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【宣伝会議サミット2018レポート】
これから広告・メディアはどうすればいいですか?
~田端信太郎・嶋浩一郎がいま語る、広告・メディアビジネスの未来展望~

2018.12.17
#グループ会社
2018年11月14日、15日、ANAインターコンチネンタルホテル東京にて、「宣伝会議サミット2018」が開催され、株式会社博報堂ケトル代表の嶋浩一郎と株式会社ZOZOコミュニケーションデザイン室 室長田端信太郎氏によるセミナーが開催されました。その様子をご報告します。

「合コンでモテるタイプから結婚したい人の時代へ」


「恋と戦争は手段を選ばない」という社是で、クライアントの課題をマーケティングとコミュニケーションで解決する博報堂ケトルをやっています。田端さんとのお付き合いは長いですね。

田端
私がライブドアにいた頃からですから10年くらいになりますか。メディアプラットフォーム側から事業会社に移ってようやく半年ほど経ちましたが、野球でいえばピッチャーとバッターくらい違うなという感じです。


これまでと全く異なる視点でコミュニケーションを見始めているわけで、田端さんのお話もとても興味があります。
さて、今日はコミュニケーションのうえで、どんな変化を感じているかをお互いにキーワード化してきました。まずは僕のほうから始めたいと思います。
まず1つめは、「伝える広告から、仕組みづくりへ」。広告ではこれまで15秒とか15段という枠の中の表現を作るのがクリエイティブディレクターの仕事だったのですけど、そういうワンショットの表現を作る仕事から、どちらかというと常時接続するコミュニケーション、つまり、もはや広告ではなく、「仕組みを作る」時代に変化するのではないかと思っています。そうなると、広告会社の採用基準も変えたほうがいいと思っているんです(笑)。それが2つめのキーワード「合コンでモテるタイプから結婚したい人の時代へ」ですね。

田端
あるいは、結婚して3年とか5年してから、やっぱり結婚してよかったなみたいな(笑)。


コネクティッドカー、スマートホームやスマート家電が普及するのはそう遠くない未来ですよね。
そうすると、新聞社は取材記事を印刷して配布してきたけれど、自動車や家に記事を売る時代がくるかもしれない。逆にいえば、自動車メーカーや総合家電メーカーが情報のサブスクリプションサービスを始めるかもしれません。この自動車なら、あるいはこのスマートホームなら、毎月いくら払うことでこれだけの情報をインパネや壁に表示しますという時代が、数年後に実現してもおかしくないのです。
今の広告クリエイターは、たとえばテレビCMなら見ている瞬間に生活者の気持ちをつかまないといけないから、「好き、好き、好き」という広告を作ります。しかし、24時間365日、常時接続する時代になると、情報の質感として、「好き、好き、好き」といわれるとうるさいんじゃないでしょうか。だから、あってもいいけど邪魔にならないコミュニケーションが重要になってきて、合コンでモテるタイプよりこの人と一緒にいると落ち着くというコミュニケーションができる人が好まれる時代になるんじゃないかと思うんです。もちろん、両方大事なんですよ。ただ、重要性が変わるのではと思うわけです。

田端
今スマホを持ち歩くのは当たり前で、誰もが情報に常時接続している。これがテレビや新聞と全然違うのは、今までは企業から生活者へという一方通行な情報の流れが中心だったのが、生活者サイドからの需要に対する情報もフィフティ・フィフティにアップロードできるということです。そうすると、一方通行ではなく、会話をするマインドを持たないといけなくなる。合コンでモテるタイプより結婚したい人というのを、少し違う角度でいうと、今までは一方通行で口説いちゃうことが多かったのかもしれないけど、これからはちゃんと会話ができる人がいいということなのかもしれませんね。

「ラジオの時代へ」


3つめは「ラジオの時代へ」。今後は音声インターフェイスが中心になっていくので、オーディオコンテンツが重要なものになるんですが、単純にそれだけでなくてトーン&マナーや表現の手法を含めて、ラジオ的なものが大事になるんじゃないかと思っています。ラジオ的というのは、無くても困らないけどあったらいいし、必要なときに使えるみたいなところも含めてなんですが、ラジオって聴覚しか奪わないので、“ながら”ができる。だから生活に入り込みやすい。あらゆるIoT化が進む中でラジオ的なものが重要になってくると思います。
実際、この20年、デジタルデバイスを通じた生活者と企業の結びつき方ってテレビ的なるものからラジオ的なるものにどんどん移行してきたと思うんです。日本でインターネットが普及したのは1990年代。企業はホームページ、いまでいうところのオウンドメディアを作ったわけです。メディアでは2004年をソーシャルメディア元年といいますけど、00年代になると企業はホームページを作るだけでなく、生活者のタイムラインの中に情報をいかに入れるかに苦心しはじめました。2010年代になるとスマホが普及したので、こんどはアプリというフォーマットを活用しはじめます。

