データドリブンマーケティングにクリエイティブの視点を加味する為に、企業は、進むべき方向や必要な体制、育成すべき人材、適切なパートナーについてどのように考えればいいのでしょうか。マーケティングとテクノロジーに関するカンファレンス「ad:tech東京2018」において、『「データドリブン×クリエイティブ」がつくる、次のブランド成長とは』というタイトルでセッションが行われました。スピーカーはキリンビバレッジの平野真太郎マーケティング部商品担当 担当部長、LEXUS INTERNATIONALのJマーケティング室 沖野和雄室長、NTTドコモの岡慎太郎 広報部広報担当部長が、モデレーターを博報堂の茂呂譲治アクティベーション企画局局長が務めました。

茂呂:博報堂の茂呂と申します。この数年データドリブンマーケティングそのものはかなり進んできたと思っていますが、ここにクリエイティブを組み合わせることで、企業のその次の成長が見えてくるかなと思っています。では岡さんから自己紹介をお願いします。

岡:NTTドコモの岡です。昨年もデータドリブンについて「データドリブンには道を切り拓く面白さがある」といった内容をお話させていただきました。データドリブンにはやったことのないことに取り組む面白さがある一方で、過信しすぎるといけないという側面もあります。 そういった部分についてお話できたらなと思っています。

沖野:LEXUSの沖野です。データドリブン×クリエイティブはこれからのコミュニケーションのスタンダードかなと思っておりまして、いろいろな方とコラボレーションしながら取り組んでいます。まだまだやりかけですが、ご紹介したいと思います。

平野:キリンビバレッジの平野です。データドリブン×クリエイティブは、お客様一人一人への広告を個別化することを可能にするものだと思っています。ただ、たくさん広告を作ることになるので、作る方もそれをチェックする方も大変です。そういったことをお話しできたらと思います。

茂呂:では早速始めたいと思います。まず一つ目のテーマは「ブランド成長に向けてデータドリブン×クリエイティブのゴールは何か」です。各社さんにお取り組みをご紹介いただければと思います。

沖野:当社にはデータドリブンの基盤となる「パーセプションフロー」と呼んでいるモデルがあります。平均すると5年に一度の購入のタイミングにおいて、45日前から検討を始める、買ってもらうには候補のベスト3に入る必要がある、といった内容をモデル化したものです。
消費者は日々忙しくて、強く興味・関心がある情報以外はチェックしません。LEXUSの戦略としては「LEXUSは変化していて、あなたが思っているものとは違いますよ」ということをいろいろな形で発信しています。具体的にはイベントやブランドショップを使って様々な情報を発信しており、その効果が出てきています。
パーセプションフローモデルは、これまで難しかった投資の成果と施策の成果の結びつきを明確化するためのものでもあります。様々なデータやアンケート調査などを使って構築しました。具体的には「A社からLEXUSに乗り換える」場合に、「A社の車は希少価値で乗っていたのに、最近は乗る人が増えたから。LEXUSなら希少価値がある」といったお答えが多くあり、こういったパターンを100パターン作りました。またお客様を四つのタイプに分け、どんなきっかけがあってどんなステージに移ったか、といったことも図示していきました。それぞれに最適化したコンテンツ作成にもトライしました。
広告も、四つのタイプのお客様がそれぞれよく見る媒体を調べ、そこに好まれる内容のコンテンツを投じるようにしました。その結果、ブランドへの共感から商品の検討へ遷移する率が1.6倍くらい上昇しました。

茂呂:ありがとうございます。パーセプションフローモデルを使えば、施策の効果を細かくチェックしてPDCAを回すことができそうですね。では岡さんよろしくお願いします。

岡:NTTドコモのプロモーションは、9月から星野源さん含めタレント4人による新しい内容になりました。これは当社の顧客基盤に対する位置付けの変化と関係しています。
これまで当社では、携帯電話の回線契約者を顧客基盤と捉えてきました。ですが、携帯市場は飽和しつつあり、成長にはある程度限界が来ています。そこで、「dポイント」と呼ぶ当社のポイントサービスの会員になっていただいている方を顧客基盤と位置付けることにしました。dポイントの会員であれば、「他のキャリアと契約している方でも当社の顧客」という考え方です。
これまでは携帯、ネット回線、配信サービスなどごとに個別にプロモーションをしてきましたが、今後は「NTTドコモ」というプラットフォームを宣伝します。まず会員になってもらい、その個別にアプローチして適切な商材を提供していきます。プロモーションが一元化することで、効率も大きくアップすると考えています。
広告は三つの狙いを持って作っていきたいと考えています。一つ目はコンテンツ。キャラクター軸で広告コンテンツを作り、興味を持ってもらいます。二つ目はエンゲージメント。データを使ってサイトに来ていただいた方の特性に合わせていろいろなコンテンツを当て、最終的には商材についてもアプローチしていきたい。三つ目はポテンシャル層に対するコンバージョンの促進です。

必要なのは全体を「見渡せる人」

茂呂:では二つ目のテーマです。データドリブン×クリエイティブは、今までと違う取り組みになると思いますので、新たな体制や人材が必要となると思います。どういう体制、人が必要とお考えでしょうか。

