9月20日、21日の2日間にわたって開催された、デジタルマーケティングの最新情報が集まる「ad:tech tokyo2016」。本セッションでは、株式会社博報堂の茂呂譲治がモデレーターを務め、株式会社毎日新聞社の小川一氏、株式会社講談社の長崎亘宏氏、アサヒビール株式会社の馬場崇暢氏、株式会社ユーキャンの鳥羽渉氏がスピーカーとして登壇。オウンドメディアにおける各社の最新のマーケティング事例、その手法、課題解決のカギなどについて議論しました。(以下敬称略)

各社のオウンドメディア事例

茂呂:モデレーターの茂呂です。本セッションではオウンドメディアを起点に、事業会社さん、媒体社さんの最新のマーケティング事例、その手法、課題解決のカギなどについてご紹介できればと思います。早速ですが各自事例の紹介をお願いいたします。

株式会社講談社 長崎亘宏氏

長崎:講談社が自動車メーカーと取り組んだキャンペーンで、広告主、メディアいずれのオウンドメディアでもなく、第3のポジションとしてメディアを立ち上げた事例をご紹介します。これはいわゆる共創型コンテンツで、「モーニング」で連載している「会長・島耕作」と上質なライフスタイルを提案する自動車をからめたものです。1つ目のポイントはターゲットである中高年齢層に訴えるために、紳士の選択=ブランドという社会文脈(コンテクスト)を作ったこと。2つ目のポイントは商品名ではなくバーチャルの組織名を前面に打ち出すこと。3つ目のポイントは雑誌編集者がネイティブ広告を、クリエイターがブランド広告を協同開発したことです。そして4つ目のポイントは語り手がキャラクターだということ。広告主、メディア、生活者のそれぞれが共犯者的にキャラクターを中心としたストーリーを楽しめるものになっています。

株式会社ユーキャン 鳥羽渉氏

鳥羽:ご紹介するユーキャンの事例は学びのキュレーションメディア「マナトピ」です。こちらは実験的に記事をいくつかのパーセプション種別に分けています。パーセプション1は認知、集客、学習意欲醸成。タレントの資格チャレンジ企画や、お金の知識についての記事などで集客、学習意欲醸成のとっかかりをつくります。続いてパーセプション2は資格興味を喚起する記事。たとえば「タイプ別転職・再就職に有利な資格はズバリコレ!」とか、「芸能人も通うプロが語る、ネイリストになるために必要なこと」など、AllAboutさんと一緒に専門的知識をもった記事を載せています。最後にパーセプション3、講座(商品)意向喚起。今年中に目指せる資格だとか、ユーキャンのOB・OGに聞いた、とか、より弊社での通信教育に近い記事を載せています。

茂呂:ユーキャンさんと生活者の距離感というか、関与度に応じてパーセプションを分け、コンテンツを紐づけ、そこから次のアクションに持っていく――。非常にスマートに見えますが、コンテンツにどううまくつなげるか、どう次の気持ちにもっていくかなどで、やっていくうちにたどり着いたポイントなどはありますか?また、AllAboutさんと組んで良かった点は何ですか?

鳥羽:世の中にキュレーションメディアは数多くありますが、我々は学びというコンセプトから絶対にずらさないようにしています。そこで差別化できているのではないかと。また、AllAboutさんにはガイドさんがいらっしゃることで、興味喚起よりもモチベーションの高い方を送客できるうえ、記事の信憑性、説得力も高まるので非常に効果がありました。

茂呂:なるほど。では続いてアサヒビールの馬場さんお願いします。

アサヒビール株式会社 馬場崇暢氏

馬場:弊社では2011年から日経BPさんと一緒にCAMPANELLAというオウンドメディアを運用しています。いくつか特徴を挙げると、まず企業や商品を前に出さず、限りなく宣伝色をゼロに近づけることで、情報が読者にすっと入りやすくなることを狙っています。一方で接触してもらった読者の方と何らかの接点を持つために、自社サイトへの誘導部分も設けています。
自社グループの情報は読者に伝えようと思っても自社都合になりがちですが、その点日経BPさんが情報をコンテンツに変えてくれる。蒸留所を紹介する場合は旅行という切り口にしてもらったり、グループ企業となった飲食店紹介の場合は、ワインの楽しみ方などといった切り口で読み手の見えるコンテンツに変えてもらっています。

