New Urban Guerrilla 連載第八回
もっと魚が食べたくなる習慣をつくる
~水産業を活性化する新しい経済循環を育む仕組みとは?~

2017年に発足して以来、連載コラム「ヒット習慣予報」で新たな習慣の兆しを発信しているほか、生活者データを活用してさまざまな “ヒット習慣”を研究・分析し、新商品やサービス開発まで行う博報堂「ヒット習慣メーカーズ」。ヒット習慣を探る中で、現代の生活者が癒やしを求めていたり、幸せを模索していたりする兆候が見えてきました。
そんな中ヒット習慣メーカーズのメンバーで新たにスタートする企画が、「New Urban Guerrilla」。都市生活の可能性を探究するさまざまな活動体や官民を巻き込みながら、現代の生活者にとって本当に幸せな、豊かな都市生活とは何かを追求し、社会実装までを目指します。
本連載では、「New Urban Guerrilla」発足を記念し、メンバーがゲストと共に新しい都市の構想を語り合います。 今回のゲストは、株式会社さかなプロダクション代表取締役として魚の魅力を幅広く発信し続ける、ながさき一生氏です。島国でありながら魚離れが叫ばれる現代において、「魚(水産業)」の視点から都市の食と暮らしを豊かにするヒントを探ります。

スピーカー 
株式会社さかなプロダクション 代表取締役
一般社団法人さかなの会 理事長・代表
東京海洋大学 講師
ながさき 一生 氏

博報堂 
クリエイティブ局 チームリーダー 
エグゼクティブクリエイティブディレクター 
ヒット習慣メーカーズ リーダー 
中川 悠

博報堂 
PR局 
統合ディレクター/PRディレクター 
ヒット習慣メーカーズ メンバー 
村山 駿

マス流通と相性の悪い魚を、小売りはどう盛り上げるか

村山 
僕らは現在、都市に新しい豊かさを実装することを目指し、「New Urban Guerrilla」という社内プロジェクトを展開しています。これまで、睡眠やファッション、都市計画などさまざまな分野の有識者の方々との対話から、都市をより元気に、豊かにするためのヒントを探ってきましたが、今回注目したのが「魚」です。日本は島国で魚資源が溢れているはずなのに、世間では魚離れが進んでいると言われています。本当はもっと面白いし美味しいし、さまざまな可能性をはらんでいる魚(水産業)というものの視点から、都市や暮らしを見直すことはできないかと考えました。

ながさき氏
魚離れというのは、実は嘘だと僕は思ってるんですよ。なぜかというと、生活者アンケートなどでは、いつも8割くらいが「魚を食べたい」という答えになるから。生活者は魚から離れているわけではなくて、離れているのは流通の方なんです。

スーパーに切り身のパックが並んでいてもあまり購買欲は刺激されないし、自分で捌くのも難しい。その点、ある小売店では、いろんな魚が売り場に並べてあって、説明してくれるしその場で捌いてくれるし、毎日違う魚が安い値段で買えるということで非常に好評です。ニーズはあるのだから、適切な形で提供すればいいだけなんだと思います。

村山
確かに、僕の近所にあるスーパーの魚売り場には、たまにスッポンなどが置いてあって、物珍しさから見に行きたくなります。

ながさき氏
マス流通においては、同じ規格を大ロットで仕入れて、各店に振り分ける方法が一般的ですが、魚の場合は漁獲量が不確実なので、それをやろうとするとマグロやサーモンなど、本当に限定的な魚ばかりが店頭に並ぶことになります。基本的に魚は、スーパーのようなチャネルとは相性が悪い商材と言えます。

その不確実性を逆手にとり、毎日違う魚を仕入れることを前提にした販売戦略で成功している小売店もあります。魚は相場が日々動きますから、毎日仕入れの現場でしっかりと吟味し、安くていい魚を仕入れているところもポイントです。

