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「小売のメディア化」を実現するために──リテールメディア、その課題と可能性(前編)

2022.12.09
小売事業者がもつ顧客基盤や会員システムなどをベースに、生活者の購買データや行動データを活用して広告配信を行う「リテールメディア」。小売を「メディア化」するこの新しいモデルの発祥は米国ですが、日本での本格的な市場の立ち上がりはまだこれからと言われています。日本版リテールメディアを実現するにはどうすればいいのか。現在リテールメディアの試みに携わっている4人が、それぞれの立場からリテールメディアの可能性と課題について話し合いました。

杉浦 克樹氏
セブン-イレブン・ジャパン
商品本部リテールメディア推進部総括マネジャー

稲森 学氏
アドインテ 取締役副社長兼COO

望月 洋志氏
D&Sソリューションズ 取締役 共同CEO

徳久 真也
博報堂 ショッパーマーケティング事業局長
ショッパーマーケティング・イニシアティブ® リーダー

「リテールメディア」をどう定義すべきか

徳久
リテールメディアという言葉を耳にする機会が増えています。まず、それぞれのお立場から「リテールメディアとは何か」ということについて、ご意見をお聞かせいただけますか。

稲森
リテールメディアという言葉を定義することは、すごく難しくなってきていると感じています。「小売の顧客基盤と顧客接点を広告にいかすモデル」というのが一つの定義ですが、店頭にサイネージを設置するのも、アプリに広告枠をつけるのもリテールメディアと考えられますが、それもリテールメディアの広告メニューの一つでしかありません。一方、米国におけるリアル店舗のリテールメディア最大の成功事例と言われるウォルマートの取り組みを見ていると、データ分析やクリエイティブ制作、広告配信メニューもかなり高度なことをやっていますよね。

望月
店頭における商品サンプリング。あれもリテールのメディア的活用と言えますよね。それからチラシももちろんメディアです。そういった古くからある手法がデジタルに置き換わっていったときに、どういう新しい価値が生まれるか。そこに定義のポイントがあるように思います。シンプルに「媒体」と捉えるべきなのか、顧客に提供する「機能」をメディアと考えるべきなのか。そのあたりを皆さんと議論してみたいですね。

杉浦
リテールメディアに注目が集まっている背景には、リテール自体の存在意義が変わってきているという事情があると思います。小売店舗は、商品をお客さまにお届けする場所から、さまざまな顧客体験を提供する場所へ変わらなければならない。そうなると必然的に店舗自体がメディア化していかなければならない──。それがリテールメディアの根本にある考え方であると私は捉えています。

徳久
店舗における豊かな顧客体験を実現し、顧客との関係をより深く、より継続的なものにしていく。そして、その関係の基盤の上で広告などのメッセージを届けていく。そんな考え方ですよね。

杉浦
そうです。もっとも、それを実現しようとすると、システムやサイネージなどのハードウェアへの投資が必要になります。私たちのように全国に大規模に店舗を展開している事業者にとって、その投資額は莫大なものになります。そこが一つ大きな課題ですね。

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