「あなたの会社にとって、いちばんの欲望はなんですか?」
PRの専門家・牧志穂に聞く、情報トランスフォーメーションの鍵とは|サステナのプロは、欲望化のプロでなきゃ。vol.2

「欲望化」という大胆なキーワードを掲げ、サステナビリティ起点で新たなビジネスチャンスの創出を試みる博報堂SXプロフェッショナルズ。連載第二回は、PRの専門家・牧志穂が「情報発信のトランスフォーメーション」について語ります。

「ガイドライン」は守って当然。共感を生む「イシュートレンド」は掴めている?

井口:「サステナのプロは、欲望化のプロでなきゃ。」というテーマの連載ですが、今回はPRの専門家である牧さんに、情報発信における「欲望」の重要性について聞いていきたいと思います。「サステナビリティのコミュニケーションってむずかしい」ということはすでに多くの企業が気づいていて、課題を感じている部分。この現状、PRパーソンとしてどう見ていますか?

牧:そうですね。むずかしいけれどうまくコミュニケーションしてブランドに繋げようとする企業と、コミュニケーションはしないで、取り組みを進めようという企業に大きく二分されている気がします。前回の連載で「伝えることに価値がある」という話をしましたが、やはり良い取り組みは生活者にしっかり伝えて、応援してもらうことも大切。コミュニケーションすることの重要性を感じますし、そのために気をつけたいポイントも見えてきました。

井口:しっかり伝えて応援してもらうためにはどうすればいいのでしょう?

牧:コミュニケーションを間違えないこと、そして生活者の「空気」を読み違えないことが大事だと考えています。まず、間違えないように、という意味では、国によっては規制やガイドラインを設けているところもあるので、それらを把握することが大切。EUでは科学的根拠なしに「環境にやさしい」といったあいまいな表示は禁止されていますし、日本でも、「生分解性プラスチック」 と表示したゴミ袋や使い捨てスプーンなどの製造者が、「優良誤認」として消費者庁から措置命令を受けたケースもあります。特にグローバルで発信する場合は、国によって異なる基準があるので注意が必要です。

井口:各国のガイドラインを踏まえてコミュニケーションすることは大前提ですよね。

牧:はい。規制やガイドラインは「守って当然」の話。一方、生活者の空気を読み共感を生むという意味では、今の生活者がどういう課題に関心を寄せ、どこに欲望があるかを知ることも重要です。博報堂では月に1回、社内の有志メンバーやNGOの方々とともに社会課題に関する情報共有や意見交換を行う「イシュートレンドミーティング」を開催しています。2020年から5年の蓄積があるので、同じテーマであってもその時々によって捉えられ方が変わっているのがわかるんです。社会課題は、その時の人々の意識によって変化するということを認識したうえで、どのようにコミュニケーションするかを考える必要があると思います。

一番大切にしたいことは何?ブレない判断軸がやがて共感を集めていく。

井口:サステナビリティというと環境問題を思い浮かべる人も多いと思いますが、実際には働き方や子育ての問題などさまざまな課題が時代とともに変化しているということですよね?

牧:その通りですね。たとえばヤングケアラーの問題も、少し前なら「あの人は若い頃に苦労をして…」という話で済まされていたかもしれません。でも今は苦労では済まされない、社会の課題として認識されています。
子育てについても、最近は「子持ち様」という言葉が生まれたのが象徴的な変化だと感じています。少し前までは、子育ての課題といえば「仕事と育児の両立」や「男女間の家事・育児負担ギャップ」であったのが、それらの課題は山を超え、今は、子持ちの人が優遇されていると感じる人との間に分断が生じていることが”課題”とされています。子育てについても、その他の課題についても、同じ世代、同じ性別の人でもさまざまな捉え方や価値観があって、「ひとつの方向を向けばみんなハッピーということはないのが今」だと理解しなければいけません。

