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【担当者に聞く】 認知症のある方が幸せに暮らせる社会を創るために、自分が持つ知恵と経験すべてを注ぎたい

2019.02.21
#シニア#医療
2050年には65歳以上で認知症のある方は1,000万人を超えると推計されています※1。 国内外でさまざまな取り組みが行われているにもかかわらず、認知症当事者の不安や、ご家族の負担はなかなか解消されていません。
このたび、博報堂は、産学官連携のプラットフォームとの協働により、「認知症のある方が暮らしやすい社会」の実現をめざし、認知症当事者とその関係者が共に創る事業開発プログラム認知症+DESIGNを立ち上げました。 当プログラムのリーダー、筧裕介に話を聞きました。

※1. 出典:二宮利治(九州大学大学院 医学研究院付属総合コホートセンター)「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」平成26(2014)年度 厚生労働科学特別研究

加速する超高齢社会、予防啓発アプローチの限界

Q.「認知症+DESIGN」を立ち上げた経緯をおしえてください。

「認知症」に関連する課題は、自分でもこの5、6年間、追いかけていたテーマであり、基礎的な調査や研究を実施していました。
現在の認知症対策は「予防」が大半を占めるんです。日本でも、世界全体でも、「発症しないためにはどうしたらよいか」と、「発症したらどんな薬を投与すれば治療ができるか」というアプローチが全てなんです。ただ、根本的な治療薬の開発の目処は立っていません。
予防はもちろん大切です。しかし、2050年には認知症の人は1000万超えるという予測があり、既に現在、300~400万の認知症の人がいる。予防だけでは、この問題は解決しないのです。
それに、予防啓発って、「認知症になったらもう人生終わりだ」というような危機意識を煽るアプローチになりがちなんです。このメッセージは、既に認知症のある方や、その家族を傷つけ、完全に取り残してしまうものですよね。

そんなことをモヤモヤ考えていた時に、慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンターで「認知症未来共創ハブ」※2.という産学官連携プラットフォームをつくる構想中の堀田聰子教授とお会いする機会を得ました。
堀田先生は、介護・福祉領域の専門家で、彼女が「認知症未来共創ハブ」を通じて目指そうとしていた「認知症とともに、よりよく生きる社会をつくる」というビジョンに強く共感しました。それこそ今、抜け落ちているものだ…!と。

※2. 慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター内に設立され、認知症のある方、家族や支援者、住民、医療介護福祉関係者、企業、自治体、関係省庁及び関係機関、研究者らとともに、当事者の思い・体験と知恵に基づき、「認知症とともによりよく生きる未来」への移行の加速を目的とする産学官連携プラットフォーム

博報堂は、認知症で苦しむ人たちと企業をつなぐ

Q.博報堂が取り組む意義や役割とは?

博報堂は、認知症で生活上の問題を抱える方々と、企業を結びつけるところで大きな力を発揮できると考えています。生活者を理解し、クライアント企業を理解し、そしてそのマッチポイントを見出す能力、認知症の方々の思いや生活課題を分析する能力、具体的な解決策をデザインする能力。生活者発想というフィロソフィーを持つ博報堂の強みを、シンプルに生かせると考えています。

認知症の課題というと、国や地方自治体、研究機関が取り組むべきと受け止められがちですが、「企業の力」なしでは、解決できるものではありません。
昨年3月に施行された改正道路交通法で、75歳以上の運転手の認知機能検査が強化され、認知症と診断された場合、運転免許が取り消されるようになりました。その流れも受けて、「運転の危険性のある高齢者の免許返納」を推し進める社会機運がありますよね。一方で返納によって、高齢者の買い物や社会参加の機会が減り、健康を損ねるという研究結果もあります。これらの問題を解決するには、新しい交通システムや、高機能自動車、安全デバイスの開発など、企業ができること、やるべきことが多いはずです。

認知症の方々がより幸せに暮らせる社会の実現には、企業に積極的に取り組んでもらう必要があります。博報堂は、「認知症未来共創ハブ」との協業によって、最先端の認知症に関するデータ、ナレッジ、ネットワークとつながることができ、「認知症のある方」「認知症の方々に寄り添う家族・支援者」「企業」とともに、幸せな超高齢社会を共創していく役割を果たせると思います。

Q. 認知症+DESIGNでは、具体的にはどのような活動を行うのですか?

認知症のある方々にとって、負担の少ない商品開発(家電、自動車、トイレタリー、飲料・食品、文具など)、サービス開発(移動、買い物、通信、娯楽、メディアなど)、空間開発(駅、商業施設、住宅、介護施設など)、まちづくり、社員の働き方改革など、さまざまな領域でのデザイン開発を支援します。

基本的なデザイン開発プロセスは、以下のようなステップを想定しており、調査・分析⇒プランニング⇒プロトタイプ制作・実証実験までをワンストップで請け負います。

<開発プロセス>
(1) 森を知る Problem Framing
認知症の全貌、認知症フレンドリーな社会実現に向けた世界的潮流や日本の状況をつかむ。
(2) 声を聞く Interview
認知症当事者の生活課題、悩み、深い思い、ニーズのリアルな声を引き出す。
(3)地図を描く Frame-working
インタビュー結果を構造的に整理し、課題の本質と事業機会を整理する。
(4)道を構想する Idea Generation
認知症当事者参加型ワークショップを通じて、発見した課題を解決し、機会を活用した事業・商品・ 空間・まちづくりの企画を作る。
(5)道をつくる Prototyping
企画を具体的に試作し、認知症当事者に実際に体験・試用してもらうことで、精度を高める。

「人生100年時代」、誰もが生きるリスクを背負う時代

「人生100年時代」と言われていますが、長生きすることはめでたく、良いことだけでなく、大きなリスクがあるとも言えます。

これだけ医療技術が発達し、長生きすると、自分が生きている間に、いつガンを患うか、脳梗塞を発症するか、認知症を発症するかわからないですよね。以前は大病を患うと高い確率で一生が終わりましたが、医療の進歩で生き残り、疾病や障害を抱えながら生き続けることが当たり前の時代です。自分自身は健康でも、両親の介護で働き続けられなくなり、経済的に困窮することもありえます。

そんな世の中だからこそ、自分や自分の大切な人が認知症をはじめとした疾病や障害を抱えた時に、その事実を隠さず、堂々と言える社会、その後も幸せに生き続けられる社会づくりに貢献したいと思っています。
認知症の方々と、その関係者が安心して笑顔で暮らせる社会の実現のために、そのための優れた商品やサービスが発明される環境づくりのために、自分の知恵と経験をめいっぱい活かしたいと思います。

「認知症+DESIGN」 プレスリリースはこちらをご覧ください!
https://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/54505

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