今年で3回目を迎えるアドバタイジングウィーク・アジアが、2018年5月14日~17日に六本木の東京ミッドタウンで開催され、4日間で延べ13,000人超が集まりました。本稿では、博報堂DYメディアパートナーズラジオ局長の大木秀幸がモデレーターとなり、radikoの青木貴博氏、スポティファイジャパンの藤井哲尚氏、文化放送の内田浩之氏と「音声ビジネスの将来性」をテーマに行ったクロストークセッションの様子をご紹介します。

パネリスト
青木貴博:株式会社radiko 代表取締役
藤井哲尚:スポティファイジャパン株式会社 ヘッド・オブ・セールス
内田浩之:株式会社文化放送 メディア開発本部副本部長
モデレーター
大木秀幸:株式会社博報堂DYメディアパートナーズ ラジオ局長

豊富な「耳時間」の活用で、新しいコミュニケーションが可能になっていく

大木
昨年はさまざまなスマートスピーカーが発売されましたし、radikoはいまユニークユーザー数が1000万人、Spotifyもアドのサービスを開始されたところで、オーディオ市場が注目を集めています。とはいえ日本のオーディオ市場は黎明期でもあり、期待とともに先が見えない部分もある。今日はそんなオーディオ市場のこれからについて、皆さんと語り合えたらと思います。

その前にまずは、皆さんと「耳時間」という言葉をシェアさせてください。これは「画面と共存できる生活者の新しい可処分時間」のことで、この時間に着目することで、いままでチャンスのなかった、閲覧中・移動中・作業中の時間が活用できるようになるという考え方です。私どもがやっているラジオクラウドというサービスのユーザーを調査したところ、スマホの利用時間のうち22%がテレビ番組やネット動画を視聴していて、59%が音楽やラジオを聴かずに画面を見ている、11%が画面を見ながら音楽やラジオを聴いている、8%が画面を見ずに音楽やラジオを聴いているということがわかりました。これはどういうことかというと、テレビ番組やネット動画を視聴している22%以外の78%の人が“耳があいている状態”だということ。この78%に対して、ここにいらっしゃる3社の戦略が今後、新しいコミュニケーションをつくっていくことになるだろうと考えているわけです。では、それぞれの事業についてご紹介いただけますか。

博報堂DYメディアパートナーズ ラジオ局長 大木秀幸

藤井
Spotifyは、日本でサービスを実施したのが2016年秋で、11月から一般の皆さんに公開しています。オーディオ広告に加え、動画ディスプレイ広告も展開しており、お陰様で多くの広告主さま―およそ60社がSpotifyで広告を展開されています。
「聞く」を主軸としたプラットフォームにおいては、感覚の深いところでユーザーに語り掛けたり、伝え続けたりすることができる。デジタルオーディオ広告はそういう意味で、染み込みやすく、耳残り・頭残りしやすい特徴があり、ブランド指標、認知、関心、意向すべてに高い効果があると考えます。先ほどの大木さんの話にもありましたが、放っておけばなかなか耳を使ったコンテンツ体験がなされないところ、Spotifyはスマートフォンを中心にいくつかのデバイスをまたぎながら1日2時間以上という長時間ご利用いただけています。そうしたユニークなユーザーエンゲージメントから精緻なターゲティングを行うことで、広告が非常に浸透しやすくなり、実際に高い効果を出せています。長いユーザーエンゲージメントにおいては、動画を流したりディスプレイをあてたりといった、クロスメディア効果も見込めます。ですからあくまでもオーディオを軸としながら、ブランドの情報を浸透させたり、Spotifyのお客様にだけ特別な情報認識、理解をしていただけるようなものをつくっていくというのは、新しいこれからのポテンシャルだと考えています。

