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日経電子版ビジネスフォーラム デジタル時代における価値創造とは?
「人と機械の対話。“データ×テクノロジー×人”による価値創造。」 レポート

2019.08.29
2019年7月23日、大手町ファイナンシャルシティにて、日本経済新聞社主催「日経電子版ビジネスフォーラム マーケティング×テクノロジー2019 デジタル時代における「価値創造」とは?」が開催されました。本稿では、博報堂 CMP推進局局長の中村信が登壇した講演「人と機械の対話。“データ×テクノロジー×人”による価値創造。」についてレポートいたします。

博報堂の中村信と申します。
本日はデータ×テクノロジー×人による価値創造、ということでお話ししたいと思います。
まずは簡単に自己紹介をさせてください。私は博報堂入社以来、ずっとマーケティングを担当しています。様々なクライアントの事業・商品開発、キャンペーンの戦略に従事してまいりました。最近では、CMP推進局(CMP:Customer Management Platform)でデジタル、データ、システムを活用したマーケティングの実践や、先端テクノロジーに関するプロジェクトを立ち上げ、テクノロジーを取り入れた、新しいマーケティングも模索しています。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

まずは博報堂の大事にしていること、博報堂のDNAについてお話ししたいと思います。それは“生活者発想”ということです。博報堂は1981年に生活総合研究所を設立し、それから40年近く生活者を読み解くナレッジを磨いて、それに関わるデータを蓄積してきました。生活者を発想の起点にする、それが博報堂のDNAです。

そして今、”生活者発想”の高度化に取り組んでいます。具体的には2014年から生活者を高度に理解する為に、生活者DMPというビッグデータ基盤をつくってきました。そして、生活者データとクリエイティビティの掛け算で、新しいデータマーケティングに取り組んでいます。具体的には、生活者を理解するために生活者DMPを活用しながら、マーケター、クリエイター、テクノロジストがアイデアを出すことを実践しています。今まで生活者の様々なデータを活用して、価値創造につながる、データドリブンマーケティングを試みてきました。それら業務を通じて、重要だと感じたことを、いくつかお話ししたいと思います。

まず最初にお話しすることは“顧客の解像度を上げる”ということです。
価値を創造するためには、顧客を購入へ突き動かした背景を理解する必要があると考えます。そのためにまず大事なことは、顧客を、単に消費者とはとらえない、ということです。顧客を、生活を営んでいる主体として多面的にとらえる。その購入者は夫かもしれません。一生懸命働く会社員かもしれないですし、子どもを育てている父親かもしれない。何かを買う、という背景には、その人の様々な生活が影響しているのです。もっというと、その人の生活がみえてくると、その人の本当の嗜好がみえてくる。それを理解することが価値創造につながると私たちは考えます。今、顧客を生活者として理解するために、検索データやWEBログデータ、移動データなど、さまざまなデータが生まれています。そういったデータを活用しながら、生活者に対する理解を深めていく。大事なのは、これらのデータを“誠実”に活用するということ。生活者を理解するために活用するということが非常に重要になっています。
少し具体的にお話しします。企業にある1stpartyデータ、つまり、購入履歴、オウンドメディアの訪問履歴といった顧客データを安全かつ、効果的に、外部データ、つまり、3rdpartyデータに統計的につなぐ。そのことで、顧客の解像度をあげていき、顧客から生活者へ、データを進化させます。

例えば最近、ニーズが多いのが、ライフステージ理解です。顧客のライフステージが理解できれば、その商品を買った背景が理解できる。顧客のライフステージの変化予兆が把握できれば、どの企業よりも早く先手をうつことができる。顧客の解像度をあげることで、企業としてやるべきことが変わってきます。ライフステージが判断できれば、そのターゲットに向けて、新しい価値を提案することができる。あるいは、ライフステージの変化に対応して、別の商品を提案することもできる。顧客構造を理解することができるので、新しい商品開発のヒントがうまれる。顧客データの解像度をあげるということは、新しい価値を創造するための第一歩ではないかと思います。

この分野における博報堂DYグループの取り組みをご紹介します。
データ・エクスチェンジ・プラットホーム(DEX)です。
こちらはデータホルダーのデータ活用ニーズと、データを利用したい企業のニーズをマッチさせる為に、博報堂の特許技術を生かして、安全にデータを流通できる基盤をつくることを目指しています。

統計的にデータをつないで、顧客の解像度を上げることができてくると、次に必要なことがあります。それは事実を抽出する、ということです。つながった大量のデータを分析し、その中から事実を抽出する。価値創造の為には、この大量のデータの中からどれだけ事実を抽出するかがポイントになっていますが、これがとても大変な作業です。データは増えれば増えるほど解析に時間がかかります。データには鮮度が重要なので、時間がかかってしまうとやはりその価値は落ちていきます。そして関わっている人間の作業時間も長くなります。
また、分析にはリズムが必要です。具体的には、データサイエンティストが分析結果をだし、マーケターがそれを見て、感覚的に違和感があるところを除去する為に、再集計をお願いする。そして、マーケターがまたみる。これをリズムよく繰り返していくことで、分析精度が上がっていくのですが、再集計に時間がかかりすぎるとリズムが狂い、徐々にデータサイエンティストとマーケターが険悪になることもあり得ます。
さらに言うと顧客理解に関しては、今後は動的な部分が増えてきます。静的な顧客理解は意識調査によるターゲット理解。これは非常に有効で、深層心理の深くまでヒアリングすることができます。ただ、1回調査をしたらしばらく実施しない、という意味で静的と呼びます。
一方、動的な顧客理解とは、WEB行動データや購買データ等のアクチュアルデータを活用した顧客理解です。ターゲットの変化をリアルタイムで捉え、その行動から意識やニーズを推測するというものです。
今後、動的な顧客理解がどんどん増えると、人だけで作業しているのは限界となってきます。そうすると重要になるのが、データサイエンス領域の民主化です。
生活者理解を高度化する為に、機械のチカラを借りる。機械のチカラをかりて、マーケターがリズムよく事実を抽出していくことが重要になります。
もっと言うと、大切なのは、機械と、人との対話です。全てを機械に委ねる、機械のアルゴリズムに委ねるのではなく、マーケターとしての経験値をそこに加えたり、生活者の視点を加える。流行などの文化的な背景をそこに加えたり、社会の変化を加えたりと、価値創造の為には、人の感覚を生かすことが重要だと思います。
機械は素直です。大量のデータを高速で処理し、高度に抽出を行い、さらに再現性があります。そこに人間の、ひねくれた感覚を生かすことが大事だと思っています。
素直な「機械」と、ひねた「人間」が組み合わさると、業務がスムーズに進み、新しい価値が生まれてきます。

