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博報堂だから提供できる“マーケティングテクノロジー・プロデュース”とは

2019.07.24
#UX#システム開発#チームビルディング
マーケティングシステムコンサルティング局は、「広告の外側」にある生活者接点を構想、開発、運用することを目的に博報堂内に立ち上がった新しい組織です。その中で、マーケティングシステム構築において重要な役割を果たしているのが「マーケティングテクノロジー・プロデューサー」です。
前回は、マーケティングテクノロジー・プロデューサーの定義、能力、価値は何かなどについて、同局の入江謙太とマーケティングテクノロジー・プロデューサーである稲毛亮太に話を聞きました。今回は、「博報堂のマーケティングテクノロジー・プロデューサー」だからこそ提供できるプロデュースとはどういうものかについて同じ2人に語ってもらいました。

マーケティングテクノロジー・プロデューサーのクリエイティビティ

──マーケティングシステムは、コンサルティング会社やシステムインテグレーターも手掛けていますが、博報堂のマーケティングテクノロジー・プロデューサーならではのクリエイティビティはあるのでしょうか。

稲毛:博報堂の仕事なので、やはり「生活者に対して企業はどのような価値を提供できるのか」を起点に考えることに変わりありません。そういう中で、飛躍した突拍子もないと見えるようなアイデアをひねり出すこともあります。博報堂らしい仕事のやり方にはこだわりますね。
しかしながら、コストと位置づけられるメディア広告と違って、システムという企業資産を作っているわけですから、実現可能かどうか、運用可能かどうかはしっかり考えます。

入江:私たちは「仕掛けと仕組み」という言い方をよくします。仕掛けは生活者の心をどうやって動かすかということであり、仕組みはそれを実現するための装置作りです。私たちが作る仕組みは、必ず仕掛けから逆算したものであり、そこにクリエイティビティが入り込んでくるわけです。単純にデータベースを作っているわけではなく、どんなデータをどういう風に蓄積すれば、面白いことができるかを追求して仕組みを作っているのです。

稲毛:ですから、多くの場合マーケティングシステム製品やクラウドサービスを組み合わせて仕組みを作っていますが、必要ならば自作することも厭いません。たとえばLINEのトーク上で特定のコミュニケーションすることが必要ならば、それにはプログラム開発が必要になります。しかしいくらマーケティング施策が考え抜かれたものだとしても、実際に生活者が面白がって、気持ち良く使ってくれないと何の意味もありません。多少コストと手間がかかろうが自分たちで作ろうということになります。

入江:生活者が長期的に喜んでくれて、使いたいと思ってくれるものを提供できないとしたら、仕掛けが実現できないという意味で、仕組み作りとしては失敗ということになります。生活者の心がどう揺さぶられるのかを想像しながらシステムを構築しなければならないということで、そこに博報堂の強みがあると言っていいでしょう。そしてこういう仕組みを、関係者全員を調整しながら作っていくところに、マーケティングテクノロジー・プロデューサーのクリエイティビティもあるということです。

博報堂だから作れるマーケティングシステムとは

──他のITシステムと比較して、マーケティングシステムならではの特徴はあるのでしょうか。

稲毛:従来のシステムは堅牢性が求められることが多かったと思いますが、マーケティングシステムに求められるのは堅牢性より柔軟性というところでしょうか。決定したはずの仕様が、市場など外部環境の変化やクリエイティブとの兼ね合いで、翌日には変更ということも珍しくありません。ウォーターフォール型の1つ1つステップを踏みながら作り上げていくやり方ではうまく行かないことが多いのです。
一般的な堅牢性の高いシステムとマーケティング視点のシステムとではQCD(品質・コスト・納期)の考え方がかなり違います。マーケティングシステムでは、あるキャンペーンを実施する場合、瞬間最大風速のところでは絶対に停めないが、他はあきらめようという判断が発生することもあったりします。

