2017年9月13日(水)にConsulactionセミナーが開催されました。
このページでは、当日の講演内容を要約した、セミナーレポートをお届けします。

2020年の東京五輪を控え、ジャパンブランドに世界中から熱い視線が注がれています。
その視線に応えるためには、ブランディングとマーケティングの軸を「品質」から「本質」へと転換していく必要があります。
この日のセミナーでは、日本の本質や日本人の精神性を体現した「真の日本ブランド=SUPER JAPAN PRODUCT」が世界を席巻していく時代に入りつつあること、そして、そのようなブランドを作り上げ、広く伝えていくための方法論が語られました。


博報堂 グローバルMD推進局プラニング部 部長 木戸 良彦 (写真左)
博報堂 グローバルMD推進局プラニング部 インターナショナルビジネスディレクター 増村 顕 (写真右)

日本国内でグローバルビジネスを展開する時代に

私たちのチームは、多い年には年間50社くらいの日本企業のグローバル関連業務を担当させていただいています。
そんな中、最近、多くの企業に共通するある傾向があると感じています。
それは、日本企業のマネジメント機能が本社に少しずつ回帰しているという傾向です。
この20年ほど、「現地現物」、つまり海外法人のマネジメントは現地の人たちに任せるというのが多くのグローバル企業の戦略だったように思いますが、その戦略が少しずつ変わってきているように思うのです。

理由はいくつか考えられます。
一つは、この数年でCMO(最高マーケティング責任者)の存在感と役割が非常に大きくなったということ。
本社のCMOが一括してマーケティングを担うようになったために、それに関連する機能が本社に集まってきているのです。

もう一つは、グローバルビジネスを経験したことのある日本人社員が増え、また本社での外国人採用が増加しているために、日本本社からグローバルの状況を把握しやすくなっているということ。
いわば本社自体がグローバル化しているのです。

さらに、本社が主導する海外案件が増えているという事実も見逃せません。
その最たるものが、日本国内にいながらにして世界の生活者を相手にするインバウンドビジネスです。
インバウンドビジネスには、最近では「越境EC」、つまり海外の人たちがインターネットで日本製品を買う輸出型ビジネスも含まれるようになっています。

このようにして見ていくと、以前と比べていろいろな点で、日本国内と海外との差がなくなってきていることがわかります。

インバウンドビジネスの隆盛は日本人自身を変えた

インバウンドといえば、海外の人たちによる日本製品の大量購買、いわゆる「爆買い」が思い起こされます。
あれは2014年と15年をピークとした一種のブームでしたが、あの爆買いによって世界の中の日本の存在感が大きく変わったと私たちは考えています。

多くの外国人が訪日して日本の製品やサービスに触れることによって、実体験を通じた日本の本当の魅力が海外に伝わるようになった。
それが、その変化の内容です。
爆買いブームののちも、毎年、3000万人近い外国人が日本を訪れています。
彼・彼女らは、日本の本当の姿に触れ、その魅力を母国の家族や友人たちに伝えます。
それによって「リアルな日本体験」が世界中に拡散しているのです。

それだけではありません。
実は私たちは以前からある仮説を持っていました。
「インバウンドビジネスの隆盛は日本人自身を変える」という仮説です。
海外の人たちが日本の製品やサービスを体験し、日本の魅力を海外に発信することで、日本人が日本の製品やサービスをあらためて見つめることになる。
それによって日本人自身が日本の魅力を再発見する──。
その仮説が現実のものになっていることが、新聞報道などからわかります。
一種のブーメラン現象といっていいでしょう。

「To the world」から「From the world」へ

また、爆買いブームによって、従来の「Made in Japan神話」が崩壊したという視点も非常に重要です。
従来の日本の製品やサービスのイメージは、「高品質」「安心・安全」「おもてなし」といった言葉で表現されていました。
今でも、多くの日本人にはそのようなイメージが根強くあると思います。

しかし、爆買い後、海外の人々の日本製品に対するイメージは大きく変わっています。
博報堂は、世界中の生活者の意識調査を毎年行っていて、その結果を「Global Habit」というデータベースにしています。
それを見ると、爆買いブーム後には、「高品質」「安心・安全」「おもてなし」よりも、「カッコイイ/センスがいい」「活気や勢いを感じる」「明確な個性や特徴のある」「時代を切り拓いていく感じ」といったイメージを日本の製品やサービスに感じている外国人が非常に増えていることがわかります。
つまり、日本人が日本製品に対して抱いている「高品質」「安心・安全」「おもてなし」というイメージはもはや過去の神話であり、実態としてはすでに新しいイメージに移行していると推測できます。