田端
今は、アプリか、ソーシャルメディアのタイムラインかという感じですね。


このあとは、SNSのメッセンジャーのように、チャットで企業と生活者が1対1でつながるようになっていくと思うんですよね。One to Oneマーケティングを実現するにはコストがかさみますが、AIが普及していくことでOne to Oneで対話できるようになるでしょう。
ホームページのコミュニケーションは、不特定多数多数の人へのメッセージですからテレビと一緒です。ところがタイムラインは個人のものだから、“おじゃまします”と言わないといけない。さらにチャットとなると、個人の超プライベート空間です。ホームページでは「みなさん」という呼びかけだけれども、タイムラインやチャットでは、「あなた」という呼びかけになる。これってまさにラジオ的なことだと思うんですよ。

田端
ラジオは、リスナーからのはがきやファックスを受けとるということも含めて、双方向のコミュニケーションだし、パーソナライズドメディアの雛形みたいな感じがありますね。


ラジオって、不特定多数に向かって放送しているのに、聞いているリスナーは自分のために話してくれている、パーソナリティを独占しているという感じがする。僕はこれを“銀座のママ理論”と呼んでいるんですけど(笑)、銀座のクラブに通う客はほぼ全員がママは自分のことが好きだと思っているというのと似ていますよね。今のデジタルデバイスの進化の方向は、こうしたラジオ的なるものを多分に含んでいるから、そういう表現ができるかどうかが重要になるんじゃないかなと思っています。

クリエイティブディレクターの役割も変化する


コミュニケーションのチャネルはどんどん増えてきたので、デジタル、SP、PRなどを全部統合して、ひとりのクリエイティブディレクターがアウトプットを作り、コミュニケーションのシナリオを作る、統合マーケティングが進んできました。これがさらに進化すると思うんです。ZOZOSUITも、コネクティッドカーもそうですけど、商品と生活者がデジタルでつながることによって、データがとれるようになるわけでしょ。だからクリエイティブディレクターはエンジニアやデータアナリストもチームに入れていかなきゃいけない。

田端
今までのストラテジックプランニングやキャンペーン設計って、おそらく数か月単位の計画だったと思います。それがプラットフォームとチャットに分かれ、メールは1日単位でのやりとりでしたが、これがLINEのようなチャットになると分単位でのコミュニケーションで、当意即妙のレスポンスが求められる。そんな情報環境では、鉄道がダイヤ通りに走るように、着々と計画を進行していくようなマーケティングコミュニケーションのやり方自体は、間違ってはいないし、悪くはないんだけど、なんとなくつまらないという気がしてならないんです。


今までの広告というのは、最初にデザインも、コピーも、出稿計画もフィックスして、その通りにできるかチェックしていました。でもこれから、情報の流れが双方向になっていくと、たぶん、もっとゆるいフォーマットの流れになって、最初に予算を決めずに、リアクション芸ののびしろみたいなものがあるマーケティングになっていくような気がします。

田端
コミュニケーションをする場合、あらかじめしゃべることが最初から決まっているコミュニケーションって、極めて不自然だと思うんですよね。ふつうに会話するとき、あらかじめ話の展開を決めていることはないし、もしそうだとしてもそんな話は面白くないですよね。


ラジオの生放送のとき、台本にはフリートークとか、メールのコーナーとだけ書いてあって、あとはパーソナリティが話すことでちゃんとした世界観ができるというような、予定されてはいないんだけど、箱が決まっていて最後がきちんと収まり、ちゃんとブランディングできているみたいな、ラジオの生放送的なマーケティングですね。

「法人でなくて個人」、「建前ではなく本音」

田端
私のキーワードは、「法人でなくて個人」、「建前ではなく本音」、「HOWではなくWHY」の3つです。
まず、1つめですが、ラジオのパーソナリティが語るとき、放送局のアナウンサーという看板を背負って話していても全然面白くない。生身の人間として語るからこそ面白いのかなと思います。コミュニケーションって、5W2Hでいうと、まず誰が言うかが大事だと思います。会社が何かを発するとき、少なくとも誰がやっていることなのか、顔と名前が頭の中で一致して思い浮かぶことです。
たとえば会社の代表が変わったことを一般的な第三者に認知されるキャラクターになっているか。事業会社だけでなく、雑誌でも同じです。編集長が変わったことに読者が気づく雑誌って今は、どれだけあるのかな?と。法人なんていうのは頭の中の概念でしかないので、企業と消費者との関係性では、顔も思い浮かばないコミュニケーションは受け止められないんです。


