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【Consulactionセミナー】事業の継続的成長と新規事業の実現に。生活者発想のUXプランニング

2017.12.19
#Consulaction
2017年11月15日(水)にConsulactionセミナーが開催されました。
このページでは、当日の講演内容を要約した、セミナーレポートをお届けします。

「UX(ユーザーエクスペリエンス/顧客体験)」という言葉を耳にする機会が増えています。
博報堂は、UXとは「クライアントの事業課題」と「生活者が求める価値」と「テクノロジー」の3つの交点にあるものであり、そこに生まれる「サービス」が新しい事業を生み出し、既存事業を成長させると考えています。
この日のセミナーでは、博報堂のUXチームを率いる4人のメンバーが、博報堂ならではの「生活者発想のUXプランニング」の考え方について解説しました。

博報堂が考える生活者発想のUXプランニング

博報堂 統合プラニング局ユーザーエクスペリエンスデザイン部長 ビジネスディベロップメントディレクター 入江 謙太

既存のマーケティングフレームを越える方法論

売り上げや利益を拡大させるために必要なのは広告コミュニケーションであると、これまで考えられてきました。
広告が強力なマーケティングツールであるのは事実ですが、それとは異なる方法が成果を生むケースも増えています。
例えば、ある有名コーヒーチェーン店は、決済アプリを導入し、注文や支払いを簡略化することで、売り上げを大きく伸ばしました。

既存のマーケティングフレームを越えていろいろなことが起こっているのが現代です。
つまり、マーケティングにおける4P(product、place、promotion、price)のそれぞれの領域に少しずつ関わるような施策が増えてきているのです。
そこに共通しているのは「サービスをつくる」という視点です。
私たちはそれを「UX&サービスデザイン」という言葉で捉えています。
そして、この視点をもった企業やブランドが、新規事業を創造し、既存事業を成長させることに成功しています。

UX&サービスデザインをつくる視点

サービスを新たにデザインすることによって、生活者(ユーザー)は何ができるようになるのか?
それを考えるには、「不満の解消」ではなく「本質価値の進化」を重視することが有効です。
例えば、配達ピザの場合、「注文時のストレスを減らす」ことを目指すよりも、「ユーザーのあらゆる生活シーンに寄り添うこと」を目指し、「その人がどんな場所にいてもピザを届ける」というサービスをつくることで、これまでになかった顧客体験が生まれます。

では、デザインしたサービスを使ってもらうにはどうすればいいのか?
それについては、「シンプルな機能価値」ではなく「世界観のある生活価値」を伝えることが有効です。
同じく配達ピザの場合で見ると、「簡単に、便利に注文できる」ことよりも、例えば「花見をしているときに、桜の木の下に届けてくれる」という価値を打ち出すことで、サービスの世界観が伝わるわけです。

また、デジタルで完結させるのではなく、デジタルとリアルを統合することも重要です。
ウェブサイトやアプリの中でのUXだけを考えるのではなく、注文してから受け取るまでの「リアルなUX」をつくることに工夫を凝らす必要があります。

さらに、ユーザー体験の裏側にある、オペレーションモデルの設計も求められます。
例えば、注文を受けてからのスタッフの動き、キッチンでの作業、配達までの動線などをデザインするといったことです。
これらの視点を徹底することによって、他社に模倣されない独自のモデルをつくることが可能になります。

「戦略」と「実装」を一貫させる

では、新しいサービスデザインはどのようなプロセスで生み出せばいいのでしょうか。
スタートとなるのは「解決すべき事業課題」です。
それをもとに、自社にどのような独自の経営資源があるかを「事業発想」で考え、「生活者発想」でどのようなユーザーニーズがあるかを考え、「テクノロジー発想」でどのようなサービスを実現できるかを考える。
そこから「UXストラテジー(戦略)」が生まれます。

さらにそれを「実装」、つまりクリエイティブのフェーズに展開していくことが必要です。
ストラテジーのそれぞれの要素に対応するのは、「事業実装」、つまりオペレーションモデルの構築と、「生活者実装」、つまり顧客に価値を提供するモデルの構築、さらに、「UX/サービス実装」、つまり開発力・開発体制の整備です。

このように戦略と実装の二つを一貫したプロジェクトマネジメントによって進めていくことこそが、UX&サービスデザインを成功させる方法です。

UXストラテジー

博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 HUX部長 ストラテジックプラニングディレクター 岩嵜 博論

