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「つながりインフラ」化するゲーム
~Z世代のゲームとの関わり方から見えた、エンタメの新しい形~

2023.08.24
 世間がMZ世代に抱く固定概念とは異なる、新たな一面を発見する連載コラム「解剖MZ!」。第3回では、「Z世代のゲームとの関わり方」をテーマとして取り上げます。
今回のコラムでは、大型タイトルや話題作のプロモーション戦略を多数手がける、ゲーム案件に特化したストラテジックプラニングチーム「BXMゲームプロジェクト」リーダーの長縄 雄一郎が、若手メンバーとともに、Z世代のゲームとの関わり方についての新たな解釈を試みます。分析にあたっては、プロジェクトで保有するゲーマー意識のデータベース「GATRIX(ガトリックス)」を用いました。

 ※本記事におけるZ世代の定義は「15-25歳の男女」とします。また、記事内のデータはGATRIXのほか、記事内容補強のために実施した追加調査のデータも使用しております。参照元については図中の表記をご参照ください。

■Z世代はゲームとどのように付き合っている?

 Z世代と聞くと、かけた時間に対して高い効果を求める「タイパ(タイムパフォーマンス)」や、生まれながらにしてスマートフォンやSNSに慣れ親しんでいることを示す「ソーシャルネイティブ」などの特徴が一般的に挙げられます。では、これらの特徴はゲームというカテゴリにおいても表れているのでしょうか。同じく若年期からゲームに触れて成長してきた30-40代と比較することで、Z世代のゲームとの関わり方について紐解いていきたいと思います。

まずは、ゲームとの接触頻度について見てみましょう。

(図1,図2)

 生活者のゲームプレイ頻度はZ世代が64.3%に対し、30-40代は49.6%。アプリゲーマーの1日平均ゲームプレイ時間はZ世代が1.54時間に対し、30-40代は1.18時間となっています。このデータから、Z世代は30-40代に比べ、ゲームとより高頻度で接していることがわかります。ただしこれは、それぞれの世代の可処分時間を考慮すれば予想通りの結果であるといえるでしょう。

私たちは、単純な接触頻度だけではなく、その姿勢やプレイスタイルに世代差が色濃く表れているのではないかと考えました。以降では、意識面と行動面の両輪から、さらに深掘りしていきます。

■ゲームはコミュニケーションツール? オンラインで新たな繋がりを生むZ世代

 まず、「誰とプレイするか」という実態と、「何を期待するか」という意識で見てみましょう。

(図3、図4)

 両世代ともに「ひとりで」プレイすることが最も多いものの、「リアルの友人」(28.4%)と「ネットだけの友人」(11.0%)のスコアはZ世代が顕著に高く出ています。さらに、ゲームのプレイ目的を見ると、30-40代は「気分転換ができる」(43.3%)や、「ひまつぶしになる」(63.8%)などの個人的な効果・効能を期待しているのに対して、Z世代は「リアルの友達と盛り上がれる」(16.2%)、「ネット上の友達と盛り上がれる」(12.4%)と、複数人での効果・効能を期待していることがわかります。

ご存じの通り、近年のゲームの多くはオンラインに接続され、プレイヤー同士の対戦・協力・チャットによるコミュニケーションが機能として実装されています。ゲームのあり方が変容する中で、30-40代があくまで「個人としての時間の充足」を求める一方、Z世代は「複数人での共通体験」を期待していることは、ひとつの発見といえるでしょう。

 ゲーム上での他者との関わり方や印象に残ったエピソードに関するVoC(Voice of Customer = 顧客の声)を、テキストマイニングツールで分析してみると、さらに興味深い事実が見えてきました。

(図5)

 Z世代は「深める」「雑談」「語り合う」など、他者との<対話>に関するワードが頻出しています。その一方で、30-40代は「進めやすい」「攻略」など、ゲームの<進行>に関するワードが頻出していることが分かります。加えて、「切り分ける」「隔てる」など、ネット上でのコミュニケーションに深入りしすぎないよう、一定の線引き意識が示唆されるワードも見られます。

