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【Consulactionセミナー】モノから発想しないモノづくり。~ IoT時代に求められる、プロダクトイノベーションとは?~

2018.03.19
#Consulaction
2018年1月24日(水)にConsulactionセミナーが開催されました。
このページでは、当日の講演内容を要約した、セミナーレポートをお届けします。

IoTが急速に普及しつつある現在、モノづくりは新しい時代に入ろうとしています。

サービス、コンテンツ、マーケティングなど、モノをとりまくユーザー体験とビジネスの全体をいかに統合的にデザインするか──。
そんな視点が求められているのです。

この日のセミナーでは、博報堂のプロダクトイノベーションチーム「monom(モノム)」のメンバーが、「モノ起点」ではない、「生活者起点」の統合的なモノづくりの考え方と実践について話しました。

博報堂 ビジネスデザイナー 谷口 晋平(たにぐち しんぺい)

「人」を軸に発想するモノづくり

「monom」は、2015年に設立されたプロダクト開発に特化した博報堂のクリエイティブチームです。
現在は12人のメンバーが所属し、主に二種類の仕事を手掛けています。
一つは「自社起点での事業、サービス、プロダクトのプロトタイプ開発」、もう一つは「クライアントの事業、サービス、プロダクト開発のコンサルティング」です。
領域は、家電、消費財、モビリティ、ロボティクスと多岐にわたります。
なぜ広告マーケティング会社である博報堂がモノづくりに取り組むのでしょうか。
近年、インターネットやスマートフォンの普及によって、プロダクト開発の環境は大きく変わり、さらに通信機能を持つIoT型プロダクトの登場によって、企業と生活者がプロダクトを通じて常時つながることも可能になっています。
IoT時代のモノづくりビジネスは、「売って終わり」のモデルではありません。
プロダクト、サービス、ユーザー体験、ビジネスが常に「成長していく」モデルです。
そのモデルを実現するために、プロダクト、サービス、コンテンツ、情報のすべてが一体となって設計される必要が生じてきました。
プロダクトをめぐる可能性はどんどん広がると同時に、その複雑性も高まっています。このように複雑化する条件下で、新しい生活体験を生みだすプロダクトやサービスをつくるために、軸にすべきものは何か。それは「人」であると私たちは考えています。人の感情や体験こそが軸となり、そこから発想が生まれる。それが新しい時代のモノづくりです。
「人」を軸に発想し、「人」を軸に統合する──。これはまさしく、「生活者発想」を実践してきた博報堂が最も得意とするアプローチなのです。

博報堂が開発したさまざまなプロダクト

monomはこれまで数々のプロダクトを手掛けてきました。ここでは、自社発のプロダクト事例を5つご紹介します。

1 iDoll
iDoll(アイドール)は、「骨組み」と「スキン」と「コンテンツ」を組み合わせることによって、様々なキャラクターへの展開が可能な手のひらサイズのロボットドールです。
歌や踊りなどのエンタメ機能から、アラームや時報などのアシスト機能まで、ユーザーの声に反応して、音声と動きで様々なコミュニケーションを行います。
自分が愛着を持って接する「デスクトップパートナー」という位置づけです。
ロボットベンチャーと一緒に開発し、日本だけでなく、海外からも多くの反響を得ました。
2 Lyric speaker
音楽と同期して歌詞が浮かび上がるスピーカーです。
ダウンロードやストリーミングで音楽を聴くスタイルが普及したことにより、以前のように歌詞カードを見ながら音楽を聴く場面が少なくなりました。
「Lyric Speaker」はテクノロジーによって、歌詞を楽しむ体験を新たにデザインする試みです。
monomはハードウェアのデザインを担当しています。
透明ディスプレイに歌詞をモーショングラフィックで表示させることにより、音楽と歌詞が一体となって感じられるプロダクトを目指しました。
3 ELI
ELIは、洋服の襟につける小型マイクデバイスです。
専用のスマホアプリと連動して、ユーザーが日本語で話す内容を記録・解析、ユーザーに最適な英会話レッスンを生成します。
仕事内容から自分らしい言い方まで、ふだん話している内容からユーザーらしい英会話を学ぶことができます。
プロトタイプ発表後、大きな反響を呼び、現在、商品化に向け開発を進めています。
4 Qoobo(クーボ)
撫でると尻尾を揺らして応える「クッション型セラピーロボット」です。
独り暮らし、アレルギー、高齢などさまざまな理由でペットを飼えない人にも、1万円程度で動物の癒しを提供することを目的に開発しました。
手触り、重さなどでリアルな動物の感覚を再現しています。
今年の秋以降に一般販売を開始する予定です。
5 Pechat(ペチャット)
ぬいぐるみにつける「ボタン型スピーカー」です。
スマートフォンとの連動によって、ぬいぐるみがおしゃべりをする仕組みを実現しました。「親の愛情に根差した、おしゃべりインターフェース」と私たちは位置付けています。
2016年12月、博報堂本体が手掛ける初のデジタルデバイスとして販売を開始しました。
販売前のクラウドファンディングで大きな反響があり、販売開始後も大変好評をいただいています。

