チームで戦う強さを手に入れた髙梨沙羅選手が、次に目指すもの──アスリートイメージ評価調査インタビュー#6

スキージャンプ団体、チームとしての活躍も記憶に新しい髙梨沙羅選手。チームメンバーとの戦いは、髙梨選手にどのような影響を与えているのでしょうか。また、今年30歳を迎える節目に思うこと、環境保全活動への取り組みについても伺いました。

たくさんの人に支えられ、団体戦の苦手意識を克服できた

-この数年、団体戦の機会が増えてきたなかで、プレッシャーの違いや競技に向かう気持ちの変化はありましたか?

髙梨:今シーズンに入ってからコーチも変わり、チーム体制にも少し変化がありました。SAJ(全日本スキー連盟)全体での合宿も増えましたし、みんなと交流できる時間が増えたことで、より仲間意識が深まったように感じます。あえてチームを意識するというより、自然と「みんなで試合に臨む」という雰囲気ができあがったことが、いい結果につながっているんだと思います。
スキージャンプの団体戦は、試合当日に最終メンバーが決まるという意味でむずかしい部分もあるんですよね。バラバラに戦っているように感じられるかもしれませんが、一緒に飛ぶ機会が多かったからこそ、お互いのタイミングや雰囲気を理解することができて、すごくやりやすかった。みんなで切磋琢磨して試合に臨めた感覚がありました。

-チームとして刺激し合うことが、いい相乗効果を生んだということですね。

髙梨:そうですね。私はもともとチーム戦が苦手な方。自分が失敗したらみんなの足を引っ張ってしまう…という不安が頭から離れなくて、それが過度な緊張につながり、ジャンプにも影響が出てしまうことが多かったんです。
でも、いまたくさんの人に支えてもらいながらその苦手意識を克服することができていると感じますし、4年前の失敗は決して忘れてはいけないことですが、ひとつの区切りをつけられたと思っています。

求められるのは対応力。年齢を重ねることで体調管理もうまくなった

-ご自身としてひとつの区切りを迎え、この先目指していくのはどんなジャンプスタイルでしょう?

髙梨:女子のレベルは年々上がっていますし、道具やルールも毎年のように更新されます。その変化への対応力というのがこれから求められること。新しい環境に合わせて自分のジャンプスタイルを見つけることは、もちろんむずかしいことですが、同時におもしろくもあると感じています。

-変化を楽しめているということですね。20代後半になり、体調管理やトレーニング方法などにも変化はありましたか?

髙梨:そうですね、スキージャンプは体重が減りすぎても失格になってしまいますし、増えすぎても不利になるので、そのギリギリのラインを攻めなくてはなりません。
常に安定した体重を維持しなくていけないスポーツなので、食事にはかなり気を使います。今年30歳になる年なのですが、歳を重ねるごとにコントロールがうまくなっている感覚があるんです。
しっかりバランスのよい食事を心がけながら、そのなかで自分が食べたいものも取り入れる。栄養ももちろん大事ですが、心の栄養も大事ですよね。この歳になってそのバランスがうまく取れるようになって、おかげで体調もとてもいいんです。

-心身ともに充実した状態で2027年の世界選手権を目指されるわけですが、どのような意気込みで臨まれますか?

髙梨:やはり、応援してくださる方のためにも、スキージャンプに興味を持っていただくためにも、表彰台に乗ることが目標。メダルを持って帰れるようにがんばりたいと思います。

環境保全活動をはじめ、若い世代の支援にも力を入れたい

-現在スロベニアを拠点にされていますが、もし観光で訪れるとしたらどんな楽しみ方をおすすめしたいですか?

髙梨:スロベニアはとにかく自然豊かなところ。私が住んでいるところからもトリグラウ山という有名な山が見えて、みなさんハイキングに行って楽しまれているようです。
私も毎朝散歩に出掛けて、近くの湖の周りを歩いたり、山の方まで足を伸ばしたり。あとは、自転車を楽しむ方も多いですね。イタリアまでサイクリングルートが続いているんですよ。

-スロベニアと日本では、環境や社会に対する意識の違いを感じますか?

髙梨:大自然とともにある国なので、環境保全に対する意識は高いと思います。ジャンプ場でも再生可能エネルギーや排熱を活用している施設がありますし、日本でも競技場から変えていきたいという思いはありますね。JUMP for The Earth PROJECTという活動のなかでマイボトルの持参を推進するイベントなどを行なっているのですが、できることから積み重ねていきたいと思います。

FIS女子スキージャンプワールドカップ2026 札幌大会で行われたイベント「マイボトルバー」の様子。マイボトルを持参し「エコ活宣言」をした参加者に、無料でホットドリンクを提供した。

-髙梨選手は環境保全活動などさまざまな取り組みに参加されていますよね。
いまお話に出た「JUMP for The Earth PROJECT」について教えてください。

