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HAKUHODO DESIGN永井一史リレー対談
「デザイン経営の実装と実践」
Vol.2「世界ブランドをつくる、デザイン哲学のDNA」
ゲスト:金井 政明氏(株式会社良品計画 代表取締役 会長 兼 執行役員)

2019.09.25
#デザイン経営
2018年、政府の「デザイン経営」宣言により、「デザイン」が企業価値に直結するものとして認知され、事業創造に取り入れる会社も目立つようになりました。その一方、「デザイン」は広い概念で定義がまちまちなこともあり、まだ広く浸透しているとはいえません。
そこで、「デザイン経営」宣言の策定に政府委員として関わったHAKUHODO DESIGN代表の永井一史がホストとなり、一線の経営者・デザイナーの方々をゲストに迎えたリレー対談を実施。経営の現場に「デザイン」を取り入れている方々との対話を通して、「デザイン経営の実装と実践」における課題と可能性について語り合います。

2019年8月1日に行われた第2回目では、「世界ブランドをつくる、デザイン哲学のDNA」と題して、株式会社良品計画 代表取締役会長兼執行役員の金井政明氏が登壇しました。「無印良品」という唯一無二のブランドを生み出した企業が、いかにデザインを重要視し、それを活動の軸としながら経営を行っているかを、永井との対談で語っていただきました。

■無印良品を生んだ「問い」

対談は、金井氏による無印良品の紹介から始まった。そこで語られたのは、無印良品が今も大切にする「思想」がいかに生まれたか、ということだった。

金井:無印良品は1980年に誕生しました。生み出したのは、当時セゾングループのオーナーだった堤清二という人です。彼は、西武百貨店や西友、ファミリーマート、そして良品計画など100を超える企業を統括していました。一方、彼は辻井喬というペンネームを持ち、小説や詩も手がける文化人でもありました。堤さんの周りにはたくさんのクリエイターが集まっていて、そこから生まれた文化は「セゾン文化」と呼ばれました。無印良品は、そんな堤さんが「消費社会へのアンチテーゼ」としてつくったものです。

堤さんはこんなことを考えたそうです。人間は大変に欲張りで、人の目を気にする動物である。そこに消費社会が入ってきたことで、ブランドへのあこがれや、他人がそのブランドを持っていることへの嫉妬が生まれた。そういうことがどんどん進んでいくと、社会が個人に分断されてしまう――。

そういう危機感を周囲のブレーンと話しているときに、後に無印良品を手がけることになるデザイナーの田中一光さんが、「では、最良の生活者とはどんな人でしょう?」という問いを投げかけました。つまり、消費社会の中で人間はどんな振る舞いをすべきか、という問いですね。無印良品はこの問いから生まれました。

■無印良品は、より良い生活の価値をデザインする

「問い」への答えを探すために、無印良品では著名なデザイナーで構成される「アドバイザリーボード」を置いている。創業当初から、経営層との雑談のなかでその時々の世の中や社会問題について話し合い、企業活動のデザインを行っているという。

金井:堤さんは普通の経営者だけで無印良品を扱ったら、資本の論理の前に思想が溶けてしまうと心配されたのだと思います。だから、アドバイザリーボードという仕組みをつくった。

現在は原研哉さんがアートディレクターとして全体を見て、深澤直人さんと須藤玲子さんが商品開発、コミュニケーションの部分を小池一子さん、そして店舗の空間デザインなどを杉本貴志さんが担っております。杉本さんは最近亡くなられましたが、私たちは未だに「杉本さんだったらどうするだろう?」と考えてさまざまな判断をしておりますので、今もメンバーとしています。

デザイナーのみなさんが無印良品の「消費社会へのアンチテーゼ」という思想をもとに、良い商品・良い環境・良い情報のそれぞれを同軸にデザインしています。ここでいうデザインとは付加価値という意味ではなく、より良い生活の仕方、より良い生活の価値をつくる活動という意味です。

このように我々は、企業活動そのものを支える思想の部分からデザインが機能しています。そして活動を続ける中で、「これは無印っぽい」「これは無印っぽくない」というお客様のご意見をもとに商品を考えていくようになった。そうなると、これはもうお客様との共同作業でブランドをつくっているといえます。

■経営に社会的、文化的な視点を取り入れる

永井はデザインの定義を、コピーライター秋山 晶氏の言葉を引きながら、「デザインとは、よりよくすること」だと語る。「より良い生活とは何か?」を問い続ける無印良品は、企業活動の根幹にまでデザインの思想が浸透した稀有なブランドといえるだろう。

永井:デザインって非常に簡単に言うと、人について考える営みだと思います。まさに無印良品はそれを実践されていますよね。

金井:私たちはどういう社会を望むのか、どういう生活を望むのか、その「問い」を投げかけ続けています。私たちのスタンスはずっと「問い」なんです。

経営って大企業になると正解を求めたがるんですね。しかし、株主に説明できる正しいロジックをつくろうとすると、みんな同じような正解にたどり着いてしまう。横並びの商売をやっていて、どうして生産性を上げることができるのでしょうか。
海外の経営者がやたらアートだとか言い始めたのも、もうロジックだけでは同質的な競争になるので、問いを出していかなければならないということだと思いますね。

