行政トップの隣で、クリエイターは何をするのか
──陸前高田市×博報堂、新しい地方創生の現場

2011年の東日本大震災で大きな被害を受けた岩手・陸前高田市。震災後、復旧・復興が進められてきたその場所から、未来に向けたチャレンジとして、民間企業やアカデミアと連携して地域から新しい価値を生み出す取り組みが始まっています。今回、2025年に締結した陸前高田市と博報堂の「地方創生に関する包括連携協定」と、それを基盤に進められているさまざまなプロジェクトについて、陸前高田市の佐々木拓市長と、市長付き政策アドバイザーである博報堂の北川佳孝に話を聞きました。

佐々木 拓氏
陸前高田市長

北川 佳孝
博報堂 戦略クリエイティブ・ディレクター

半年間にわたる緻密なコミュニケーション

──陸前高田市と博報堂が地方創生に関する包括連携協定を締結したのは、2025年9月でした。この協定が結ばれた経緯をお聞かせください。

佐々木
東日本大震災後、陸前高田市は主にインフラや施設の復旧、あるいは被災された方々のケアに注力してきました。しかし震災から10数年が経って、そろそろ次のステップに向かうべきではないかと考えたときに、陸前高田の以前の明るいイメージが思い起こされました。青い海が広がり、漁業が盛んで、海水浴場があって、夏になるとたくさんの観光客が訪れる──。そんなイメージです。

そのようなイメージをもう一度取り戻したいと考え、昨年くらいから大学や民間企業との連携を模索する動きを始めました。その中でご縁があったのが博報堂の皆さんでした。博報堂は、地方自治体や民間企業とともに地方創生に取り組んできた豊富な実績があるとお聞きました。その経験をぜひ陸前高田でもいかしていただきたい。そう考えたのが、包括連携協定締結のきっかけです。

北川
震災の記憶や記録は、後世にいつまでも引き継いでいくべきだと思います。一方で、未来に向かって進んでいく取り組みも重要です。佐々木市長と初めてお会いしたとき、ぜひこれからの陸前高田のビジョンを聞かせてくださいとお願いしました。

その後半年間にわたって、市長の思いを毎日のようにお聞きし、率直な意見をお伝えするキャッチボールを続けてきました。「市長付き政策アドバイザー」というポジションをいただきましたが、僕から何かをアドバイスをするというよりも、いろいろなお話を聞いて、細かなブレインストーミングを繰り返す。そんな半年間でした。

──この間のコミュニケーションで印象に残っているのはどのようなことですか。

佐々木
目から鱗が落ちる場面がたくさんありましたね。私自身やりたいことは山のようにあるのですが、それを市役所の職員や市民の皆さんにどう伝えていけばいいか悩んでいました。しかし、北川さんにアドバイザーになっていただいてからは、私のアイデアをお伝えすると、それをどう表現すればいいか、どうPRすればいいかといった意見をその都度いただけるようになりました。「なるほど、そうすればいいのか」と気づかされることばかりでした。

北川
コミュニケーションを始めてすぐに、市長が素晴らしいアイデアマンであることがわかりました。以前は農林水産省や外務省で働いていらしたこともあって、国の仕組みもよくご存知ですし、独自のネットワークもお持ちです。だからこそ、いろいろなアイデアが次々に出てくるのだと思います。

僕にできることは、そのアイデアの壁打ち役になって、整理するお手伝いをすることでした。熱い思いがこもった発想を整理し、市長に投げ返す。そんな役割に徹しようと僕は思っていました。

「ブルーテック三陸」という新しいビジョン

──対話から生まれた成果についてもお聞かせいただけますか。

佐々木
先日発表した「ブルーテック三陸」構想。これはまさに、北川さんとの対話の中から生まれたものです。先に触れたように、陸前高田では企業や大学などとの連携を進めてきました。従来の水産業、農業、林業などの枠にとどまらない、広がりのある取り組みをしたいという思いが私にはありました。それを形にしたのが「ブルーテック三陸」構想です。

この構想には、水産、農林、防災、観光、環境、IT、医療の7つの領域が含まれます。具体的には、ITを活用した水産加工業における無人化や省力化、海中の藻にCO2を吸収させる「ブルーカーボン」の仕組みづくり、海洋分野での先端技術の創出といった取り組みを今後進めていきたいと考えています。

北川
岩手県の内陸部では、自動車や半導体といった産業を誘致する「北上川バレープロジェクト」が進んでいます。そのプロジェクトが進められているエリアには、新幹線駅があってアクセスしやすいというメリットがあります。一方、沿岸部の陸前高田はアクセスの面では不利ですが、豊かな海洋資源や環境に恵まれています。また、被災の経験があるので防災に対する高い意識もあります。「ブルーテック三陸」は、その可能性をトータルに表現した構想です。

「ブルーテック三陸」構想には、陸前高田という一自治体に収まらないスケールの大きさがあります。三陸海岸というエリアには陸前高田以外にも自治体があり、それぞれが一次産業や雇用など、共通の課題を抱えています。同じ悩みを持った自治体が一緒に課題解決に取り組んでいこうというビジョンがこの構想には含まれています。またその取り組みが、日本のさまざまなエリアの地方創生のヒントになるだけでなく、世界的に見ても課題解決の先進事例になる。そんな見通しをもって、構想を進めるお手伝いをしています。