村山
なるほど。そのようなプレイヤーが、他になかなか出てこないのはなぜでしょうか。

ながさき氏
なるべく人件費を削り、システム化して横展開し大規模化するという、現代のビジネスの流れと逆行してしまうからでしょうね。

中川
人口の多い都心のスーパーなどで、魚の需要を活性化させる手段はありそうですか。

ながさき氏
2つ方法があると思います。一つは、先に述べた繁盛している魚屋のように、日々の魚の変化に対応できるような仕入れや販売方法に対応する方法。もう一つは、始めから大規模に扱っても品質が変化しない養殖や冷凍製品に絞って仕入れる方式です。昔と比べると現在は養殖技術や冷凍技術が格段に上がっていて、品質にも何ら問題はありません。それをもっと多くの人に知っていただくことで、水産の流通もどんどん最適化されていくと思います。

日本の水産業の売り上げを牽引する、海外の魚需要

ながさき氏
魚はエンタメとの親和性が非常に高い商材だと思っています。いい魚売り場というのはたいてい楽しいんです。先ほどおっしゃったスッポンみたいな、ちょっと目を引く珍しい商品が置いてあったり、店員さんが魚についてなんでも解説してくれたり。楽しい魚売り場がどんどん広がり、魚に親しみを感じる人が増えるといいなと思います。

村山
市場でも商店街でも、食の現場って本来、すごく楽しいものですよね。物価高を始め、「食」をめぐる世界がどんどん厳しくなっている今、食の現場が楽しさや活気を取り戻すきっかけは、魚にあるような気がします。

ながさき氏
確かにそうですね。スーパーの売り場の中でも、やはり魚売り場が一番変化があって、毎日お祭りに似たムードがあるように思います。その活気が活かせると素晴らしいですよね。

村山
ECなどを通した魚の直流通もありますが、素人感覚では少し面倒くささも感じます。ながさきさんはどう見ていますか。

ながさき氏
おっしゃる通りで、これまで魚のECってずっとうまくいかなかったんです。というのも、たとえば品名に「アカハタ」とあったとして、もともと「アカハタ」について知識がある人じゃないと、良し悪しがわからなくて選びにくいからです。また、実物が届く頃には品質が変わってしまっていて、「写真と違う」ということも起こりやすい。その点、最初に回りだした頃の魚のECサイトは、始めから飲食店向けにして、ある程度魚の知識がある客層にターゲットを絞っていて、なるほどなと思います。

その後、コロナ禍では飲食店向けの流通が止まってしまい、消費者向けの産直ECが大きな成長を見せましたが、その盛り上がりも今は一旦落ち着きました。現在は、魚に詳しい一部の消費者が、スーパーではなかなか手に入らない珍しい魚を購入するのに産直ECを活用するケースが多いようです。

中川
そうなんですね。
一般消費者の魚に関するリテラシー全体を上げるのは大変ですから、もしかしたら自分で調理することにこだわらず、中食とか外食など、手軽な方法でもっと魚を食べる機会が増えるといいのかもしれないと思いました。

ながさき氏
確かに、知識も技術も必要としない外食は、魚を食べるもっとも手軽な手段です。実は、現在魚の売り上げを牽引しているのは、銀座を始め、ドバイやニューヨークなど海外の高級寿司店などの売上なんですよ。大間のマグロにしても関サバにしても、日本の漁業は大半が小規模漁業で大量供給ができませんから、少量の高品質の魚が高級外食に行くという流れができあがっています。

中川
僕ら広告会社がサポートするという意味を考えると、そうした高級店よりもスーパーなどにおけるマスの需要活性化につながる道を探りたいところではありますが……。

ながさき氏
たとえばマグロは回転寿司でも人気のネタですが、それは高級寿司店における最高峰というイメージがマスにも定着しているからです。ワインと同様、アッパーのブランドイメージが向上するのに応じてマスも盛り上がっていくというのが、寿司ビジネスの構造なんです。でも逆に、サーモンのような日常的な魚でも、何か特別感のある商品にできれば、高級寿司店で出てくるといったことがあるかもしれない。その両方の循環があるといいですよね。