UX戦略をつくる3つの視点

顧客にとって真に意味のあるUX戦略をつくるにはどうすればいいのでしょうか。
この問いをさらに具体的に表現すればこうなるでしょう。
「商品やサービスの未来像はどのようなものか?」
「それをユーザーの生活に定着させるためにはどうすればいいか?」
「事業を確実にかたちにしていくにはどうすればいいか?」──。
それらの問いは、「テクノロジー発想」「生活者発想」「事業発想」という3つの視座にそのまま当てはまります。
まず、「テクノロジー発想」に求められるのは、「未来からのバックキャスト」という方法論です。
博報堂のUXチームには「未来コンサルタント」がいます。
彼らは、2020年から50年に起こると予想されることを年表化した「未来年表」、そこから導き出される「未来シナリオ」、未来の兆しを示すニュースをクリッピングする「フューチャーブックマーク」、先端技術の事例を収集した「テックバンク」といったツールを駆使して、未来像にもとづいたUX戦略を構想します。

極端な発想の中に未来の兆しがある

次に「生活者発想」に求められるのは、「ユーザーに対する深い理解」です。
その代表的な方法論に、エスノグラフィと呼ばれるものがあります。
これは、ユーザーの生活の現場に入り込んで、理解を深めていく方法です。
この方法では、「エクストリーム(極端な)ユーザー」からヒントを得ることが重視されます。
極端な生活スタイル、極端な発想の中に未来の兆しがある可能性があるからです。
私たちは、フィールドワークから未来の兆候をつかむ「Innovation Journey」というプログラムを用意しています。
オフィスでPCに向かっているだけでは有効なUX戦略はつくれない。
フィールドにどんどん出ていって、生活者のインサイトをつかみ、未来の兆しをつかまえなければならない。そう私たちは考えています。

走りながら成功の確度を上げていく

3つめの「事業発想」では、「リーンUXプランニング」という考え方が必要です。
従来の事業開発、商品開発は主にウォーターフォール型の方法で進められてきました。
これは、順を追って完成度の高いアウトプットを目指すアプローチで、滝の水が上から下に落ちるように、プロセスを後戻りしないことを前提とした方法論です。
それに対してリーン型は、最小限のユニットをまずつくってユーザーフィードバックを繰り返し、改善しながらデザインや機能の精度を上げていくアプローチです。
つまり、走りながら成功の確度を上げていくモデルと言ってもいいでしょう。
このリーン型開発のためのツールを私たちは用意しています。
例えば、1ヶ月でイノベーションのコンセプトを創出するプログラム「Innovation Sprint」、カスタマージャーニーを視覚的に捉えるプロトタイプツール「UX Kokeshi」、生活者視点と事業視点を往還するプランニングプロセスモデル「UZUMAKI」などです。
「テクノロジー発想」「生活者発想」「事業発想」。
その3つの視点の間を行ったり来たりしながら戦略をブラッシュアップしていく。
それがUXストラテジーの有効な方法論です。

UXクリエイティブ

博報堂 デジタルビジネス推進局 エグゼキューション・デザイン グループマネージャー (兼)株式会社BASKET サービス開発プロデューサー 田村 耕人

UX起点でサービスを設計していく

UXをめぐる実装には、「UX/サービス実装」「事業実装」「生活者実装」の3つがあります。
まず、「UX/サービス実装」から見ていきましょう。
例として、スマートフォンのアプリを活用したタクシーの配車サービスが世界中で普及しつつあります。
このサービスのおかげで、私たち生活者は、初めて訪れた土地でも快適に移動することができます。

さて、仮にあなたが同様の「サービスを開発する」ことになったとしましょう。このとき、まず最初にサービスの「アプリを開発する」ことを考えてはいないでしょうか。
しかし、タクシーの配車サービスが本質的に提供しているのは「快適な移動のUX」であって、アプリはあくまでそのUXを実現するためのツールです。
つまり、「快適に移動できる新しいUX」の設計がまずあって、それを実現するために必要なテクノロジーやデータなどの実装を考える。
それが「UX/サービス実装」に求められる視点です。