髙梨:温暖化にともなって雪不足が重なり、近年ではスキージャンプも人工雪で開催される試合が多くなっています。やはり天然の雪で踏み固められたバーンの方が足への負担が少ないですし、怪我のリスクを減らすことができる。次世代を担う若いジャンパーのためにも、環境を守っていきたいという想いでスタートさせた活動です。また、こういった活動を通してスキージャンプという競技について知っていただくきっかけになればと思っています。

-やはり若い世代に向けた支援というのが髙梨選手にとって大切な活動のひとつなのですね。

髙梨:そうですね。いまジュニアジャンパーのための試合をクラレ(髙梨選手の所属先)主催で開催するなど、若い選手が参加できる大会を増やしていく活動を行なっています。まだまだ勉強不足ではありますが、今サポートをしている旭川ろうあ協会との活動の幅を広げていきたいと思っています。

-アフガニスタンにランドセルを届ける活動にも参加されていますよね。

髙梨:はい。クラレが2004年から行っている「ランドセルは海を越えて」という活動で、全国から使い終わったランドセルを集めてアフガニスタンの子どもたちに送っています。
この数年毎年参加しているのですが、集まるランドセルひとつひとつに思い出が詰まっているんですよね。私自身も小学校時代を支えてくれた存在としてランドセルには思い入れがありましたし、そういった大切なものがまたアフガニスタンの子どもたちに使ってもらえると思うとすごくうれしい。今後も協力していきたい活動です。

チームで大切なのは、想いを共有すること。自分らしく恩返ししたい

-博報堂では「アスリートイメージ評価調査」という独自調査を行なっているのですが、髙梨選手は「かわいい」のイメージで上位に入ることが多く、直近の調査でも50名のアスリート中5位という結果でした。

髙梨:ありがとうございます。やっぱり小さいからですかね(笑)。152cmくらいしかないので、かわいいサイズ感ということなんだと思います。海外では子どもに見られることが多いので、お酒を買うときは必ずパスポートが必要…。でも、プラスに考えれば若く見られているということなので、これからもキープできるようがんばりたいと思います(笑)。

-さきほど体調管理がしやすくなったというお話もありましたが、年齢を重ねることでいい意味で変化しているという印象を受けました。

髙梨:そうですね。昔は「こうでなきゃいけない」「こうあるべきだ」という考え方が先行していて、調子が悪くても決められた時間までに起きる、決められたことをやる、ということを優先していたんです。でもやっぱり体調的にむずかしいこともあって。そんなときは、無理せずできることをやろうと、身体と相談しながら調整できるようになってきました。そういう余裕が生まれたことで、体調もうまくコントロールできているのだと思います。

-競技に対しても「対応力」というお話をされていましたが、ご自身としては変化を楽しめるタイプだと思いますか?

髙梨:昔は不安で、すべてを決めてやりたいタイプだったんです。何時にこれをやって、とルールを決めるのもそうですよね。でもいまは、自分の体調やまわりの状況を見ながら柔軟に考えられるようになってすごく楽になりました。それもやはり、たくさんの経験をさせていただいたからだと思います。
実は、こういうインタビューの場も苦手で…。はじめは質問に対して「はい」か「いいえ」しか答えられなかったんです。でも何度も機会をいただくなかで少しずつお話しできる幅も増えていったので、やはり苦手なことも繰り返し経験することが大事だと思います。

-若い世代とともに戦う機会も増えてきたと思います。チームとして支え合うために意識していることや、今後チャレンジしたいことなどありますか?

髙梨:その場をいっしょに楽しむことが大事だと思うので、想いを共有することを大切にしています。
自分の気持ちを自分のなかに留めるのではなく、ちゃんと伝える。自分が思うことを伝えれば相手も同じように気持ちを伝えてくれるし、そうすることで共通認識の幅が広がっていくんですよね。団体戦でいい結果を残せたのも、日々想いを伝え合っていたからだと思います。
女子ジャンプはそれほど歴史の長いスポーツではありませんが、諸先輩たちのおかげでここまで世界で戦える機会を増やしていただきました。私も同じように競技を引っ張っていく存在になりたいですし、そのために子どもたちの環境を整える活動に力を入れていきたいです。自分にしかできないやり方で、スキージャンプへの恩返しをしていきたいですね。

「慌てず 焦らず 諦めず」は髙梨選手が高校時代から大切にしている言葉。

髙梨 沙羅

小学2年生からジャンプを始め、2011年2月のコンチネンタルカップにて国際スキー連盟公認国際ジャンプ大会での女子選手史上最年少優勝を果たす。その後、FISワールドカップにおける4度の総合優勝などを経て、18年平昌冬季五輪では銅メダルを獲得。FISワールドカップでは男女を通じて歴代最多の63勝、また女子歴代最多116回目の表彰台に立つ偉業を成し遂げた。ミラノ・コルティナ五輪では、混合団体で銅メダルを獲得。

Xでシェア Facebookでシェア