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「できない」から学ぶ大切なこと(連載:デジノグラフィで読み解く〇〇vol.7)

2022.12.01
#デジノグラフィ#トレンド#生活総研
ネット上には多様な生活者の声があふれています。中でも、ブラウザ検索のキーワードとして打ち込まれた文字列には、生活者自身の思考が素直に投影されています。あの細長い検索窓には、生活者が疑問に思っていること、分からないこと、悩んでいることが、時として検索ワードというより心情を吐露する文章になって打ち込まれているのです。
本連載では、そんな検索ビッグデータに現れた生活者の移ろいゆく心を様々な博報堂社員の視点でご紹介していきます。ベースになっているのは、博報堂生活総合研究所が提唱する、デジタル上のビッグデータをエスノグラフィ(行動観察)の視点で分析する手法「デジノグラフィ(https://seikatsusoken.jp/diginography/)」の考え方です。
ビッグデータ分析、というとなんだか肩に力が入ってしまっていけません。リラックスした気分で、データの向こう側にある現代社会を生きる生活者の日々に思いを馳せられる半分エッセイのようなコラムを連載でお届けします。
※本コラムは、Webメディア「NewsPicks」の「トピックス」に掲載された記事の転載です。
「できない」
実施・実現が難しい、または不可能であること。(Weblioより 参照 2022.11.24)
https://www.weblio.jp/content/%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%81%AA%E3%81%84

いくつになっても「できない」ことが「できる」に変わっていくのは嬉しいものですよね。ただ、社会人も年月が長くなると、なかなか「できない」に直面しても、教えてもらう機会も少なくなって、ちょっとしたことは自分でこっそり調べて、どうにか乗り越えるって場面、みなさんも“あるある”ではないでしょうか。

今回のフックワード(データを引き出すフックになる言葉)は「できない」です。みんながどんなことに困って、こっそりヤフーに聞いているのかのぞいてみるために、ヤフー株式会社が提供するデータ分析ツール「DS.INSIGHT」を使って、2021年1年間の検索データの中から、「できない」を含む検索の上位100位の主なものをグルーピングしてみました。※「DS.INSIGHT」では統計化されたデータのみを扱っており、個人を識別可能な情報は含まれません。

「できない」ことが目の前に現れると、どうしたらいいかよくわからなくて、「○○ 方法」のように落ち着いて調べるよりも、思わず「○○できない」って、子供が駄々をこねるみたいな言葉づかいで検索窓に打ちこんじゃうことって、ありませんか。そんな慌てた様子もすこし想像しながら読んでもらえればうれしいです。

日本人が直面する6大“デジタルの壁”

全体の22%をもしめる断トツトップは「メールが受信できない」ことでした。もはや誰にとっても欠かせないビジネスツールのメール。とにかくメールが受信できない。来るはずなのに来ない、先方は送ったと言っている、おかしい…、そんな焦りや、首をかしげながら眉間にしわ寄せた表情が浮かびます。

続いて「充電ができない」。スマホはもちろん、ゲーム機や電子タバコ、ロボット掃除機まで、同時に検索されていました。充電していたはずが充電できていなくて、なんで?!となるシーンってありますよね。充電が必要なデバイスに、いかに囲まれているか、そう考えると日々私たちがどれだけ無意識にコンセントにプラグを差し込んで充電しているのか気づかされて面白いです。

その他、印刷もできないし、再生もできない、接続も、ログインもできない。この上位6項目で全体の55%、過半数を占めています。“6大デジタルの壁”に困ったり、焦ったり、イライラしたりした経験って誰しもあるのではないでしょうか。

「できない」と打ちこんでいるときは、“解決策を冷静に探している”というよりは「できるはずなのに」できなくて、“慌てて「なんで?!」”と検索窓をのぞいているときだということが伺えます。

「できない」のジェネレーションギャップ

この2つは若い世代に特徴的に出てきたキーワードです。若者が「できない」ことが、そもそも何かわかりますか?「エアドロ」に「センシティブの解除」。何が「できない」のかさえわからない、ジェネレーションギャップを感じる方もいるかもしれません。

エアドロはairdropのことで、iPhoneで写真などのデータを共有できる機能ですね。センシティブはTwitterの設定。若い世代ならではの、友人とのコミュニケーションの様子やSNSとの接し方が反映された「できない」ですね。「できない」と困っていることから、若い世代の日々の行動が垣間見えるような気がします。

感情にふりまわされる現代人

最後に、数は多くありませんが、興味深かった「感情のコントロールができない」。これはなかなかに様々な背景を想像させる検索ワードです。アンガーマネジメント、アンガーコントロールというキーワードも昨今話題ですが、怒りだけでなく、あらゆる感情にふりまわされているのが、現代人の特徴なのかもしれません。

誰しも、大なり小なり「できない」ことに出くわすことは日々あると思いますが、簡単に解決しないことでも、周囲の人やインターネットの情報からヒントを得ていくことで、焦りやイライラを落ち着けて、ネガティブな気持ちにふりまわされないことが、大切ですね。

八田 芙美香
株式会社博報堂 第一BX マーケティング局

博報堂にて、マーケティング・ブランディング・コミュニケーションとあらゆる企業活動の戦略立案のお手伝いをさせていただいています。

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