「かたち」によってイメージを共有する

2つめの「事業実装」において重要なのは、「顧客に新しいUXを提供するためには、スタッフのUXも新しくする」という視点です。
例えば、店頭におけるスタッフの動き、接客のトーン&マナー、スタッフの採用計画、リクルート活動、スタッフ研修などは、顧客のUX設計と密接に結びついています。
まず顧客UXに関わる生活者視点があって、次にスタッフUXに関わる事業視点がある。
そしてそこから必要とされるテクノロジー視点が出てくる。これが戦略立案の道筋です。
しかしこの3つの領域では、使われる言葉がしばしば異なります。
つまり、生活者をイメージした言葉、事業を表す言葉、テクノロジーを説明する言葉の間にズレがあるために、統一したビジョンを描きにくいという問題があるのです。
そこで有効なのが、具体的な「かたち」をつくって検討するという方法です。
これは一般に、「プロトタイピング」と呼ばれています。
例えば、アプリの画面遷移や店舗のプロトタイプをつくってイメージを共有するというやり方で、私たちはこれまでさまざまな成果を上げてきました。

サービス開発には「世界観」が不可欠

3つめの「生活者実装」に関連してしばしば耳にする課題は、「せっかく作ったサービスが生活者に使ってもらえない」というものです。
その解決策としては、UXの上位に「サービスの世界観」をしっかりつくることが挙げられます。

例えば、博報堂グループが開発した「Pechat(ペチャット)」という商品があります。
これはぬいぐるみに装着できるボタン型スピーカーで、スマホアプリの操作によって「ぬいぐるみが子どもに語りかける」ことを実現するものです。
キャッチコピーは「心を通わせる、おしゃべりボタン」で、これがそのまま商品の世界観を表しています。
このような世界観をUX開発チーム内で共有した上で、「UX/サービス実装」「事業実装」「生活者実装」のそれぞれを実現していくことを私たちは推奨しています。
私たちは、広告制作で培った実装力でクライアントのさまざまなサービス開発を支援しています。その領域は、デジタル開発や映像制作から、先端テクノロジー、リアルタッチポイント、基幹系システム開発などまで及びます。
UXの実装を最後までやり切るためには、「生活者の新しいUXを起点に設計する」こと、「具体的な“かたち”にして進める」こと、そして、「世界観をしっかりつくって生活者の習慣にしていく」ことの3点が重要です。
それらを念頭においてUXへの取り組みを進めていただきたいと思います。

プロジェクトマネジメント

博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 プロセスコンサルティング 部長 ストラテジックプラニングディレクター 荒井 友久

マネジメントの2つのスタイル

様々なプロジェクトマネジメントのスタイルは、大きく「統制型」と「創造型」に分けることができます。
個々のメンバーの役割を明確にし、抜けや漏れのない検討を重ね、納期を最優先するのが「統制型」マネジメントのスタイルです。
絶対に止まってはいけない基幹システム開発などはこのやり方が必要ですし、多くの場合、このスタイルが正しいと思われがちです。
一方の「創造型」マネジメントは、個々のメンバーの専門性を明確にし、「筋」のいい視点や発想を深掘りし、品質を最優先することを重視するスタイルです。
明確に役割を分けず、異なる専門性を持つメンバーが協働しながら進めていきます。
それぞれのスタイルに一長一短がありますが、UXのプロジェクトのマネジメントは「創造型」で進めた方が成功の可能性が高まります。

要素の「つなぎ」が甘いとプロジェクトは失敗する

では、UXプロジェクトにおける創造型マネジメントとは何か?「解決すべき事業課題」「事業発想」「生活者発想」「テクノロジー発想」「UX/サービス実装」「事業実装」「生活者実装」といった、ここまで挙げられてきたすべての要素を「つなぐ」ことです。
UXプロジェクトでよく見られる失敗例の一つに、他社との差がないもの、あるいは他社にすぐに真似されるものができてしまうというケースがあります。
その原因は、事業発想と生活者発想の間の「つなぎ」が甘いために、“模倣困難性”を生み出せていない点にあります。
つまり、自社における独自の経営資源とは何なのか。
生活者が求めている価値とは何なのか。
その両方の視点をしっかりと踏まえてUXをデザインする必要があります。

もう一つ、よく見られる失敗例が、理想的な戦略を描くことができても、それを実現できないというケースです。
これは発想と実装の「つなぎ」が甘いことに原因があります。

「統制型」マネジメントでプロジェクトを進めていくと、「つなぎ」が甘かったことがあとからわかっても、前のプロセスに戻ることはなかなかできません。
そのため私たちは、UXプロジェクトにおいては、「創造型」マネジメントによる、アジャイル型プランニングを実践することをお奨めしています。

