「きれいになりたい」葛藤にどう寄り添うか? 大学生のサービスデザインから見出す、ルッキズムのジレンマを解きほぐすためのマーケティング「3つの視点」
——博報堂 Woman Wellness Program × 慶應義塾大学 武山政直研究室

女性の心身の健康課題に取り組む事業を支援する博報堂 Woman Wellness Program(以下、WWP)は、「ルッキズム」に関する研究成果を活用して、慶應義塾大学 経済学部 武山政直研究室(以下、武山ゼミ)のサービスデザインプロジェクトに協力しました。本記事では、大学生が考えた「ルッキズムによって自他を傷つけないコスメの購買体験デザイン」のアイデアと、WWPがそれらの分析をもとに提案するマーケティング実務への示唆をご紹介します。

ルッキズムのジレンマに挑むテーマ:「ルッキズムによって、自分あるいは他者を傷つけないコスメの購買体験デザイン」

WWPは、「女性のウェルネスを、社会の力に。」というスローガンを掲げ、博報堂の生活者発想とウェルネスケアの視点を掛け合わせて、企業の事業開発をサポートしている社内横断プログラムです。近年、WWPが注力して調査研究および発信を行ってきたテーマのひとつが「ルッキズム」です。

今回の取り組みでは、WWPが2026年1月に公開した「女性の外見とのつきあい方とルッキズムに関する意識調査レポート」の内容をもとに、武山ゼミのサービスデザインプロジェクトのテーマ設定、企画アイデアの中間講評および最終審査に、WWPメンバーが参加しました。さらに、学生たちのリサーチやアイデアをWWPが分析し、マーケティング実務に活用するための視点を抽出する形で、産学連携研究を進めました。

武山ゼミでは、毎年4–6月に、サービスデザインによって社会にインパクトを与える企画アイデアを生み出す短期集中の産学連携プロジェクトを実施しています。2026年4–6月に実施したプロジェクトには、大学3–4年生の学生24名が参加し、5班に分かれて、コンペ形式で提案を競いました。
学生たちは、
①     課題理解と機会発見(定量・定性調査)
②     提案価値の探索
③    サービスコンセプトの検討
④     顧客体験ストーリーの作成
というプロセスに、2カ月間かけて主体的に取り組みました。

2026年4月に実施されたオリエンテーションにて、WWPが提案したプロジェクトのテーマは、「ルッキズムによって、自分あるいは他者を傷つけないコスメの購買体験デザイン」です。
このテーマは、主に以下の4つのインサイト(≒ルッキズムのジレンマ)に基づいて検討されています。

《調査レポートからのインサイト≒「ルッキズムのジレンマ」》
•    若年女性の多くは、「自分の外見が好きではないが、外見を整えることは望ましいと思う」という矛盾とも言える感情を同時に抱えている 
•    また、若年女性ほど、外見重視社会の加速とそれに対する反発を感じている 
•    美容に関する行動はエンパワーメントである一方で、SNSを中心とする美容に関する情報収集は自己否定を強化しやすい 
•    ルッキズムは、誰かからの差別より、「自分の内側で生じるプレッシャー」として経験されることが多い 

博報堂 Woman Wellness Program (2026)「女性の外見とのつきあい方とルッキズムに関する意識調査レポート」

学生のみなさんには、「当事者世代としての『もやもや』があればそれを言語化し、自身がどんな社会(サービスデザイン)を望むのかを、企画案を通して可視化してほしい」などの考えていただきたいポイントを伝え、プロジェクトがスタートしました。

サービスデザイン企画の報告会: ルッキズムのジレンマに対して、大学生が導き出した5つのアイデア

2026年6月、慶應義塾大学の三田キャンパスにて、学生のみなさんが2カ月にわたり取り組んだサービスデザイン企画の最終報告会が行われました。5班それぞれのアイデアの概要を紹介します。

A班:「SAKU(サク)」——コスメで会話を咲かせよう
•    サービスアイデア: 友だち同士で店舗を訪れ、会話をしながら相手に似合うと思うミニコスメを5つ選んで、桜型(5つの花びらがケース)のボックスに詰めてメッセージとともに贈り合う体験。後日、その友だちと会う日に、桜の花びらを1つずつ開封してコスメを使うことで、友だちとの関係が深まっていく。

左: A班発表風景 右: プレゼン資料抜粋(画像は生成AIで作成)

•    着目したインサイト: ゼミやサークルにおける、「ヨッ友」以上「ズッ友」未満の関係性のコミュニティにおいて、大学生は自分の居場所を失わないための「防衛策」としてメイクをしている。最も外見に対する意識が強くなるのは、内面までは深く理解していない関係性の友人・知人とともにいる場である。
•    企画にこめた想い: コスメの購買体験を通じて、外見という表面的な壁を突破し、中身で認め合い一生続くような深い信頼関係(ズッ友)が次々と生まれる社会をつくりたい。

