何と組んでもおもしろくなる「掛け算の相手」になりたい|Next Creativity Map Vol.30 西出壮宏

企業のコミュニケーションやマーケティング課題に、さまざまな「得意技」でクリエイティビティを発揮する博報堂のクリエイターやマーケター。連載「Next Creativity Map」では、クライアントの課題に寄り添い、解決、変革へと導くランドマーク人材にスポットを当て、その「技」を解き明かします。第30回は、コピーライター/ディレクターの西出壮宏。おもしろいものをつくるためには決まったやり方にこだわらない、と語る西出が、自身のクリエイティブにおいて大切にしていることとは?

アウトプットの手法は何でもいい。言葉は全領域で必要だから。

-2016年の新卒入社ということですが、広告業界をめざしたきっかけは?

西出:子どもの頃からものをつくることが好き。でもそれを何の仕事に活かせるかわからなかったんです。中高と理系に強い学校に通っていたこともあり、ものづくりに活かせるなら建築では?と考えて大学は建築学科に進学しました。意匠設計を専攻したのですが、あるとき教授から「君のものづくりは建築より広告に向いている」と言われたんです。
それまで建築家になろうと思っていたので、はじめは「え!?」という感じですよね。でも考えてみれば、博報堂の先輩が幼稚園のディレクションを手がけるなど、建築と広告はゆるやかにつながりはじめていたんです。そこから広告を意識するようになって、インターンにも参加しました。いろいろ学ぶうちにわかったのが、コンセプトや企画をつくる作業において、課題解決思考で、建築と広告はすごく近いということ。建築のアウトプットは空間が主ですが、広告は出口が無限。そこがおもしろいし、自分の志向にあっていると感じました。

-入社してからのキャリアは?

西出:初年度からコピーライターとしてTBWA\HAKUHODOに出向しました。当時はデジタルインタラクティブな環境も成熟して、バズ動画のようなものが流行ったり、広告の領域が大きく拡張しはじめた頃でした。いわゆる新聞広告のコピーを書く、CMのコピーを書くというような仕事ではなく「WEBで何かおもしろいことをやってほしい、ソーシャルでファンを増やしてほしい」といったお仕事が多かったんですよね。僕はコピーライターとしていったい何をすればいいんだろう、という暗中模索のような状況でしたが、普通であればコピーライターがいなそうなところにあえて身を置いているうちに、どんなところでもコピーライターは必要とされるんじゃないか?と思うようになりました。
そういう雑食的な仕事のなかで、なんでも面白がれることはある意味僕の強みになっているのかもしれません。映像系が強いクリエイターは自然とCMをつくることを出口に考えると思いますが、僕にとって出口は何でもいい。目的と手段とを柔軟に考えられるようになったのは、このときの経験が大きかったと思います。
TBWA\HAKUHODOは、 Disruption®︎(創造的破壊)を掲げて、世界の慣例や習慣を打ち破るアイディアを生み出すことを大切にする環境。これって広告なの?という領域を広告と呼べるようにしてきた集団です。広告の技術を使って社会課題に向き合い、チャレンジングな姿勢で取り組む先輩の背中を見ながら育った期間でした。

「つくる」の3つのレイヤーを大切に。意外性のある人と仕事をしたい

-クリエイティブな環境に身を置くことで得たものは?

西出:つくるに向き合うプロフェショナルが、チームでものづくりをすることのおもしろさですね。建築学科で学んでいるときもそうでしたし、広告の仕事をするようになってからも、みんな「あのビルは自分がつくった」「あの広告は自分がつくった」って言うんです。いろいろな携わり方があるけれど、みんな「自分がつくった」と言いたくなる仕事ってすごく素敵じゃないですか。
博報堂でたくさんの先輩を見てきて、いろいろな「”つくる”のレイヤー」があることを学びながら、自分はどんなことができるだろう、何をやっていて楽しいんだろうと考えながら仕事をするようになりました。
いま仕事で意識していることは、「価値を創る/コンセプト」「構造を造る/統合設計」「届く広告を作る/クリエイティブ」という3つのレイヤー。ケースバイケースではありますが、どのレイヤーにおいても自分の常識だけでつくらないということは大事にしていますね。
自分と同じ視点に立たない、いい意味での意外性や、違和感のある人と仕事をしたい。広告のいいところはクライアントやプロジェクトの数だけいろいろな人と仕事ができることだと思うんです。しかも、結構同時にかなりの数をこなします。この人といっしょに仕事したいな、というチームを無限につくれる。たくさんの人と出会えて、たくさん学べる、とても稀有な仕事だと思います。ひとつの勝ちパターンをつくって戦うより、一生いろいろな人と仕事をしていたいという気持ちが強いですね。

7年間クライアントのあらゆる部署のお仕事を経ての「エムット」のクリエイティブディレクション

-具体的にはどのような業務に携わってきたのでしょう?

西出:最近の仕事では、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のサービスブランド「エムット」のクリエイティブディレクションをさせていただきました。MUFGは7年前からコピーライターとして担当していたクライアント。僕はWEB広告などの仕事を担当していたのですが、広告・広報まわりのほとんどのセクションの方とご一緒するくらいたくさんの仕事をさせてもらっていました。
金融業界は広告に関わるルールも厳格で、当然信頼を失うような提案はできません。でも何か面白いことができるんじゃないかと思って、「こんなのどうですか?」と自主提案をしつづけていたんです。外からだからこそ、銀行の方々にとっては毎度新鮮な提案をしていた……というか、むしろ心配されていたかと思いますね。あらゆる事情を無視したものを「面白いですよね?」と当時の私は笑顔で無邪気に話していたので……。
その後、グループのリテールブランドを統合する構想が立ち上がったのをきっかけに、クリエイティブディレクションを任せていただけることになりました。

-どのような課題感からスタートしたプロジェクトだったのでしょう?