村山
海外でさかんに日本の魚が食べられているとか、国内の小売りが頑張っている話を聞くと、水産業の前途は明るいように感じますが、課題もあるんですよね。

ながさき氏
消費量については、海外では増えていますが国内は減る一方です。また、環境変動のせいで獲れなくなっている魚もいる。養殖に使う餌の買い付けも、海外との激しい競争にさらされています。

中川
海外の魚の需要はなぜそれほど伸びているんでしょうか。

ながさき氏
日本もそうですが、アイスランドなどもともとの漁業国では、魚の消費量は落ちています。これは落ちているというよりも、元々が高すぎたと捉えた方が正しいように思います。一方、ずっと肉食だった文化圏においては、魚は肉よりもヘルシーなイメージが浸透し、消費者に選ばれるようになってきたんです。また、最近では、魚の養殖は畜産肉よりも環境負荷が低いという報告もあり、そういった点も選ばれている理由の1つになってきているかもしれません。

村山
魚の消費欲が旺盛な海外向けに水産物を輸出していくことで、日本の水産業も活性化していけるでしょうか。

ながさき氏
その可能性はあると思いますが、海外の場合、政治状況によって流通が変わるなど、不安定要素も大きいので、やはり内需を押さえつつ外貨も取り込んでいくというのが、安定的な経営には大切でしょうね。これは自給率という意味合いでも大切な事柄です。

もう少し言うと、今は漁師の数が減っているので、かつては40人で持っていた漁場を10人で持つようになり、しっかりした量を水揚げできて潤っている漁師さんも確かにいます。特に、ハレの日の高級魚を扱う漁師さんは強いですね。一方でマス流通は細くなり、価格は上げられないけど燃料代などのコストは上がるという状況なので、苦しい漁師さんも多い。また、ノルウェーのサバ、チリのサーモン、東南アジアのエビなど、マス流通している魚の半数以上は海外産ですから、どれだけ売れても日本の漁業が潤うということにはなりません。

村山
そうなんですね。話を伺って初めて、見えない部分にさまざまな課題があるということがわかりました。

お得に魚を食べて、遊べて、学べる「さかなPay」構想

中川
僕らが流通さんと手を組み、「ここで買うと楽しい」「ここで買うと発見がある」といった接点をつくっていき、その接点から入ってくる情報を通して、生活者の魚リテラシーも上がるというのが理想的かなと思っています。

たとえば「さかなPay」などと銘打って、産業を巻き込んだ地域通貨ならぬ産業通貨のようなものをつくれたらいいんじゃないかと考えたんですが、どう思われますか。

ながさき氏
いいですね。魚は豊漁のときもあればそうでないときもあるので、たくさん獲れた時にはたくさん食べる、そうではないときは少し控えるといった習慣が定着するといいなとずっと思ってるんです。その点で、「いまはこの魚が豊漁なのでどんどん食べてください」と、プレミアム商品券的に「さかなPay」を配布して、消費を促すことができたらいいなと思います。ちゃんと漁獲高が上がっている魚の情報と合わせて配布するようにしたら、魚リテラシーの向上にも役立つかもしれませんね。

中川
そうなると、最初は魚を主に取り扱っているお寿司屋さんから始めるのもいいかもしれませんね。「寿司Pay」から始めて、徐々に魚全般にまで広げていく。

村山
震災復興支援につながる可能性も視野に、東北エリアから始めるのも、社会にとって意味があるかもしれません。

ながさき氏
地域を絞るという意味では、水産が強い自治体と組んでみるのもいいかもしれません。観光と絡めて、「地元の店を巡って魚を食べてください」とPRするなど、展開もしやすいでしょうし。

中川
お得感以外にも、エンタメ的な楽しさや、学びが得られるなどのユーザーメリットが加われば、サービスとしての面白さが生まれそうです。

ながさき氏
スタンプラリーみたいに、クイズに参加すれば何かポイントがもらえるといった仕組みもよさそうです。以前、ある寿司チェーン店のクイズ企画に監修として協力したことがあったんですが、ゲームを楽しみながら知識を得られるという設計で、とても楽しそうでした。