B班:「ミラータイプ」——個性を優劣のない言葉で分類する
•    サービスアイデア: プリクラ施設のメイクスペースにある鏡で実施できる、AIスマートミラー診断。AIが、顔のパーツ診断と性格入力を掛け合わせて、優劣のない16種類の「ミラータイプ」を表示し、似合うコスメを紹介してくれる。優劣ではなく個性を表す言葉で、外見に対する生活者の認識を塗り替えていく。

左: B班発表風景 右: プレゼン資料抜粋(画像は生成AIで作成)

•    着目したインサイト: メイクについて知識が増える過程で、顔のパーツに関する多くの語彙を習得するが、言葉を知ることで、かえってそれまでなかったコンプレックスを感じるようになってしまう。コンプレックスにつながる表現は「その性質を持った美男美女が想起できず、変えることが難しいもの」に集中している。
•    企画にこめた想い: 画一的な美しさと自分を比較するのではなく、それぞれが潜在的に持っている美しさにワクワクしながら、コスメや美容を楽しく選べる社会にしたい。

C班:「myrror(ミラー)」——服を入り口にコスメをバーチャル体験
•    サービスアイデア: 商業施設の試着室に設置されたスマートミラーを活用し、抵抗感の少ない服のバーチャル試着からコスメのバーチャル体験に繋げるサービス。バーチャル試着後、似合うコスメを続けて体験できる。履歴から作成される自分専用のカルテがスマホに届き、コスメの買い物に活用できる。

左: C班発表風景 右: プレゼン資料抜粋(画像は生成AIで作成)

•    着目したインサイト: 他者からの評価が原因で自分の顔に自信をなくした若者は、失敗を恐れてメイクの試行錯誤を避ける(楽しさを知る機会を失う)ようになってしまう。しかし、そのような若者でも、ファッション(服)に対しては興味があり、試行錯誤や挑戦への心理的ハードルが低い傾向がある。
•    企画にこめた想い: 美容への苦手意識や失敗への恐怖を気にすることなく、誰もが手軽に楽しくメイクの試行錯誤を行うことで、きらきらした新しい自分に出会えるようになってほしい。

D班:「ReMAKE(リメイク)」——メイクファスティング
•    サービスアイデア: 1週間ごとに、徐々にアイテム数が減るメイクボックスが届く「メイクファスティング」プログラム(例: 1週目15個→2週目10個→3週目5個)。届くアイテムでフルメイク可能。コスメの量を減らしていく過程で「60%のメイクでも十分」と感じられ、プレッシャーから解放されることを目指す。

左: D班発表風景 右: プレゼン資料抜粋

•    着目したインサイト: メイクには「理想の自分に近づく楽しさ」がある一方で、一度しっかりメイクをして理想の顔(学校での自分)を作ると、「すっぴんの顔を他人に見せたくない」という、メイクに対する義務感やプレッシャーが生じて疲弊してしまう。そのようなストレスが、高校生にまで広がっている。
•    企画にこめた想い: 一部の生活者の間に生じる、毎日ちゃんとフルメイクすることへの義務感やストレスを和らげたい。「今日はこれくらいでもいい」と自然体な自分を認められるようになってほしい。

E班:「#SUKI ERA(スキエラ)」——生活者もブランドも「好き」を解放
•    サービスアイデア: 大学と複数の国内コスメブランドがコラボする、1カ月のキャンパスジャックキャンペーン。各コスメブランドが尖った世界観を押し出す臨時店舗を日替わりで大学に出店すると同時に、学生が自分の好きな顔で登校することを後押し。身近な大学を「画一的な流行に迎合する場」から「自分の好きを解放できる場」へとリフレーミングし、考え方と習慣を変えていく。

左: E班発表風景 右: プレゼン資料抜粋(画像は生成AIで作成)

•    着目したインサイト: 周囲の目を気にして流行に迎合することで、その画一的な美の基準の中で、変えられない自分の容姿と他者を比較し、劣等感を感じるようになってしまう。また、若者の目には、現在のコスメ広告は、それぞれ独自の世界観の表現ではなく、画一的な流行への対処をしているように見えている。
•    企画にこめた想い: 流行の中身を、「社会が決めた一つの正解を追うこと」から「一人ひとりの中にある『好き』を追うこと」に変えて、好きなメイクや顔を選んで、ときめきと自信が得られる社会にしたい。

