今年で21回目を迎えるADFEST 2018「アジア太平洋広告祭」が3月21~24日、パタヤ(タイ)にて開催され、3月23日には、博報堂グループ4名のスピーカーによる博報堂主催セミナーが実施されました。モデレーターを博報堂APAC Co-CCOの木村健太郎がを務め、前半では多数の広告賞を受賞した「Gravity Cat」の制作秘話についてSIXの奥山雄太が語りました。後半では「monom」チームリーダーの小野直紀、クリエイティブプロデューサー鈴木あいが「Pechat」誕生秘話について明かしました。※前篇はこちら

テーマ:The Power of Ideas, the Power of Believing
日時:2018年3月23日(金)14:30-15:15
講演者:木村 健太郎(博報堂APAC Co-CCO/博報堂ケトル共同CEO)
奥山 雄太(SIX/クリエイティブディレクター)
小野 直紀(博報堂「monom」リーダー/コピーライター/プロダクトデザイナー)
鈴木 あい(博報堂「monom」クリエイティブプロデューサー)

以下、セミナー内容の抜粋です。
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木村:Pechatは、2016年に博報堂から発売されて以来、日本で大ヒットしている商品。まずは、どんなものか、映像を見てみましょう。

Pechatについては、開発チームのお二人に聞きたいことが3つあります。
1)そもそもなんでつくったのか?
2)どうやって実現したのか?
3)広告とプロダクトはどうちがう?

1.そもそもなぜつくったのか?

木村:博報堂は広告会社だよね?なのに、どうしてこういう商品をつくって売っているの?

小野:僕はもともとコピーライターとして広告をつくっていたんですが、プライベートで家具や照明などのプロダクトをデザインして発表していました。で、ある時、コピーライターの職能とプロダクトデザイナーの職能をかけ合わせたら面白い商品がつくれるんじゃないかと思い。それでmonomという、プロダクト開発チームを博報堂の中に立ち上げたのがきっかけです。

木村:クライアントのプロダクト開発は、これまでもやっていたよね?これまでと何が違うの?

鈴木:これまでは、アイデアやコンセプトを出して、実際にプロダクトをつくるのはクライアントだったと思うのですが、monomでは、つくるところも含めてやるというところが大きく違うと思います。あと実際に事業として投資をしているというところも。

小野:そうそう。monomが目指しているのは、広告会社のクリエイティビティをつかって、広告会社のビジネスを拡げることなんです。

こんな感じで、右下の「広告以外かつスケーラブル」なところを、プロダクトを起点とした事業開発という手段でチャレンジしています。

木村:ふむふむ。「広告以外/スケーラブル」ね。労務投資はよくするけど、実際に投資してるっていうのは、あまりやってこなかったよね。それで、最初に、つくったのがPechatってわけだね。

小野:いや、実はPechatの前に2つ別の商品をつくっていて・・・。ひとつはiDollという、いろんなキャラクターに展開できる小型コミュニケーションロボットをつくりました。これは、すごい話題になったんですが開発をすすめる中で、価格が高くなりすぎて、残念ながらストップしてしまいました。それで、次につくったのが、Memory Clock。これはモニターのついた壁掛け時計で、家族でとった写真が、撮影された日付と同じ日に映し出されるというもの。これは、ハウスメーカーや家族をターゲットにしている企業と一緒に開発をすすめていたんだけど、これも、思ったより価格が高くなっててストップ。それから、リリックスピーカーのデザインもやりました。リリックスピーカーは、音楽をかけると歌詞が浮かび上がるスピーカーで、博報堂のグループ会社のSIXがつくっていて、僕がプロダクトデザインを担当している商品。これは、価格はちょっと高いんですが、量産して、実際にいろんなところで売られています。それで、ようやくPechatです。

木村:Pechatは、どうやって思いついたの?

