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ヒット習慣予報 vol.277『脱短尺』

2023.07.25
#トレンド

こんにちは。ヒット習慣メーカーズの佐藤諒平です。
暑くなっていよいよ夏が来た!と喜んでいる方もいらっしゃるでしょうか。今回の記事は、夏はクーラーの効いた部屋でゴロゴロしてアニメを見るのが至高、と思っている夏の似合わない人間がお送りします。

今回、私がご紹介させていただくのは「脱短尺」です。
「あれ?今は時短や短尺が好まれているんじゃなかったっけ?」と思った方へ向けて順を追ってお話しします。
昨今の生活者 特に若い世代を中心に、動画の倍速視聴をする人が多くいるというお話はご存知の方もいらっしゃるかと思います。数年前からこういった倍速視聴する人が増えたり、より手軽に多く消費できる短尺の動画・音楽などが好まれ増えていったりしましたが、その背景には生活者が“限られた時間の中で多くの情報やコンテンツを消費すること”を求めるようになったということがあります。こうした特徴から、生活者が“タイパ”志向になっているといわれたりもしています。
※タイパはタイムパフォーマンスの略、費やす時間に対する満足度を表す言葉で、下図のように、2022年9月頃から現在にかけて注目がされています。

「タイパ」の検索数推移

出典:Googleトレンド

しかし最近には、上記のようなコンテンツを短時間で楽しむことの、反対ともいえる生活者の楽しみ方がでてきています。

たとえば、昨今のアニメ 話題作の第一話が90分、120分など、その内容に合わせて柔軟に長尺化している例があります。そして生活者もそれを拒むことなく、むしろ楽しみだと受け入れる声が多くでています。さらに、アニメに限った話ではなく、最近では上映時間が3時間前後にもなる長編映画でもヒット作が出ています。

また、ゲームにおいても、数分で1戦をサクッと楽しめる気軽なスマホゲームが人気だった頃から大きく移り変わり、昨今はサブシナリオややりこみ要素も充実し総プレイ時間が100時間を超えても珍しくないオープンワールドゲームや、ランキング上位を目指してオンライン戦で世界中の人を相手にどこまでもやりこめる対戦ゲームなどがより人気を博しています。

動画視聴やゲーム以外に、たとえば飲み会にも脱短尺はあらわれています。過去にこのヒット習慣予報でもサクッと飲みに行く習慣は取り上げたことがありますが、(ヒット習慣予報 vol.19 『時短エンタメ』)そこからまたコロナ禍を経て変化しました。短時間で量を飲むような飲み放題の需要は下がり、スロードリンクが推奨されてきています。伴って、お店では、ゆっくり味わえる飲み比べセットや、食べ物と合わせお店推奨のお酒で出してくれるコース、あるいは飲み放題でも席に蛇口があり自分のペースで飲む形式などの人気が高まってきています。

では、なぜこのように“脱短尺”して楽しむ生活者がでてきているのでしょうか?

その理由には、生活者が「長尺と短尺それぞれをうまく消費する」ようになったということが考えられます。これは、脱短尺は進んでいますが、従来のような短尺のコンテンツが極端に減ったわけではなく、長尺も短尺も楽しまれるようになっているということです。このことから、脱短尺は進んでも「脱タイパをしているわけではない」ということもいえます。コロナ禍を経て新しい価値観になったことで、時間の使い方を考え、状況や 得たい満足度に応じて「じっくり楽しむこと」と「サッと速く楽しむこと」を生活者は自然と使い分けることができるようになったのではないでしょうか。
そして、「自分の好みがより自分で分かるようになった」ことも理由の一つと考えられます。昨今はレコメンド機能や評判の可視化が当たり前となり、自分自身の好みに合うかが事前に分かりやすくなりました。何に時間をかけるか判断できるため、脱短尺しているものも受け入れられているのではないでしょうか。

最後に、そんな「脱短尺」のビジネスチャンスを考えてみました。

「脱短尺」のビジネスチャンス例
■映画館で 長時間作品や、1日に複数の作品を鑑賞する人に向けた、お得な「長時間滞在用」鑑賞&ドリンクサービスチケットを販売する
■ジャンルだけでなく、没頭したい時間に応じピッタリの映画・動画が見つかる「尺検索」機能を、動画配信サービスに導入する
■友人や恋人と 好きな映画・動画を観ながら食事を楽しむことを目的とした 予約制「長時間過ごす前提レストラン」をオープンする
など

情報やコンテンツが増えていく中で、生活者の楽しみ方は 無意識により器用になっている、ともいえるかもしれませんね。

▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

佐藤諒平(さとう・りょうへい)
新潟博報堂│博報堂 第一ブランドトランスフォーメーションマーケティング局
ヒット習慣メーカーズ メンバー

2020年 新潟博報堂に入社。2023年より博報堂第一ブランドトランスフォーメーションマーケティング局にて、一人前のマーケターを目指して修行中。万年ダイエッターとしても修行中。

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