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【Consulactionセミナー】訪日客4000万人時代に向けたグローバルマーケティングマネジメント~「世界が期待する日本」をどうビジネスに活用するのか~

2016.11.08
#Consulaction
2016年11月8日(木)にConsulactionセミナーが開催されました。
このページでは、当日の講演内容を要約した、セミナーレポートをお届けします。

日系企業を取り巻くグローバルビジネス環境は大きく変化しています。
博報堂では、日本企業の世界各地の拠点を現地で支援するだけではなく、日本国内の本社機能をサポートし、新規市場へのアウトバウンド戦略、グローバルでのブランド管理、インバウンドを継続的なクロスバウンドに繋げる仕組みづくりなどにともに取り組んできました。
このセミナーでは、増え続けるインバウンド需要をグローバルでのビジネスチャンスに結びつける考え方や具体的な方法などが紹介されました。

博報堂 グローバルビジネス統括局 アカウントプラニンググループGM 木戸 良彦(写真左)博報堂 グローバルビジネス統括局 岩佐 数音(写真右)

インバウンドを取り巻く環境はどう変わってきたか

インバウンドが大盛況になり、「爆買い」という言葉が流行語のようになったのは2年半ほど前のことです。
インバウンド需要への関心は依然続いていますが、雰囲気は変わってきたように感じています。
セミナーなどでの質問で以前に多かったのは、「このインバウンドの隆盛はいつまで続くのか?」「インバウンドビジネスにどれくらい投資すればいいのか?」といったものでした。

それが今年に入って一変しています。
「インバウンドの活性化が日本、あるいは日本企業にもたらすものは?」。そんな質問が非常に増えています。
多くの企業のご担当者の関心は、短期的なインバウンド効果に関するものから、インバウンドがもたらす長期的な影響、いわば「インバウンドのレガシー」に移行しつつあるように見えます

インバウンドを取り巻く環境はどうなっているのか。そこから見ていきましょう。

まず、TPP(環太平洋パートナーシップ)やアセアン共同体など、統合的な経済圏が生まれることによって、国際的な競争環境がフラット化し、国家間の競争が以前よりも激しくなっています。
また、世界中で人の移動が盛んになり、それにともなって海外での購買機会も増えています。
日本への来訪者も増えています。2015年の訪日外国人客は約1974万人でした。
東京オリンピック・パラリンピック大会が開催される2020年には4000万人まで増える見込みとなっています。

さらに、母国からでも海外製品が購入できる、いわゆる「越境EC」のサービスが急増し、購買のクロスボーダー化が進行しています。これはとりわけ中国において顕著です。
その一方で、中国当局が国内需要を守るために頻繁に通関制度などを改正し、日本企業を混乱させているという現状もあります。
経済環境だけではなく、海外の生活者も変化しています。
例えば、最近世界で人気を集めている日本商品は、日本人にとってはごく当たり前の日用品や食料品やお酒などです。手軽な商品だけど、わざわざ日本に行って買ったり、食べたりするのが楽しい。そう考える外国人が増えています。

また、モノだけではなく、ユニークな体験ツアーや、日本の魅力を五感で体験できる店舗など、真に日本らしい体験、つまりコトを求める観光客も増加しています。

さらに、日本の「健康」文化への注目度も高まっています。寿司を始めとする魚料理を中心にタンパク質を摂取したり、緑茶、青汁などを日常的に飲んだりと、日本人の健康習慣が各国で注目され、取り入れられ始めています。

グローバルマーケティングの新しい視点

インバウンドの経験を受けて、グローバルマーケティングにも新しい視点が生まれています。ここでは2つの視点をご紹介します。
「地球儀視点」と「独自化視点」です。
国内外を分けて考えるのではなく、デジタル(EC)とリアル店舗を融合させながら、クロスボーダーでブランドを成長させる兆しが、例えばスナック菓子などのブランドであらわれています。
これを私たちは「地球儀視点」と呼んでいます。
既存商品がグローバルで受け入れられるポテンシャルを調査し、それぞれの国に適した商品を展開するといった方法です。
一方、「日本ならでは」のブランドデザインを追求する動きも出てきています。
これが「独自化視点」です。例えば中国では、人々の生活水準が上がるにしたがって、商品やサービスの差別化競争が激化しています。
日本企業がこの市場で価格競争、値引き競争、広告投下量競争に巻き込まれないためには、ほかにない独自のブランド力で勝負する必要があります。

