未来を担う若者たちが、2050年の「縮小日本」で創造したい新しい豊かさの形【未来洞察 共鳴ノート #01】

AIの急速な進展や地球規模の環境危機など、不確実性と非連続性がかつてないほど高まる時代。未来を予測し「正解」を求めることがますます困難になっています。その中で、博報堂 生活者発想技術研究所の「未来洞察」プロジェクト(以下、未来洞察プロジェクト)は、産官学民のみなさまと共に、組織や立場を超えて多くの人が「共鳴」し、共につくりたいと思える未来像とその共創関係を育むことに挑戦しています。 「未来洞察 共鳴ノート」シリーズでは、未来洞察プロジェクトの探究と実践の紹介を通して、「共鳴しあう未来」を生み出すためのヒントを紹介していきます。第1回は、「けいはんな大学 未来洞察ゼミ」における産学連携の実践を、活動報告レポートから抜粋してご紹介します。

▶︎ レポートはこちら:未来洞察 Resonance Report #1

「タイムマシンに相乗りして、共鳴しあう未来を見つけにいこう」

博報堂の「未来洞察」は、よくある未来予測やトレンド分析とは少し立ち位置が異なります。過去から現在までの出来事から線形に予測される未来(未来事象)と、非連続で不確実性の高い変化の兆し(未来兆し)を掛け合わせて、未来の機会(未来シナリオ)を描き出す点に特徴のあるシナリオプランニング手法です。そのプロセスにおいて共創ワークショップ形式を取り入れ、とかく効率化・自動化が謳われがちな現代において、あえて「泥臭く」議論を積み重ねていく点も大きな特徴です。このようなプロセスを重視する理由は、私たちが「効率的で『正しい』未来予測」よりも、未来像に対する「共鳴」と、その未来を実現するための「共創関係」を育むことを重視しているからです。

 「未来洞察」の基本ステップ

私たちは、この体験をタイムマシンの旅に見立てて、「タイムマシンに相乗りして、共鳴しあう未来を見つけにいこう」を合言葉に、産官学民のみなさまと共に「共鳴しあう未来」を生み出すための探究と実践を積み重ねています。このプロジェクトが25年以上に渡り取り組んできた未来洞察手法の概要と、その実践の中から見出した「共鳴」を生むための知見のエッセンスは、メソッドブック『未来洞察 Resonance: 共鳴しあう未来のつくり方——「相乗りタイムマシン」に乗ってみよう!』として一般公開しています。

参考:博報堂、25年来の未来洞察の知見を凝縮した初のメソッドブック『未来洞察 RESONANCE』を公開―「共鳴」を鍵に、未来に向けた産官学民の対話と共創を支援―

「縮小」していく日本に必要となる、従来とは異なるアプローチでのオルタナティブな豊かさの探求

2025年6–10月、未来洞察プロジェクトの根本 かおり、杉本 奈穂、松尾 奈奈は、「けいはんな大学*1」を主催する駒井章治氏(東京国際工科専門職大学 教授)との共同研究として、24名の学生(※部分的な参加を含む)と共に「けいはんな大学 未来洞察ゼミ」に取り組みました。

ゼミにおける未来洞察のテーマは、「2050年の『縮小日本』で、私たちが創造したい次の豊かさ」。このテーマ設定の背景には、「人口が減少し縮みゆくこれからの日本においては、これまでの常識や価値観に縛られないアプローチでのオルタナティブな豊かさの探求が急務である」という駒井氏の強い危機意識がありました。未来を担う学生のみなさんに、「相乗りタイムマシンの旅(=未来洞察)」を通じて、ぜひともその当事者意識を持ってほしいという想いから、このゼミはスタートしました。

この難しいテーマに対して、学生たちが選んだ具体的なトピックは、「コミュニケーションと学び」「コミュニケーションと居場所」「コミュニケーションと政治」。これら3つの分科会に分かれて、夏季休暇期間を除く約4ヶ月間に渡り毎週取り組んだゼミ活動での議論に加えて、9月に開催された4日間のイベント「けいはんな大学サミット*2」を通じて、新たな学生参加者17名および講師・メンターを務めた研究者や実務家15名の意見も取り入れ、合計6つの「未来シナリオ」が生み出されました。