「カッコイイ/センスがいい」「活気や勢いを感じる」「明確な個性や特徴のある」「時代を切り拓いていく感じ」──。
この新しい日本のイメージをどうグローバルマーケティングに生かしていくか。
それがこれからのグローバル企業の課題であると私たちは考えます。
これまでの延長線でグローバルマーケティングを考えるのではなく、戦略やコンセプトを一度リセットすることが必要です。
「日本から世界への視線」を中心にしていた思考を、「世界から日本への視線」へ、つまり「To the world」から「From the world」へと変えていくこと。
そしてそこから見えてくるものをブランディングやマーケティングに生かしていくこと。
それが今、グローバルで戦う日本企業に求められているのです。

「品質」のみで勝負する時代は終わった

ところで、なぜ世界の人々は日本の製品やサービスに魅力を感じているのでしょうか。

博報堂インバウンドマーケティングラボは、およそ1年半に渡って、10数カ国の訪日外国人、日本在住外国人にインタビューをし、その根幹にある真実と思える2つの根拠にたどり着きました。
「製品の本質的価値を突き詰める探究心」「市場の課題解決に挑み続ける挑戦心」──。
その2つの精神性があることこそが、日本の製品・サービスが愛される理由であるというのが、私たちの考えです。

とりわけ重要なのが「本質的価値」というキーワードです。
以前、日本製品は品質のよさによって評価されてきました。
しかし、品質のみで勝負する時代は終わっています。
低品質の商品が世の中にあふれていれば、品質で勝負をすることができます。
しかし、あらゆる商品の品質が向上している現在では、品質の差では勝負になりません。
そこで重視されるようになっているのが「本質」なのです。

日本、あるいは日本人の本質によって勝負できる商品。
世界に認められるオリジナリティによって勝負できる商品。
それを私たちは「Super Japan Product」と呼んでいます。

日本の技術の粋を集めた時計、美味しさを素材から徹底的に考えた飲料、あるいは高齢者の服薬をスムーズにするゼリーなど、日本ならではの本質で勝負しているSuper Japan Productは現在でも数多くあります。
また、Super Japan Productは、その本質に魅了され、そのビジネスを担うようになる「Super Japanese」を生み出します。
Super Japaneseは、決して日本人だけではありません。
日本を深く理解し、日本の本質を知っている外国人もまた、Super Japaneseです。
日本酒に魅せられて杜氏になった外国人、日本車の開発に携わる外国人などがその一例です。

差別化による相対評価から、独自化による絶対評価へ

では、Super Japanのブランディングはどうあるべきなのでしょうか。

従来のブランディングの方法論では、「差別化」という言葉がよく使われていました。
しかし私たちは、この言葉はSuper Japanのブランディングには適さないと考えています。
差別化とは、マーケットを切り分けることであり、競合他社と同じ土俵で戦うことであり、そこにおける「相対評価」を重視することだからです。
差別化競争の行きつく先は細かな差異の争いであり、結果、ブランドは生活者の興味からどんどん遠ざかっていくことになります。

「ポジショニング」という考え方も同様です。
一つの地図の上で、他社と比較して自分たちがどのあたりにいるかを見極めるのがポジショニングであり、これもまた相対評価になります。

Super Japanのブランディングにおいて重要なのは、差別化やポジショニングではなく、「独自化」であると私たちは考えています。
すでにある土俵の上で戦うのではなく、文化や開発背景といった独自の文脈の中で戦うということです。
このブランディングによってもたらされるのは、他社との比較ではない「絶対評価」です。

差別化と独自化の対応関係は、品質と本質の対応関係とパラレルになっています。
品質という軸は、最高品質から最低品質に至るヒエラルキーを生み出します。
しかし、本質に「高本質」「低本質」という区分けはありません。
つまり本質にヒエラルキーはないということです。本質が生み出すのは「種類の違い」のみなのです。

「真珠の輝きの本質」を見極めるブランディング

私たちはSuper Japanのブランディングの一つのアプローチとして、「Brand Pearling」という方法論を提案しています。
「Pearl」とは真珠のことで、動詞では「真珠を採る」という意味になります。
貝の中で育った真珠のように輝くブランドを採り出して、広く知らしめていく。そんなイメージです。

ブランドのアイデンティティを見極めるために社内でワークショップを行うという方法が一般的なブランディングの作業ではしばしば用いられますが、Brand Pearlingではその方法は用いません。
ワークショップを行うと、結果的に、出席者が思い描く最大公約数的なブランドアイデンティティを定義することになるケースが少なくないからです。
その代わりに、社内のキーパーソンとの対話を重視します。
多い場合は、15人くらいのキーパーソンと個別に対話をして、「真珠の輝きの本質」を見極めていきます。

また、ブランドのことをひと言で上手に言いあらわすコピーライティングもしません。
「真珠の輝きの本質」をひと言で言い切ることはできないからです。
その代わりに、コンテキスト(文脈)メーキングをします。
つまり、そのブランドが成立している文脈、誕生した文脈、さらには、それを世界に打ち出していく場合の文脈を徹底的に考えるということです。