良品計画も経営状況が悪かった頃があるのですが、そのときっていうのはアドバイザリーボードのメンバーをみんなが「先生」と呼んでいた時期なんですね。大親分の堤清二のブレーンだから、現場からはアドバイザリーボードがめんどくさい存在に見えてしまう。それでアドバイザリーボードと経営の間に距離が生まれ、仕組みが形骸化してしまった。

その結果、資本の論理が入ってきてしまった。本来、無印良品は商業主義の世の中に対して全部削ぎ落としたものを提案するところが強みだった。しかし、「売りたい」と思って、いろんな汚れをつけてしまっていました。

これはいかんと思ったときに、原さんや深澤さんといった今のメンバーに入ってもらい、アドバイザリーボードと経営層の交流を戻しました。そこでもう一回、“語らない”コミュニケーションにはっきりと転換する作業をやったんです。そこから無印良品は立ち直っていきましたね。

永井:アドバイザリーボードのメンバーは、資本の論理をガードしてくれる価値観を持った人たちなのですね。もちろんみなさんはすごいカタチをつくれるデザイナーでもあるんですが、優れたデザイナーというのは、経営に社会的、文化的な視点を取り入れられる存在でもある。その視点が経営に良い効果をもたらした、と。

金井:私の体験として、資本の論理を優先しないほうが、結果的に資本の論理を満たすことになるという実感があります。やっぱり本質的なことをやったほうがいいんですよ。

■これからの社会はどうなるべきか、から考える

永井:無印良品はプロのデザイナーが経営の中核にいるだけではなく、おそらく社員のひとりひとりもデザインを行動の軸にされているのではないかと思います。社員にデザインの考え方を浸透させるために工夫してきたことはありますか?

金井:私らは「土着化」という活動を、各店舗でやっています。空き家の再利用だったり、廃れたショッピングセンターの再生だったり。それはこれからの店舗は個店経営に向かうと思っているからです。店舗ごとにその地域に溶け込んで、地域のさまざまな課題に地域の方と一緒になって取り組む。たとえば空き家をどう活用しようかというとき、ひとりひとりの社員にデザインの考え方やスキルが必要になります。

永井:しかし、デザインには極めて感覚的な部分もあります。そこを社内でどう共有していくのでしょうか。

金井:たとえば、良品計画の商品開発会議では、私が「右」と言ったら社員が「左」を考えなさい、というルールがあります。物事を違った面から眺めてみる。我々は生活者のより良い生活の実現に向けて商品をつくっているつもりでいるけど、どうしても社内からの視点で世間を見ているわけです。本当は世間から無印良品がどう見られているかと置き換えて考えないといけないと思っています。

永井:物事を逆の立場から見ることで自分が現れてくる、と。社員の方は常に使う人にどう思われるかっていうことを問い続けているわけですね。

金井:私たちの戦略は雑談から生まれることがすごく多いんですが、これからの社会はどうあるべきかって雑談をしていたら、地方の空洞化した市街地を再び元気にしないといけないよねってなるわけです。だから、廃れたショッピングセンターをどう再生するかを考える。でも、そのときに、無印良品のことだけを考えてもしょうがないでしょう? 無印良品が入っているショッピングセンター全体がどう変わったらいいのだろうということを考えないといけない。

そして、我々だけではなく、ショッピングセンターに関わるみなさんを当事者として巻き込まないといけない。だから地域の人と一緒にペンキを塗ったりして、いろんな不平不満を聞きながら、「この街をどうしていくべきか」というビジョンを共有していくわけです。

街全体やショッピングセンター全体を考えるというのは、自社のことだけを考えるよりはるかに難しいと考えています。だから社員を成長させることができるというのが、私の理屈です。

永井:なるほど。当事者目線で何事も考えるというのは、まさにデザイナーの発想ですね。

■当たり前を疑うことで、より良くする余地に気が付く

永井:無印良品ではデザイナーではない社員の方も「デザイン」という言葉をよく使われるんですか?

金井:比較的使うほうだと思いますが、私たちの場合は「役に立つ」という言葉を使うほうが多いですね。それと、良品計画では社員に「日本の方ですか?」と聞くと「いえ、人間です」と答えるんです。いい会社だと思いませんか(笑)。そういう発想が非常に大事だと思っています。

永井:当たり前を疑う視点ですか。

金井:たとえば、ブラウスやシャツのボタン合わせは男女で左右逆になっています。これはさかのぼると、中世ヨーロッパのお姫様が召使いに洋服を着せてもらうために逆にしたことが始まりだそうです。つまり現代では左右逆である必然性は無い。こういうことがわかると、男女でボタン合わせを一緒にしたほうが生産性が上がるんじゃないかって議論ができますよね。

今も当たり前に思っていることが、実はとんでもない時代錯誤なこともあるわけです。当たり前を疑うようになると、実はいろんな物事にもっと良くする余地があるんだと気が付くことができるんです。

