ヒット習慣予報 vol.408『あえてのスローダウン』

こんにちは。ヒット習慣メーカーズの楠田です。

「どう?最近忙しい?」
たまに会う職場のメンバーと会うと、だいたい、挨拶の後にこの会話になるなぁ、なんて思っています。AIが浸透して、これまで以上に「効率化」が進み、タイムパフォーマンスを追求した結果として、多くの時間を手に入れられるはずであるにもかかわらず、逆に、これまで以上に疲労感や焦燥感を抱える人が増えてきているのではないでしょうか。

そんな中ですが、新たな兆しも生まれつつあります。「早くできることを、あえて時間をかけてゆっくりやる」です。つまり、これまでのタイムパフォーマンス、早く終わらせることを手放し、ゆっくり取り組むことで、心身のパフォーマンスの向上だけでなく、仕事の質の向上にもつながるのだそうです。そこで、今回はこの事象を、「あえてのスローダウン」と名付けて、いくつかの兆しを紹介していこうと思います。
ちなみに「スロー」に着目して、Googleトレンドで検索をかけてみると、2026年に入って、注目度の高まりが見られています。これは、「スローライフ」をテーマにした、ゲームが注目を集めた結果ではあるのですが、スピーディーな暮らしではない、スローな暮らしへの憧れの表れ、とも言えるのではないでしょうか。

出典:Google トレンド(「スロー」で検索)

まず、1つ目の事例は、「スローダウン・ワーク」です。
冒頭でも少し触れさせていただきましたが、仕事において、効率よくテンプレートやAIを活用すれば、1時間で終わるかもしれない企画書や資料作成に対して、あえて半日熟考するための時間を用意して取り組む、というものです。そうすることで、一行一行の言葉のニュアンスの調整だったり、論理の飛躍だったり、を手作業でじっくり探ってみることができるため、より納得感を高め、質の高い提案につながるようです。実際に、いつも忙しく働いている知人も、時間をとるものと、取らないものをわけて取り組むようにしているとのこと。最終的なアウトプットは変わらないように見えるかもしれないけど、時間を取ることで、自分の思いがより乗ってくるから、その熱量が相手にも伝わるのかもね、と話していました。今後は、AIなどを活用してスピーディーに取り組んだほうがいいことと、ペースダウンして考えたほうがいいこと、を見極めていくことがより必要になっていくのかもしれません。

続いて、2つ目の事例は、「スローダウン・ジョギング」です。
夏に向けて、ランニングを始めたりしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな中で、今注目を集めているのが、歩くのと同じくらいのスピードで走ることだそうです。足の裏が地面に接地する感覚や、筋肉の動く感覚、自分の呼吸のリズムなど、カラダの反応に意識を向けるようです。最近、朝ランを始めた後輩もこの方法を取り入れているようで、この方法で取り組むことで、走り終えたときに、息が上がらず、ジョギング後や翌日の疲れも全然違うようです。また、疲れていないのに、長い距離が走れるようになるなど、達成感にもつながっているようです。早く走るのではなく、怪我のリスクを減らし、心身のパフォーマンスアップに繋がっていくのだそうです。最初は、走り方をマスターするのに、結構苦労するようですが、次第に、気にしなくてもその走り方ができ、とても爽快な気持ちになれるようなので、いつもはしんどくて挫折してしまう私ですが、一度、やってみようかな、と思っています。

そして最後に、3つ目の事例は、「スローダウン・エンタメ」です。
今、1.5倍速などで、動画を視聴している方が多いかと思います。その一方で、0.8倍速で楽しむ、という方も出てきているのだそうです。自身の好きな動画を何度も見る中で、この動画のこの部分をもっと良くみたい、だから、0.8倍速で見て、その映像の中の細かな表現やクリエイターのこだわりを感じ、より深みにハマっていくのだそうです。実際に、SNSを見てみると、とある長尺のCMで流れていってしまう部分を、0.8倍速で見て、その映像に込められた情景に思いを馳せたりすることで楽しまれている方もいらっしゃり、そうすることで、好きなシーンがより好きになった、なんてことを投稿され、反響を呼んでいました。私は、基本1倍速でしかものを見ていないことが多いのですが、いろんな倍速で楽しむことで、エンタメの可能性も広がっていきそうですよね。

では、なぜこのような「あえてのスローダウン」が注目を集めるようになってきているのでしょうか。その理由を大きく2つあると思います。1つ目は、「スピード重視への疲れ・嫌気」にあると思います。タイムパフォーマンスや効率化、と言われすぎており、そればかりになることへの飽きを示す人が増えてきているように感じます。スピードを重視するあまりに、ある程度自分の中で妥協してしまっていることもあるのではないでしょうか。そんな自分に対する不満や不安から、あえてのスローダウンへの注目が集まってきているのではないでしょうか。そして2つ目は、「効果実感ニーズ」にあると思います。AIが浸透していくことや、効率を求めていくことで、細やかなことに気づけなかったり、自分の手元で扱っている感がなくなっていたりするのではないでしょうか。そうすると、自分が関わることの意義を見失ってしまったり、目的がわからなくなってしまったりすると思うので、それに対して、自分自身が、より手触り感のある効果実感を求めているのではないでしょうか。

では、最後に「あえてのスローダウン」にどのような可能性があるか、新たなビジネスチャンスを少し考えてみました。

【「あえてのスローダウン」のビジネスチャンス例】
■ 「スローダウン・トレーニングプログラム」として、極端にスローなペースでの動きを義務付けたトレーニングプログラムを前提としたジムを開設。
■ 「スローダウン・タクシー」として、法定速度や最短ルートではなく、より景色の良いところや、より心地よい揺れを感じられるものとした観光タクシーサービスを開始。
■ 「スローダウン・ドリンク」として、スローダウンして取り組むときにピッタリのドリンクを飲料メーカーが開発。
など

私自身もいつもは、いかに短い時間でパフォーマンスを出すか、に取り組んでいますが、それだけではなく、たまには、あえてスローダウンして、物事に取り組み、向き合うことで、より自分の取り組んでいることの解像度を高めていくことも戦略的に時間をとっていくようにしたいな、と思いました。

▼「ヒット習慣予報」とは? 
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。 
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

楠田勇輝(くすだ・ゆうき)
関西支社 関西MD局第二プラニングチーム / ヒット習慣メーカーズ メンバー

2011年 博報堂に入社。
入社以来、マーケティング職に従事し、お得意先や世の中の課題と向き合う。基本、テレビっ子。ドラマと、阪神タイガースをこよなく愛し、阪神の勝ち負け次第で翌日の気分がちょっと違う虎吉。

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