小野:まず、価格がネックになって止まることが多かったので、アイデアを出す時に、シンプルでつくりやすいものをつくろう!という意識がすごくありました。それで、思いついたきっかけは、たまたま実家に家族があつまっているときに、久しぶりにあった、当時3〜4歳だった姪っ子と遊ぼうとおもったら、すごい人見知りして、まったく遊んでくれなくて・・・。その時に、ぬいぐるみをつかって取り入ろうとしていたときに、思いつきました。

木村:確かに、Pechatは、ぬいぐるみをつかって子どもをあやすみたいな、昔からどこでもやられてることの、現代版って感じだね。一番のポイントは、しゃべるぬいぐるみをつくるのではなくて、好きなぬいぐるみに付けられるっていうろころだね。

小野:その通りです。子どもたちが欲しいのは、しゃべるぬいぐるみというモノではなくて、大好きなぬいぐるみとお話できるという体験だと思って。あと、ハードウェアは、スピーカーとマイクとブルートゥースというかなりシンプルな構成で、あとはスマホアプリなので、価格も低くおさえられました。

木村:素朴な疑問なんだけど、これどうしてボタン型にしたの?ハート型とかではなく。

小野:そこは、広告的発想とプロダクトデザイン的発想の間かもしれません。プロダクトをデザインするときに、常にSymbolic(象徴的)でAdaptive(適応性のある)なものにしたいという意識があって。言い換えると目立つってことと、生活に馴染むってことかと。Pechatの場合、ハート型も考えましたが、ハート型のプロダクトってありふれているから、「黄色いボタン」のほうが見た目にも言葉としてもシンボリックだなと思いました。
名前を覚えてもらえなくても「黄色いボタン」っていえば「ああ、あれね」となる感じ。一方で、プロダクトは日々使うものなので、目立つだけではなく生活に馴染むのが大事です。ボタン型だと、ぬいぐるみに馴染んでくれるのと、ボタン穴をスピーカー穴にすることで、いかにもスピーカーという見え方にならなくていいと思いました。

木村:なるほど。「Symbolic/Adaptive」っていうのは、確かに広告的でプロダクトデザイン的だね。

2.どうやって実現したのか?

木村:で、アイデアを思いついてからは、トントンと販売までいったの?

鈴木:プロトタイプの開発までは、近い仲間だけで少人数でやったのでスムーズでした。でも、基本的にやったこと無いことばかりだったので、実際に販売するまでにはいろいろ大変でした。大きく3つ。
まず一番大きいのが、社内を説得して投資をしてもらうこと。つぎに、実際に量産する会社をみつけること。最後が、販売してもらうチャネルをみつけること。

木村:それ、どうやって乗り越えたの?

鈴木:とにかく応援してくれる人とか、味方を増やせたことが大きかったと思います。広告クリエイティブだと、スモールチームで企画制作をすることが多いと思いますが、プロダクトデザインはたくさんの声、人に対してinclusiveであることが大事。まず、アイデアを思いついてから、すぐにプロトタイプをつくって、アメリカのオースティンでやってるSXSWで発表しました。そこから話題になって、メディアにもたくさんとりあげてもらって、SNSでも話題になりました。その反響と事業計画を持って、社内を駈けずりまわったところ、実際にプロトタイプがあるので、役員たちも「面白いね」と乗り気になって味方になってくれた。たくさんの味方が、新たな味方をつくるスパイラルをつくってくれたってことですね。

小野:それと、メディアで話題になったのがきっかけで、量産製品の開発・製造をする会社も、紹介してもらえました。でも、実際に会社から投資の承認がとれるまでは結構時間がかかりそうだったのですが、それを待っていたら、遅くなるとおもって、勝手に開発をはじめました。

木村:勝手にはじめたんだ?それって大丈夫なの?

小野:その時は、ちょっと興奮状態で、量産前までの開発費1000万くらいは、最悪承認がおりなければ自分が払うといって無理やり進めていたんです。その覚悟が伝わったのか、開発チームや製造会社の人たちも前のめりで協力してくれました。

木村:1000万を自分で?その金額はわかりやすい覚悟だね。うまく行かなかったら本当に払うつもりだったの?

小野:そこは、まあ、半分本気。

鈴木:でも、こうゆう強い覚悟が人を巻き込んで動かしていくんですよね。そんな覚悟のかいもあって、無事投資の承認がおりたって言えますね。

木村:それで無事、会社も承認し、量産がすすんだわけだ。販路開拓はどうやったの?

