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【アドフェスト2019レポート Vol. 2】 博報堂セミナーレポート
ー Viva Commercial Films!ー

2019.04.22
#アドフェスト
左から、井村光明、通訳の橋本美保、長谷部守彦
「ADFEST 2019」(タイ、パタヤ)にて、今年も「博報堂セミナー」(3月22日)が開催されました。
博報堂のクリエイティブディレクターであり、2018年度にCM「さけるグミVSなが~いさけるグミ(UHA味覚糖)」で数々の広告賞受賞に輝いた井村光明が、“film making”の重要性がかつてないほど高まっているデジタルクリエイティブ時代におけるCM作りについて話をしました。
セミナーは、博報堂のエグゼクティブクリエイティブディレクター長谷部守彦が井村に問いを投げかけるスタイルで進行し、30年間CM制作に従事してきた井村から、数多くの興味深いエピソードを引き出していました。

WEB動画、作り方にこだわりすぎて、広告会社の得意分野を放棄していないだろうか?

長谷部:
当初「さけるグミVSなが~いさけるグミ」は、クライアントからのオリエンは、テレビCM制作だったと聞いています。WEBに動画を上げることは想定していましたか?

井村:
当初はテレビCM単独での展開予定でしたが、出稿量は多い方ではなかったんです。テレビCMというのは、よほど大量出稿をしないと、このご時世人目につくのは困難です。でも、目に留まらないと意味がない。効率の最大化としてWEBでも展開し、成功しました。いわば“メディアミックス”です。
大量のテレビ出稿がなくても、今は同じ効果を出すことが可能になりましたから。

井村光明(博報堂 クリエイティブディレクター)

長谷部:
井村君にとって、WEB動画とテレビCMの違いって何ですか?

井村:
僕はさしたる違いは感じません。単にメディアと尺の違い。15秒なのか、5分なのか、30分なのかで企画や脚本の書き方が違う、それだけのことです。
世論が“メディアファースト”すぎると思います。WEB動画とテレビコマーシャルは違うという触れ込みがあまりに多い。
「WEBの場合は」、「バズるためには」、ということばかり想定して動画を作ることは、広告会社として最も「得意なところ」を放棄していると思うんです。

僕ら広告会社の人間は、「商品に関するストーリーをつくる、商品に落とす」ことが一番得意で、それがユーチューバ―やドラマの脚本家と違うところだと思うんです。「さけるグミVSなが~いさけるグミ」がうまくいったのは、「広告然」としていたから。
「広告然」とは、何の商品を伝えようとしているか、はっきり分かるということです。
僕は30年間テレビCMをつくってきたので、一番得意なのは15秒の尺で商品を伝えることなはずですよね。それに、広告が他のコンテンツと違うのは”商品があるところ”なので、単純に考えると商品を早く登場させる方が差別化できるとも言えますよね。
最近のWEBムービーは、最後に商品を出して終わりというものが多いと感じます。「売らんかな」的雰囲気を敢えて出さないようにしているのかもしれませんが、商品こそスターであり、良いモノとして描かれるべきなんです。自分は商品性善説で語りたいですね。

WEBの中にはユーチューバーによる「やってみました動画」とか、既に我々以外の専門家によるカッコいい動画がたくさんありますからね。初めから商品がでずっぱりで効果がでるなら、われわれとしてはそっちのほうがいい。敢えて広告然とした方がいいんです。

長谷部:
テレビCMを作る上で、一番大切にしていることは何ですか?

長谷部守彦(博報堂 エグゼクティブクリエイティブディレクター)

井村:
とにかく目立つことです。まずは「見たことあるよ」と世の中に言われることが一番大事。
今はWEBがあるおかげで、テレビCMの出稿量を補完できる時代になっています。
昔から「続きモノのコマーシャル」は、広告予算をたくさん持っているクライアントにしかできない高嶺の花だったんです。今なら、WEBというメディアがあるので、確実にシリーズで、それも順番どおりに見てもらえる機会があるんです。

長谷部:
効果的なオンライン映像をつくる鍵とは何だと思いますか?

