
新美
まずは株式会社 新潟日報生成AI研究所の誕生の背景と、概要についてうかがえますか。
佐藤
ご存知の通り、新聞の発行部数は減少の一途を辿っており、人材不足や高齢化によって、販売店が新聞を配るというサービスの提供もどんどん難しくなっています。こうした経営課題によって、我々が100年以上続けている新聞事業というものがいままさに岐路に立たされています。
一方、新聞事業の縮小スピードをはるかに上回るスピードで成長しているのが生成AIの分野です。その生成AIと新聞社の力を掛け合わせた新しい事業アイデアを「新潟市ご出身の生成AI関連企業の創業者の方から提案いただきました。生成AIと、我々新聞社が持つ地域のさまざまな情報、地域住民とのつながりといった資産を組み合わせることで地域課題を解決し、よりウェルビーイングな新潟にしていくというもので、我々が掲げる「新潟の未来を、県民とともに切り拓く」というポリシーと共鳴するものと考えました。そういう経緯で、新聞社として生成AI領域への事業参入を決めたのです。
今現在提供している主なサービスは、新潟日報の記事データを連携した法人向けの生成AIサービスで、広報原稿の草稿やサービスのアイデア出し、業界トレンドの把握、会議の議事録作成、関連する記事の共有などに活用いただけます。

新美
昨年11月に新潟日報生成AI研究所を設立されてから、周囲の反響はいかがですか。
佐藤
特に地域の企業からは、立ち上げ直後から多くのご相談が寄せられ、ご案内した当日にその場で契約が決まるということもありました。さまざまな地方紙さんも関心を寄せてくださり、視察などで来社されています。事業としては想像以上に好意的に受け止められている印象です。
新美
ご提案をいただいてから、設立まではどれくらいかかりましたか。
佐藤
生成AIという技術に対してはスピード勝負なところがありますから、かなり急ぐことになりました。結果的に、提案をいただいてから5カ月後、約半年での立ち上げになりました。11月1日は新潟日報の創刊記念日でもあるので、是が非でもその日に合わせたかったというのもあります。
新美
新聞業界以外からの反響はありましたか。
佐藤
ウェブメディア系の媒体社からここまで問い合わせをいただくことは初めての経験でした。やはり生成AIが時代のキーワードであることが大きいですし、ウェブメディアにとっても自らの事業モデルの今後に深く関わってくる技術ですから、関心が高かったのだろうと思います。
新美
社内の反応はいかがでしたか。
佐藤
新潟日報生成AIは、新潟日報の新聞データをRAG提携して使える法人向けの生成AIの仕組みですから、新聞購読やデータベース契約が減少するのではないかといった、既存事業とのカニバリを懸念する声もありました。でも実際は、データベースで使用する新聞データと、生成AIを通して出力されるデータは質も違えば目的も違います。生成AIという技術に対する理解も以前より進んでいて、全体的には「何か新しいこと、面白いことをやろうとしているんだな」と思っているのではないかと感じています
新美
なるほど。そのほかどのようなサービスを展開されていますか。
佐藤
第二弾のサービスとして提供を開始している新潟日報生成AIロープレがあります。営業商談や、人事面談などの模擬体験を通じてスキルアップが可能なツールで、人対人のロールプレイとは異なり、自分が好きな時間にチャレンジが可能で、失敗しても怒られません。安心してトレーニングができます。また、お客様からのご相談から生まれたサービスとして、生成AIに関する勉強会を開催するというもので、すでに県立新潟高校における探究学習の授業に活用いただいています。実際、高校生の方がよっぽど生成AIを使いこなしているのですが、学校としては著作権についての理解や、リテラシー、倫理など、知識が追い付いておらず、不安を抱えている状況だというのを実感する日々です。
新美
新聞社はこれまでも、取材し、事実に基づいた記事の執筆、校閲、審査などいかに正しく客観的な情報を生活者に届けることに注力されてきたわけですから、今回の取り組みは注目に値すると思います。
AIに限らず、デジタル化全般に対して言えることですが、技術的な側面と同じように重要なのが、その技術をどう使っていくかということです。マスメディアが蓄積してきた知見や価値、倫理観といったものが一層大事になってくるのではないでしょうか。