西出:クライアントが抱いていた課題感は、銀行や決済、証券などさまざまな金融サービスが個別に存在していて、十分なシナジーが生み出せていないことにありました。それらを統合し、ひとつの輪をつくるためにはどのようなブランド設計をすべきか。複数部署の意思決定層と実務リーダーを集めて週一の定例会議を開き、半年かけてこの根本に向き合うことからスタートしました。
「誰も取り残さない金融サービス」というと、一見よくある言葉のように思えますよね。でも、MUFGという日本最大規模の金融グループが言うと、その言葉の重みが変わってくるんです。本当の意味で「”誰も”取り残さない」ことを目指して、本気で取り組んでいるんです。
会議を繰り返す中で生まれたのが「お金と仲良くなる」というコンセプトワードです。お金って誰にとっても大切なものなのに、むずかしいし、人とも話しにくいものですよね。それを友だちのように親しみのあるものにしよう/やさしくも期待の持てる金融サービスというコンセプトが、そのままCMなどのクリエイティブにも生かされています。

西出:一つは、ヒアリングした話をこちらでまとめて提案するというより、編集会議のようにその場で話しながら進めることを大事にすること。二つ目は、出口をイメージして、あらゆる立場のプロの意見を聞いて、言葉を作ってみること。三つ目は、とにかく自分が一番汗をかくこと。もちろん事前に色々とお互いが考えていることを持ち寄り、議論はするのですが、紙とペンを用意して、「こんな感じですか?」と全員が同じ方向を向ける言葉をつくっていく。一応、真ん中に立たせてもらう責務として、誰よりも考え、誰よりも資料をつくり、誰よりもクライアントとサービスを知っておく。
メディアプラナーの視点、CMプラナーの視点、アートディレクターの視点、営業担当者の視点、クライアントの視点。いろんな視点がかけ合わせると面白いですよね。みんな立ち上がってひとつのテーブルを囲んで話し合っていきました。そうやって合議制で決めていくので、自然と全員のマインドセットがいっしょになって、その後のネーミングやタグラインなどスムーズに決まっていきますし、スタッフのみんなも、クライアントの一人ひとりも「自分がいっしょにつくった」と実感できる仕事になったと思います。もちろん実際はそんなキレイ事ばかりではなく、色々な事情があったり、泥臭かったりすることは多々ありますが、いい仕事はこうあるべきだと思いますし、クライアントのみなさまとも緊張感がありつつも、すごく距離の近いチームになれたことに感謝しています。

クライアントとの共創で生まれるシナジー。あらゆる「掛け算」にチャレンジしたい

-クライアントと二人三脚で並走したことで得られたことは?

西出:テレビCMもフレームがあるものを設計したので、いまはクライアントサイドから「こんな課題があるのでこういうことできないですか?」という企画のアイデアが出てくることもあったり、「三兄弟にこうさせたい!」という意見が出たりと、もうみんながアイデアを出す凄まじい現場になっています。これは、近くで共にやってきたからこそ、僕ら側の戦略やクリエイティブに対する視点も理解してくれ、こちら側に歩み寄って頂けている証。もちろん僕らもプロとして並走する立場として、クライアントのステータスや数字的な部分を十二分に歩み寄り理解しなきゃいけない、というプレッシャーもあるのですが、一般的な広告会社とクライアントの関係ではなく、一から十までいっしょにつくったからこそ生まれたシナジーだと思いますね。お互いの立場で目線を交換できたことが大きかったと思います。

-西出さんの強みを活かしてこれから取り組んでいきたいことなど、展望を教えてください。

西出:広告の仕事はマーケティングの課題に答えること。でも、マーケティング課題の前には事業の課題があり、僕ら生活者には生活者の課題があります。課題を解決するのが広告の仕事だとしたら、僕らにできることはもっとたくさんあるはずだと思っています。
先ほど、いろいろな人と仕事をしたいという話をしましたが、僕はおもしろいものをつくるために、決まったやり方にこだわらないタイプ。何と組んでもおもしろくなる「掛け算の相手」になりたいという気持ちはありますね。広告業界には「コピー&アート」という文化がありますが、もっといろいろな掛け算があり得ると思っていますし、そのチャレンジを楽しみたい。他のクライアントのお仕事でも、メディアプラナー起点に統合設計を考えた方が面白くなった仕事や、音楽が肝だと思えば、音楽プロダクションのプロを最初から打ち合わせに呼んだりしました。広告プラニングってチームで作ることが基本だからこそ、自分に来たお仕事のときは「チームの原子核は面白くなりそうな組み方を」と常に意識しています。
偉そうなことをたくさん話してしまった気がするので、最後に一言。「お金と仲良くなる」と書いた以上、「みんなで仲良くなる」そんな仕事をどんどん作って行きたいなと思って生きています。

西出 壮宏
博報堂 クリエイティブ局 コピーライター/ディレクター

1991年、京都で生誕。横浜国立大学大学院建築学修了。2016年、博報堂に入社。その後TBWA\HAKUHODOへ4年間出向。現在は博報堂クリエイティブ局所属。商品・サービス・ブランドを深く知り、長く太く育てていきたいです。統合的なコミュニケーション設計を一つ一つ汗をかき、泥水を啜ってでも、丁寧に作っていきます。TCC審査委員長賞、新聞広告賞グランプリ、Cannes Lions Bronzeなど受賞。

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