4月、5月と続いてきた「アクティベーション」シリーズ。
その第3弾が、この日のセミナーでした。この回では「コンテンツ」にフォーカスし、次世代型統合マーケティングとしてのアクティベーションにおけるコンテンツ活用の考え方、方法論、具体的な事例などが語られました。
コンテンツとは何でしょうか。
私たちは、コンテンツとは「人々を夢中にさせるもの」であり、大きくは「感動させるもの」と「役にたつもの」の2種類に区分されると考えています。
コンテンツの力は、「夢中度」と「時間」の2軸によってあらわすことが可能です。
「夢中度」は、「信頼(馴染み)→誇り→情熱」の順で高まっていきます。
一方、「時間」の軸には、大きく分けて「一瞬」と「一生」の二段階があります。
最も力があるコンテンツとは、「情熱」が「一生」にわたって続くコンテンツです。
そのようなコンテンツは生活者との長期間に及ぶ関係が見込める、すなわち売上が見込めるコンテンツです。
そして最も重要なことは、自社の商品やサービスなどの商材も、生活者にとってはコンテンツの一つであるということです。
昨今のコンテンツマーケティングという概念が、SEO対策やWEB施策などの狭義の部分にフォーカスされがちですが、本質的にこの部分を見落とすと、役に立つ記事を用意してもそれは単なる広告枠の置き換えでしかなく、商材の売上に大きなインパクトをもたらさないでしょう。
商材のコンテンツパワーは、2つの要素によって構成されると考えられます。1つは、「商材そのものの力」で、これは「見ればわかる」「使えばわかる」といったものです。もう1つは「商材の付帯情報の力」です。これは、実際に見たり使ったりしなくてもわかるものです。どら焼きで例えれば、実際に食べてみて「美味しい」と感じるのが「商材そのものの力」であり、食べなくても「美味しそう」と感じられるのが「商材の付帯情報の力」です。後者は、例えば「新発売」「かわいい」「老舗」「糖質オフ」「有名人のおすすめ」といった情報によって高められる力です。
私たちが提唱する「コンテンツ基点のアクティベーション」は、外部のコンテンツを活用して商材やブランドの「付帯情報の力」を高め、それを「商材そのものの力」と掛け合わせることで収益の最大化を目指す方法です。外部のコンテンツを活用することによって、生活者、メディア、ステークホルダーの注目度を高め、生活者の行動を後押しし、購入や来店などにつなげることが可能になります。
マーケティングにおけるコンテンツ活用は以前からあった方法論です。
では、なぜ今、あらためてコンテンツに注目が集まっているのでしょうか。そこには3つの理由があると私たちは考えます。
1つは、生活者が日々接する情報が膨大になっていることです。
情報の流通量はものすごいスピードで増え続けています。
一方で、人々が情報を処理できる能力には限りがあります。
結果、情報市場は、「発信側市場」から「受信側市場」へと移行しつつあります。情報の受信者である生活者側が情報を選ぶ時代になっているということです。
商品情報の供給が過多になると、情報への飢渇感が低下します。
結果、商品の価値が変わらなくても、新奇性や独自性が低下していくことになります。
先ほどのどら焼きの例えを続けるならば、「行動履歴から“どら焼きが好き”ということがわかっているお腹いっぱいの女性に、“美味しいどら焼きを一緒に食べませんか”と言いよる男性が100人いる状態で、新しく作ったどら焼きの自信作を手に言い寄る」といった状態になってしまいます。
つまり、情報が多くなると、商品・サービスの絶対的な価値は不変でも、「付帯情報」の価値は低下してしまうということです。
したがって、コンテンツの力によってその価値を上げていく必要があるのです。
2つめは、データの弱点を補強するのがコンテンツであるということです。
今日のマーケティングにおいて、データは欠かすことのできないツールですが、データ活用の前提となっているのは、「過去の延長線上に未来がある」という考え方です。
つまり、データを活用するということは、過去の事象をもとに未来を予想するということであり、過去と未来が完全に断絶している場合、データは役に立たないのです。ここにデータの最大の弱点があります。