媒体社の持つ資産をオウンドメディアに活用する

茂呂:続いては「媒体社の新たなビジネスチャンスがなぜオウンドメディアにあるのか」。毎日新聞と講談社のお二方からうかがえれば。

株式会社毎日新聞社 小川一氏

小川:たとえばいま、飲料メーカーさんとタッグを組み、コーヒーをテーマに据えたウェブマガジンに取り組んでいて、既存の記事をリライトしたり、独自に書く記事も含め月40本くらいの記事提供をしています。やはり新聞社として145年の歴史もあり2000人からの記者が書くものを前提としたブランドですので、信憑性がある。さらに記事のクオリティが高い、ライティングが早いといった、新聞社ならではの強みの部分で評価をいただいています。写真や動画といった豊かなリソースもありますから、これから情報環境を整え、一緒にソリューションを考えるうえで、新聞社として寄与できるものは大きいと思います。

株式会社博報堂 茂呂譲治

茂呂:なるほど。弊社グループでも、複数媒体社さんと一緒に企業のオウンドメディアコンテンツを制作する「PRECTORY」というサービスを始めています。まさにさっきおっしゃった企業が伝えたいことと生活者が知りたいことのギャップをうまく解消し、情報を伝えるという取り組みですが、確かに媒体社さんの編集力やコンテンツはすごいという話が出ており、引き合いもすごいです。では続いて長崎さん、お願いします。

長崎:改めて私からパブリッシャーの方へ提言したいのは、資産の仕分けをしませんかということです。我々のようなメディアがお手伝いできるのは、やはり企業と生活者のギャップを超えるためのエンゲージメントをつくること。ではエンゲージメントの源は何か。それをちゃんと整理しましょうということです。
まずは「メディアブランド」と編集力・キャスティング・ライツを含めた「コンテンツ力」、これがベースです。メディアには雑誌名や暖簾の価値といった社会的信用があります。そしてコンテンツには読者やファンがついてきますし、ネットに上げればそこに寄り添うオーディエンスがいる。一方、「ソーシャルアクション」としては量、質、拡散力があり、「ユーザー体験」型のイベントやリアルショップなどがある。そして雑誌専属モデルやユーチューバ―など、生活者と編集者の間にいる「インフルエンサー」。こうした要素を一度仕分けすべきではないかと思います。

KGI、KPI達成のためにオウンドメディアでやるべきことは

茂呂:ではこちらも気になる方が多いのではないでしょうか。マーケティングにおいてのKGI、KPIを達成するうえでやるべきことは何でしょうか?

鳥羽:ユーキャンでは数年前からかなり大量に1月にコマーシャルを出稿しています。そのCMを見た方をまずウェブに連れてくる。そしてオウンドメディアにおいては、KPIは資料請求、最終的なKGIが講座受講となります。先ほどご紹介したマナトピやマッチング診断などはよりKGIに近いところにいざなう役割を持っています。通信教育はただでさえ「受けてみなければ分からない」商品ですから、より、自分に必要なものだと思ってもらえるよう誘導するのがオウンドメディアの大きな役割ですね。

馬場:アサヒビールが取り組んだ1事例ですが、同じチリのワイナリーオーナーへのインタビュー内容を、CAMPANELLAでは「チリワイン流行の秘密」といった切り口にし、読者の興味喚起を狙い、自社ホームページでは、オーナーがワイナリーのブランドについて語る内容になっている。さらに自社ECやリアル店舗で買ってもらえるような流れをつくったところ、自社ECでの同ブランド売り上げ実績が伸長しました。