──すでに具体化している取り組みはありますか。

佐々木
構想のイメージとしては、先端技術を使った養殖システムのプロジェクトがまず挙げられると思います。これはニッスイが進めているものですが、令和8年3月に本市と協定を締結した東京大学生産技術研究所にも、今後何らかの形でプロジェクトに加わっていただき、システムを運用しながら、そこから見えてきた課題を現場目線や学術的視点から解決していけたら良いと考えています。

もう1つ、先ほど触れたブルーカーボンの取り組みを理研食品と一緒に進めていくプランもあります。同社はこれまでも陸前高田の特産であるワカメの加工や、青のりの陸上養殖などに取り組んでいました。その技術を藻場の再生に活用してCO2の吸収を促進させるプロジェクトが今後具体化していく見込みです。

──観光に関連するプロジェクトにも可能性がありそうですね。

佐々木
震災後から三陸エリアで開催されてきた自転車のサイクリングイベント「ツール・ド・三陸」は、今年で15回目となります。その実行委員会が「ブルーテック三陸」構想に賛同してくれました。このイベントは、三陸の海や自然の美しさを体験していただく絶好の機会となると考えています。具体的な連携の形はまだ決まっていませんが、実行委員の皆さんと力を合わせて三陸の観光を盛り上げていきたいと思います。

北川
「ブルーテック三陸」構想の7つの領域には、それぞれ大きく広がっていくポテンシャルがあります。博報堂がもつネットワークをいかして、さまざまな企業、自治体、大学などとのつながりを積極的に模索していきたいですね。

夢を実現させるためのパートナーシップ

──地方自治体と博報堂のような広告会社がコラボレーションすることには、どのような意義があるとお考えですか。

佐々木
地方自治体にはさまざまな課題があります。実現したい夢もたくさんあります。
しかし、それらの課題をどう解決し、夢をどう叶えればいいかわからず、あきらめてしまうことが少なくありません。しかし、北川さんと話を重ねる中で、力強いパートナーがいれば、あきらめずにいろいろなことを実行に移せると知りました。苦手なことがあるなら、それを得意とする方々に助けていただければいい。そんなことを学ばせていただけたことが、このコラボレーションの大きな意義であると感じています。

北川
僕たちは、広告会社のクリエイティビティを地域創生に役立てる機会をいただいたと捉えています。例えば、「地方の魅力を発信するブランドムービーをつくる」というのも、クリエイティビティを発揮する一つの方向性ですが、陸前高田市との連携では、また違った形のコラボレーションを実現できていると感じています。

市長の豊かなアイデアをいわばクリエイティブに受け止めて、整理をしたり、編集したり、生活者視点を加えたりして、具体的な形にしていく。市長の思いの「種」から「芽」が育っていく道筋を考えていく──。それが、このコラボレーションで発揮されているクリエイティビティであると僕は考えています。その力を発揮させていただける場面は、今後さらに増えていくはずです。

──パートナーとしての博報堂の力をどう感じていらっしゃいますか。

佐々木
あらゆることを受け止めてくださる守備範囲の広さ。それが博報堂という会社が持つ力だと感じています。自信がないアイデアや、実現は難しいと思っているアイデアでも、北川さんと話をすると、必ず前向きなコメントを返してくださいます。物事を常にポジティブに捉える姿勢が素晴らしいと思います。

北川
市長の一つ一つのアイデアに大きな可能性があるからこそ、ポジティブなリアクションができる。そういうことなのだと思います。その可能性を絶対に無駄にしたくないというのが僕の強い思いです。


──コラボレーションはこれからも続いていきます。今後に向けた意気込みを最後にお聞かせください。

北川
陸前高田は「壮大な未来生活の実験場」である。そんな話を市長とよくさせていただいています。「ブルーテック」構想に賛同し、この「実験」に加わってくれる企業、団体、人材を見つけていくことが僕たちの大きな役割の1つです。東北博報堂を含む博報堂DYグループの力を合わせ、仲間を増やしていき、陸前高田の地元はもちろん、日本の各地方や世界に貢献できる成果をどんどん生み出していきたいですね。

佐々木
「ブルーテック三陸」構想がまとまったことで、新しい扉が開いたという確かな手応えがあります。地元の皆さん、企業や大学の皆さんの力をお借りしながら、ここから未来に向かって一歩一歩進んでいきたいと思っています。
北川さんや博報堂の皆さんには、今後もぜひパートナーとして伴走していただきたい。そう考えています。

佐々木 拓氏
陸前高田市長

昭和61年に東京水産大学を卒業後、昭和62年に農林水産省へ入省。在ロシア日本国大使館一等書記官、農林水産大臣政務官秘書官、石川県農林水産部次長、国立研究開発法人水産研究教育機構経営企画部長、水産庁九州漁業調整事務所長、農林水産省水産庁参事官などを歴任し、令和5年2月に陸前高田市長に就任。長年にわたり農林水産行政、国際業務、地域振興に携わる。

北川 佳孝
博報堂 戦略クリエイティブ・ディレクター

企業のクリエイティブ/コミュニケーション業務に加えて、多くの産官学連携プロジェクトに携わり自治体のブランディング/戦略立案経験を積む。AIなどデジタル技術を活用したSaaS事業を社内で立ち上げて企業広報領域のDXを推進。多摩美術大学にて「ソーシャルデザイン」講師(2014-2015年) 。主な受賞歴 ADFEST/ MAD STARS / PRアワードグランプリGold /Marketing Excellence Awards Singapore / The DRUM Awards 等

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