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『若年層を動かすマーケティングアプローチ~動画は今、どう見られているのか』( アドバタイジングウィーク・アジア2017 博報堂DYグループセミナーレポート①)

2017.07.03
#動画マーケティング#若者

2017年5月29日~6月1日、第2回となるアドバタイジングウィーク・アジアが東京・六本木ミッドタウンで開催されました。今回も広告、マーケティング、テクノロジーの各分野で活躍する第一人者が世界中から集結。モバイル・マーケティングや人工知能の未来など、刺激的なトピックについて議論を展開しました。

本セッションでは、C Channelの三枝孝臣取締役COOと博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所の吉川昌孝所長が、動画ビューアーを動かすコンテンツ、ブランドリフトを実現するコミュニケーションなどについて意見を交わしました。(以下敬称略)

ムダにならないことを、スピード感をもって伝える

吉川:メディア環境研究所では、メディアがどう見られているかの定点観測を行っていて、その結果を1年に1回発表しています。東京での調査結果によると、メディアに接触している時間は年々伸びていて、2016年には1日400分近くになりました。テレビを見ながらスマホを使うといったスタイルに代表されるように、モバイルが接触時間を伸ばしています。マスメディアへの接触時間は下げ止まった感があり、パソコンのみ減少しています。若い人はモバイルが中心で、特に女性がモバイルシフトの牽引役です。30代以降になるとモバイル以外の接触時間が多くなります。また、就寝前にスマートフォンを使うことが多く、デプスインタビューしたある女性は、ドラマ、twitter、メール、ネット検索と次々と画面を変えていました。
調査結果から、若い人は次々と気分の赴くまま画面を出していき、動画、コンテンツ、コミュニケーションをシームレスで行き来していて、「チェーンビューイング」をしているといえます。また、何がメインで何がサブなのかがわからない、「サイマルビューイング」という状態も特徴的です。このような情報処理をしている若い人に、どうすれば動画を見てもらえるのかを、今日は三枝さんと考えたいと思います。

三枝:C CHANNELは「日本初のグローバルメディアをつくる」というコンセプトから出発していて、「女性の知りたいを1分間で解決する」をうたっています。1分にこだわっているのは、動画づくりの経験を重ねる中で、スマートフォン上で見やすいのは45秒から1分であることがわかってきたからです。
C CHANNELは女性の興味のあるジャンルを紹介する動画のファッションマガジン、ライフスタイルメディアで、特徴には、縦型動画、日本最大級のエンゲージメント数、クリッパーによる情報発信、各SNSからも発信する分散型メディア、拡散される動画の制作力といったことがあげられると思います。ユーザーの90%以上が女性で、事業は海外にも広げています。

吉川:若年層に見てもらえる動画のポイントは何でしょう? どうしたら指を止めてもらえるのでしょうか?若い人はムダと判断したら、二度と見ませんよね。

三枝:最初に、ムダにならないということを伝えるようにしています。具体的にいうと、若い女性は華やかなもの、かわいいものに目がいくので、ハウツーの動画であっても、「インスタグラムチック」なものを入れるとか。

吉川:インスタグラム映えするものですね。

三枝:そうです。たとえば、ヘアアレンジを紹介する動画でも、まず、そのヘアアレンジが街の中でどう見えるかというシーンを見せてから、ハウツーに入るようにしています。

吉川:かわいい感じとか、ハウツーだから、わかりやすい感じとかが大切だけど、使えそうな情報だと思わせるリアリティを短い時間で見せるわけですね。また、それが見る人に通じると信じて制作することも大事ということでしょうか。

三枝:短い時間で見せるということでは、今では早回しも当たり前になりました。料理の手順を紹介する時に、時間を短くしたい場合、テレビならカットを考えます。でも、それでは手順がわからなくなるおそれがあります。スマートフォンの視聴者には、早回しが正しいと思います。

吉川:今のスピード感にも合うということですね。

三枝:料理だけでなく、ヘアアレンジなどでも、具体的な手順の紹介になったら早回しです。若い人に指を止めてもらうには、1秒1秒を工夫しなければなりません。テレビでは毎分視聴率を気にしましたが、今は秒単位です。

吉川:その中で「絆創膏の貼り方」という、世界でも話題になった動画も生まれました。どのくらい見られたんですか?