入江:博報堂の場合、マーケティングシステム部隊のすぐ傍にデザイナーや広告ディレクターなどのクリエイティブ部隊がいることが大きな強みになっていると考えます。キャンペーンなどでは人を集められないとどうしようもないわけです。どうすればどのタイミングで人が集まるのかは、理屈ではなく経験によるノウハウに負う部分が大きく、これまで数多くのキャンペーンを手掛けてきた博報堂だからこそわかる部分が非常に大きいのです。そのあたりのことをクリエイティブの人間が次々とサジェスチョンしてくれるわけです。
ただ以前は広告を打てば終わりでした。CMにはCMの限界があり、それはその瞬間でしか生活者と接点が持てなかった。しかし今はデジタルのおかげで中長期的に生活者と接点を持ち続けるということができるようになりました。やっとできるようになったと正直感動すら覚えます。前回のインタビュー(https://www.hakuhodo.co.jp/archives/column/58418)で「習慣のクリエイティブ」という話をしたのは、こういった中長期的な生活者接点をもっと活用したいという意味でした。ただ今回話をしていて、同じインタビューの中で「感動のクリエイティブ」と呼んだ、瞬間的に人を集めるというケイパビリティも、博報堂がマーケティングシステムを構築していく上で大きな強みだと改めて思った次第です。

「合っているけど勝てない」にならないために

入江:私たちは、よく「それ合っているけど、勝てるの?」という聞き方をします。企画チェックリストにも入っています。稲毛が言っていた「堅牢なシステム」とは、「合っているシステム」「正しいシステム」でもあります。正しいことは気持ち良く、誰も疑問を持たないので、通りやすいのです。
しかし、正しいから勝てるわけではありません。正しいことが人の心を必ずしも動かさないからです。時には正しいかどうかはおいて、大胆に攻めないと、多くの人を集めることはできません。どんなに正しい内容の企画でも、最初に集まった人が少なければ成功させるのは困難です。

稲毛:勝つためのシステムを作るためには、マーケティングテクノロジー・プロデューサーが堅牢なシステムを目指す人たちからはノイズに聞こえるようなことも発信しつつ、調整することが必要になってきます。これはシステムを理解している人間が発信しなければなりません。なぜなら「何か実現が難しそうなことを言っているけれど、システムがわかる人なら最終的には実現性まで担保してくれるだろう」という信頼感があるからです。

どうやってマーケティングテクノロジー・プロデューサーを拡大していくのか

──マーケティングシステムコンサルティング局には今何人のマーケティングテクノロジー・プロデューサーがいるのでしょうか。

入江:今現在は5人です。マーケティングのこともクライアントのことも、そしてシステムのこともわかり、調整能力もコミュニケーション能力も、そしてあらゆる範囲のことを自分の検討範囲だと考える前向きさと、関係者一人ひとりを考えるきめ細かさ、さらにマネジメントもできる人材となると、極めて稀少です。中途採用も含めて、人を増やしていくつもりですが、量産できる人材ではないことが悩みです。

──稲毛さん自身はITエンジニアとしての素地はなかったわけですが、どうやってシステムの能力を強化しているのでしょうか。

稲毛:エンジニアの方と、とにかく向き合って会話する事を大事にしています。技術的にわからないことがあっても、納得の行くまでとことんエンジニアにぶつかっていくようにしています。もちろんITの勉強もしていますが、知識だけではだめで実際に試してみないとやはり身につきません。試すためには、エンジニアと会話することがどうしても必要になります。実際にプログラミングをしている人たちとどれだけ話をして、肌感を伴った理解を深めていくかがとても重要だと思っています。

入江:マーケティングの人間からすると、エンジニアと話をするのは、自分の無知が暴かれるのではないかと怖いものです。ですがエンジニアもまったく同じ理由でマーケティングの人間と話をするのが怖いのです。

稲毛:だからこそお互いに勇気を持って話しかけ、わかり合い、お互いにもっと高い次元に行くことを目標にすることが大事ではないかと思っています。

稲毛 亮太
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局
マーケティングシステム部
マーケティングテクノロジー・プロデューサー

2011年博報堂入社。営業職として通信・金融企業の広告制作やメディアプランニングのプロジェクト管理に幅広く従事。2014年からストラテジックプランニング職として、主に自動車企業のデジタル戦略・データを活用したマーケティングマネジメント・CRM等、広告に限らない領域での支援を担当。現在はそれまでの知見を活かし、企業のデジタルトランスフォーメーション支援を要請に応じた様々な立場で行っている。

入江 謙太
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局
ユーザーエクスペリエンスデザイン部 部長

マーケティング/クリエイティブ/デジタルを統合したコミュニケーションプランニングの知見と、広告を超えた新しいサービス開発の知見をかけ合わせ、企業や事業やブランドの成長に貢献します。日本マーケティング大賞、ACCグランプリ(マーケティング・エフェクティブネス部門)、モバイル広告大賞、東京インタラクティブアドアワード、カンヌ、アドフェストなど受賞。

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