去る2018年11月27日にミッドタウン日比谷Innovation Partner BASE Qにて、日本経済新聞社主催「マーケティング×マネジメント2018 マーケティングの活用で生み出す経営イノベーション」が開催されました。本稿では、博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局部長の岩嵜博論が登壇した講演「未来生活者発想でサービスをデザインする」についてレポートいたします。

博報堂の岩嵜博論と申します。私は、博報堂ブランド・イノベーションデザイン局という組織でコンサルティングチームをリードしています。二年ほど前に、「機会発見」という本を出版いたしました。最近、問題解決やロジカルシンキングに関する書籍を書店でよく見かけますよね。我々の想いとしては、既知の問題の解決だけでは未来のビジネスの課題は解けないのではないか、そこで大事になるのは“Opportinity”(機会)なのではないかという信念のもと、執筆したのがこの本です。

私が所属している博報堂ブランド・イノベーションデザイン局は、私のような戦略プランニングを行う者だけでなく、デザイナー、コピーライター、建築家など、様々な職能をもったスタッフがワンチームとなってイノベーションを考えていく組織です。「博報堂」というと、どうしても広告を作っている会社という認識が強いかもしれませんが、実はそれだけでなく、製品・サービスを作るお手伝い、そこから派生し、事業を作るお手伝い、更に昨今はデジタルを中心とした顧客体験を作るお手伝いをさせていただいております。

今回、皆さまとご共有したいテーマは、
「価値の源泉がサービス起点に移りつつあるのではないか」ということについてです。
今最もこの状況が進んでいるのが、自動車業界です。CASEと言われるような(※Connected(接続性)の「C」、Autonomous(自動運転化)の「A」、Shared/Service(シェア/サービス化)の「S」、そしてElectric(電動化)の「E」の頭文字をとった造語)大きな変革期にあると言われています。これを象徴するように、様々な自動車メーカーは自動車販売という事業モデルだけではなく、サービスの提供も始めています。あるアメリカの自動車メーカーでは、車両の販売だけではなく、乗り合いサービスや、バイク・電動スクーターのシェアリングサービスを提供し始めています。このように、自動車メーカーを例にとってみても、価値の源泉が、車両というハードウェアだけでなく、サービスにも移りつつあるということを見てとっていただけるのではないかと思います。こういった傾向は、自動車業界だけでなく、モノを中心として価値提供されていた多くの企業に当てはまりつつあると思います。

モノはサービスという価値を伝えるための一つのツール

マーケティングのアカデミズムの世界でも、昨今こうした議論がなされるようになってきています。2004年にVargoとLuschという2人の学者が発表した“Service Dominant Logic”という理論があります。彼らがここで描いている世界は、先程まで述べてきた製造業が今直面している問題を予見するようなものです。それが、タイトルにもある“Service Dominant” サービス中心に移っていく、という見立てなのです。
今までの私たちは、モノかサービスかどちらかで考えてしまっていましたが、彼らが提唱したのは、全ての価値はサービスの交換なのである、という考え方でした。「モノはサービスという価値を伝えるための一つのツール」として見立てる方が世の中の見方として都合がよいのではないかと問いかけたのです。

ここで改めて自動車業界で考えてみると、車両はサービスという新たな付加価値をデリバーするための道具である、という見立てをした方が、もしかすると良いのかもしれません。

ブランド構築の3つのポイント

では、こうしたサービスが価値の中心となるマーケティングとはどういう形になるのでしょうか。ここで、サービスデザイン時代のブランド構築の3つのポイントをご紹介したいと思います。

「インサイト」という言葉は、「本質的な洞察」と訳されることが多く、人がそのポイントを突かれるとはっとして行動したくなる、ことを指します。もちろんそれも大切ですが、サービスデザインやデザインシンキングの世界で重要視されてきているのは、「エンパシー (共感)」という言葉です。エンパシーは、感情移入のある深い共感です。

二つ目は、サービスを中心とした時代になると、購入した時からお客様との関係性が始まる、その関係性をどう継続的なものにしていくかという「ライフタイム体験」のデザインをどう行っていくかということも大切になってきます。

