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博報堂×アルスエレクトロニカが考える、不確実な未来に向けた企業活動の作り方_アートシンキングプログラムのビジネス活用

2018.12.06
#アートシンキング#アルスエレクトロニカ#博報堂ブランド・イノベーションデザイン
博報堂はアルスエレクトロニカと2014年から協働し、昨年度からはArs Electronica Tokyo Initiative(AETI)として様々なサービスを展開しています。
今回は、その提供するメニューの一つ、ここ最近で急速にニーズが高まっている「アートシンキングプログラム」について、博報堂ブランド・イノベーションデザインの田中れなが解説します。

私たち博報堂ブランド・イノベーションデザインは、オーストリア・リンツ市にある世界的なクリエイティブ機関・アルスエレクトロニカと協働し、「アートシンキング」を日本社会にインストールするという目的で活動しています。

その活動の要の一つである、「アートシンキングプログラム」は、アートを経営や研究開発に取り入れ、アーティストと共に企業のビジョン・活動を未来起点で構想するプログラムです。これは企業のイノベーション創出支援サービスとして、中長期ビジョン開発や技術戦略立案、次世代クリエイティブ人材育成に採用され、今までに10社以上へ提供しています。

これはプログラム全体の概念図です。

Credit:Ars Electronica

右側のデザインシンキング(緑色部分)は、デザイナーの思考をデザイナー以外の人も取り入れ、クリエイティブな課題解決を図る手法です。生活者のニーズに合った製品やサービスを生み出すため、「生活者の行動観察」からチャンスを発見する、比較的短期的な課題解決の手段として捉えています。
一方、アートシンキング(赤色部分)は、アーティストの思考をアーティスト以外の人も取り入れ、「異分野の探求」からチャンスを発見する思考法です。世界中の先端テクノロジーやアートが提示する問題意識・未来社会像を通じて、今までの常識や慣習にとらわれず、真の課題を発見するプロセスとなります。こちらは未来の可能性を示唆するものを対象としているので、中長期のビジョン開発や技術戦略立案への一手となっています。

博報堂は、アートシンキングとデザインシンキングが、「真の課題を発見し、発見した課題を解決に導いていく」プロセスにおいて、互いに補完し合うものと考え、セットで提供しています。
「アートシンキングプログラム」には、いくつかのステップがあり、今回はそのうちの3つを抜粋してご紹介します。

1. Artistic Research/未来の先行指標としてのアートからの触発
2. Questioning/Visioning/企業として重視する問い・企業としてのビジョン
3. Prototyping/形にして発信することを通じた社会との対話

1.Artistic Research/未来の先行指標としてのアートからの触発

アート–異分野から企業自身の可能性・チャンスを発見する

私たちは、アルスエレクトロニカが持つ世界最高峰のキュレーション力・アーティストとしての力と、博報堂が持つ”生活者発想”を合わせ、これまでの既成概念にしばられることなく、課題自体を未来起点で捉え直すセッション(ディスカッション・ワークショップ)を実施しています。
まず博報堂が、未来洞察による社会動向や、企業の志向する事業領域などから課題を映し出す視点をいくつか抽出。その視点を刺激する、インスピレーションを与える作品・プロジェクトをアルスエレクトロニカのメンバーにキュレーション・紹介をしてもらい、企業ごとにカスタマイズした未来像を提供します。そのセッションにはアーティストにも参加をしてもらいます。

ここで言及するアートとは、鑑賞するファインアート、教養としてのアート(リベラルアーツ)とは違い、先端テクノロジーや開発中の技術を使って問題提起を行っているもの、テクノロジーの発展に伴うデメリットを描くものも含めて、これからの未来社会を変革し得る可能性を秘めた作品やプロジェクトを表しています。
また、ここで実施しているプログラムは、アート作品やプロジェクトのアイデア自体を批評する、もしくはその作品を模倣して何かを作り出すということではありません。アーティストは自分の意見や問題提起を言語化し、さらに体験化できるものに昇華している存在です。アーティスト・研究者が模索し、問題提起している活動や作品を通して、彼らの未来を切り取る視点を知り、自らの活動に置き換えて考える機会としています。

今アーティストや研究者が何を問題提起しているのかを探る、アルスエレクトロニカフェスティバルでのアートシンキングツアーや、フェスティバル終了後、博報堂がその作品群から未来社会をかたどるキーワードを紹介するイベント等も実施している。