*1「けいはんな大学」: 未来の当事者である若者たちが、けいはんな学研都市(関西文化学術研究都市)を舞台に、スタートアップPoC課題の支援、都市交通の実装など様々な活動に取り組んでいる共創プラットフォーム。
*2「けいはんな大学サミット」: 未来洞察ゼミの一環として2025年9月8–11日に実施された、「けいはんな万博 2025」(大阪・関西万博と同時期にけいはんな学研都市で開催)内のイベント。ワークショップ形式で「未来シナリオ」のアップデートに取り組んだ。

学生が描いた6つの「未来シナリオ」——2050年の縮小日本で、私たちが創造したい次の豊かさ

「コミュニケーションと学び」の未来

現在の知識偏重になりがちな学びから、感情を理解し寄り添うAIの力も借りて、一人ひとりの人間性・創造性を大切にする学びにシフトしたい。一度卒業したらなかなか学び舎に戻る機会がないといった固定化されたライフコースを打破し、生涯に渡り学ぶことから生きがいを感じられる社会をつくりたい。そんな想いから生み出されたシナリオです。

「コミュニケーションと居場所」の未来

MR(Mixed Reality、複合現実)技術を活用することで、生まれた環境や身体的な制約に左右されずに、それぞれが自分にとって最も心地のよい居場所を常にまとい、それを他者とも共有できるようになりたい。動物と人間の言葉が通じ合うことによる、人間だけが中心にいる社会ではない、あらゆる生物を尊重した居場所づくりを実現したい。そんな想いから生み出されたシナリオです。

「コミュニケーションと政治」の未来

声の大きな多数派への対応の偏りや、何か問題が起きてから動く対症療法的な政策立案ではなく、誰一人取りこぼさない先回りの政策立案を実現したい。政治の他人事化や(よく分からないままに参加する)形式的な投票行動を減らすために、メタバースを活用して、気軽に、かつ深く政治参加できる環境をつくりたい、という想いから生み出されたシナリオです。

相乗りタイムマシンの旅が生んだ「共鳴」

「未来洞察」のプロセスに参加した学生のみなさんからは、「専門分野が異なるメンバーで意見を交換することで、視野が広がり新しい切り口が生まれることを実感した」「人口減少や経済縮小を前提にした『豊かさ』をあえて考えることで、非経済的価値の重要性に目が向くようになった」「未来を起点にして考えるワークを、自分の研究やサークルにも応用して実践しようと思った」など、「共鳴」や「共創関係」の輪の広がりが感じられる感想をいただきました。

また、共同研究者の駒井氏、および「けいはんな大学サミット」のメンターを務めていただいた安藤悠太氏(立命館大学)、杉谷和哉氏(岩手県立大学)、水瀬ゆず氏(株式会社ゆずプラス)(五十音順)からは、「共鳴しあう未来」を模索する学生たちの取り組みに向けた温かいメッセージを寄せていただきました。その一部を、要約してご紹介いたします。 ※ メッセージの全文は、ぜひレポートをご覧ください。

● 駒井 章治 氏(国際工科専門職大学 情報工学科 教授)
未来洞察ゼミを通じ、学生たちは縮小社会を「新しい豊かさの始まり」へと軽やかに書き換えました。テクノロジーの利便性以上に、人間の「欲求」や「手触り感」、「個の実現」を大切にする議論は、大人の既成概念を揺さぶる、切実かつ希望に満ちたものでした。描かれたシナリオは、私たちが歩むべき未来へのコンパスです。

● 安藤 悠太 氏(立命館大学 政策科学部 准教授)
縮小日本における豊かさの拡大というとても難しいお題に対して、情報技術を使って暮らしの質を高める素敵なシナリオが生まれたことに感激しています。おそらくあっという間にやってくる2050年に向けてこの国や世界が持続可能であるためには、実践のための第一歩として、まずは明るいシナリオを描く必要があると感じました。

● 杉谷 和哉 氏(岩手県立大学 総合政策学部 准教授)
技術革新によって、政治が大きく変わるのではないか——このような見立てのもと展開された学生たちの議論は、巷にあふれる技術楽観論とも技術悲観論とも一線を画すものとなりました。技術の可能性の臨界が示された今回の成果の次は、その未来社会で人間がどう生きるべきかという大きな問いへの果敢な挑戦に期待します。

