブ部門・審査委員長。2017年 東京広告協会「広告未来塾」初代・塾長。2018年より、アドミュージアム東京「20世紀広告研究会」総合プロデューサー。著書:「使ってもらえる広告」アスキー新書

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