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【Creator’s Interview】「広告がジャーナリズムであると印象づけた」という評価が嬉しかった(佐々木 貴子、長島 慎)

2018.12.18
#クリエイティブ#広告賞
今年で第57回を数える「ビジネス広告大賞」(主催・フジサンケイビジネスアイ)は、優れた新聞広告を表彰するものです。今年の大賞には、三菱地所の企業メッセージを伝える作品が選ばれ、審査員講評では、「広告がジャーナリズムであることを改めて印象づけた。とくに社会への批評を含んだ大賞受賞作はモデルケースの作品」と高評価をいただきました。
制作を担当した佐々木 貴子(クリエイティブディレクター、コピーライター)と長島 慎(クリエイティブディレクター、アートディレクター)に話を聞きました。
「経済成長」2018年1月15日掲載(朝日、毎日、読売、日経、東京、産経、フジサンケイビジネアイ)
「グローバル」2018年1月15日掲載(朝日、毎日、読売、日経、東京、産経、フジサンケイビジネアイ)    
「地域格差」2018年1月15日掲載(朝日、毎日、読売、日経、東京、産経、フジサンケイビジネアイ)  

今の時代の空気と、「開発」というコトバとの間に感じた違和感

佐々木 貴子

Q.「広告がジャーナリズムであることを改めて印象づけた」という評価が印象的だったビジネス広告賞。どんな背景から生まれた新聞広告だったのですか?

佐々木:
三菱地所さんは、テレビ広告やアウトドアメディア等で「三菱地所を、見に行こう。」というシリーズで、丸の内を中心とした商業施設や事業などを紹介しています。だから「新聞広告では新聞だからこそできるメッセージ発信をしたい」というご要望をいただいていました。

長島:
2016年に当社がご提案した新聞企画「The Marunouchi Times」(2015年度朝日広告賞受賞)の新聞広告シリーズが好評をいただいていたこともあり、今回も三菱地所さんから「今ニュースになるような広告を考えてください」と言われました。僕ら自身も施設紹介以上のことを発信したいという気持ちがありました。

佐々木:
そして大前提として、「人を、想う力。街を、想う力。」というスローガンにきちんとおちる広告にしてほしい、ここから何が言えるのか考えてほしい」というオリエンをいただきました。スローガンの解釈の幅はあまりにも広いので、3人で(佐々木・長島・デザイナーの野田紗代)どうしたら新聞を活かして強いものができるか、ひたすら切り口を出しあいました。

Q. どのような過程でここに到達したのですか?

佐々木
三菱地所さんはディベロッパーで、土地とか街を開発している不動産業なのだろうなと思っている方が多いかと思います。
国と協業で実施している大きな事業を抱えていますし、やっていることの本質は「開発」なんですよね。その開発によって国や街は成長したりするわけですが、今の時代、下手するとその事業が誤解されてしまうと思ったんです。時代の価値観や空気はむしろ開発や成長とは逆の方向を志向しています。これ以上開発する必要があるのか?と。多くの人がそう考え始めている中で、ディベロッパーとしてどう答えるか、そこから逃げずにやってみることで企業広告を成立させたいと考えました。

つまり、三菱地所さんの論理じゃなくて、世の中の論理から三菱地所さんを見るということをやったほうがいいのじゃないかという。じゃあ広告の中でその質問を誰にしてもらうとよりシャープになるかと考えたとき、社会のしがらみなどにまだ縛られておらず、日本の未来を担っていく学生たちから、純粋な質問として投げかけてもらおうということになりました。

長島:
企業広告って、Q&Aで言うとAを、つまり企業の方から「こう考えます」ということを一方的に言うものが多い。でもこれはQ「問い」に軸足を置いてます。もちろん、A「アンサー」も同じ紙面には書いてありますけどね。

長島 慎

長島:
あと、学生って、ふつうは採用面談で、企業側に「最近の日本についてどう思いますか」とかって聞かれることが多いでしょ。この作品のコンセプトは、若者が“街をつくっている”企業に対して、強く鋭い質問を投げかける“逆面接”をするというもの。そうすると読者もぐっと読みたくなるはずだと思いました。
最初はQ&A方式スタイルのデザインも考えたけど、結果的にはビジュアルとコピーもQ「質問」に振り切る方が読者の手が止まるんじゃないかということで今の形に落ち着きました。