本プロジェクトから得られた気づき: ルッキズムのジレンマを解きほぐす3つの視点

今回の学生たちの企画アイデアを通じて得られた、ルッキズムのジレンマを解きほぐし、生活者に楽しさや喜びをお届けするためにマーケターが取り入れうる3つの視点をご紹介します。

視点 1.  私たちが選び使う「言葉」は、世界を塗り替える力になる

美容の領域では、インターネットやSNSの普及に伴い、美の基準の細分化や、コンプレックスにつながる新しい語彙の増加が進んでいます。それに対してB班の学生たちは、「外見を表す優劣のない語彙(ミラータイプ)を作り、メイクを学ぶタイミングに合わせて伝えることで、若者起点でオセロのように世の中の認識を塗り替えていく」というアイデアを示してくれました。
価値観や生き方が多様化し、世界中がつながっている現代において、誰も傷つけない言葉を選ぶことはとても難しくなっています。しかし、商品やサービスのマーケティングに携わる立場の人間は改めて、自分たちが使う「言葉」の力で、世界をよりよい場所にしていくことができる可能性を信じるべきではないでしょうか。
私たちが日々の業務のなかで選び、そして広く伝えていく言葉のひとつひとつには、ルッキズムの呪縛を強化するのではなく、解きほぐしていく確かな可能性があると感じます。

視点 2.  楽しさの陰にひそむ「悩み」に目を向けることで、顧客の真の伴走者になる

メイクを通じて理想の自分に近づくことで、どんどん美容が楽しくなる一方で、逆に「すっぴんの自分を人に見せられない」という強いプレッシャーが生じている。そして、メイクに関する情報収集の容易化に伴い、その傾向が高校生にまで低年齢化している実態がD班のリサーチから示されました。
その悩みに正面から向き合う「メイクファスティング」というアイデアは、一見すると顧客単価や購買頻度を下げるアプローチに見えるかもしれません。しかし、モノと情報が溢れて差別化が難しい現代において、このような「ブランドが悩みに寄り添ってくれた」という経験はブランドと顧客との結びつきを強め、結果的に、持続可能な形でライフタイムバリュー(顧客生涯価値)の向上につながるのではないでしょうか。

視点 3. 「内側から生じるプレッシャー」を、関係性や場のデザインで和らげる

「内面までは深く理解していない関係性の中でこそ、外見への意識が最も高まり、メイクは居場所を守る生存戦略になる」「失敗と他者からの否定への恐怖が根付くと、興味があっても、メイクの試行錯誤を諦めるようになってしまう」「逸脱への不安から流行を追うことで、美のものさしが画一化し、自分に劣等感を感じるようになる」——。今回のプロジェクトでは、「誰かからの差別より、『自分の内側で生じるプレッシャー』として経験される」というルッキズムの特徴を鋭く捉えた考察が相次ぎました。
これらに対して学生たちは、「コスメを会話と相互理解のきっかけにする」「心理的ハードルの低い服のバーチャル試着から、シームレスにコスメのバーチャル体験につなげる」「大学という日常の生活圏をジャックし、自分の好きを解放し肯定し合うことを習慣づける」という、関係性や場を巧みにデザインするアイデアを考えてくれました。
5つの発表を通じて、若者たちが強く求めていると感じられたことは、内なるプレッシャーからの「自己解放」でした。学生たちのアイデアを受け、そこにマーケティングで寄り添うために必要なことは、個人の意識改革の支援や啓発ではなく、人と人との「関係性」や、心地よく振る舞える「場」そのものをデザインしていくことなのではないかと感じています。

博報堂 Woman Wellness Program について

女性の心身の健康課題に着目し、女性たち一人ひとりが長く心地よく生きていくことができる社会を目指して、クライアント企業の関連する事業・サービスなどの支援を行うプログラム。マーケティング、ブランディング、PR、ビジネス開発、クリエイティブ、研究開発などの専門性と、女性特有の心身の健康課題に関する知識を併せ持つ社員で構成。社外のコミュニティや有識者の協力を得るマルチステークホルダー型で、女性の心身の健康課題に関わる事業・サービス開発支援、マーケティング支援などを行います。
https://www.hakuhodo.co.jp/hwwp/

※肩書は取材当時のものです

杉本 奈穂
博報堂 Woman Wellness Program / 博報堂 生活者発想技術研究所 上席研究員

女性の心身のウェルネス(ルッキズム)、応援されるブランド、次世代のライフモデルなど複数のテーマを横断し、生活者意識の定量・定性調査スキルを活かして、企業やアカデミアとともに、研究知をよりよい社会をつくるためのビジネスに結びつける取り組みに従事。

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