スポティファイジャパン ヘッド・オブ・セールス 藤井哲尚氏

内田
文化放送は今年で67年目となるAM、FMの放送局で、ニュース、情報、トーク、音楽、スポーツといった番組を総合編成しています。こうしたラジオ局は全国に100以上ありますが、文化放送の特徴としてアニメーションやゲームの声優を起用した番組を多数放送していることがあります。そうした番組を「A&G(アニメ&ゲーム)ゾーン」と呼んでいて、地上波で1週間に30番組以上、インターネットで130番組以上放送しています。視覚情報に依存するアニメーションというコンテンツが、ラジオとどう紐づくのか想起しづらい方もいるかと思いますが、まずラジオというものが、リスナーの想像力によって補完され、広がっていくメディアだということがあります。
文化放送が2011年に早稲田大学と東京大学とともに行ったある研究では、話し手が聞き手に与える言語情報が制限されている場合でも、声の調子だけでいわゆる喜怒哀楽の基本的な感情を伝えることができることがわかりました。先ほどのA&Gゾーンの声優には、魅力的な声、演じる力がありますから、より想像力を喚起させるトークができる。それが声優パーソナリティの魅力となっています。アニメファンの方がラジオも聴いてくれるようになったと同時に、これまでのリスナーにも声優という新しいラジオパーソナリティの表現が受け入れられていきました。
文化放送としては、さらに音声も超えた360度ビジネスも展開中です。映像番組をライブストリーミングしたり、オンデマンドものもありつつ、さらには映画をつくったり、マーチャンダイズでTシャツやお菓子、ゲーム、本をつくったりもしています。また、さいたまスーパーアリーナや日本武道館などでリスナーイベントも行っていますし、海外のA&Gファンに向けても展開しています。

文化放送 メディア開発本部副本部長 内田浩之氏

青木
radikoには2010年3月に誕生以来、変わらない目的があります。1つは、高層ビルの増加や家庭内の電子機器化、日本海側に見られる諸外国との混信などで発生する難聴取エリアを解消すること。2つ目はラジオの受信機がなくとも、さまざまなデバイスでラジオが聴ける環境をつくること。3つめはラジオ知らずといわれる10代20代にアプローチし、未来のラジオリスナーを育てること。4つ目はこれらを放送局単位ではなくて、業界が大同団結して一つのプラットフォームをつくることです。
現在参加している局は民放連加盟ラジオ放送局101局のうち92局と放送大学で、さらに昨年10月からはNHK第1、第2、FMが実験配信を進めているところです。radikoの1日のユニークユーザー数は120~130万人、延べ聴取分数は約1億5000万~7000万分となり、1ユニークユーザーあたり1日およそ130分聴いていただいています。一番聴かれている聴取時間帯は平日の朝7時半~8時で、おそらく通勤、通学中に聴かれていることが類推されます。ユーザーの基本属性については、アンケート調査結果によると、男性が64%で女性が36%。当初は男性が8割を占めていましたので、女性が少しずつ伸びてきたことがわかります。平均年齢は44.4歳で、サラリーマンの40~50代が中心。全体の8割の方がスマホで聴いています。
昨年10月からスマートスピーカーにも対応。アレクサに限れば、スキル、人気ランキングともにローンチから3カ月連続で1位の評価をいただいています。エリア内聴取、エリアフリー聴取、タイムフリー聴取とサービスを展開してきて、ある程度ラジオを聴く基盤づくりはできたかなと。これから第2ステージとして、レコメンド機能やオーディオアド、ラジコプレミアムのグローバル化などを目指しております。

radiko 代表取締役 青木貴博氏

ストリーミングもオンデマンドも、それぞれのニーズによって使い分けがされている

大木
コンテンツの種類としては、音楽、トークなど、各プラットフォームに強みがあるかと思いますが、それぞれのお立場から今後についてご意見をいただけますか。

藤井
Spotifyの利用状況を見ると、通勤通学時間をピークに、意外と日中でもストリーミングがずっと続いていて、寝る直前まで使われているという状況です。つまり音楽をバックグラウンドで聴きながら生活している人が多いのではないかと思います。ここで面白いのが、音楽の場合、聴いている人がどういう状態にあるかをある程度推測することもできるんです。たとえば我々はプレイリストというカテゴリーで音楽を編纂する機能がありますが、それを見ると、いま運動中だなとか、寝ようとしているなとか、すごい勢いで家事をこなしているな、といったことがわかる。

大木
なるほど。一方で文化放送さんはトーク中心ですよね。「ながら聴取」ではない聴かれ方をしている気がしますが。

内田
そうですね。実際最近では、SNSで実況に参加しながら聴くという楽しみ方をしている方も多い。オンデマンドよりは、生放送というかストリーミング放送の方がそういう意味で盛り上がりやすいというのはあるかと思います。

藤井
Spotifyでは有料のプレミアムプランではオンデマンドで、いつでも好きな曲順に音楽を楽しむことをできますが、おそらく聴きたいものをピンポイントで聴くというのと、時間帯や生活シーンなどのテーマに沿ったプレイリストなどを何となく流して聴くという、両軸のニーズがあると思うんです。流して聴く中で今の気分にぴったりなお気に入りの曲に巡り合えたりするセレンディピティもSpotifyの楽しさと言えます。またSpotifyはAIがユーザーの音楽の好みを学習し、精度の高いレコメンデーションをしてくれます。このように新しいお気に入りのアーティストや曲に出会うための楽しいきっかけが多いのもSpotifyが世界中で支持されている理由ではないでしょうか。