三つ目に、作り方です。プロダクト中心のマーケティングでは、「ウォーターフォール型開発」とよく呼ばれますが、滝の水が上から下へ落ちるように、企画→要件定義→実装→テストと開発工程をいくつかに分けて、それぞれの工程が終わると次の工程に進み、原則として前の工程には戻らないという特徴がありました。サービスが中心となる時代では、工程に終わりがないのです。プロダクトは必要な期間が経てば完成し、市場で売られますが、その後そのプロダクトは基本的に形を変えることはありません。ところが、サービスはローンチしてからも常に形が変わっていきます。デジタルでは、その変化がより一層早くなります。これからは、一直線型のモノの作り方ではなく、アジャイル型のモノ作りをしなければいけなくなるのではないでしょうか。

インサイトからエンパシーへ」、「購入モーメントのデザインからライフタイム体験のデザインへ」、「完成のある製品デザインから終わりがない体験のデザインへ」と変わっていく。もしかしたらこれが、サービス時代の新しいマーケティングの在り方かもしれません。

次のサービスのあるべき姿をビジュアル化する

では、そんなサービスをどのように作っていったらいいのでしょうか。従来のマーケティングとどう異なるのでしょうか。これからサービスを中心としたマーケティングを行っていく上で、プロダクト中心のマーケティングをしていた企業にとっては様々なハードルがあります。例えば、サービスの仕様をプロダクト以上に考えなければならないことが沢山あります。最もハードルが高いのが、モノ中心で考えていた企業が新たにサービスでも価値を作られようとするときに、社内関係者や未来のお客様からの評価をどのように得たら良いか。ここが難しいという声をいただきます。

ここで私たちがご紹介したいのは、「サービス・エビデンシング(Service Evidencing)」という方法です。“Evidencing”には、立証する、明らかにする、示す、といった意味があります。次のサービスのあるべき姿をビジュアルで提示し、そこからの逆算でイノベーティブなサービスをデザインしていく、という考え方です。本講演のタイトルにもあるように、サービスをつくる際には、エビデンシングで未来のあるべき姿を生活者・利用者視点で明らかにし、そこから逆算するという方法が有効なのです。

ここで具体的にみていきたいと思います。形のないサービス・顧客体験は、それを社内へ上申したり、お客様からフィードバックを頂くといったことが難しくなります。そのために、我々がお勧めするのは、そのサービスが世の中に出てきた時に、どのような姿形になるのかということを全方位的にビジュアルで表現してみる、という考え方です。例えばこちらは、あくまで架空のケースですが、生活者の荷物を町のレストランなどハブとなるような場所に配送し、顧客がそこへ受取に来るというような物流会社の新しいビジネスモデルがあったとしたら、何をエビデンシングとして作ると、このアイデアの良さがステークホルダーに伝わりやすくなるのかをデザインしたものです。

広告会社には、アイデアを膨らませることに長けた人材が多数います。この商品がローンチされたら、どのような世の中になるのだろう、というイメージを膨らませていきます。そして、そのイメージを未来生活者発想で可視化させ、形に定着させます。ここでできあがる形は、実際のローンチ時の最終的なアウトプットではないかもしれませんが、この段階でビジュアル化してみることによって、「これいいね」「ここはちょっと変えた方がいいかも」といった意見の収集や議論がしやすくなります。ビジュアル化する際は、できるだけ具体的に、サービスのロゴやホームページ、アプリなどの想定を行い、顧客体験のイメージをつくります。

このプロセスを行うことにより、社内を説得しやすくなったり、未来のお客様からフィードバックを得やすくなります。そこで適切な意志決定がなされて、開発の次のステップへ進むことができるのです。我々博報堂ブランド・イノベーションデザイン局は、そのようなお手伝いをさせていただいています。

最後になりますが、本日の内容をまとめさせていただきます。今後、様々な業界が直面することが予想されることとして、「サービスも価値の源泉になりうる」ということがあります。その時のマーケティングは、インサイトに加えてエンパシー、購入モーメントだけではなくてライフタイム体験のデザイン、完成のある製品デザインだけでなく終わりがない体験のデザインへと、どうシフトできるか、そういったことがポイントになります。その時に今日ご紹介したようなサービス・エビデンシングのような未来生活者発想の方法を使って頂いて、サービスという新しい価値にマーケティングをシフトしていくことができるのではないかと考えています。