2.Questioning/Visioning/企業として重視する問い・企業としてのビジョン

企業としてではなく主語を自分に置き換える。

前項で、今までの業界研究の枠を超え、幅広く異分野の可能性を知った後は、企業自身に内在していた本質的な価値・新しい側面を見出すプロセスのワークショップを行います。
昨今未来への”問い”を謳う企業が増えていますが、企業自身が未来を構想するための問いをここではどんどん出していきます。ここでいう問いは、そもそもの課題設定を見直す本質的な視点を指すものとして、私たちは「クリエイティブクエスチョン」という名前を付けています。
クリエイティブクエスチョンは、企業が事業ドメインを何に設定しているかによってそれぞれ違いますが、「問う」という行為そのものは、企業自らが持つリソースを新しい視点で洗い出すきっかけになります。質の良いクエスチョンを出すことこそが、その企業オリジナルの課題を設定することに直結し、また問うことから未来を構想する力が身につき、真の課題を発見することにつながっていきます。

ワークショップ風景

私たちは企業がどの問いを大切に思うか、どの視点を重要だと感じるかを注意深く見ています。そして、選んだ問いから、どのような未来のビジョンを掲げるか、企業人としてではなく、個人の思い・意志を引き出す「ファシリテーション・クリエイティブ」を行います。次に、その個人の本質的な思いを、企業の歴史やこれまでの文脈に沿って束ね直す(アップデートする)ことを実践します。ここでは博報堂のコンサルタントやコピーライターなど、ファシリテーションに長けたメンバーが一緒にチームとなって未来を創り出していきます。世の中に刺さるコピー、刺さるグラフィックをプレゼンテーションする従来の広告業務とはまた違い、企業の内側に秘める意志を引き出すクリエイティブ、という私たちにとって新しいメソッドです。

Credit:Ars Electronica

3.Prototyping/形にして発信することを通じた社会との対話

企業ビジョンを体現する”タンジブル・コーポレート・アイデンティティ”

ここでいうプロトタイプとは、結果的に商品につながる前の試作品、という意味も含め、一つ前のプロセスで発見したクリエイティブクエスチョン・企業の未来ビジョンを社会実装するために、どんな形があり得るのか(タンジブルな=有形の、触れることができる、コーポレート・アイデンティティになっているのか)?を起点に形作っていくものです。
企業が世の中に対して示すビジョンは、今やブランドロゴやキャッチコピーといった一方的な発信にとどまらず、触媒(カタリスト)となって社会に新しい対話を生み出すもの、生活者とコミュニケーションをとりながらアップデートし続ける環境に置かれるものである、という考え方のもと推進しています。
私たち、またアルスエレクトロニカのメンバーがメンターとなり、そして一緒に作り上げることで、未来に向けて問いかける姿勢・プロジェクトを体現するもの、他にはないユニークなプロトタイプになっていくのです。

私たちは、既に2016年にアルスエレクトロニカフェスティバルで実施した「People Thinking Lab」という博報堂の哲学・生活者発想を可視化したフレームや、2018年5月に東京ミッドタウンで実施した日本でアート×インダストリーを体験化した「Future Innovators Summit TOKYO」など、そのプロトタイプの実験を行える環境を持っており、またこれからも作り出していきます。

***
私たちが提供しているサービスは、他に「アートシンキング」を体現した取り組みとしてFuture Innovators Summit(FIS)も2014年から運営しています。
FISとは、毎年9月に行われるアルスエレクトロニカフェスティバルで、未来を創り出す、アーティスト・イノベーターと共に、今何を考えるべきか、何を実践していくべきか、と未来社会に向けてミッションを生み出すディスカッションプログラムです。
即答できない問い、ディスカッションをする場を誰もがアクセスできるオープンなものとして、ワールドワイドでディスカッションを進める環境づくりを私たちは実践しています。これをThinkでとどめるのではなく、Doにつながるアクションとしての実践を今後も続けていきます。

Credit:Ars Electronica Tokyo Initiative(Ars Electronica + Hakuhodo)

「アートシンキングプログラム」は、繰り返しになりますが、アートと企業を掛け合わせ「真の課題を発見し、発見した課題を解決に導いていく」プログラムです。
アルスエレクトロニカが約40年間続けてきたアート・テクノロジーを通して社会・人のあり方を考えるという営みと、同じく約40年博報堂の生活総合研究所が提案し続けている人を生活者として捉える考え方、人を中心に社会・企業のあり方を考えるという哲学の部分から一致しているからこそ生まれているサービスになっています。
ご興味がある方は是非お問い合わせください。

田中 れな(たなか れな)
博報堂ブランド・イノベーションデザイン
クリエイティブプロデューサー

2007年博報堂入社。営業職として、様々な企業の広告制作、新商品開発、戦略ブランディング、メディアプランニングなど、ブランドのコミュニケーション設計に携わる。現在は世界的クリエイティブ機関アルスエレクトロニカとの共同プロジェクト「Ars Electronica Tokyo Initiative」を推進し、企業のイノベーション支援プログラムを多数提供している。

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