データを活用すれば、「過去に出会ったことのあるような顧客」を連れてくることはできますが、「これまでに出会ったことのないまったく新しいタイプの顧客」を連れてくることはできません。
データを活用しなければ他社に遅れをとってしまいます。
しかし、よほどオリジナルのデータを自社が所持していない限りにおいて、今あるデータソリューションは競合他社も活用可能であり、結果としてデータで他社との決定的な差別化をもたらすことは困難です。
ここにコンテンツの役割があります。コンテンツを上手に使うことによって、コンテンツのファンがブランドのファンとなり、ブランドに対する熱狂的な生活者を育成することが可能になります。
オリジナルコンテンツはそもそも他社が模倣することは不可能ですし、既存コンテンツも独占権を獲得することで模倣が困難になります。
「競合との差をなくすのがデータ。差をつけるのがコンテンツ。」と言っていいでしょう。
3つめは、ソーシャルメディアが普及することによって、すべての企業がコンテンツを常時発信することが可能になったことです。
以前のコンテンツ活用は、キャンペーン的、一時的なものでした。
しかし、すべての企業が「メディア化」することで、ターゲットを夢中にさせるコンテンツを常に発信できるようになりました。
さらに、情報の流れも大きく変化しています。
以前は、新聞や雑誌などに取り上げられた商品情報が、テレビで取り上げられ、さらに口コミで拡散していくという流れでした。
この流れはもちろん現在もありますが、これに加えて、「ソーシャライト」と呼ばれる海外セレブリティが発信する情報を、国内のトップインフルエンサーがフォロー・拡散し、さらにそれがソーシャルメディアで広くシェアされていくという流れが生まれています。
コンテンツ活用、その5つの方法論
ここからは、具体的なコンテンツ活用の方法論について見ていくことにしましょう。
海外では、単なるロゴの露出獲得ではなく、コンテンツホルダーが企業の課題解決と真剣に向き合っています。
日本の有名なソフトキャンディの例です。日本では有名なブランドですが、アメリカでは知名度が低く、流通網も一部日系スーパーやコンビニに限定されていました。
しかし、一部のメジャーリーガーの間で秘かに人気が高かったことから、球団に商品を配布したところ瞬く間に評判となり、選手が商品PRに積極的に参加するようになりました。その後、球団のスポンサーとなることで、チーム側がスポンサーのビジネス課題を解決するための地元ファンや地元仲買業者を意識した協賛パッケージを作成、非常に保守的なエリアにおいてチームが「信頼できる仲介者」の役割を担うことで、顧客やステークホルダーの心理的抵抗感を解消し、地元ボストンでの知名度向上に加え信用力を高めることに成功しました。
これは、野球というコンテンツをスポンサードすることによって、露出場所を確保するのではなく、「顧客と販路の獲得」という課題を解決した例です。
もう一つ、アメリカのカーレース「NASCAR(ナスカー)」の例もあります。NASCARは、アメリカで「最も成長著しいプロスポーツ」と言われ、テレビ視聴率ではNFL(アメリカンフットボール)に次ぐ第2の人気プロスポーツとしてのポジションを獲得しています。
NASCAR事務局は、スポンサーが参加するミーティングや分科会をレース会場近くのホテルなどで開催し、スポンサー企業間のビジネスの拡大をサポートしています。スポンサーには、自動車製造、製紙、廃棄物処理、プライベートジェット、ホテルチェーン、文房具小売といった企業が名を連ねており、実際にスポンサー間で新しいビジネスが発生しています。
これもまた、スポーツコンテンツに協賛することによって「ビジネスの機会拡大」という課題を解決している例と言えるでしょう。
どのコンテンツが顧客を動かす力があるのか。これを見極められれば短期的に成果をあげやすくなります。
博報堂と博報堂DYメディアパートナーズではコンテンツの持つ力を、「リーチ力」と「支出喚起力」の2つの指標で表しています。リーチ力とは、そのコンテンツが一年間に到達できる人数を表す指標です。