私たちは、いろんな社会の出来事について「人間としてどう思うか」ってことをすごく議論しています。人口減少と少子高齢化でどんどん孤立する人が増えている。これからももっと増えるだろう。だからこそ、コミュニティを再生しないといけないと思うわけです。

伝統的なコミュニティが崩壊したのは、戦後に労働力が都市に集まって自営業の人たちがサラリーマン化したからです。今の世の中、「今日は青年団の会議があるから帰ります」なんて言う人はほとんどいないですよね。だったら、地域のコミュニティの再生は、企業が担うしかないのではないか。そうした議論から「土着化」の活動は始まりました。

今、うちの会社では、仕事の生産性を2割上げて、その分空いた日数を地域の仕事に当てられないかと議論しています。私たちは地域の野菜や魚を地元の店舗で売っているのですが、地域の農家さんから話を聞くと、収穫した野菜の半分くらいは規格に合わず出荷できないらしいんです。もし、私たちが地域で週に1回働くようになって農家の方との太いパイプを築くことができたら、美味しいけどカタチが悪かったりして出荷できない野菜を私たちの店舗でどんどん売るってことができるようになるかもしれないですよね。

■問題意識を持つことが、デザインの活動になる

永井:企業がコミュニティづくりに関わることもそうですが、普段の業務とは違うことに頭を働かせたり、実際に行動したりすることで、それが本業にもフィードバックされるということでしょうか?

金井:良品計画には、こういう活動の専門の部署がないんです。社内のいろんな部署のメンバーが集まって、いわゆる業務外業務で活動しています。そこでみんな鍛えられていると思います。

永井:雑談を大事にするっていうのも、決まった仕事をこなしている状態での雑談は、単なる雑談にしかならないですよね。でも、「そもそも世の中をより良くするために何をしたらいいのか?」という問題意識があるうえで雑談するから、意味あるものになっている。

金井:普段、ご飯を食べたり、散歩したり、アートを見たり、新聞を読んだり、問題意識があれば生きていることのすべてがデザイン活動になるんですよ。それがない人たちが雑談しても、何も生まれないですよね。

私はデザインというのは、情報の組み合わせ、編集だと思っています。あるところで何気なく見聞きしたことが組み合わさって、そこから次にやるべきことが見えてくる。これがデザイン思考だと思います。問題意識を持たない人は、思考がぶつ切りになっているから気が付かないんです。

永井:だからこそ、無印良品は「消費社会へのアンチテーゼ」という問題意識を、根底に持ち続けているわけですね。

金井:少し前に私たちはホテルをつくりました。一般的なホテルでは、お金持ち向けのホテル、そうじゃない人のホテルというふうにクラスター分けするんですが、私たちは堤さんの思想を受け継いでいるので、そういうのは大嫌いなんです。だから、クラスターではなく用途で分けたホテルをつくろう、「普通のホテル」をつくろうということになるんです。ただし、「今まで誰も見たことがない普通のホテル」をつくろうよって。

■企業活動の「意味」を評価されるブランドを目指せ

永井:それはまさに、イノベーションを生み出す発想だと思います。「デザイン経営」宣言では、「デザイン経営は『ブランド構築に資するデザイン』と『イノベーションに資するデザイン』の両面によって企業競争力を向上させる」と定義しています。無印良品がデザインをブランディングに活用されていることは一目瞭然ですが、イノベーションにおいてはどう活用されていますか?

金井:堤さんは西武百貨店で、普通の百貨店ならやらないようなイノベーションを次々と実現してきました。その秘訣をある記者に聞かれた際、「イノベーションなんて起こしていません」と答えたそうです。「困って困って、いつ潰れるかという恐怖の中でいろんなことをやるしかなかったんだ」と。

イノベーションというのは、私の感覚では、本気で困ったときに生まれることが多い気がします。だから逆に、企業が調子のいいときは、経営にとって実はリスクが潜んでいるわけです。経営者は社員を困らせるような難題をいかに投げ続けないといけないと思います。

何千人も社員がいる会社というのは、理屈だけでは動かすことができないんです。夢物語でもいいから、みんなが「こうなったらすごいな」ということをぶち挙げないといけない。ユニクロの柳井正さんは、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」と言っています。できるかできないかではなく、経営者はそのくらいの難題を言い続けないといけないのです。

永井:最後に、「デザイン経営」を実践されている経営者として、日本のほかの経営者の方にメッセージをお願いします。

金井:日本人はみんな真面目だから、どうしても正解を求めたがります。でも本当は、マーケットに問いを出し続けられる経営のほうが面白いと思うんです。最初に言ったように、経営がどんどん同質的な競争になっている。ならば、どういう社会にすべきかを考え、「自分たちはこっちに行きます」と言い切る経営のほうが儲かるのではないでしょうか。

一般的に言われる「ブランド」というのは「信頼」です。この会社の製品であれば、この値段を出してもこれだけの品質がついてくるだろうという信頼。その信頼がブランドになる。そこまでいっている会社はけっこうあると思います。

ところが、そこから先に行くためには「意味」が必要です。この会社は何を考えて事業をやっているのか。その「意味」も含めて評価されるようになると、生活者との絆が強くなり、ほかにないブランドになっていくのだと思います。

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