これらのデータを踏まえると、30-40代にとってのゲームは、与えられたコンテンツを主体的に進めるプロセスを個人として楽しむ<内省的なエンタテインメント>として定着していることが伺えます。対してZ世代は、コンテンツを味わうというよりもむしろ、コミュニケーション自体が目的化しており<時間と体験を共有するエンタテインメント>だといえそうです。

まるでメッセージアプリやSNSのように、オンラインとオフラインの境界線を曖昧にしながら対外的な関係性を深めていく。ゲームをコミュニケーションインフラとして活用するプレイスタイルは、Z世代ならではと言えます。

■遊ぶ前に徹底的に調べる!? 失敗したくないZ世代のゲーム選び

 続いて、Z世代が数あるゲームタイトルからプレイするタイトルを選ぶ過程についても見ていきましょう。

(図6)

 図6を見ると、Z世代は気になるタイトルについて様々な視点からリサーチを行い、プレイするかどうかを慎重に判断していることがわかります。

先ほど見た通り、他者との交流をゲーム体験の目的の1つとしているのがZ世代。「家族や友人・知人から勧められてDL・購入する」「周囲で話題になっているタイトルをDL・購入する」のスコアが高いところを見ると、コンテンツの質はもちろんのことですが、そのタイトルに十分な人がおり、活発にゲーム内でコミュニケーションを取れるかどうかという点が、ゲーム選びの重要なポイントとなっていそうです。

(図7)

 実際、「購入を迷ったタイトルを、最終的に購入したきっかけ」(図7)について聞いたところ、そのタイトルがインフラとして十分機能していることを第三者の意見によって確認してから、購入ないしはダウンロードしている声が確認できました。

一般的にZ世代は「失敗」を避ける傾向が強いといわれますが、それはゲーム選びについても言えそうです。たとえ自分が面白いと感じても、そのタイトルに十分な人が集まっていなければ、<時間と体験を共有するエンタテインメント>としての便益を享受することができない。そのようなリスクを考慮し、コンテンツの質だけでなく、ゲーム内でのコミュニケーションが活発に行われているかどうかを、様々な手段を駆使して冷静に見極めているのではないでしょうか。

■プレイだけでなく視聴や配信も、多様なスタイルでゲームを楽しむZ世代

 最後に、Z世代のゲーム関与のスタイルについて見てみましょう。

(図8、図9)

 図8を見ると、SNSや動画サービスに慣れ親しんできたZ世代は、30-40代に比べて非公式を含む多面的な情報を積極的に活用しながら、ゲームと関わっていることがわかります。

過去1ヶ月以内に視聴したゲーム動画の内容(図9)も世代差が際立つ結果となりました。30-40代は「公式のプロモーション動画」「攻略方法に関する動画」といった、プレイヤー視点で役に立つ動画を中心に視聴しています。他方、Z世代は「レビューや実況者の生配信」「ゲーム大会の切り抜き」など、攻略に直結しないようなコンテンツでも、気楽に楽しんでいることがわかります。

どうやら、Z世代にとってのゲームは、プレイする/しないの二者択一ではなく、濃淡のグラデーションの中で捉えられているようです。時間とお金をかけてどっぷりとのめり込むスタイルから、実況や切り抜きを楽しむ非プレイ型のスタイルまでのグラデーションの中で、その瞬間における自分らしい関与を都度選択しているのです。

ここでも先ほどと同様に、Z世代特有のリスク回避型の行動が確認できます。少しでも気になるコンテンツには、お金や時間をあまり投下せず、動画プラットフォームやSNSを介してゆるく関わりながら、そのタイトルが自分に合うかどうか見極める。そして、コストをかけてでも関与する価値が見出せたタイミングで、購入・ダウンロードに移行する。軽々しい判断で貴重な時間とお金を浪費したくない「賢く慎重な消費行動」がZ世代の特徴といえるでしょう。

■ゲームとの関わり方に、世代間の違いが生まれたのはなぜ?