重要なのは「業績指標」よりも「価値指標」

プロセス間の「行ったり来たり」が可能なアジャイル型プランニングにおいて重要なのは、「価値指標に基づいたKPIの共有」と「勘どころを理解したバランス人材の起用」です。
前者から見ていきましょう。
例えば、楽曲の歌詞が表示されるスピーカーがあります。
このスピーカーの事業としての重要指標は何でしょうか。
「業績」を重視するのであれば、「初月販売台数」が指標になるでしょう。
一方、「生活者にとっての価値」を重視した場合は、いろいろ考えられるかもしれませんが、「1ヶ月あたり視聴回数」、「1回あたり連続視聴時間」などが価値指標になるでしょう。
価値指標のKPIは、その中で明確に戦略達成に貢献できるものです。
サービスを考えるということは、「価値指標」をKPIにすると見えてきます。初月販売台数を上げるために?と考えても、個性のない、やる意味の薄いアイデアが溢れる事になります。

異なるタイプの人材を融合させる

後者の「勘どころを理解したバランス人材」とは、各領域において実務経験があり、右脳型スタッフと左脳型スタッフの特性を理解できるプロジェクトプロデュース人材のことを意味します。
左脳型スタッフは「具体」を設計することが得意で、「何か違うと思う」といったあいまいな言葉を嫌います。
右脳型スタッフは「世界観」を創造することに長けていて、「それはなぜ必要なの?」と問われることを嫌がります。
一般社会では、両者はなかなかかみ合わないのですが、プロジェクトではそれぞれがそれぞれの特性を理解しないと前に進めません。
そのような相互理解を促すノウハウを私たちは持っています。
博報堂のような総合広告会社は、まさしく異なるタイプの人材が寄り集まった専門集団だからです。
プロジェクトの各プロセスの実務を理解し、人材を融合させ、戦略を実装に結びつけていくこと。
それがUXプロジェクトをプロデュースする人の役割なのです。

講師プロフィール

※掲載時プロフィールです。

入江 謙太(いりえ けんた)
統合プラニング局ユーザーエクスペリエンスデザイン部長 ビジネスディベロップメントディレクター

様々な業種のクライアントとともに事業コンサルティング、企業・商品ブランディング、商品・サービス開発、マーケティングからクリエイティブ・デジタルまで一貫したコミュニケーション・プランニングを行ってきた。
近年は、プロモーションを超えた、UX視点でのサービス領域の開発に積極的に取り組み、博報堂の次世代マーケティングを現場から牽引している。
ACCグランプリ(マーケティング・エフェクティブネス部門)、広告電通賞(セールスプロモーション部門)、東京インタラクティブアドアワードファイナリスト、モバイル広告大賞、アドフェストシルバーなど受賞。

岩嵜 博論(いわさき ひろのり)
ブランド・イノベーションデザイン局 HUX部長 ストラテジックプラニングディレクター

国内外のマーケティング戦略立案やブランド、イノベーション業務に携わった後、米国シカゴのデザイン
スクールを修了。その後、米国デザインファームでのインターンを経て、現在はUX起点の新規事業開発、製品・サービス開発プロジェクトをリードしている。
著書に『機会発見――生活者起点で市場をつくる』(英治出版)、共著に『アイデアキャンプ――創造する時代の働き方』(NTT出版)など。

田村 耕人(たむら こうじん)
デジタルビジネス推進局エグゼキューション・デザイングループマネージャー
株式会社BASKET サービス開発プロデューサー

事業会社にて約10年間、生活者むけサービス・事業開発に従事した後、2012年博報堂入社。様々なクライアント企業のサービス開発を支援。とくに「デジタルとリアルの統合」をテーマに、流通事業者のモバイルサービス、オムニチャネル構築などに取り組む。
最近は、企業の事業・ブランド戦略から生活者にとって価値のある体験まで一貫性を持って仕立てる「UXデザイン」を模索している。

荒井 友久(あらい ともひさ)
マーケティングシステムコンサルティング局 プロセスコンサルティング部長 ストラテジックプラニングディレクター

2012年博報堂入社。事業戦略・マーケティング戦略から情報システム開発までを一気通貫して支援する。
大手SIerの経営企画を経て、大手メディアサービス企業の不動産広告事業における事業企画・営業推進にて、事業を成長させる事の難しさ・泥臭さを最前線で経験する。
その後、経営コンサルティングファームにて第3者として事業支援を行った後、クリエイティブとの融合による、新しい事業支援のあり方を作るために博報堂に転身。

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