最新グローバルマーケティング実践手法

次に、具体的なグローバルマーケティングの実践手法を見ていきましょう。3つの手法を紹介したいと思います。

1「聖地」による価値表現

例えば、商品の産地をアピールしたり、ブランドを直接体験できる場づくりをしたりするなど、ブランドに関連する「聖地」のイメージで顧客の心を捉える方法です。

2 「物語」による価値表現

ブランドの「物語」には2つの軸があると考えられます。
「日本品質の訴求」と「世界水準の訴求」を両極とする軸と、「第三者評価の訴求」と「自社の矜持の訴求」を両極とする2軸です。
その2つの軸によってつくられる4つの象限には、それぞれ次のような「物語」が当てはまります。

①外国人目線で語られる物語・・・・・・・・・・・外国人による「日本らしさ」の発見
②国際的視点で語られる物語・・・・・・・・・・・世界が認めたブランドの価値
③世界共通の視点で語られる物語・・・・・・・・・世界中で通用するブランドの価値
④「日本代表」というポジションで語られる物語・・そのカテゴリーにおいて日本を代表するブランド

3 「作法」による価値表現

ブランドを継続的に成長させていくためには、訪日外国人も含めたグローバル市場において「理想的な顧客」を獲得していくことが重要になります。
これはつまり、「理想的ではない顧客」にはあえて売らないという「排他型マーケティング」でもあります。
このターゲティングの「作法」として、以下のようなものが挙げられます。

●情報内容の高度化・・・・・ブランドの矜持を物語として情報化し、 際立つ存在感を醸成していく。
●情報経路の限定化・・・・・広いターゲットに狙うのではなく、理想とする顧客層にのみ届く情報設計をする。
●理想とする顧客層の特定・・ブランドの真の価値を見極める審美眼を持った「知的探究者」を定義し、アプローチする。

例えば、中国には次のような知的探求者がいます。

●スニーカーそのものとNBAの歴史を愛する著名スニーカー収集家
「高価で数量が少ないのがいいもの? それは最大の誤解だね」と語るスニーカーコレクター。
NBA選手が認めるスポーツウェアとしての機能とデザイン性に強く惹かれて収集を始め、一部のスニーカーコレクターの間でカリスマ的な存在として崇められている。
●「時計はペット」と公言するリストウォッチ愛好家
時計愛好家の間で有名なバイクと時計の収集家。
父親から貰ったロレックスをきっかけに時計に興味を持ち、その時々に最も気に入っているバイクに最適な時計を選ぶという独自の選択基準で時計を購入している。
●幼少時から陶磁器を収集している陶磁器コレクション起業家
陶磁器の産地として名高い景徳鎮出身で、幼少時からずっと陶磁器と接してきた。
大学で陶器美術を専攻し、陶磁器収集を開始。
大学3年生の時に周囲の反対を押し切り、陶磁器の会社を起業した。
その独特のセンスが多くの人に支持され、2014年に会社は上場した。
●古きよき時代の上海に恋する「上海アンティーク」収集家
上海で生まれ育ち、上海に深い思い入れを持つ彼女は、日々変化し続けている上海に昔の面影を探し求め、上海のアンティークを収集し始めた。過去に戻ることはできないが、その時代を生きたものが語ることがあると信じており、「より多くの人に昔の上海を知ってほしい」「思い出してほしい」という思いで、10年前に個人で「上海往時民俗博物館」をオープンさせた。

「SUPER JAPAN」の時代へ

では、今後インバウンドビジネスはどのように変化していくのでしょうか。
私たちは以前、インバウンドとアウトバウンドが相互に活性化する「クロスバウンド」という言葉を提唱したことがあります。
それがいよいよ現実化しつつあるように見えます。
インバウンドの未来を指し示す兆候としてまず指摘できるのは、インバウンドが日本人による内需を刺激しているという事実です。
日本の生活者が日本製品の価値をあらためて見直し、価格が多少高くても付加価値の高い製品を選ぶようになっているという状況が生まれています。
進行しているのは、次のようなプロセスです。

①来日した外国人が日本ならではの価値を発見する。
②母国に帰国した外国人が自国の人にその情報を伝え、波及させる。
③外国での評判が日本に逆流し、日本人が日本ならではの価値を再発見する。

また、インバウンド需要が高まった結果、次のような効果が生まれていることを指摘しておきたいと思います。

●ポジティブな違和感
日本人とは異なる価値の文脈で育ち、暮らしている外国人だからこそ、日本の製品や文化に「ポジティブな違和感」を見出し、それに価値を感じる。
●他者が認める信頼感
日本人ではない外国人が認めるからこそ、商品やサービスの客観性が担保され、その他の国の人々や日本人からの信頼も高まる。

