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超高齢社会に、発想転換を! -博報堂生活総合研究所、サマーセミナー2016「シルバー30年変化 長寿社会の第2世代」を開催 30年間にわたる高齢者観測データも無償公開開始

2016.07.25
#生活総研

博報堂生活総合研究所は、サマーセミナー2016「シルバー30年変化 長寿社会の第2世代」を、7月22日(金)東京国際フォーラムで開催しました。

本セミナーでは、1986年より博報堂生活総合研究所が10年おきに行ってきた高齢者(60~74歳)を対象とする大規模調査(※)の時系列分析をもとに、「高齢先進国:日本」を生きる高齢者の質的変化を紹介。

当日は企業のマーケティング担当者や経営層、報道関係者など、400名を超える方々にご来場いただきました。

※調査は1986年、1996年、2006年、2016年の4時点で実施。調査概要は末尾に記載。

会場風景

高齢者集団の中の【長寿社会の第2世代】という存在

高齢化がまだ遠い先の社会課題だった1986年から30年。日本は既に「超高齢社会」となり、今や高齢者は支えるべき存在であると同時に、大きな影響力を持つマジョリティになりつつあります。

2010年までは総務省「国勢調査」、2015年は総務省「人口推計(平成27年国勢調査人口速報集計による人口を基準とした平成27年10月1日現在確定値)」、2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果 

※高齢化率=65歳以上人口割合を指している
※高齢化率の算出には分母から年齢不詳を除いている

 本セミナーでは、冒頭、博報堂生活総合研究所・石寺所長より、30年間における高齢者を取り巻く環境変化について解説。介護保険法や65歳定年制の施行など社会基盤が整いだしたこと、老後の生活に関する情報がメディアから盛んに発信されるようになったこと、また、身のまわりに参考に出来る高齢者の先達が増えたこともあり、「この30年で日本の高齢社会は『見える化』した」と語りました。そして、生活が苦しくなることは覚悟しているにも関わらず、「老後の不安が低下している」という興味深い結果が(図表1・2)。石寺所長は「自らの今後が『見える化』したことで、日本の高齢者の不安耐性が高まった」とした上で、「漠然とした『不安』が解決すべき『課題』へと変化した30年だったのではないか」と語りました。

博報堂生活総合研究所では、今回、調査を分析するにあたり、2016年の調査対象である60~74歳を【長寿社会の第2世代】と名付けました。彼らは団塊世代を含むほぼ戦後(1942年~1956年)に生まれた人々。21世紀になって60代に突入しており、日本の高齢化とともに歩み、自らも高齢期を迎えた新世代なのです。

発表中の石寺所長

第2世代高齢者の特徴は、 「退かない」「頼らない」「気負わない」

 次に、博報堂生活総合研究所・川谷研究員より、定量調査から得られた【第2世代高齢者】(※)の3つの特徴をご紹介。「退かない」「頼らない」「気負わない」というキーワードとともに語りました。

※ここからは【長寿社会の第2世代】にあたる高齢者を【第2世代高齢者】と表記

特徴①「退かない」

調査の結果から、【第2世代高齢者】は、人生は長いため“社会でまだまだ自分を磨き役立てる機会をたくさん作ることが出来る”と考えていることがわかりました。

人生における60代の位置づけについて、「開放・解放の時」「趣味の時」と答えた方は減少しているのに対し、「再出発の時」であると答えた方が増加しています(図表3)。また、自身の体力・気持ち・見た目とも実年齢より若く捉えていることがわかりました(図表4)。また、パソコンなどを使いこなし、情報化にも遅れず楽しむ高齢者の姿が確認出来ています(図表5)。チャレンジ意欲もあり、まだまだ可能性を広げたいと考えていることがうかがえます (図表6)。

特徴②「頼らない」

調査の結果から、【第2世代高齢者】は、夫婦間でも親子間でも他人に対しても自立した考えと行動をとっていることがわかりました。

現在の高齢者は、親子の自立は当たり前と捉えています(図表7・8)。また、夫婦間においても、プライバシーを尊重し、いつも一緒にいなくてもよいと考える高齢者が増加しています(図表9)。あわせて、ひとり志向がじわじわ高まっていることもうかがえます (図表10)。

特徴③「気負わない」

調査の結果から、【第2世代高齢者】は、理想を追いすぎず現実を見つめ、燃え尽きを避けて、小さな楽しみを紡いでいることがわかりました。

情緒的な「幸せ」「まごころ」より現実的な「安定した暮らし」「お金」を求める高齢者(図表11)。リアリストかロマンティストか尋ねても、その割合は7:3となりました(図表12)。

