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“マーケティングテクノロジー・プロデューサー”がつくる企業と顧客の新しいつながり

2019.07.22
マーケティングシステムコンサルティング局は、「広告の外側」にある生活者接点を構想、開発、運用することを目的に博報堂内に立ち上がった新しい組織です。同局には大きく2つの機能があります。1つは前回のインタビューにも登場した入江謙太が関わっているUXデザイン、もう1つはマーケティングシステムプロデュース機能です。マーケティングシステム構築においてCX(顧客体験)をデザインしていきます。そこで重要な役割を果たしているのが「マーケティングテクノロジー・プロデューサー」です。マーケティングテクノロジー・プロデューサーの定義、能力、価値は何かなどについて、入江とマーケティングテクノロジー・プロデューサーである稲毛亮太に話を聞きました。

マーケティングテクノロジー・プロデューサーとは何か

──はじめに稲毛さんのこれまでのキャリアについて自己紹介してください。

稲毛:2011年に新卒で博報堂に入社し、最初の3年半は営業部門に配属されました。フロントとしてクライアント企業様の要件伺いから広告制作の管理進行、あるいはテレビ・交通・ネット広告などメディアのプランニングや進行などを担当しました。その後、ストラテジックプラニング局に転属し、主に自動車メーカー様を担当、デジタル領域での生活者とのコミュニケーション戦略や企画を立案し、実行するまでのお手伝いをしました。それを3年やらせていただき、現在のマーケティングシステムコンサル局に配属となりました。
現在では、主に飲料品メーカー様で、デジタル上でクライアントと生活者の継続的関係を構築し、クライアントのビジネスの成長に貢献することを使命に取り組んでいます。

入江:前回のインタビュー(https://www.hakuhodo.co.jp/archives/column/58418)でも述べましたが、マーケティングシステムコンサル局は、「広告以外の顧客接点」をどうやって作っていくかを考える組織です。スマホアプリやロイヤリティプログラムあるいは決済サービスに至るまで、幅広い中長期的なプラットフォームのプランニング、構築、運用を実施します。
私たちの組織は大きく2つの機能を持ち、1つはUX(顧客体験)デザイン、もう1つがUXの裏側を支えるDMPなどのデータ基盤とそれと連携するシステムを構築するマーケティングシステムプロデュースです。稲毛が関わっているのが、マーケティングシステムプロデュースで、彼には「マーケティングテクノロジー・プロデューサー」という役割を担ってもらっています。

──マーケティングテクノロジー・プロデューサーとはどのような役割なのでしょうか。

稲毛:マーケティングシステムプロデュースでは、クライアントとそのお客様の中長期的な関係づくり・コミュニケーション接点づくりをどうしていくかについて、クライアントと一緒に考えながら、実現するためのシステムを構築する支援をしていくことになります。要するにITシステムを構築することになるため、従来博報堂がお付き合いしてきたマーケティング部門だけでなく、情報システム部門とも連携しなければなりません。一般的にマーケティング部門はマーケティングには詳しいですがシステムには詳しくありません。情報システム部門はその逆です。したがって間に入って、それぞれの用語を翻訳したりなど、コーディネートする人材がいると連携がスムーズになります。マーケティングテクノロジー・プロデューサーはまさに、そのコーディネートを司る役割ですね。

入江:最終的な目的は、クライアントとそのお客様との継続的なリレーションを構築すること。そして、その目的を実現するために、クライアント社内のリレーションを円滑にすること――「マーケティングテクノロジー・プロデューサー」は、この2つのリレーションを実現する人のことなのです。

マーケティングテクノロジー・プロデューサーが持つべき能力

──マーケティングテクノロジー・プロデューサーが必要となっている背景はどのようなものなのでしょうか。

入江:例えばグルメサイトなどのようにデジタルサービスを専門にし、業務のほとんどがデジタルで完結する会社であれば、マーケティングとITシステムの両方を深く理解し、継続的な顧客接点の構築を行っている専門人材が豊富にいます。しかし博報堂が昔からお付き合いいただいている多くの企業やブランドでは、デジタルで顧客との中長期的な関係を構築してきた経験のある人はあまり多くありません。どちらかと言えば、マス広告で顧客との瞬間的な関係を作るほうが得意な方々が、デジタルに取り組み始めたという状況です。要するに多くの企業では、デジタルでお客様とのリレーションを構築できる人材が不足しているということが大きな背景です。