三枝:1動画で1億回以上再生されました。絆創膏の貼り方を解説しているシンプルなものですが、意外性があったんでしょうね。

スマートフォンだけでは不可能な、ブランドを体験してもらう「リアルな」イベントが必要

吉川:そうした動画づくりの一方で、「スーパーシーチャネル」というイベントも実施されています。若年層に対してブランドをどうつくるかヒントになりますね。

三枝:インターネットの動画メディアはやはりバーチャルな感じがあり、テレビにはもう少しリアリティがあります。そのインターネットの動画メディアに対して、視聴者は愛情を持てるかどうかはわからないわけです。だから、C CHANNELというブランドを体験してもらうイベントが必要で、コンテンツやメディアを愛してもらい、また、愛されているということを体感してもらうことが大切なんです。

吉川:スマートフォンの中だけの体験では、ブランドに対してエンゲージメントがつくりにくい。エンゲージメントをつくるには生の体験が必要なんですね。

三枝:ここにいていいんだというリアルな体験、自己実証です。

吉川:自分が見ているメディアを見ている人たちは、こういう人たちだと知ることによる一体感も得られますね。

三枝:そうですね。ですからクライアントにとってもイベントは大切です。自分たちのサービスや商品がきちんと刺さっていることがわかりますから。

吉川:スマートフォンに触れているからこそ、リアルな体験が必要で、若い人たちにはそれが強く刺さるということですね。

三枝:我々がアナログからデジタルを体験したのとは反対に、若い人たちにはデジタルからアナログを体験してもらうことが大切なんです。

ポイントはコンテンツへの「没入感」。見るのが楽しみになるような広告が求められる

吉川:CMと番組、コンテンツの違いということに話を移すと、我々のマーケティングコミュニケーションでは、番組というコンテンツの間に広告というメッセージがあったわけですが、それとは違う文脈が必要なわけですね。

三枝:スマートフォンには「没入感」があり、テレビなどと違って、コンテンツに没入している時にコマーシャルが入ると、途端に視聴者は引いてしまいます。だから、コンテンツ型の広告が重要で、コンテンツを見ている中で商品を認知する、広告が楽しみになるようなものにすることが重要です。考え方としては、テレビが始まったころの1社提供に近いようなもの、つまり、広告とコンテンツが一緒になったようなものをつくることがポイントだと思っています。

吉川:若い人が触れているメディアは、我々が考える以上に没入感が強いので、ふつうのアプローチではダメということですね。最後に、ポストハウツー動画として、エンタテインメント動画も制作されていますね。若年層に対しては、どういうエンタテインメントのつくり方がいいとお考えですか。

三枝:ハウツーは課題解決型のコンテンツというか、課題がないと見てもらえません。やはりパッションの領域に入り、感情を湧き立たせて、C CHANNELをより一層なくてはならないものにすることが必要です。ドラマなど、どうなるのかが気になるエンタテインメントの番組にシフトすることで、再生数を伸ばしていけると考えています。具体的なジャンルとしては、ドラマや恋愛のほかに、トラベルやグルメなどに取り組んでいます。

吉川:本日はありがとうございました。

■プロフィール

吉川昌孝 株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 所長
1965年生まれ。1989年慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。マーケティングプラナー、博報堂フォーサイトコンサルタントを経て、2004年博報堂生活総合研究所に着任。「態度表明社会」(09年)「総子化」(12年)「デュアル・マス」(14年)等、生活者とマーケティングの未来像を発表。15年メディア環境研究所所長代理、16年より現職。著書に「亜州未来図2010」(03年)「『ものさし』のつくり方」(12年)など。現在NHKラジオ第一「マイあさラジオ~今週のオピニオン」レギュラーゲスト。

三枝孝臣 C Channel株式会社 取締役COO
1966年東京生まれ。1989年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本テレビ放送網入社。「DAISUKI!」を皮切りにバラエティ「夜もヒッパレ」「さんまSMAP」ドラマ「平成夫婦茶碗」「明日があるさ」「東京ワンダーホテル」情報番組「スッキリ」「シューイチ」「ZIP!」の企画、演出、プロデューサーを担当。2014年「Hulu」制作部長、インターネット事業担当部次長を経て2015年独立。新たにメディアデザイン事業会社、アブリオを設立し、同時に元LINE代表森川亮氏とともにC Channel株式会社を設立。就任。著書に「一流のMC力」(16年)がある。

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