また、「とことん」より「ほどほど」を好み(図表13)、高望みせず日常に幸せを見つけたい高齢者の姿も浮かび上がっています(図表14)。

発表中の川谷研究員

課題はネガティブではない! 課題を原動力に変える術を身につけた【第2世代高齢者】

 続いて、博報堂生活総合研究所・菅研究員より、定量調査と同タイミングで実施した、定性的な「家庭訪問調査」結果についてご紹介。「健康」「お金」「生きがい」という3つの視点から語りました。

「健康」

時間と体力をかけるなら見返りは多い方がいい「マルチリターン発想」

【第2世代高齢者】は、「健康のための健康活動」をするのではなく、仕事や趣味を通じて、健康もお金も人間関係も手に入れる前向きな姿勢を持っていました。彼/彼女らは、20年30年と長期間の健康を意識して、自らのモチベーションを高く維持するために工夫しているわけです。

また、女性にフォーカスすると、自分の自由のために夫の健康を気遣う“優しさ”と“したたかさ”も確認できています。

「お金」

節約で得した差額によって稼いだ気分を味わいたい「お得感より獲得感」

出費を数十年後まで細かく設計したり、自家用車を寝泊まりしやすいよう改造して旅先での宿泊費をなくすなど、支出に関してきめ細やかな眼を持つ【第2世代高齢者】。でも、一様にそのプロセスが楽しそうであり、「節約する」というよりはそこで浮いたお金を「稼いだ」感覚を持っていることがわかりました。

「生きがい」

家庭や会社で失ったものを取り戻す 「自分史の奪還」

「生きがい」については、男女で少し異なる意識が見られました。

女性の「生きがい」は「ソーシャル・ミッションをつくってクリアする」。「家庭」にいることで奪われた社会との接点を取り戻したいという意識です。日本の食文化を後世に伝えたい、外国人に日本文化を伝えたい、などといった声が聞かれました。

一方、男性の「生きがい」は「パーソナル・ミッションをつくってクリアする」。「会社」にいることで奪われた自分の自由を取り戻したいという意識です。自分で設定した旅先を一年間でクリアする、社会学者の本を12年かけて読破する計画が進行中といった、個人的な目標を挙げる声が多く聞かれました。

以上のように、健康やお金といった長い高齢生活の課題を逆利用して生活にハリを生んだり、課題を自らつくって生きがいを得る【第2世代高齢者】の姿が浮き彫りになりました。

発表中の菅研究員

最後に、石寺所長より、今回の分析の総括をご紹介。2016年のシルバーを、自覚と覚悟を持ち、長い老後の生活を「経営する」人々ととらえました。人生を四季にたとえたとき、これまではリタイア後の「秋」は短く、すぐに「冬」が来ていたとすると、今は「秋」が長くなっています。だからこそ、健康寿命が尽きる前の「秋活(しゅうかつ):人生の秋における活動」を実り多きものにすることが今後のテーマになると提言しました。そのために、具体的に2つの視点を提案しています。

 高齢者の話はターゲット論ではなく、社会論。【第2世代】はやがて【第3世代】となります。ひとりひとりが考え続けるべき問題であるとした上で、会は終了しました。

参加者からは、「長期間の経年変化を見ることが出来、非常に有意義な機会となった。第2世代という概念が新鮮だった」「秋活というとらえ方はとてもよく言い当てていると思った」「十数年後の自分の老後を想像する貴重な会となった」という声が聞かれました。

今回のセミナーについて、所長の石寺は「これまでなんとなくわかったつもりだった高齢者の像が30年の変化データによってハッキリしたという声をたくさんいただきました。ビッグデータならぬロングデータは生活総研の真骨頂の1つだと思います」とコメントしています。

なお、今回発表した調査結果は、本日7月25日より無償一般公開しています。生活総研の公式ホームページよりダウンロードが可能です。

【調査概要】

調査目的:1986年から10年ごとに続ける「シルバー調査」と同じ調査設計で、ほぼ同じ質問を聴取することで、シルバーの行動や意識の変化を追跡する。
調査地域:首都40km圏 ※ホームページ公開データの中には一部高松市における調査結果も含みます。
調査対象:60歳〜74歳の男女
調査人数:首都圏700人(高松市150人)
調査手法:訪問留置自記入式
調査期間:2016年2月24日〜3月22日

<終>

博報堂生活総合研究所は、今後も、生活者の変化のきめ細やかな分析を通じて、よりよい未来を提言する活動を続けていきます。

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