──そのような背景の中、マーケティングテクノロジー・プロデューサーにはどのような能力が求められているのでしょうか。

稲毛:大きくスキルとマインドの2つの観点で、求められる能力があると考えます。
まずスキルについては、マーケティングコミュニケーションの理解があり、プランニングができる事が必要です。市場と顧客を知り、顧客との関係を構築していくためのスキルですね。その上で、理想とするマーケティングコミュニケーションを実現するために、裏側で動くシステムを構築するスキルも必要です。たとえばDMP製品でも、それぞれできることが違います。どういうDMP活用環境を作りたいのかによって選ぶ製品が違ってきます。エンジニアリングそのものというよりも、そういった知見や見識が必要ということですね。また、作って終わりではなく継続的に改善しながら運用していくためのスキルも必要ですし、それらをまとめてプロジェクトマネジメントしていくスキルも重要です。
マインドについては、どこかの部門だけを向くのではなく、複数の領域をまたぎながら、全関係者にとっての最適解を求める気持ちが大切です。関わる範囲がすべて自分の検討範囲だという広い視点、つまり経営視点で全体最適を図ろうと考えることが求められます。

入江:マーケティングテクノロジー・プロデューサーとしてのスキルとマインドを醸成する上で、稲毛が経験してきたキャリア、すなわち営業、マーケティング、テクノロジーの3つを経てきていることはとても重要だと感じます。そして稲毛のような人材は本当に稀少です。
マーケティングとシステムの両方がわかっていないと、「机上の空論」になりがちです。たとえばシステム的な視点から、このようなセグメントに対して何らかの施策を実施しようとしたとします。データとしては作れるのですが、蓋を開けたらそのセグメントには5人しかターゲットがいなかったというようなことが実際にあります。マーケティングに関してリアリティーを持って理解していないと、プランニングの「解像度」が下がってしまうのです。

稲毛:まさに以前ストラテジックプラニング局で、マーケティングオートメーション(MA)のシナリオプランニングを担当した時に痛感したことです。3日前にある行動をした人にメッセージを送るというプランを出したのです。これはマーケティングの視点からは、ごく当たり前の施策です。ところがクライアントで導入していたMA製品は、このようなことができなかったのです。キャンペーンを開始した日を起点にして何日何時間目にメッセージを送ることはできたのですが、特定の生活者の行動を起点にさかのぼれない。「システム・テクノロジーを知らないと、今後価値のあるプランニングができなくなる」と強く感じました。大きなショックを受け、システムを理解し、実効性のある提案ができるマーケターにならねばと思ったのです。私にとっての転機になりました。

マーケティングテクノロジー・プロデューサーの価値

──クライアントから見てマーケティングテクノロジー・プロデューサーがいるとどういう利点があるのでしょうか。

稲毛:マーケティング部門と情報システム部門はもちろん、その他関係している部門や人はそれぞれミッションや目標が違うわけです。そのままでは当然ですが、連携が生まれにくい。しかし全員が同じ目的に向かっていかないと、マーケティングシステムの構築は成功しません。ではそのような全員一丸となった連携を実現できる人材が企業内にいるかと言えば、多くの企業ではいません。普段から社内人材の連携を図る仕事を専門にしている人は、あまりいないからです。すると外部に求めることになりますが、それもなかなかいないわけで、存在自体が価値になります。

──仕事の引き合いはマーケティング部門から来ることが多いのでしょうか

稲毛:今はマーケティング部門からが多いですね。マーケティングシステムの構築ですから、プロジェクト化する必要があります。その際によくあることですが、複数部門から人を引っ張ってきてプロジェクトチームを結成することになります。ところがそもそも、社内のどの部門の誰と話をしたらいいのかもわからない状態にある事が多いのです。そういった場合は実行体制も含めてご提案することになります。