鈴木:それがもうひとつの問題でした。まったくやったことがなかったので、これも手探りでした。そこで、目をつけたのがクラウドファンディング。日本ではクラウドファンディングがちょうど盛り上がりはじめていたところだったのですが、Pechatを先行販売という形で、クラウドファンディングに出したところ、3000人近くから1500万円をあつめて大成功しました。

小野:クラウドファンディングには、新しい商品を求めて、メディアやチャネルも注目していたから、そこで話題になったことで、問い合わせがたくさん来て、PRと販路開拓が同時に達成されたって感じですね。

木村:なるほど。早い段階でプロトタイプをつくってメディアや世の中を巻き込んで、クラウドファンディングでさらにチャネルまで巻き込んだってことか。うまくいってよかったね。承認の壁も量産の壁も販路開発の壁も世の中の反応を味方につけることで突破したってことだね。

小野:はい。とてもラッキーでした。そのお陰で、実際に販売した当日に出荷分が売り切れになる大ヒットとなりました。

3.広告とプロダクトはどうちがう?

木村:それでは、最後の質問ですが、広告とプロダクトの一番の違いってなに?

小野:Good question! うーん、Keep talkingすることかな。広告はつくって納品して終わりが基本だけど、プロダクトはつくってからがはじまりだから。
特にPechatでトライしていることなんですが、販売後も開発を続けて、どんどんアップデートしています。例えば、販売してみてから、出産祝いで買われることが多いということがわかったんですが、赤ちゃんはまだおしゃべりできないから、出産祝いでもらってもすぐにつかえないっていうのがあった。それで、泣き止ませや寝かしつけの音楽を専門家とつくったり、泣き声検知機能をつくったり、赤ちゃん向けの機能を追加したりしました。

鈴木:他にも、アプリの中にリクエスト機能をつけていて、子どもの英語教育につかいたいってリクエストが多かったので、その後、子どもの英語学習用アプリ”Pechat English”もローンチしました。

小野:ユーザーとの対話を通した、アップデート自体がまたPRになって、新機能を出してメディアに取り上げてもらうみたいに、プロダクトの成長とマーケティングが一体になっているっていう感じです。

木村:なるほど、「Be inclusive」はつくったあとも続いていて、ユーザーと「Keep talking」することで、プロダクトに話題をつくりながら、新しいユーザーをとりこんでいくってわけだね。ひとつのアイデアに社内、開発会社、チャネル、ユーザーを巻き込んでいって、形にして、さらに成長させていくっていうのが、今っぽいやりかただなと思いました。あと、プロダクトデザインとコミュニケーションが一体になることの可能性がよくわかりました。

ありがとうございました。

木村 健太郎(きむら けんたろう)

1992年博報堂入社。ストラテジー、クリエイティブ、デジタル、PR の境界を取り去り、全体をシームレスにつなげるユニークなプラニング手法を確立。2006 年、従来の広告手法にとどまらないイノベーティブなキャンペーンを手がけ、熱いアイデアで世界を沸騰させることを目的に博報堂ケトルを設立した。これまでに8つのグランプリを含む100 を超える国内外の広告賞を受賞し、カンヌライオンズチタニウム&インテグレート部門審査員、アドフェストプロモ&ダイレクト部門審査員長、スパイクスアジアデジタル&モバイル部門審査委員長など20 回以上の国際広告賞の審査員経験を持つ。海外での講演も多く、2013 年から3 年連続でカンヌライオンズ公式スピーカーに選出された。

小野 直紀(おの なおき)

2008年博報堂入社。広告、空間、デジタルと幅広いクリエイティブ領域を経験する中で、多数のプロダクト開発業務に従事。2015年に、新しい生活風景を生み出すプロダクトの開発をミッションとするクリエイティブチーム「monom」を設立。これまでに、ぬいぐるみをおしゃべりにするボタン「Pechat」やウェアラブル英会話教師「ELI」などを企画・開発。また、歌詞が見えるスピーカー「Lyric Speaker」や勉強したくなる机「Write More」のプロダクトデザインを担当している。

鈴木 あい(すずき あい)

2000年博報堂入社。営業職として、外資系クライアントやグローバルキャンペーンのプロデュースを多数経験した後、2014年よりクリエイティブプロデューサーに転向。カンヌライオンズ、D&AD、ADFEST、Spikes Asia、Webby賞、Yahoo!クリエイティブアワードほか、数々の賞を受賞。

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