長崎:メディアの立場としては、先ほどのプロが作った記事、あるいはバズっている素人の記事など、そのクオリティの違いは可視化できたり、指標になりうるのか。そこにこだわりたいと思っています。インターネットは可視化できるようで、実は出てくる数値は個別案件の事例です。コンテンツ主体の広告効果に対して、クロスプラットフォーム、クロスメディアで共通した指標はまだ存在しません。ですからこれから求めるべきは、コンテンツ力をどう数値化し、業界全体で指標をつくっていくか。それを提言したいです。

茂呂:では最後に一言ずつお願いします。

長崎:冷静と情熱の間。やはりデータをしっかりやるというところと、生活者とのギャップを乗り越えるために面白いことをやらないといけない。そのための情熱が大事だと思います。

鳥羽:データマーケティングとかアドテクノロジー、DMPなどなど…効率化を重視して可能性を狭める気がして、実は個人的にはあまり好きではないんです。やはりメーカーとしてはデータマーケティングにどう向き合うか。いまも協力会社さんと解析アカウントを共有して、リスティングなどの課題を共有していますが、そんな風に協力をあおぎながら、勉強しながら、コンテンツを配信していければと思います。

小川:レガシーメディアは恩返しの時期に来ている、それがオウンドメディアだと考えています。ですからこれから皆さんにご協力したいというのが我々の決意です。

馬場:興味喚起を図り、ブランドに落として買ってもらえたという流れを一元化して、ネットもリアルもつないで、生活者がどう動いたかを可視化するのが、私の目指すところです。

茂呂:ありがとうございました。オウンドメディアを基点に、マスから店頭までコミュニケーション全体と連携する。さらにはマーケティング・事業の高速PDCAビジネス基盤と位置付け、事業会社さん、媒体社さんと一緒に多くのチャレンジを取り組まさせていただければと思います。本日はどうもありがとうございました。

茂呂 譲治
株式会社博報堂 アクティベーション企画局 デジタルアクティベーション部 部長

「360(統合プランニング)×365(データ起点の継続型マーケ)」の両軸に向き合うチームを率い、国内外の複数企業とパートナー化。 また「博報堂DY 次世代オウンドメディア・マーケティングセンター」ではグループ十数社のリーダーとして、媒体社等と連携、多数のソリューション開発やデータビジネス追求を牽引。

小川 一
株式会社毎日新聞社 取締役 総合メディア戦略、デジタル担当

1981年入社。東京本社社会部、横浜支局長、社長室委員、社会部長、販売局次長、「教育と新聞」推進本部長、コンテンツ事業本部次長、東京本社編集局長などを経て2015年から現職。共著に『テロリズムと報道』(現代書館)、『報道される側の人権』(明石書店)、『あなたの個人情報が危ない』(小学館)など。

長崎 亘宏
株式会社講談社 第一事業局次長 兼 ライツ・メディアビジネス局次長

雑誌、コミック、デジタルメディアの広告商品開発やイベント事業に携わる。2010年よりJMPA(日本雑誌協会)、JMAA(日本雑誌広告協会)、協力各社によって運営されている雑誌広告効果測定調査「M-VALUE」設立に従事。2014年よりJIAA(日本インタラクティブ広告協会)ネイティブ広告部会座長として、ガイドラインや広告効果指標の整備をリード。

馬場 崇暢
アサヒビール株式会社 デジタル戦略部 担当課長

1999年アサヒビール株式会社入社。京都にて業務用営業、香川県にて営業企画、首都圏にて量販営業、MDを担当。2013年にデジタルコミュニケーション戦略室(現デジタル戦略部)に異動。現在、CAMPANELLAの運営やEC企業窓口などデジタル関連の幅広い業務に携わる。

鳥羽 渉
株式会社ユーキャン ウェブマーケティング部 次長

2000年入社。通信教育部門の指導や講座開発を担当し、2006年ウェブ担当に。以降、ウェブ広告出稿担当、自社サイト管理担当を経て、現在は通信教育部門のウェブマーケティング全体を管理。

関連記事はこちら