──かなり大変なことになりそうですね。

稲毛:そうですね。マーケティング部門としては顧客データを使って、いろいろなことをやりたい、しかしシステム部門はシステムの安定稼働が命ですから、「マーケが思いつきで何か言ってくる」という感覚にどうしてもなりがちです。大なり小なり部門間のコンフリクトが必ずあります。その時に社内の人間だけだとそれで終わりになってしまうこともあるのでしょうが、私たち第三者が入ることで受け入れてもらえるというケースが多々あります。
実際、人と人のつながりを作ることは実に大変な仕事であり、心が折れそうになることもしばしばですが、苦しいことをやっているからこそ良くなっていくという実感があります。またプレゼンをして終わり、システムを作って終わりではなく、継続的に運用していくことで、事業が成長していく場面に立ち会える、それに伴い自分自身の成長を実感できる喜びもあります。

入江:クライアントと1つのチームとなって、クライアントの事業成長に貢献できることがとても面白いと感じています。しかも事業の成長が、今までになかったやり方で実現するわけです。たとえばメーカーが慣れないスマートフォンのアプリを作るようなことも、その1つです。しかしあらゆる事業・ブランドがサービス化していく中では必要・必然と言えます。クライアントが挑戦する中で、軋轢を調整しながら、新しい事業を一緒に作っていく。しかも作るだけで終わりでなく、継続的にコミットしていく。稲毛の言うように大変ですが、それ以上のやりがいがある領域です。

部門の壁の乗り越え方

──具体的に部門の壁はどうやって乗り越えていくのでしょうか。

稲毛:たとえばまったく同じ話をしていても、マーケティング部門の人とシステム部門の人とでは重要ポイントが違います。その他の部門もそうです。したがってまったく同じことを説明したくても、部門ごとに違う資料を作って説明します。
また、関係者が面と向かって話をするための定例会を開催してもらうようにしてもらいます。できることはできる、できないことはできないというのは、顔を合わせて話をしないとなかなか理解・納得してもらえません。その際、マーケティングとシステムの会話は、まるで英語とドイツ語での会話のようになりますから、私たちのコーディネートが必要になってきます。怖いのは何となくコンセンサスが取れているように見える時です。これはあとで実現してから「話が違う」ということになりがちです。そこで私たちが「これはこういう意味で言っているのですが、本当に大丈夫ですか」と補足することになります。
このように1つ1つきめ細かく入り込んでいくことで、コンフリクトを解消していくのです。

──人と人とを調整するにはきめ細かさだけでなく、鈍感さも必要だと思うのですが。

稲毛:そうですね。「鈍感力」のようなものも必要かもしれません。ただそれよりも1つのことにこだわりすぎないというマインドのほうが大切だと思います。あることにこだわりすぎると視野が狭くなります。それよりも、今ここは大変だから自分が入り込んでいくタイミングだとか、ここはうまく行っているのでその領域の担当者に任せて自分はちょっと引いて広い視野で見るタイミングだとか切り分けることが必要だと感じています。

稲毛 亮太
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局
マーケティングシステム部
マーケティングテクノロジー・プロデューサー

2011年博報堂入社。営業職として通信・金融企業の広告制作やメディアプランニングのプロジェクト管理に幅広く従事。2014年からストラテジックプランニング職として、主に自動車企業のデジタル戦略・データを活用したマーケティングマネジメント・CRM等、広告に限らない領域での支援を担当。現在はそれまでの知見を活かし、企業のデジタルトランスフォーメーション支援を要請に応じた様々な立場で行っている。

入江 謙太
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局
ユーザーエクスペリエンスデザイン部 部長

マーケティング/クリエイティブ/デジタルを統合したコミュニケーションプランニングの知見と、広告を超えた新しいサービス開発の知見をかけ合わせ、企業や事業やブランドの成長に貢献します。日本マーケティング大賞、ACCグランプリ(マーケティング・エフェクティブネス部門)、モバイル広告大賞、東京インタラクティブアドアワード、カンヌ、アドフェストなど受賞。

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