大木
一方で、タイムフリーと言われる聞き逃し聴取のほうも伸びていますよね。

青木
radikoでいうオンデマンドはいわゆるタイムフリーに当たるわけで、それももちろんストリーミングですが、利用人数は毎月増大しています。おそらくラジオだけじゃなくどんなメディアでもそうでしょうが、リアルタイムよりも生活者が自分の時間に合わせて楽しみたいという要望が強まっているのではないでしょうか。今後レコメンド機能を装着することで、さらにタイムフリー聴取機能が使われる可能性が高まると思います。

大木
文化放送さんはいかがですか。

内田
人によるとは思いますが、たとえば情報系の番組で、その瞬間に聴かないと意味がない番組に関してはやはりストリーミングが多いでしょうし、特定の人のファンであれば、その人の番組を繰り返し聴いたり、都合のいい時間に集中して聴きたいとなるので、オンデマンドを選択するでしょうね。

藤井
いまあえて音楽とトークを切り分けて話していますが、Spotify上では落語も聴けて、実は私もキュレーションに協力しているんです。ただシャッフルで聴かれる形だと、こちらが全体の流れを考えてプレイリストをキュレーションしても、どの順番で再生されるかはわからなくなる。どういう体験を届けたいかというしっかりした全体構成があるようなアルバムやプレイリストを楽しんでいただくのは、オンデマンドの方が適していると思います。

ほかのアドと比較しても、音声には人の心を動かす特別な力がある

大木
次に、ちょっと生々しい着眼点ですが、ビジネスとしてオーディオはどうなっていくのかについて、これからどう成長していこうとされているのか、ご意見をうかがえればと思います。

藤井
本来はまずフリーでお客様に利用を始めていただき、その後プレミアムに移行していただくという考えが強かったと思います。ただ、Spotifyは世界中にユーザーを広げ、現在65ヵ国でサービスを展開しています。アジアやアフリカでも急速に広がっており、これに伴い必然的にフリーのお客様も増えると考えられます。Spotifyではフリーであっても広告でマネタイズできますので、有料課金モデルのユーザーの方がエンゲージメントは高くなり、より安定するとは思いますが、無料広告モデルの成長も同様に重要視しています。

青木
radikoの場合は2014年に有料課金を開始し、いま50万人に登録いただいていますが、これから無料広告モデルを準備しているところです。ラジオ広告費もここ20年で半減しているという非常に厳しい状態のなかで、ラジオ業界の一つのビジネスの在り方として、radikoを利用したターゲティング広告を準備しているという認識。つまり主語はradikoではなくあくまでもラジオ業界と捉え、その広告モデルをこれからつくっていこうとしているわけです。

大木
スマートフォンがスマートスピーカーになり、さらに一人一人の異なる音声コンテンツに対し、一人一人異なる音声広告が流れるようになる。そういう時代が始まりつつあるのかもしれませんね。

内田
我々の場合、リスナー側に無料のものという意識があるので、単純に有料課金していくというのは難しいと思います。ただ根底に、リスナーが番組を応援するという文化、空気があるので、たとえば応援の方法として、エクストラの番組に課金していただくということはあるかもしれません。おそらくいま無料のものは無料のままで、新たに始めていくもの、たとえばオンデマンドでスペシャルなトークを流していくとか、映像を流すとか、そういうコンテンツで課金し、トータルで収入を得るということはあり得るのかなと思います。

大木
スマホという聴取環境においては、音声広告と、音声プラスバナー広告、あるいは動画広告も可能ですよね。これからどういう割合で、どういう展開を見せていくのでしょうか。

藤井
私たちは音声に加えてディスプレイバナー、そして動画というすべてのフォーマットを展開しています。ストリーミングや、レコメンデーションを入れて音楽を聴いていただくのがベースではあるんですが、調べてみると、2曲に1曲はユーザーがスキップして始まった曲、検索をして始まった曲ということがわかりました。つまりその段階で確実に画面とのインタラクションがある。そういうタイミングで、バナーや動画を表に出していく形態をとっているわけです。
オーディオであってもターゲティングできるのはデジタルならではですが、その先のアクションにつながるとか、より深いブランドの情報を伝えるということになると、音声プラス多様なコマンドを組み合わせることで効果は高まるとも思いますし、我々もそうしたコンテンツ開発をこれから進めようとしています。

大木
スマートフォンを活用する以上は画面を使わない手はないという考え方もあるし、スマートスピーカーなどを想定して音声の世界だけで完結させるという考え方もありますよね。