さらに、ユーザーを対象としたフォーカスグループインタビューもやりません。
そのようなインタビューでは、製品やサービスに対する不満や期待が語られるのが普通ですが、そのような意見の中から「真珠の輝きの本質」を見つけることは難しいからです。

尚、これらは決してワークショップやフォーカスグループインタビューという手法自体を否定しているのではなく、あくまで「Brand Pearlingの過程においては」ということで認識していただければと思います。

ブランドを伝える「ストーリー」と「場」と「作法」

次にSuper Japanのマーケティングの方法についても考えてみたいと思います。
ちなみに、私たちは、ブランディングとは世界の人々に選ばれるための個性づくりであり、マーケティングとは、その個性を人々とつなげていくことであると定義しています。

さて、これまでの日本製品のマーケティングは、「高品質」「安全安心」「おもてなし」という魅力を世界の人々に伝えていくことでした。
しかしこれからの時代に必要なのは、「ブランドストーリー」を世界に向けて発信していくことです。

世に出る製品やサービスは、ブランドの「結果」です。
一方、ブランドストーリーとは、そこに至る「過程」です。
それを伝えることはすなわち、その製品やサービスに込められた精神性を伝えることです。

これは、図にして考えてみるとわかりやすいでしょう。
「日本本質訴求」と「世界水準訴求」を両端とする線を縦軸とし、「第三者評価訴求」と「自社矜持訴求」を両端とする線を横軸とします。
その軸によって区切られた4つの象限にはそれぞれ、「外国人目線の日本らしさ」「世界から認められた日本の魅力」「世界に通用する水準」「日本が日本であるゆえん」といった要素が入ることになります。
この中の、「日本が日本であるゆえん」を明確にして、それを語っていくことがSuper Japanのブランドストーリーを語るということです。

ストーリーと同じように大切なのが、「ブランドハートランド」を広く紹介していくことです。
ハートランドとはブランドの「聖地」であり、ブランドの「心のふるさと」です。
その製品が生まれた場所、その製品の本質に深く結びついた場所、その製品を生み出した人たちの顔が見える場所がハートランドであり、そこには重厚な歴史の積み重ねがあるはずです。
人々は、そのハートランドを訪れることで、ブランドの本質を身をもって体験することができます。

3つめに大切なキーワードとして「ブランドビヘイヴィア」を挙げたいと思います。
これは、ブランドを愛してくれる人たちに対する「作法」を意味します。
この作法は、ある意味で顧客を限定するものです。
最初は限定されていてもいいのです。
その独自の作法を愛してくれる人たちが、いずれそのブランドのアンバサダーとなって、ブランドの魅力を多くの人たちに伝えてくれるようになるからです。
独自の作法があることによって、価格競争をせずに済むようになる。そんな利点もあります。

個々の製品やサービスに本質があるように、それぞれの時代にも本質があります。
「時代の本質」と「製品の本質」。
その二つをどのように上手に握手させることができるかが、これからのグローバルブランディングとマーケティングの大切なポイントになるはずです。

生活者が膨大な情報に取り囲まれ、何が本当かがわかりにくくなっている現代において、表層的なイメージの裏にあるリアルな本質を見せていくこと。
「ストーリー」や「場」や「作法」によってブランドの根底的な魅力を伝えていくこと。
それがSuper Japanのマーケティングであると私たちは考えています。

講師プロフィール

※掲載時プロフィールです。

木戸 良彦(きど よしひこ)

博報堂 グローバルMD推進局プラニング部 部長

国内営業部門での経験を経て、2003年に北京代思博報堂広告有限公司の設立メンバーとして中国北京に赴任し、2008年に帰任。
現在は自動車、化粧品、家電、食品、トイレタリー、製薬、など幅広いクライアントの世界各国におけるビジネスプラニングを担当しながら、 新しいソリューションやナレッジの開発にも従事。
各種講演やセミナーへの登壇、メディアへの寄稿なども多数実績あり。
共著:<超実践>ネクストチャイナマーケティング(PHP研究所)

増村 顕(ますむら けん)

博報堂 グローバルMD推進局プラニング部 インターナショナルビジネスディレクター

ASEAN 中国 インド 欧州。
グローバル企業の海外展開にあわせ、博報堂の海外拠点スタッフ、ローカルのクリエイターとの協働で、ブランディング、マーケティング、クリエイティブを20年以上手がける。
急増するインバウンドなど2020年を前に世界の中で日本への注目が高まり、結果、日本と海外の関係が大きく変わる中で、日本発グローバル業務も多く担当。
毎年最低3回は、渡独し、アウトバーンでひたすらドライビングを楽しむ。

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