僕もずっとPR畑が長かったので、PRにおいてはパーソナルなコミュニケーションがすごく大事だと思ってきました。AppleやAmazonの代表の顔はパッと浮かびますよね。日本もそうなりつつあると思っています。ZOZOもそうですね。

田端
某自動車メーカーの代表でたとえると、リコールの際、アメリカの公聴会に呼ばれて厳しい質問を浴びせられましたが、その場に総帥が自ら出ていったのはすごいと思いました。いいことも悪いことも、顔が見える生身の人間が受け止めるということがみえる企業は、一段違うステージに行けるんじゃないかと感じました。


ここには大きなヒントがあるなと思います。今、わかりやすく企業トップという話をしていますが、トップに限らないですよね。商品の開発やサービスでも同じことだと思います。

田端
ZOZOTOWNではツイッターでアクティブサポートをしているんですけど、個人名で発言しています。いわゆる“神対応”みたいなことをすると、それがまとめ記事になったりして、本人のモチベーションも上がったりします。
結局、生身の人間が語っているのに、心にも思ってない、会社の公式見解を言わされているとか、広報が書いた原稿を社長がスピーチで読まされていると思われたら伝わらないんですよね。カスタマーサポートからカンファレンスでのスピーチ、インタビューまで、心の底から思っていることが言えれば、必ず伝わると思っています。

「HOWではなくWHY」

田端
今、多く語られているのは、ソーシャルメディアでどうだとか、AIボットのチャットコミュニケーションはどうだとかいう、方法論です。全否定するわけではないのですが、そういう各論のHOWをつきつめるよりも、誰が、何を、なぜ言おうとしているかのほうが、よほど大事だと思います。そこさえしっかり貫ける芯になるものがあれば、あとはいろんなかたちで拡散できるからです。
ひとつ例を挙げるなら、弊社のプライベートブランド「ZOZO」です。弊社代表の前澤は背が低いことにずっとコンプレックスを感じていました。服が好きだから買いに行くけど、ズボンの裾を切られるたびに、生地や手間がもったいないし、デザインもシルエットが変わってしまうので嫌だと思っていたというところから、一人ひとりに合うあなたサイズの服を作ろうと思ったのです。これは、なるほどというある種の共感を呼び、人々の中に入っていきます。そういった部分をどうやって生身の人間として語りおろせるかが重要なのだと思います、
デジタルメディアは、所詮メッセージを伝えるための手段にすぎません。それよりもWHATとWHYとWHOを考えるほうが、よほど大事なんじゃないかと。


今のお話は、前澤友作という特殊な例に偏ったことのように聞こえるかもしれませんが、決してそうではなく普遍的なことだと思います。最近、マーケティングではパーパスやオーセンティシティということがいわれるんですけど、なぜその会社がやっているかということですよね。
生活の周りのものが全部つながっていくとこれまでの産業構造と境目がどんどんなくなっていきます。自動車メーカーや住宅メーカーがサービスを提供する会社になって、業態の際が溶けていくわけですね。そのときになぜやっているのかという、パーパスとかオーセンティシティがすごく大事なポイントになります。
どんどんIOT化が進み、生活者が24時間365日、いろいろな情報と常時接続すると、誰もが新しいサービスや生活体験を発明できるようになります。だからチャンスでもあるわけです。クリエイターの人たちが自分のアイデアで新しいサービスを提供でき、事業会社でも新たなサービスを開発する可能性が出てくる時代になるんじゃないでしょうか。

田端
話を聞いていて思い出したのですが、今、美容師業界で面白いことが起こっているんです。それはSNSが普及して、「流し」の美容師さんが増えていること。
美容師さんは個人のサービス業だから、箱としての美容室がなくても、実は、ハサミ一本あれば、どこでも仕事ができるわけです。そこで美容師をマッチングさせるようなサイトができて、SNSでつながっていると、家に来て切ってくださいというオーダーに応えられる。忙しい企業の代表だったら、インタビュー前に15分あるから社長室で切ってよとか。さらに面白いのが、美容師さんに箱だけ貸す美容室ができてきていることです。
法人と個人がアンバンドルされ、いろんなビジネス、関係性が変わってきていると思う。これまでは表参道や銀座に店を構えている人が一流と呼ばれていたかもしれないけど、これからはいかにたくさんのお客さんとつながっているかが指標になるかもしれない。美容師さんだけじゃなく、シェフも一緒ですよね。これからはお客さんとつながる必然性を持てる人が一番いいのかもしれません。


リレーションを作る力というか、ナレッジとかスタンスが大事かなということですね。
今日は、テーマが大きくて語りきれない部分もありましたが、面白い話ができたのではないかなと思います。ありがとうございました。

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