井村:
よく成功の鍵は、視聴者が飽きないように5秒ごとに「びっくりするような場面」を出すことだというようなことを言う人もいます。それもある意味、事実かもしれないのですが、僕だったら、びっくりしたところでそのまま終わらせて、第2話に続かせますね。
そうやって作ったのが、「さけるグミVSなが~いさけるグミ」のCMで、一口サイズ=30秒×11本=トータル6分です。
同じ6分でも、短く切った方が飽きないと思うんです。これも効率よく商品を見せられる「広告然」手法のひとつです。

「面白いけど」…。「けど」がついたら、そのアイデアは捨てた方がいい

長谷部:
井村君はどうやってアイデアを生み出しているのですか?
チームでというより、わりと一人で作業しているように見受けられますが。

井村:
とにかく、数を出しますね。ひたすら紙にアイデアを書く。100本か200本。
そして、一人で仕上げたコピーやコンテを営業とかフィルムディレクターに見てもらって、全員の反応を観察するんです。
その時、「面白い…。けど」というように、“けど”と付いた案は、たいてい駄目です。

長谷部:
え?「けど」が出たら駄目ですか??

井村:
そう。「けど」と付いたら、その案は良くない。広告会社の営業って優秀なんです。彼らの表情を見ていれば、完成したものへの世の中の反応をイメージすることができる。

そして、決してあきらめないこと。提出した案が一回で通らず、2回、3回とクライアントにプレゼンを重ねることがあります。悩みぬいて、だんだんと気力体力が限界に近づき、ついつい、粘れなくなってしまうことがある。苦しさの頂点で粘れるかが大きいんです。

長谷部:
たしかに、あきらめないで粘ることは結果を出すよね。タフな状況を何度も乗り越えていくわけだから。

井村:
天才じゃない限り、本当に面白いか、面白くないかってわかりません。判断も難しい。
でも、ひとついえるのは、「これは面白くない」というのは経験によって確実にわかるようになると思うんです。

「何が面白いか」ばかり考えると、過去の成功例を基準にするしかないから、結果真似したものになることが多いと思うんですね。それよりは、「面白くないものを省く」と考えてみる。数をたくさん出したら、その中に他のCMで既に使われている言葉やモチーフやシーンが入ってないか厳しくチェックして排除する。
そうしたからといって、残った企画が確実に面白くなるかどうかはわかりません。しかし少なくとも、他のCMと似ていない目立つものになる可能性が高まると思うんです。

長谷部:
今日の話の中から、若いクリエイター達に送るメッセージとして次の5つを抽出してみました。
1.なるべく沢山の数のアイデアを自分でひねり出せ
2.最後まで決してあきらめるな、粘りをみせろ
3.周囲が“面白い、けど…”と評したアイデアは、捨てること
4.クリエイティブスタッフの意見より、むしろクライアントに仕える営業を優先すること
5.何が面白いか、ではなく、面白くないものを厳しく省く作業に時間を割く。

みなさん! 商品を愛し、ブランドを愛し、クリエイティブジャーニーを楽しんでくさい!
ご清聴ありがとうございました。

井村 光明 CMプラナー/クリエイティブディレクター

1968年広島県生まれ。1991年株式会社博報堂入社。
飲料、医療系サイト、地方自治体、食品など幅広い得意先業務を担当。ACCグランプリ、TCCグランプリ、カンヌライオンズでシルバー、講師として登壇したADFEST2019でもブロンズ等、多数の賞を獲得。

長谷部 守彦 エグゼクティブクリエイティブディレクター

1986年博報堂入社。コピーライター、CMプランナーを経て現職。国内外の多数の広告キャンペーン制作を経験。今年でCM制作30年。これまでにカンヌライオンズ 、スパイクスアジア、 ADFEST、 One Show、 D&AD等で国際広告賞の審査員を経験。

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