「視点」から「アイデア」が生まれる

これらのプロジェクトの実践を通じて、私たち自身も「モノから発想しないモノづくり」の方法を学んできました。
私たちの基本的なスタンスは、「モノをつくる」のではなく「市場をつくる」ことです。
そしてそのために、「人のインサイト」、つまり生活者の価値と、「時代の流れ」=社会の価値を掛け合わせるというアプローチをとっています。
私たちは見出すべき「人のインサイト」を「今だから実現でき、誰もが共感できる、新しく発見された普遍的価値(視点)」と定義づけ、これを発想の起点としています。
Pechatを例にしましょう。
現在もPechatを購入されたお客様がSNSなどへの投稿で、子どもたちが驚き、喜び、ぬいぐるみと楽しそうに会話するする様子をたくさん報告してくださっています。
では、子どもたちが本当に欲しいものは何だったのか。
単に「おしゃべりするぬいぐるみ」が欲しかったのではありません。
子供たちが望んだものは「小さな頃からずっと大切にしてきたぬいぐるみが、ある日、自分の名を呼び、語りかけてくれる体験」であり、これが多くの子どもやその親に共感されたのです。ここには大きな視点の違いがあります。
私たちが重視しているのは、このような「視点」です。
「子どもが本当に欲しいモノは何か」を徹底的に考えることを通じて見出した視点があって初めて、「ぬいぐるみをおしゃべりにする魔法のボタン」というアイデアが生まれるのです。
ELIのプロジェクトでもまず、「多くの人にとって、英会話を身につけたいと思うモチベーションは何か? 英語を勉強する目的は何か?」を考え、次のような視点に至りました。
「英語を学ぶ目的は正しい英語を身につけることではなく、自分が伝えたいことを伝えることである。
そのために、自分にとって一番必要な英語は、いつも自分が話している言葉や会話そのものである。」この視点から「自分が話している言葉から英会話のレッスンを生成するプロダクト」というアイデアが生まれました。

「共感ポイント」はどこにあるのか

もうひとつ、私たちが起点にするのは、「新しく、かつ共感できる視点」です。
つまり、「言われてみれば確かにそうだよね」と誰もが思うような視点です。
問題は、これをどう見つけるかです。
やるべきことは徹底して「共感される視点探し」を行うことです。これは実は、広告の仕事と同じです。
「こんな商品を買ってください」から始まり、「こんないいことがあります」「こんなにお得ですよ」「こんな効果があります」「こんな時に便利です」とどんどん深掘りをして、共感ポイントを探っていきます。
このとき、自分の中にいろいろな人のイメージを具体的に持つことが大切です。
おじいちゃんならどう考えるか、小さな子供ならどうか、お母さんならどうか──。
この作業を何度も何度も繰り返します。量をこなさなければ答えを見つけることはできません。
人、モノ、行為、場所などを徹底的にリサーチすることや、外部からの情報インプットも有効です。
ただし、リサーチなどで得られた材料の中に答えがあるわけではありません。リサーチの結果はあくまでインスピレーションの材料と捉えることが重要です。
そうして「視点」と「アイデア」を出していくわけですが、それで完成ではありません。
そこにさらに「時代の流れ」をぶつけて、その視点とアイデアが新しい市場をつくり出すインパクトを生み出しうるかどうかを検証しなければなりません。

博報堂 コピーライター/プロダクトデザイナー 小野 直紀 (おの なおき)