この領域の博報堂の取り組みをご紹介します。博報堂の機械化ツールのひとつ、フラミンガム(Framingham)です。こちらは、統計的にどんな項目がターゲットの特徴といえるか判定し、自動抽出できるツールです。特徴として信頼ができ、かつ影響力が高いものを機械が集計します。人間が5000項目の中からこれが特徴だというのを導き出すのはおそらく難しいでしょう。ですが、機械ならば可能になります。機械によって人が気づかなかった、あるいは見逃していたような意外な発見が出てくることもあります。そして、出てきたデータを見ることで生活者の解像度が上がり、マーケッターがターゲットへの創造力をどんどん膨らませていく。
機械と人の協業と、完全に機械に任せることは、それぞれにメリットがあると思います。
機械に任せると、効率化でき、常時稼働が可能。ずっと働いてくれて、効率を高めていくことができます。一方で、機械と人の協業の価値は、想像力の拡張だと思います。人の目では気づかなかったことを機械が抽出してくれる。そして、人の目でそれを見て、背景を考える。生活者への想像力が高まっていく。これが機械と人が協業することの価値だと思います。

最後に、データの先に、アイデア(価値創造)をつくるということについて、お話ししたいと思います。
大切なのは、数値の高い、低いの発見ではありません。生活者の心を動かすインサイト、価値文脈は数表を見ていても、なかなか見えてこない。大事なのは、そのデータを発生させた生活者の背景理解や感情理解をどこまでできるかということです。数値が高い・低いの背景には、必ず生活者の心の動きがあります。それを読み解く想像力が、データを見るときには必要だと思います。そのために我々は、大量のデータから生活者像をあぶりだすことを試みています。
例えば、購買データからターゲット像をあぶり出すといったことをしています。商品Aの優良顧客が、その他にどういった商品を購入しているのかを見ることで、特徴を把握したり、その人の生活意識を、マーケッターの経験値を入れながら読み解いていきます。
具体的には、購買データから、生活者プロファイルを描くといったことをしています。購買データから、生活者像に落とし込んでいく。どういった優良顧客なのかのイメージを具体的に膨らませていく。
そしてその具体的な生活者像をもとに、彼らの心を動かすアイデアを深く議論する。ターゲットは、こうすれば喜ぶのでは?こういった不満を持っているのでは?人が見えてくると、何をすべきかみえてくる。大切なのはこういうことかと思います。
データやテクノロジーが進化しマーケティングは変わっていく、しかし、新しい価値を提供したい相手、つまり、生活者を深く理解するという、本質的なことは変わっていないのではないでしょうか。
データやテクノロジーは生活者理解の助けになりますが、価値創造の為には機械だけで完結はできません。人と機械が協業し、データの先にある生活者の背景理解・感情理解を高度化することが重要なのです。

タイトルに戻りますが
データ×テクノロジー×人。
データとテクノロジーと人が掛け算するということ。
そこには確かに価値があります。その価値とは何か?いろいろな価値があるかと思いますが、私は、こう思います。
それは、生活者への想像力の拡張になるんだと。
人だけでは気づけなかったこと、機械だけでは気づけなかったこと。人と機械が協業することで、生活者への想像力が拡張されていく。そして、生活者への想像力が高まるからこそ、その先に生活者が思いもよらない新しい価値を生み出す可能性がどんどん高まるのではないかと思います。
博報堂は様々な試みをしている最中ですが、その可能性をこれからも追及していきたいと思います。本日はご清聴ありがとうございました。

プロフィール

中村 信
博報堂 CMP推進局 局長/シニアマーケティングディレクター
博報堂DYホールディングス マーケティングテクノロジーセンター 室長代理

1999年博報堂入社。様々なクライアントの事業・商品開発やキャンペーン戦略に従事。特に、統合情報戦略に関する業務を多く担当し、マス~WEBまで一貫したコミュニケーションをデザインしてきた。現在は、CMP推進局(CMP:Customer Management Platform)で、デジタル、データ、システムを活用したマーケティングに従事している。また、先端テクノロジーに関する博報堂DYグループプロジェクトを立ち上げ、テクノロジーの進化を取り入れた、新しいマーケティングも模索。
・iMediaBrandSummit2012 登壇
・adtechTokyo2012「モバイル広告の未来」公式セッション登壇。
・adtechTokyo2013「スマートフォン&タブレット革命」公式セッション登壇
・日本マーケティング協会「マーケティング・マスターコース」モバイルセッション
2014/2015/2016/2017講師

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