青木
radikoとしては、音声が主軸であると考えていて、その音声をさらに楽しめるのであれば、画像や動画があってもいいのかなとは思っている。ユーザーサービスにしてもそうですが、付加価値として必要なのであればどんどんチャレンジしていけばいいのかなと。

大木
なるほど。SpotifyはCTRが2、3%という話を聞きましたし、我々がやっているラジオクラウドでも、平均するとCTRは1、2%くらいです。これは、音声ということでビューアビリティの問題がないため、接触した人には必ず届くということ、コンテンツからCMへの流れが非常に自然で、邪魔にならない、あと一つの画面内にさまざまなバナーが出てくるのではなく、単一の情報のみがコンテンツから流れてくるので、コンテンツから意識が途切れず、なおかつクリーンで、ブランド棄損が少ないということがあります。いわゆる「アドフラウド」の問題が非常に少ないわけです。こうしたこともあって、我々は、ほかのアドよりも、音だからこそ人の心を動かす力があるのではないかとも思っているんですね。文化放送さんは、リアルなイベントも展開しては多くの人数を動員されていますよね。

内田
そうですね。ラジオ番組で2日間さいたまスーパーアリーナを満員にできるというのを、この1カ月前にも実現できた。それだけリアルで人を動かす力がオーディオコンテンツにはあるんだと思います。

藤井
Spotifyにはバイラルチャートというユニークな指標があります。これは、SpotifyからSNSなどでシェアされ再生された回数などをもとにしたデイリーランキングなのですが、Mr.Childrenさんの楽曲がSpotifyに入ると、このランキングの上位が彼らの過去曲で占められました。また時を同じくしてELLEGARDENさんの復活ライブのニュースが出ると、検索で再生される曲のトップ20がELLEGARDENさんで独占されるということがありました。何が言いたいかというと、Spotifyというプラットフォームでは、音楽と文化が密接に結びついており、世の中の動きと連動しているんですね。だからこそ、そこに広告として提供されるブランド情報もユーザーの生活と関連して受け止められ、印象を残せるのではないでしょうか。

デバイスをまたぎながら、音声を基点に新しい市場をつくっていく

大木
最後にこれからの展望、挑戦したいことなどをそれぞれ教えてください。

藤井
現在全体の7%がコネクテッドデバイスを使った利用になっており、そのうちの大部分が実はスマートスピーカーなのではないかと思われます。音楽がある生活が、ますます広がっていくとともに、デバイスは必然的にまたがれていくのだと思います。ユーザー一人一人のライフスタイルや、家庭などの音楽聴取環境に応じた音楽の楽しみ方を広げるべく、まだまだサービスや機能を拡大できる余地がたくさんあるだろうと思います。

内田
文化放送に限らずですが、いままでのラジオ専用機器の数が減っていく一方、スマートフォン、PC、さらにスマートスピーカーとデバイスが多様化していっています。これからさまざまなシチュエーション、場所など放送を聴ける環境が多様化するのに合わせて、それにあったサービスを展開していければと思います。我々の役割としては、プラットフォーマーということもありますが、世の中の流れをいちはやくラジオに取り込んでいき、ユーザーが聴きたい、聴きたくなるコンテンツを発信していきたいと思います。

青木
少し大げさ気味に言うと、radikoが実現したいのはラジオにおけるロジスティクスの革命と言えます。radikoはコンテンツをつくっているわけではないので、放送局さんにつくっていただいている貴重なコンテンツをどう物流させていくか、デバイスごとの適性を見たり、そこで得たデータをユーザーと放送局にきちんと還元していくことが求められると思うんです。物流の一元管理というか、そういう役割をradikoが担いながらよりよいサービスをつくっていければ、業界のためにも貢献できるのかなと思いますね。

大木
ありがとうございました。
今後について私の予測としては、動画はやはり一番大きいコンテンツだろうと思います。そこに、テキストやSNS、静止画というのはユーザー目線でいうと同居できますし、プラットフォームとして動画と共有しながら独自のポジションを築いていくのが音声なのでしょう。スマートスピーカーのシェアが今後上がり、スマートフォンでの聴取も増えていくことで、新しい市場をつくっていけるのではないかと考えていますので、また皆さんとご一緒できる機会があればと思っています。
本日はありがとうございました!

◆プロフィール

大木秀幸
博報堂DYメディアパートナーズ ラジオ局長
読売広告社1986年入社。テレビタイム、スポットの現場を担当後、2003年に博報堂DYメディアパートナーズへ。ラジオ局 業務推進部長、ビジネス企画開発部長を経て、2015年より現職。