コンテンツの力を活かして幅広い生活者に自社商品やサービスを知らせる際に参照します。
この指標が高いと、CMへの起用・PRなどの活用に向いています。支出喚起力とは、コアファンによる、年間の関連市場規模の指標です。
自社の商品やサービスそのものにコンテンツを組み込んだオリジナルの企画を開発し、コンテンツファンの実際の購買を目的とする際に、どのくらいの売上規模が見込めるかを推計することができます。
例えば、博報堂オリジナルの調査「コンテンツファン消費行動調査2015」では、2015年のコンテンツのリーチ力のトップは映画『アナと雪の女王』で、支出喚起力のトップはマンガ、アニメ、小説などのメディアミックス作品『ラブライブ! School idol project』でした。
支出喚起力の強いコンテンツは、生活者の行動を促す「熱量」があるコンテンツと言い変えられます。生活者がそのコンテンツに積極的にかかわっていることを表すため、そのコンテンツと連携することで生活者の行動を喚起できる可能性が高く、結果として、集客や購買が促進されやすくなります。
博報堂には、「コンテンツファン消費行動調査」の知見をもとに、コンテンツを起点とした広告やビジネス設計の支援を行う専門チーム「content business lab」があります。生活者が手軽にコンテンツを楽しめる「入口」をつくってファン化し、「体験」でそのファンの心を刺激し、ファンが喜ぶ様々な「出口」を用意することで、連携したコンテンツのファンの自社顧客化をサポートします。
商品そのものが告知などしなくても勝手に「くちのは」に上る力(商品の付帯情報の力)をつけることで、売上をあげるための手法です。
コピーライターの糸井重里さんが主宰するウェブマガジン「ほぼ日刊イトイ新聞」は、記事コンテンツの配信だけでなく、手帳などの商品を開発・販売することで、広告や有料会員に頼らずメディアとしての成功を収めています。記事制作も商品開発も原則同じであり、両方ともコンテンツ開発として位置づけて、商品そのものにコンテンツ力を付与することで売上をあげています。
博報堂にも同様に、商品そのものに「くちのは」に上る要素を加えることを意識して商品開発を行うソリューション「もののは」があります。
コモディティアイテムのコンセプトの再開発から新しい利用シーンの開発、それにともなう新しい販路の開拓などを行っており、例えばはちみつをレターセット化して雑貨店に並べることで売上を上げたり、誰もが見たこともない和菓子の開発を行い、百貨店などで人気を博し、残念ながら売切れてしまった実績などもございます。
先に述べた情報構造のトップに位置するソーシャライト(海外などのセレブリティ)に、金銭対価とともに自社商品を称賛させる書込みをさせて情報の拡散を図る、いわいるステルスマーケティングのようなインフルエンサーマーケティングを実施するのではなく、ソーシャライトが自発的に広げたくなる自社商材に関するコンテンツ(イベントの共催・商品開発など)をともに作ることで、ソーシャライトが自ら積極的に広めたくなる意欲を引き出し、結果としてソーシャルメディアや既存メディア上での情報拡散を成功させることができる、新しいインフルエンサーマーケティングの手法「ソーシャライトマーケティング」というもの博報堂は提唱しています。
ソーシャライトの個人的ニーズを満たし、彼・彼女らを「リアルに乗り気」にさせることで、メッセージ発信を促し、フォロワーを増やしていく手法で、「パブ」と「バズ」を同時に実現する方法です。実際、広告換算で十億円近い露出獲得に成功しています。
ポイントは、ソーシャライトのニーズと企業のマーケティング上の課題を上手にマッチングさせることです。「若年層の認知向上」「話題性のある新商品開発」といった課題がある場合は、それぞれの課題にふさわしいソーシャライトとコラボレーションをすることが必要になります。温泉が好きとか、和食が好きとか、日本の地方に興味があるといった、彼・彼女らのニーズを博報堂はデータベース化しており、企業ニーズとの速やかなマッチングが可能で、すでに商品開発・広告開発・CSR活動等に展開しております。