平野:当社が扱う飲料の場合、自動車や携帯電話と大きく違うのは、「いい」と思ったらその日に購入することです。キリンレモンは今年90周年で、それをどう盛り上げるか、お客様に対して表現するかがテーマでした。その取り組みについてご紹介したいと思います。
広告費が限られる中で、テレビCMを多く打つのは難しかったので、主にデジタルで戦うぞというのを決めました。テーマは、懐かしいのに新しい、ということを狙った「透明なままでいけ」にしました。
デジタル向けに90秒のCMをまず作り、テレビCM向けには15秒をそこから切り取りました。ツイッターも使っていて、「一つの話題で2週間くらいもてばいいかな」という考え方だったので、声優やアイドルなどを使ったコンテンツを2週間ごとに投入し続け、最終的に50以上の動画を作りました。
こうした活動の結果、4月10日の発売日以降、定期的に盛り上がりが続き、声優の方のプロモーション動画を投入した際は、発売時のニュースを上回りました。YOUTUBEは3500万回再生に達し、去年の2倍の売り上げを達成できそうな状況です。最終的な広告費は、デジタルがテレビの2.5倍でした。
施策を振り返ってみると、YOUTUBEに出したスキップ不可能な広告である「バンパー広告」が最もコストパフォーマンスが高いということが分かりました。また動画へのリンクを貼る際も、あるカットの静止画が最も購入意向を高めることがわかったので、途中からその割合を増やすなどしました。
改めてチームの体制についてですが、本気でデジタルをやれるかどうかが一番大事です。エージェンシーとクリエイターの方の本気度が非常に重要だと感じました。クリエイターについては、若く新しいクリエイターに全力で取り組んでもらいたいと考えお願いしました。それがうまくいったと思っています。

茂呂:続いて沖野さんからLEXUSの取り組みをご紹介いただければと思います。

沖野:グーグルとやった、お客様にあったクリエイティブを出し分けるという話です。こちらは、さきほど説明したパーセプションフローモデルで作ったお客様のクラスターです。まず横軸を「自分に認められたいか、他人に認められたいか」、縦軸を「フォロワーなのか、自ら牽引するのか」という図を作り、お客様をセグメントしています。これと、グーグルが持っていた60くらいのカテゴリーとのマッチングを見て、今回のトライのお客様のセグメント分けに使いました。
これを基に、元々作っていたテレビCMを、「アウトドア向け」「ミュージックラバー向け」などお客様の属性に合うように四つに編集し直しました。
この結果、どの動画も基本的に3〜4倍のブランドリフトができ、それは期待以上の成果でした。
振り返ってみると、こうした取り組みの際にはクライアントと広告会社、プラットフォーマーの3者のデータ活用能力を生かすことが非常に大切だと感じます。自社に求められる人材は、当社で言えばパーセプションフローのようなモデルを構築できる人材ですね。データ分析ができたらそれも非常にいいですが、ブランドストーリーを編集できる人材が一番重要かなと思います。

茂呂:ありがとうございます。では三つ目のテーマです。成長に向けた課題や機会はなんでしょうか。データマーケティングに関連したところを教えていただけたらと思います。

岡:会社の内部にあるデータと外部にあるデータを繋げるのが難しいですね。それができる人材が不足していると思います。
またプロモーションの目的に沿う分析ロードマップを策定する能力を有する人材も不足していると思います。エンゲージメントを高めながら商材に合った広告を出す、といったことが非常に難しい。いまはこの能力がある人がなかなか社内にいませんが、最終的には自社に欲しいなと思っています。ただ、揃っているデータを分析する能力という意味では、社内にいなくても大丈夫かな、と思っています。

茂呂:3社に共通しているのは、マスへの興味を喚起したり、具体的に個人にアクションしたり、どうやったら実際に買ってもらえるのか考えたり、それらの効率を考えたり、という様々な取り組みがある中で、その全体を考えられる人が重要だ、ということですね。では最後に、来年に向けてデータドリブン×クリエイティブ領域で成し遂げたいことを宣言していただけたらと思います。

沖野:今はまだデジタルの中で閉じていますが今後はリアル店舗に入ったデータも繋げていきたいと思っています。これまで自動車メーカーでは難しかった「デジタルで接触した方が、ディーラーに本当に行ったか」までを把握する仕組みを作りたいと考えています。

岡:まだ登山道の入り口、挑戦の入り口だと思っていて、霧が深くて頂上が見えない、という状況です。素敵な景色が見えると信じて、一歩一歩進んでいきたいと思います。

平野:90周年のキリンレモンは走りながら、考えながらやって、後から振り返ってみてこうだったという部分が多くありました。来年は計画的に考え、モデルを作ってから取り組んでみたいと思います。そうやって、様々なブランドに展開できるような汎用的なものにしていきたいです。

茂呂:ありがとうございます。ブランド成長には効率と価値創造が両軸で必要だと思います。効率には仕組み、価値創造にはクリエイティビティがある、その上にあるブランド成長も、短期的には利益を上げることで、長期ではブランドがどうありつづけるかといったことも含まれると思います。
今日ご登壇いただいた3社は効率と価値創造を既に両輪で見ながらブランド成長に取り組まれていると思います。私も常にここを見ながら、企業やブランドの次の成長に向けたお手伝いをしていきたいと思っています。

茂呂 譲治(もろ じょうじ)
博報堂 アクティベーション企画局 局長