Q. 写真もすごく強いですね。

長島:
カメラマンは高校生を多く撮り続けていて、あまり広告写真を撮っていない小野啓さんにお願いしました。
以前、別の仕事でご一緒して、今回も小野さんにお願いするしかない!と思い、実現できてよかったです。なんというか、一見普通のポートレートなんですが、奥底にある被写体の人格がじわ~っと滲み出ている感じがあるんです。
オーディションも一緒にやっていただきました。顔立ちとかスタイルだけじゃなく、世の中についてどう思っているのか質問して、答えている瞬間のまなざしとか、その人が持つリアルな感情を見出そうとしていました。たとえば「普段どんな場所によくいるの?」みたいな質問もしていましたし。彼らと年齢が近いということで、野田が主にインタビュアーをやっていろいろ引き出してくれました。

広告がジャーナリズムだ、と言っていただけたのはすごくうれしい

Q. 一番悩んだことは何ですか?

佐々木:
彼らの問いに対して、きちんとした答えをつくるというところですね。それはクライアントに頼りっきりではだめで、まずは私たちが答えの骨子案を持って、自分たちの言葉で作り、チェックいただくというプロセスを踏まなくてはいけません。どう回答するかを深く考える作業。こむずかしすぎてもいけないので。
三菱地所さんとのお仕事は、与件としてあらかじめ決められていることより、テーマをゼロから考えて抽出する作業が多いので、作る側も自分の意見や社会への向き合い方が問われます。

長島:
だから審査員の方々に「広告はジャーナリズムであることを改めて印象づけた」と言っていただいたことはすごく嬉しかったですね。

佐々木:
コピーライターとして、アートディレクターとして、テーマを共に考えながらもそれぞれの役割を全うして完成度を高めていった仕事なのでこの評価はとても嬉しく思いました。

Q. このコンセプトは、クライアントに迷いなく受け入れていただけましたか?

佐々木:
たしかに、ディベロッパーの広告ながら、「日本ってまだ成長する必要があるの?」「地方のこともちゃんと考えてるの?」「グローバル、グローバルと言っているけど、どういう意味?」・・・という具合に、シリーズ3弾すべて問いっぱなしですからね。わざわざ自ら問題を投じるような広告を展開することは覚悟が要ることだとは思うのですけれど、クライアントは「是非、やりましょう」といってくださいました。感謝しています。

長島:
そういう意味で言うと、広告のリテラシーがとても高いクライアントなんだとつくづく思いました。ネガティブな反応を気にしての修正指示も、ほとんどなかったです。メッセージを強く伝えるためには、何が大事かということをきちんと理解されているという印象を受けました。

アイデアを出し切った後は分業。 ある種クラシックな手法だった。

Q. 一番この広告が届いてほしい人たちは誰ですか?

長島:
朝日、毎日、読売、日経、産経、東京新聞に掲出されたので、新聞の読者=企業およびそこで働く人すべて、ということになります。
企業で働く人たちに、三菱地所さんが持つ、ある意味特殊かつ大きなミッションを知ってほしかったんです。また、他の企業から三菱地所はどう見られているんだろう、と常に意識しながらつくりました。

佐々木:
この広告に対してけっこう問合せがあったと聞いています。あと、若い方が採用面接のときこの新聞広告を持って来たというお話もあったので、ああ、反応があってよかったなと思いました。

Q. 2人はどんな役割分担だったのですか?

佐々木:
この企画はとにかく強いメッセージをみつけなくてはならず。なので、最初のアイデア出しでは、ガッツリ、メンバーそれぞれの頭にあるものを全部出し切りました。で、そこからだんだんと集約して、一つの方向性を見出し、そしてあとはプロとしてそれぞれの専門職に分かれ仕上げていくというやり方でした。
そういった分業体制はクラシックなやりかたとも言えるのかもしれませんが、私はそういうのも好きです。

長島:
メインのコピーって、普通は写真の上に乗っかったりしないように避けることが多いんですけど、
今回の作品では、どーん!と体にも顔にも思いっきり文字をかぶせました。今回はその方が大胆でよかったんです。写真も「いかにも広告」とならないように、また文字のフォント、字切り、位置、大きさ、どれか一つの細部を変えても作品のクオリティに大きく影響してくる、そんな広告作品でした。

Q.このペアで組むことはよくありますか?

佐々木:
そうですね、結構あります。慎くんはシンプルに物事の根幹をとらえる、頭のいい人。さらにデザイナーとしての力量、仕上がりもすばらしいので。

長島:
クリエイテブディレクターである貴子さんが、しっかりと戦略や方針を立案してからから、どう思う?と僕たちに聞いてくれます。そこで議論し、方向性が見えてくると、一気にガーッといろいろなことが進むところが、とても心地よいですね。

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