井口:刻々と人々の課題意識は変わり、その価値観も多様。企業はどうアプローチすべきか、悩ましいですね。

牧:コミュニケーションによって「誰かを傷つけない」、というのは大前提としながらも、生活者に迎合して態度を変えるのではなく、企業としてのスタンスを明確にする必要があると思います。企業として、一番大事なステークホルダーは誰なのか?企業理念やパーパスを鑑みて、何を大事にするのか?など、ブレない判断軸があると良いと思います。
たとえば最近、私が良いなと思ったのは、ある飲食グループでの取り組み。外国人スタッフが多いため、採用サイトでわかりやすい日本語を使ったり、マニュアルを多言語化するなど、少しでも外国人スタッフの不安を取り除き、働きやすくするための施策を積極的に行っています。また別の飲食店では、取り組みに対してSNSで批判的な声が上がった際に、自社の企業理念に基づいた取り組みである事を説明したことで、共感を集めました。

サステナビリティコミュニケーションにも「だったらいいな」を発動させよう!

井口:世の中のトレンドに流されない確固たる軸を持つ…。わかっていてもむずかしいですよね。牧さんはPRの専門家としてどのようにサポートしていますか?

牧:昔の広告って、リアルな今を描くより、みんながちょっと憧れる世界を描くものでしたよね。昭和の頃は、素敵な海外の街並みや暮らし、かっこいい高級車などが、みんなの憧れだったのかと思います。それが令和の今は、地球環境が良くなるといいな、みんなが幸せに過ごせる世界だといいな、という願いに変わっている。企業のコミュニケーションにも、この「だったらいいな」を発動させることが大事だし、それが私たちの得意技だと思っています。
以前、冷凍食品のお仕事で、「この会社が成長すれば、世界の飢餓がなくなるのではないか」と発言している博報堂のメンバーがいて。すごく大それたことを言っているけど、そういう視点で見るのが、博報堂の社員は得意なんですよね。
みんなの共感を集める大きな欲望を掲げて、それを実現するためのアイデアをたくさん出しながら、目指すべき未来と今の事業の関係性を整理する。これを繰り返すことが、サステナビリティコミュニケーションの設計にも大切なことだと考えています。

井口:たとえ大それたことだとしても、「こうありたい」「こうだったらいいな」という未来が描ければポジティブに前進できますもんね。

牧:サステナビリティと言うとどうしても「正しさ」ばかりに意識が向きがちですが、どうありたいかという「欲望」の部分がとても大事。時代とともに社会課題が変化し、千差万別の価値観が存在するからこそ、企業としての純粋な欲望、つまり「こんな世界だったら良いのに!」に立ち戻ることが大切だと思います。

※肩書は取材当時のものです

牧 志穂
博報堂
博報堂SXプロフェッショナルズ共同代表 / PR局 局長補佐

2019年~博報堂SXプロフェッショナルズ(旧SDGsプロジェクト)メンバー。「企業の持続可能な発展=長期的なブランド価値向上」を目指し、 社会価値視点で事業を構想する 「ソーシャルインパクト事業構想プログラム」や、SDGs総合支援メニュー「SDGsコーポレート」を体系化しリリース。 他、メディア連携企画として「朝日新聞脱炭素企画」や、国連主導で全国108のメディア共同による「気候危機キャンペーン」に参画。 2025年4月より、SXプロフェッショナルズ共同代表。

井口 雄大
博報堂
クリエイティブ局 クリエイティブディレクター/コピーライター/マーケットデザインコンサルタント

SDGs17Goalsの日本語版コピー開発をはじめ、広告制作はもちろん、パーパス策定や新規事業開発、イベント・ワークショップ・研修プログラムの設計、TV番組の構成・脚本、絵本執筆等、言葉を軸に幅広いアウトプットを手がける。最近の仕事に、人気漫画61作品が出版社の枠を超えて登場するABJ/STOP!海賊版「ありがとう、君の漫画愛。」キャンペーン、国内160以上のメディアを巻き込むSDGメディア・コンパクト「1.5℃の約束」気候変動キャンペーン、東京地下鉄「Find myTokyo.」キャンペーンおよび共同事業「Find my Tokyo. BOX!」など、話題化や事業化によるソーシャルイシューの解決に取り組む。 東京コピーライターズクラブ会員 / 博報堂SXプロフェッショナルズ メンバー/大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「Dialogue Theater - いのちのあかし -」クリエイティブディレクター / ビヨンドSDGs官民会議理事

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