海外のソーシャライトの日本への期待は想像以上に高く、今なら速やかな連携が可能です。
博報堂には、ターゲット別、テーマ別にどんなコンテンツと連動すればよいか、どんなコンテンツを開発すればよいかということに対して提案できるさまざまな専門組織があります。例えば、次のような組織です。
●博報堂ソロ活動系男子(ソロ男)プロジェクト
従来、注目されなかった独身男性の旺盛な消費力にフォーカスし、今後大きな消費ボリュームを形成する20~50代の独身男性の消費意識や生活意識を研究するプロジェクト。
2016年12月より、「ソロ活動系女子(ソロ女)」についても意識調査を実施中。
●博報堂キャリジョ研
20代から30代の未婚女性やDINKSなど、可処分所得の高い「働く女性」に関するナレッジを提供する専門チーム。
●博報堂買物研究所
2003年の設立以来、「売る」を「買う」から発想する専門部署。生活者の購買行動を決定づけるツボ「買物インサイト」を発見し、マーケティング戦略の刷新をサポートする。
●博報堂行動デザイン研究所
生活者の新しい行動習慣をつくりだす「行動デザイン」の研究と実践を通じてマーケティングを革新する専門組織。
●マハロネットワークス
ハワイの文化、ビーチカルチャー、サーフカルチャーに特化したコンテンツ開発を手掛ける組織。アーティストやブランドとの共同商品開発、パッケージデザインなども行う。
ターゲットや各ジャンルのインサイトに合わせたコンテンツコラボレーションが可能です。
最後に、「プロモーション」と「アクティベーション」の違いについて触れておきたいと思います。
プロモーションとは、一つのアイデアによって生活者に一つの行動を起こさせる、いわば「ワンアイデア/ワンアクション」の取り組みです。それに対し、アクティベーションは、生活者に行動を促すための「プラットフォーム」をつくり、そこで継続的かつ統合的なマーケティングを行う手法です。
一度の取り組みで完結してしまう「プロモーション/キャンペーン発想」から、継続的かつ統合的な「プラットフォーム発想へ」──。
それが、私たちが取り組むアクティベーションの本質です。
※掲載時プロフィールです。
1988年博報堂入社。コピーライターとして、配属。
現在の弊社会長である、戸田の下で修業を積む。
1990年代より各種広告制作業務を担当し、
アルコール、飲料、食品、自動車、航空、化粧品等、多様なジャンルに携わる。
統合マーケティング、統合ソリューションに早くから取り組み、広告、プロモ、PR、
イベント、デジタル等々、他領域で業務実績。
2005年クリエイティブディレクター
2008年シニアクリエイティブディレクター
2009年チームリーダー(部署長)
2011年グループマネージャー(局長代理)
2012年Cannes Lions、ADFEST、SPIKES等、国際賞9冠
2013年エグゼクティブクリエイティブディレクター
2014年第一クリエイティブ局長
2016年アクティベーション企画局長
1998年立命館大学文学部心理学専攻修了
2013年神戸大学大学院現代経営学専攻修了 MBA
元テレビ局 ニュース番組 報道ディレクター
元ネット系広告会社 メディアプランナー
元ネットメディア プロジェクトリーダー
面白いコンテンツをつくることに注力したテレビ制作時代。
お金を儲けること、ビジネスすることに注力したネット業界時代。
「いかに顧客を感動させるか」「それをどうビジネス化するか」この2つの要素の掛け合わせを、偶然ながらキャリア上経験。
これに博報堂のもつマーケティングによるアプローチの仕方、MBAによる体系的な事象の捉え方が加わったことで、経営などの上位レイヤーから現場の具体的施策まで、
統合的な戦略と戦術の策定が可能。
第一弾のセミナーレポートは、
「生活者の行動」をシナリオ化する、次世代型統合マーケティング
~統合マーケティングの効果を最大化する「アクティベーション発想」とは?~
第二弾のセミナーレポートは、
デジタル&リアル基点の「アクティベーション」で、効かせる統合へ。
~「生活者の行動」をシナリオ化する、次世代型統合マーケティング Vol.2