インバウンドの未来は今後どうなっていくのか。
私たちは、日本の価値がよりいっそう意識される時代──「SUPER JAPANの時代」がやってくると考えています。
インバウンドがもたらしたものは、日本理解の深化であり、それが世界中に拡散されたことです。
日本の文化や製品の価値は、以前は日本人が思っている以上に世界に知られていませんでした。
しかし、訪日外国人の日本でのさまざまな体験を通じて、日本文化の価値、さらには日本人の精神性までが広く海外の人たちに理解されるようになりました。
今後、訪日外国人の増加にともなって、日本、日本人、日本文化、日本製品の価値はより理解され、意識されるようになるでしょう。
そうしてやってくるのが「SUPER JAPANの時代」です。
そのような時代には、日本のよさを知り、日本の価値を深く理解する外国人と日本人、すなわち「SUPER JAPANESE」が日本の魅力を世界に発信していくことになります。
さらに彼・彼女らは、日本独自のプロダクトやサービス、すなわち「SUPER JAPAN PRODUCT」の開発を自ら担うようになるでしょう。
「SUPER JAPANESE」は日本人に限定されません。
普通の日本人よりも日本を知り、日本を愛している外国人も「SUPER JAPANESE」です。
したがって、外国人がより優れた「SUPER JAPAN PRODUCT」を作る可能性もあるのです。

SUPER JAPANの時代のグローバルマーケティング戦略

最後に「SUPER JAPANの時代」にグローバルマーケティングがどう変わっていくかを見てみたいと思います。

1 商品の変化
これまで海外で商品を展開する場合は、現地の文化や生活習慣に合わせてローカライズするケースが大多数でした。
今後は、日本の精神性を反映した商品やサービスを開発し、海外現地の生活者に求められるブランドをつくっていくことが必要になると考えられます。
もちろん、ある程度のローカライゼーションは今後も必要ですが、そこに日本独自の価値を追加していくことが求められるでしょう。
2 顧客の変化
これまでは現地の日本人を対象とした商品、サービス展開が少なくありませんでした。
今後は、世界の「SUPER JAPANESE」を対象とするマーケティングが必要とされるでしょう。
3 顧客との関係の変化
従来の顧客との関係は、多数のターゲットにこちらから商品を見せたり情報を提供したりする「プッシュ型コミュニケーション」によってつくられてきました。
今後は、理想的なターゲットが自ら物語を求めて商品やサービスの情報にアプローチしてくる「プル型コミュニケーション」に変わっていくでしょう。
4 チャネルの変化
これまで、海外駐在員の役割は、商品やサービスを「販売する」ことでした。
今後は、商品やサービスの「価値を伝える」、いわばエバンジェリスト(伝道師)としての役割が求められるでしょう。

インバウンドビジネスがもたらした可能性は非常に大きいと私たちは考えています。
それを日本企業の皆さまがどう捉え、そこからどのようなチャンスをつかんでいくのか。
それが今後試されていく時代になるのではないでしょうか。

講師プロフィール

※掲載時プロフィールです。

木 戸  良 彦 (きど よしひこ)
博報堂グローバルビジネス統括局 アカウントプラニンググループGM

国内営業部門での経験を経て、2003年に北京代思博報堂広告有限公司の設立メンバーとして中国北京に赴任。
営業総監兼市場総監として様々な分野のマーケティングやコミュニケーション業務に従事。
08年に帰任後も中国ビジネスに関わり続け、11年1月のチャイナビジネスプラニング局発足と同時に日本分室長就任。
現在は自動車、化粧品、家電、食品、トイレタリー、製薬、など幅広いクライアントのグローバルビジネスプラニングを担当しながら、新しいソリューションやナレッジの開発にも従事。
各種講演やセミナーにも多数登壇しており、現在は博報堂のインバウンド・マーケティング・ラボのナレッジ推進責任者も兼任している。
共著:<超実践>ネクストチャイナマーケティング(PHP研究所)http://www.hakuhodo.co.jp/archives/announcement/24144

岩 佐  数 音 (いわさ かずね )
博報堂グローバルビジネス統括局

入社当初より日系クライアントのグローバル業務を担当。調査、戦略立案から、海外進出時のブランディング、PRまでワンストップで幅広いビジネス領域を扱う。
現在は家電、カメラ・時計、食品・飲料、日用品・雑貨、インフラ、通信、流通など数多くのクライアント業務に従事。
2015年には博報堂オリジナルのインバウンドソリューション「IMBA」の調査主幹として調査設計から実査まで担当。
博報堂インバウンド・マーケティング・ラボにも所属。

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