未来への補助線を引いてみる

アイデアを時代の流れとぶつける作業を、私たちは「未来への補助線を引いてみる」と表現しています。
そのアイデアはどのような未来につながっていくのか。
そのアイデアが育っていくと未来においてどのような価値を持ちうるか。
今見えている未来の兆しはあるのか──。
それを考えることが「補助線を引く」ということです。
例えば、Pechatプロジェクトが想定するのは「ロボットが子育てをアシストしてくれる未来」です。
今、その兆しのひとつを示しているのがスマートスピーカーです。
あらゆるシーンで、音声アシスタントが活躍し、将来的には子どもから大人まで多くの人が、AIアシスタントやそれを搭載したロボットと会話でコミュニケーションする未来がやってくることも想像できます。
このような未来を想定した時に、親子や家庭の中の対話に特化したコミュニケーションツールに進化させていくことがPechatの未来の可能性を生むポイントになるでしょう。
また、ELIプロジェクトが想定するのは「テクノロジーが正しい英語をサポートしてくれる未来」です。
テクノロジーが語彙や文法をサポートしてくれるようになれば、人間が英語を学び、自らの言葉で英語を話すことは、これまでとは別の価値を持ちます。
それは、「語学力としての英語」ではなく「コミュニケーション力としての英語」になっていくでしょう。
その時に重視されるのは「自分らしい英語」ということになるのではないかと考えています。
さらにELIは大きく捉えると「音声ログをデータ化し、それに価値を付加して新しい体験を生みだす」という視点を持っており、英語学習以外への活用・展開も視野に入れています。
このように未来を見据えることと同時に重要なのは、現在のマーケットを見極めることです。
ELIの場合も、いきなり「音声ログを使ったビジネス」として導入していくのではなく、まずは「英会話」というユーザーにとっての明快な目的があり、既存のマーケットがあるところから始めることが重要です。
将来的にポテンシャルのある「音声ログ」や「音声UI」といった市場を見据えつつ、現時点で確かなニーズのある市場を起点にし、段階的に将来のマーケットにどうつなげていくか。そんなシナリオを持つことが必要であると私たちは考えています。

ユーザーとの対話によってプロダクトを成長させていく

そのようなシナリオの第一歩をうまく踏み出すためにも、まずプロトタイプを世の中に出し、フィードバックを得て事業化の可能性を探るフィジビリティ検証が必要です。
その際、事業の良し悪しを判断するのではなく、「事業化への確度を段階的に上げていく」というスタンスを保つことが重要だと考えます。
またプロトタイプを世の中に出すことで得られるつながりを上手く活用することも重要です。
事業パートナー、メディア、ユーザー、開発者、社内を一つの大きな開発チームと見て、そこに共感のつながりをつくり、事業の推進力として取り込んでいくことが大切です。
商品とマーケティングのUX(ユーザー体験)をデザインすることも重要なポイントです。
コストからの逆算ではなく、ユーザーが「お金を払う理由」から考えて適正な価格を導き出していく「価格」のデザイン、そのプロダクトは「どういう感情にもとづいて買われるのか」から考える「売場・売り方」のデザインなどです。
さらにそこに「情報」のデザインを組み合わせ、エモーションを喚起するUXをつくり出していきます。
そして、もっとも重要なのは、このプロセスは、プロダクトをローンチして終わりではないという点です。
ユーザーとの対話から得たヒントを反映させてプロダクトを成長させ続けていくこと。それが、これからのモノづくりのあり方です。その際、当初に描いたシナリオに固執しないことも大切です。
なぜならプロダクトを取り巻く状況は常に変化しているからです。
ユーザーと対話を重ねながら、シナリオ自体も絶えず書き換えていくのです。

メンバーの多様性がモノづくりの力になる

このような柔軟な仕組みを実現させるためには、機動的なチーム体制と運営方法が求められます。
プロダクト・UX、ビジネスストラテジー、ビジネスオペレーションのそれぞれの責任者を明確にし、意思決定を迅速にできる体制をつくる必要があります。

一方、新しい視点やアイデアを生み出し、シナリオを絶えず更新していくには、メンバーの多様性がなければいけません。その点、monomチームは多様な職種やバックグラウンドを持つメンバーで構成されています。
そしてプロジェクトに応じて、チーム内だけでなく、クライアント、外部パートナーから幅広くメンバーを集め、動的なチームを組成すること、すなわちプロジェクトにダイバーシティを取り込んでいくことも大切にしています。
メンバーの多様性が、そのままモノづくりの力になる──。
私たち自身が実践しているその方法論を最後のメッセージとしてお伝えしておきたいと思います。

講師プロフィール

※掲載時プロフィールです。

小野 直紀 (おの なおき)
博報堂 コピーライター/プロダクトデザイナー/monom代表

monom代表。
博報堂入社以来、広告、空間、デジタルと幅広いクリエイティブ領域を経験する中で、多数のプロダクト開発業務に従事。
2015年に、プロダクト開発に特化したクリエイティブチーム「monom」を設立。
様々な職能をもつメンバーや社外の開発パートナーと共働しながら、プロダクトの企画・開発、クリエイティブディレクション、プロダクトデザインを行う。

谷口 晋平(たにぐち しんぺい)
ビジネスデザイナー

2008年博報堂入社。
コーポレート部門を経たのち、ストラテジックプラナーとして大手飲料・自動車・消費財メーカー等を担当。
新商品/事業開発、ブランド戦略立案など幅広い領域の業務に従事。
戦略会計・組織論などの知見を活かした包括的な事業構築・ビジネスデベロップメントを担当。

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