横山浩美氏(リクルート)、目黒智也氏(博報堂)
認知率98%でも残る広告効果可視化の課題
認知率98%でも残る
広告効果可視化の課題
──リクルートの住まい領域におけるブランディング上の課題と、現在のマーケティング戦略について教えてください。
横山:
「SUUMO」は2009年に、それまで領域ごとに分かれていた媒体を統合してスタートしたブランドです。不動産という商材にあった「堅いイメージ」を払拭するため、キャラクターを中心とした親しみやすいブランド構築を17年にわたり続けてきました。おかげさまで住宅検討カスタマーにおける認知率は内部調査によると約98%に達し、ブランド確立の第一歩は成功したと言えると思います。
しかし、マーケティングの次なるフェーズとして、この高い認知をベースに、いかにして日々の顧客獲得の広告投資における効率化を進めるかが、ここ数年の大きな課題になっていました。
──SUUMOにおいて、オフラインメディアであるOOHを重視し続けているのはなぜでしょうか。
横山:
ターゲットが非常に広く、テレビCMだけではリーチしきれない層が増えているからです。
スマホ中心の生活の中でも、物理的な日常生活動線はスキップできない価値があります。また、テレビやデジタルの接触にOOHが重なることで、意向が高まるという相乗効果も定量的に見えていました。
一方でDOOHならいざしらず、OOHは大きな投資をしていながら、効果計測が意識指標にとどまっていることに課題を感じていました。また、最終判断が「過去に効果が良かったから」といった経験則に基づくなど、属人化してしまうジレンマがあったのです。
目黒:
広告会社としても、デジタルやテレビの可視化が進む中で、OOHだけが最後に取り残された課題でした。特にDOOHではなく従来型のアナログのOOHは、ボリュームが担保されないと分析が難しい。SUUMOブランドほどの出稿規模があったからこそ、精緻な検証スキームに踏み込むことができました。
――今回、どのようなスキームでOOHの効果検証を行ったのでしょうか。
目黒:
博報堂の「AaaS(※)」を分析基盤に、位置情報データとサイト来訪ログをIDベースでマッチングさせる分析手法をゼロから構築しました。
具体的には、外部の位置情報データとSUUMOのタグを連携させ、OOH接触者と非接触者を判別する仕組みを構築しました。これにより、駅の看板や電車の中吊りといった、フォーマットも場所もバラバラな媒体を、量観点(接触によるサイト来訪のリフト数)と質観点(サイト来訪の流入効率≒CPA)で評価することが可能になったのです。
例えば「デジタルサイネージ媒体 vs グラフィック媒体」、「駅面 vs 電車内面」、「最適な接触回数」など、さまざまな観点でこれまでの疑問を解消していきました。
※広告業界で長く続いてきた「広告枠の取引」によるビジネス(いわゆる「予約型」)から「広告効果の最大化」によるビジネス(いわゆる「運用型」)への転換を見据えた、博報堂が提唱する広告メディアビジネスのデジタルトランスフォーメーションを果たす次世代型モデル<AaaS®は博報堂の登録商標>
──検証を通じて得られた、興味深い分析結果があれば教えてください。
横山:
例えば人流が多いエリアの大型広告媒体は、接触者数は多いものの、流入効率で見ると、実は「一般的な交通広告媒体」の方が勝るという傾向が見えました。これにより、目的や課題によって優先順位付けができるようになりました。
ほかにも驚きだったのが、「投資ボリュームと効率の関係」です。一般的にメディアは投資を増やすと、どこかで効率が飽和しますが、今回の検証では「一定以上の出稿量を維持しないと、逆に獲得効率が悪くなる」という知見が得られました。
──今回の取り組みを振り返っての感想をお聞かせください。
横山:
何より、結果をすぐに次の出稿に反映できたスピード感は魅力的でした。2025年1月に実施した検証の速報が2月には上がり、それを4月の買い付けに反映させることができました。その結果、今期の上期におけるOOHの認知獲得単価は、前年比で約44%も改善しました。
PDCAを高速で回し、効果を維持しながら「解きたい問い」をパズルのように組み合わせていく作業は大変でしたが、確実な手応えを得ています。
目黒:
現場の担当者が「なぜこの媒体を選ぶのか」を同じ目線で議論できるようになったことが最大の収穫です。路線の重複率やエリアごとの特性など、これまで「なんとなく」で語られていた部分に明確な根拠が持てました。
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
横山:
今回は関東エリアが中心でしたが、今後は関西や東海など他エリアへの拡大を検討していますし、テレビやオンラインメディアとの最適な差配も進めていきたいです。
目黒:
最終的にはOOH単体ではなくテレビ・デジタルも含めた3つのメディアを統合的にプランニングし、投資効率だけでなく、クリエイティブという大きな変数も加味しながら、最適な投資配分やフリークエンシーを導き出すことを目指していきたいです。
編集協力:博報堂
※本記事は宣伝会議2026年5月号に掲載されたコンテンツを転載したものです。