 Z世代のゲームとの関わり方について、30-40代との比較も交えて考察を深めてきましたが、いかがでしたか?様々なデータを見ていく中で、筆者も多くの気づきがありました。ここで、そのポイントについて振り返りたいと思います。

選択肢も楽しみ方も限られた、ゲームの黎明期を経験してきた30-40代にとって、ゲームとはあくまでメーカーから一方的に与えられたものを個人的に楽しみつくす<内省的なエンタテインメント>でした。一方、スマホを介して様々な受動型コンテンツに気軽に触れられるZ世代にとって、ゲームとはただ遊んで楽しむだけでなく、リアル/ネット上の境目を曖昧に気の合う仲間と繋がっていく<時間と体験を共有するエンタテインメント>として見做されています。

この世代の違いは、どこから生まれているのでしょうか。筆者は、その要因は「ゲームに触れ始めた時の環境」の差異にあると考えています。

 筆者を含む30-40代の若年期は、コンシューマーゲーム(据え置き型ゲーム)の黎明期でもあり、ゲーム体験が日進月歩で進化する様を間近で体験してきた世代であるといえます。ただし当時のゲーム体験は、据え置き型デバイスと買い切り方のゲームソフトをプレイする、きわめて受動的な体験=<内省的なエンタテインメント>でした。

一方、2010年代からのスマホの爆発的な普及を契機に、生活者は動画・マンガ・活字などのゲーム以外の娯楽にも簡単にアクセスが可能となりました。気軽に摂取できる多くの受動型コンテンツと相対化されながら、ゲームというコンテンツは、能動的に気の合う仲間と繋がっていく<時間と体験を共有するエンタテインメント>と見做されるようになったのではないかーーこれが筆者の仮説です。もちろんその背景に、動画投稿サイトでの配信文化の醸成や、多様なSNSの興隆があったことはいうまでもありません。

■Z世代の興味を惹く、これからのエンタメプロモーションのカギ

 最後に、ゲームというカテゴリから考察の範囲を拡張し、今後のZ世代向けエンタメプロモーションにおけるポイントについて、筆者の考えをまとめたいと思います。

リスク回避型で、自分が関与するコンテンツをじっくりと見極めるZ世代。彼らのコンテンツの判断基準は、「個」の作品としての面白さ以上に、「群」と共有しながら楽しめるかという点に重きが置かれています。それはすなわち、個人単位での独立したコンテンツ摂取が行われづらくなり、第三者によるコンテンツ評価が固まるのを待ってからの意思決定がスタンダードになっていると言えます。

こうした傾向を踏まえると、Z世代に向けたエンタメ・コンテンツマーケは、以下のポイントが重要であると考えられます。

 Z世代向けのエンタメプロモーションとして押さえておくべき点はふたつ。ひとつは、「群」で共有できる体験価値の設計です。そしてもうひとつは、「群」で楽しまれている実態を可視化し、その実態自体をプロモーショナルに発信していくことです。

このふたつの点を抑えることで、そのコンテンツが「個」のみならず「群」ともに評価されていることが、第三者的に保障された情報として広がっていきます。慎重で賢いZ世代が、安心して新しいコンテンツに飛び込めるような場作りをしていくことが、今後のZ世代向けエンタメ・コンテンツマーケにおける重要なポイントなのではないでしょうか。

解剖MZ!では、今後もMZ世代にまつわる世間の当たり前やイメージを覆す、ユニークな発見を皆様にお届けしたいと思っております。次回も楽しみにしていてくださいね。

■調査概要
※1:(図1ー4、6、8)
調査名 :博報堂BXMゲームプロジェクト オリジナル調査「GATRIX(ガトリックス)」
実施時期:2023年2月
調査エリア:全国
調査対象 :月に1回以上、アプリ・家庭用・PC向けゲームのいずれかをプレイしている15-49歳男女
※ただし、図1は15-49歳男女、図2はアプリゲームをプレイしている15-49歳男女)
調査手法インターネット調査

※2:(図5,7,9)
調査名 :ゲームに関する調査
実施時期:2023年7月
調査エリア:全国
調査対象 :ゲームをプレイしている15-49歳男女
調査手法 :インターネット調査

長縄 雄一郎
博報堂 BXマーケティング局
イノベーションプラニングディレクター

教育系出版社で企画・制作の経験を経て、2014年に博報堂入社。食品メーカー、旅行、自動車、ゲーム、自治体など幅広い業種でコミュニケーション戦略の策定を担当。2017年より現職。オンラインとオフラインを統合した体験設計で、生活者の幸せとクライアントのビジネス貢献の両立を実現することを信条とする。

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