ちなみに僕がずっとつくりたいと思っているのは、ゲームキャラの図鑑のような、魚の食材図鑑です。食べた魚の写真を撮ってどんどんアップしていくと図鑑の枠が埋まっていって、「300種コンプリートしたぜ」などといって競い合う。結果的に立派な図鑑ができあがるというものです。

村山
それは確かに面白そうですね。やっぱり魚という食材自体が美味しいだけではなく、食べて発見があるし楽しいエンタメ的な側面をもつからこそ、もっと魚に面白く接することができるポイント、機会をいかに増やすかということが鍵なんでしょうね。その先に、気候変動で漁獲量が減っているとか、環境問題で生息地に影響が出ているとか、学べる知識もたくさん広がっている。

ながさき氏
そうなんですよ。肉よりも絶対魚の方が、エンタメとして拡張できる可能性は大きいと思っています。マス流通だけの視点で見てしまうと、いつも同じものが食べられないとか、捌くのが大変といった不便さについつい目がいってしまいますが、逆にそれを「面白い」と捉えると、マイナスが一気にプラスになって、価値のあるものになりますよね。

中川
ぜひ「さかなPay」に図鑑も盛り込みましょう(笑)。

ながさき氏
そうしてください(笑)。その地域に行かないと食べられない魚もありますから、観光きっかけにもなります。ECでも「さかなPay」を使えるようにすれば、珍しい魚を取り寄せて図鑑をコンプリートしてもらうこともできそうです。もし図鑑をコンプリートしたら、ぜひ魚マスターの称号をあげたいですね(笑)。

村山
養殖だろうが海外産だろうが国内産だろうが、魚と出会いたいという感覚をどう実装につなげるかがポイントということがわかりました。また、水産ビジネスは単純じゃないからこそ様々な可能性があるということも知れた気がします。

ながさき氏
常に変化する食材なので、その変化を知って、楽しんでいただけたら嬉しいです。

中川
魚と出会える接点をつくり、その変化も楽しめて、さらに実利が得られるような仕組みができたら最高ですね。
本日は貴重なお話をうかがえました。ありがとうございました!

※肩書は取材当時のものです

ながさき 一生 氏
株式会社さかなプロダクション 代表取締役
一般社団法人さかなの会 理事長・代表
東京海洋大学 講師

1984年、新潟県糸魚川市にある漁村「筒石」で生まれ、漁師の家庭で家業を手伝いながら18年間を送る。2007年に東京海洋大学を卒業後、築地市場の卸売会社で働いた後、同大学院で修士取得。2006年からは魚好きのコミュニティ「さかなの会」を主宰。ふるさと納税の魚介類を紹介する専門家の第一人者でもあり、漁業ドラマ「ファーストペンギン!」では監修も務めるなど、メディアで食としての魚を分かりやすく伝えている。著書『魚ビジネス』『最強の寿司ビジネス』『旨い魚が食べたい!」など多数。

中川 悠
博報堂 クリエイティブ局チームリーダー
ヒット習慣メーカーズ リーダー
エグゼクティブクリエイティブディレクター

メーカーの商品開発職を経て、2008年に博報堂中途入社。エグゼクティブクリエイティブディレクターとして、日々お得意先や社会の課題に向き合っている。最近年をとったせいか、もっと自然体で、自然と共に生きていきたいと思うようになり、都市生活に新たな余白を生み出していく「New Urban Guerrilla」という取り組みをはじめた。同じ想いを持ったいろんな人たちとご一緒したいです!

村山 駿
博報堂 PR局
PRディレクター/統合ディレクター
ヒット習慣メーカーズ メンバー

PR戦略局から、19年に統合プラニング局に異動、21年にふたたびPR局に異動。社会発想を軸にした統合コミュニケーション、情報戦略に携わる。毎日きまった街のきまった飲み屋に入り浸っていた生活を経て、知らない街の知らない店に飲みに行きたいなとリサーチ活動を実施中。

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