● 水瀬 ゆず 氏(株式会社 ゆずプラス 代表取締役)
メタバースにおける対話や支援を実践する立場から、「実想空間(メタバース)」を活用して誰もが気軽に深く政治参加できるというシナリオが特に秀逸だと感じました。「縮小日本」を悲観せず、テクノロジーで新たな豊かさを実装しようとする学生たちの洞察が、次の豊かな社会を創る原動力となることを強く期待しています。

編集後記:「共鳴しあう未来」づくりのヒント

このゼミプロジェクトは、「『縮小日本』における新しい豊かさ」を未来世代と探索したい、という駒井氏の思いからはじまりました。技術が進化することが必ずしも線形的に社会の豊かさにつながるわけではない、もっと本質的でオルタナティブな社会の在り方そのものを真剣に考える機会の創出が急務である、という強い気持ちが私達未来洞察プロジェクトをはじめ、学生さん達やけいはんな関係者の方々の心を動かす動力になっていきました。スタート時から終わりまでずっと灯され続けていた強い熱量が、シナリオづくりのための未来対話を重ねる度にゼミプロジェクト全体にじわじわと染み込み続け、その結果として「共鳴しあう未来」をつくりあげることにつながったのではないかと感じています。(根本)

「未来シナリオ」づくりは、「未来事象」と「未来兆し」を掛け合わせて、アイデアの種を強制発想するところから始まります。そのたくさんの種の中から、関係者・第三者両方の心を惹きつける強い引力=「共鳴力」を持つまでに育つものはごく一部です。その分水嶺になるのは、種を見出して育てるシナリオのつくり手の、現在への課題意識とありたい未来への渇望ではないかと感じます。本ゼミプロジェクトで生み出されたシナリオにも、ご参加いただいた学生のみなさんの、みずみずしくて真っ直ぐなそれらの想いが反映されています。正しそうに見えることを流暢に語るのではなく、社会に生きる私の考えを自分の言葉で語ることが、「共鳴しあう未来」をつくるためには必要なのだと思います。(杉本)

共鳴のヒントは2つあるのではないかと考えました。1. 未来像を自分ごと化する:学生たちは最初、未来像を「自分ごと」として捉えることに苦戦していたように見えました。特に初めての経験ということもあり、未来事象を作ることに苦労していましたが、未来兆しの突飛な事例を面白がることで盛り上がり、だんだんと自分ごと化できるようになっていったのではないかと思います。2. 専門家からの触発を受け「面白くてあり得る未来」を考える:メンター(専門家)からの問いによって発見を得たうえで「未来の生活はどう変わるのか?」の具体性・現実性を、面白い未来の中で両立させようとしていくうちに、お互いに深く共鳴し合っていったように見えました。(松尾)

根本 かおり
博報堂 生活者発想技術研究所 上席研究員/東京科学大学 特任准教授

未来洞察による事業・組織・社会デザイン事業に従事。モビリティ、脱炭素、街づくりなど産官学民で領域・組織を横断する未来像策定プロジェクトを企画・推進。

杉本 奈穂
博報堂 生活者発想技術研究所 上席研究員

未来洞察、女性の心身のウェルネス、次世代ブランディングなど複数のテーマを横断し、生活者意識の定量・定性調査スキルを活かして、企業やアカデミアと共に、研究知をよりよい社会をつくるためのビジネスに結びつける取り組みに従事。

松尾 奈奈
博報堂 生活者発想技術研究所 研究員

生活者調査や未来洞察・ワークショップ開発を軸に、若者・創造性(アート)・産官学連携プロジェクト等に従事。

博報堂  未来洞察プロジェクト
25年以上に渡り、産官学民のみなさまと共に、博報堂独自の「未来洞察」の探究と実践を重ねているプロジェクトです。近年は、「タイムマシンに相乗りして、共鳴しあう未来をみつけに行こう」を合言葉に、組織や立場を超えて多くの人が「共鳴」し、共につくりたいと心から思える未来像と、その実現に向けた共創関係を育むことに挑戦しています。

Xでシェア Facebookでシェア