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【カンヌライオンズ2018 レポートVol.4】博報堂セミナー:「妄想」を「刺激」に変換する日本人のフシギ

2018.07.25
左から、松井直哉さん(ソニー)、ヤン・ヨウ(博報堂)、桃井菜穂(博報堂ケトル)、森永邦彦さん(ANREALAGE) 木村健太郎(博報堂/博報堂ケトル)

博報堂は、カンヌライオンズ2018(6月18日~22日)にて、6回目となるセミナーを開催しました。今年は 「Extreme Stimulation(極端な刺激)」というテーマで、コスプレ、ボーカロイド、アイドルグループなど、従来に無い発想で次々と独特なカルチャーを生み出す「日本人のクリエイティビティの源泉」を、パネルディスカッション形式のセミナーで紐とくことに挑戦し、会場を埋め尽くした2000人のオーディエンスを沸かせました。

★オープニング映像はこちら

博報堂APAC CO-CCOsのヤン・ヨウと木村健太郎、そして博報堂ケトルの桃井菜穂の3人が案内役としてステージに登場し、「最も古い歴史を持つ国のひとつである日本にいながら、日本人が最先端のカルチャーを生み出し続ける理由は?」というヤンによる問いからセミナーはスタートしました。

そして、ゲストスピーカー: aiboの開発責任者であるソニーの松井直哉さん(ソニー AIロボティクスビジネスグループ 商品企画部 統括部長)と、森永邦彦さん(ファッションブランド「ANREALAGE」デザイナー)が登場し、お二人自身がどのようにして「Obsession(妄想)」を「Stimulation(刺激)」に変換しているのか実演を交えて話してもらい、そこから同時並行で様々なキーワードを引き出し、スライドに投影していきました。

~ここでは主なキーワードを6つ、ご紹介します~

1.モノに対して気持ちを感じ取る能力(The ability to feel life in things)
日本人は「ロボットと人間は共生できる」「ものに生命を感じることができる」という独特のメンタリティを持つとソニーの松井さんは述べました。欧米ではターミネーターなど、従順なロボットが敵になって人類に反抗する物語が描かれることが多いですが、日本ではドラえもんや鉄腕アトムなどロボットが友達として捉えられているのです。aiboはデバイスでなく生命感を持つパートナーとなるために、受ける刺激によって人の好き嫌いを変えたり、犬の性格と人の欲望や感情を考慮して行動を決定するAI技術が採用されています。

2.妄想する力(Power of fantasy)
ブランド名の”ANREALAGE(アンリアレイジ)”とは「現実と非現実の境がない世代」という意味です。森永さんは、テクノロジーを使って、物体が動いても影が残る服や、紫外線で色が変わる服、フラッシュで撮影すると柄が現れる服など、現実では起こりえない「ちょっとした不思議」を日常にもたらしてきました。これは、ドラえもんがヒントになっているそうで、妄想する力でリアルなものにアンリアルを作り出すのは日本人が得意なクリエイティビティです。

3.相手を思うことから深い愛を育む(Love comes from consideration)
aiboは気まぐれで人間の命令を聞かないことがあります。でも、だからこそ、オーナーは「それはなぜだろう?」と考え、そこに「愛着を超えた愛情」が生まれるのです。「愛とは相手のことを考えること」です。ブランドのコミュニケーションにおいてもそれは同じであり、ブランドへの愛情はブランドに対して人々が考えることから始まります。

4.AIによって人間をより人間らしくする(AI makes us more human)
AIは仕事を奪うわけではありません。人間性を必要としない仕事を代わることで、人間をより人間らしくしてくれる存在なのです。AIによって人間はクリエイティビティとパーソナリティを育むための時間を持つことができます。AIと共生することで、人間はもっと人間性やパーソナリティ形成に傾ける時間を増やすことができるのです。

5.テクノロジーは新しい感情をもたらす(Technology creates new emotion)
テクノロジーは人間に新たな感情をもたらすことができます。aiboと接する時も、ANREALAGEの服に触れる時も、その反応によって私たちも反応し、今までになかった感情が生み出されているのです。

6.ポジティブな未来を信じる(Believing positive future)
二人の言葉は「テクノロジーはより良い未来を作れる」という確信に満ちています。未来は受動的に受け入れるものではなく、自ら創造し、それを深く信じることによって作り出していくことができるものなのです。

セミナーは、「テクノロジーとの向き合い方」「無機物の中に生命を感じる力」など、日本人の欧米の人々と違ったメンタリティや感性が、クリエイティビティに大きな影響を与えてきたことを改めて浮き彫りにしました。
世界各国から集まったオーディエンスは、古い伝統と大胆な発想が共存する日本人の頭の中をほんの短い間ですが、覗くことができたのではないでしょうか?

ヤン・ヨウ(Yang Yeo)博報堂APAC CO-CCO

シンガポール生まれ。博報堂グループに加入する前はワイデン+ケネディ上海オフィスのエグゼクティブクリエイティブディレクターを務める。1992年、サーチ&サーチシンガポールで広告のキャリアを開始、BBHロンドンでグローバルな経験を積んだ後、ファロンシンガポール、香港の設立に携わり、TBWA上海在籍時には中国に初のカンヌゴールドライオンをもたらし、ジェイ・ウォルター・トンプソン上海在籍時には中国で初となるカンヌグランプリを獲得。彼がリードしたエージェンシーは2011年Campaign Asia Pacific誌の「Agency of the Year」を獲得し、クライアントは「Marketer of the Year」に選ばれ、彼自身も「Creative of the Year」を受賞。広告業界における名声だけでなく、空間・建築デザインでもよく知られた存在であり、2012年シンガポール共和国大統領トニー・タン氏から「Designer of the Year」を授与された。
2018年6月にアドウィークのクリエイティブ100に選出された。

木村 健太郎(きむら けんたろう)
博報堂 APAC CO-CCO、博報堂ケトル共同CEO

1992年博報堂入社。ストラテジー、クリエイティブ、デジタル、PR の境界を取り去り、全体をシームレスにつなげるユニークなプラニング手法を確立。2006 年、従来の広告手法にとどまらないイノベーティブなキャンペーンを手がけ、熱いアイデアで世界を沸騰させることを目的に博報堂ケトルを設立した。これまでに8つのグランプリを含む150を超える国内外の広告賞を受賞し、カンヌライオンズチタニウム&インテグレート部門審査員、アドフェストプロモ&ダイレクト部門審査員長、スパイクスアジアデジタル&モバイル部門審査委員長など25 回以上の国際広告賞の審査員経験を持つ。海外での講演も多く、2013 年から3 年連続でカンヌライオンズ公式スピーカー。2018年6月にアドウィークのクリエイティブ100に選出された。

桃井 菜穂(ももい なほ)
博報堂ケトル カルチャークリエイター

大学で美術史・美術文化を学んだ後、2014年博報堂入社。TBWA\HAKUHODO を経て、2017年より博報堂ケトル参加。既存の広告の枠にとらわれず、得意先や社会の課題を解決するカルチャーを生み出すことが信念。WebマガジンのライターからAIの調教まで、領域は多岐にわたる。2015&16Young Spikesの日本代表。2016 New Starsゴールド受賞。日本のミレニアル世代ならではの視点で海外にも精力的に飛び出している。

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