アドミュージアム東京で開催されている企画展「世界をしあわせにする広告-GOOD Ideas for GOOD―展」(2016年5月17日~7月30日)において、7月12日にトークイベント「東北 for GOOD」が開催されました。

東日本大震災から5年。復興支援活動を通じて見えてきたのは、アイデアの実現の難しさと仕事の本質でした。アイデア実現のためには「仲間との信頼関係構築」、「地道な努力」が不可欠です。課題解決のアイデアとそれをどう実現させたのか、また日本のこれからの課題や解決のためのヒントなど、未来志向で考えるパネルディスカッションとなりました。

左から、博報堂シニアクリエイティブディレクター 須田和博、電通クリエイティブディレクター/電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表 並河 進氏、博報堂クリエイティブディレクター 鷹觜愛郎(たかのはし あいろう)、NPO法人ETIC. 事業統括ディレクター 山内幸治氏

自らの職能を活かし、様々な人たちと協働

テーマは、「東北の『あの時』と『現状』と『これから』~動いたからこそわかる、実感と出会いと課題~」。博報堂シニアクリエイティブディレクター 須田和博による司会進行で紹介されたパネラーは、電通クリエイティブディレクター/電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表 並河 進氏、NPO法人ETIC. 事業統括ディレクター 山内幸治氏、博報堂クリエイティブディレクター 鷹觜愛郎の3名、それぞれの「あの時」の体験とそれぞれが取り組んでいる復興支援活動についての紹介がありました。

並河氏は、復興支援活動として「ユニセフ ちっちゃな図書館」や「トヨタ エスティマハイブリッド Charge the Futureプロジェクト」などを手掛けるかたわら、ボランティア活動をしていました。そこで気づいたことが「支援したい人」と「支援されたい人」に少なからずのミスマッチが生じているそうです。そこで、「できること」と「もとめていること」を上手につなぐ仕組みを構築するのに腐心したと当時を振り返りました。

山内氏は、起業家型リーダーを育成し、社会のイノベーションに貢献するNPOとしての取り組みの一環として、「右腕プログラム」について紹介しました。現地リーダーの「右腕」となり、事業創造・産業復興・コミュニティ再生などの課題に挑む人材のマッチングを行うものです。当時、刻々と状況が変わりゆく避難所で、中心的な役割を担うマネジメントリーダーが誕生しましたが、自らも被災者であるリーダーをサポートする必要性を強く感じて始めた取り組みと紹介しました。

鷹觜は、「浜のミサンガ『環(たまき)』を紹介。自らも盛岡で被災したが、震災直後から医療、土木、工事など自らの職能で様々な人が活躍しているのを横目に、自分ではなかなか行動に移せず、もどかしい思いがあったと言います。一方で、日が経つにつれ「支えたい」という思いと被災現場のニーズが必ずしもかみ合っていないと感じたことから、コミュニケーションのプロフェッショナルとして役に立てることがあると活動を始めたと回想しました。

このように、広告・コミュニケーション領域のプロフェッショナルと人材育成のプロフェッショナルという領域が異なるパネラー3名ではありますが、共通していたのは、震災後に湧き上がってきた「自らの職能で貢献できることはないか」という強い想いでした。手探りの中、苦労しながらも、その「動く」過程を通じ、回りの他の分野のプロフェッショナルから、地元の被災した方々まで様々な人を巻き込み、それぞれの力を借りながら、並河氏が示した「『できること』と『もとめていること』」の差をなくすべく奔走してきた3名の経験者の生声は観客の胸に迫るものがありました。

  

3つの問いから見えた、3名の想い

後半は、「復興支援活動を始めたきっかけは?」、「復興支援活動を『やってみて』実際どうだったか?」、「復興支援活動を通じての『未来展望』は?」という3つの質問をガイドにしつつパネラー3名によるクロストークが繰り広げられました。

ここでもキーワードは「人」にありました。人の縁がきっかけで東北支援を始めたというのもパネラーの共通点。身近な背中を押してくれる人の存在が大きかったようです。また、復興支援活動を進めていく中にあったキーワードも「人」。誰しもが経験したことがない未曾有の状況で、すべてが初めてで、手探りでもがいている中、いろいろな人が助けてくれたり、経験者が助言してくれたりしたことで進めることができたそうです。一方で、当初は地元の人と軋轢やミスマッチが生じることも。しかし、時間をかけて話し合ったり、時には酒を飲み交わしたりすることで信頼関係を築くことで、そのギャップを埋めていったエピソードも披露されました。

今後の展望について並河氏は「復興支援活動を通じた自分の経験で、非常時にどういうものが必要か表にして公開しました。災害から時間が経過すると必要なもの、足りないものも変化してくるし、心の変化もあります。あらかじめ知っておくといざという時あわてないで済みます。大事だと思います」と語りました。山内氏は、「地域を巻き込んだ課題解決をすることが必要だと思います。特定の団体だけではやれないことが多いです。非常時だったからセクターを超えてできたことがありましたが、平時にはなかなか難しいと思います。それを乗り越えて進められる人が必要」と述べました。鷹觜は「関わった復興支援プロジェクトで、誰かの役に立てたというのは『生きている実感』がありました。今後、人々の東日本大震災への関心が低下していく中で、いかに復興支援活動を継続させていくのか。それぞれの作業負担を分散させることで息の長い支援活動ができるのではないかと思っています」と話しました。その後の質疑応答も活発に行われ、熱のあるイベントとなりました。

最後に「世界をしあわせにする広告―GOOD Ideas for GOOD―展」で3回のトークイベントの司会進行をした須田は、次のような感想を述べています。
「今回、トークイベントの司会という初めての体験を、しかも3回連続でやりました。1回目・2回目のスタートアップ for GOOD のコピー大喜利も、得がたい経験と学びを得られましたが、3回目である今回の東北 for GOODも登壇者の方々の実体験からのリアルな学びを多数シェアしてもらえました。並河さんの『桃太郎スタイル(一人ずつ仲間を増やす)』や、右腕支援ならぬ『親指支援(そのくらい些細でもよい)』などの言葉づくりのセンス。鷹觜の聴衆の心に訴える、わかりやすく丁寧な語りくちなどに、お二人のコミュニケーションのプロとしての能力が、支援の場でも重要な働きを示したであろうことを強く感じました。
またもう一方で、山内さんの現場にもまれ続ける実践知からの印象深い言葉の数々。『提案するのでなく、訊く。訊けば、何かお役に立てるかもしれない。聞くという行為が、すべての始まり』『右腕とミスマッチが起きることもある。だから、学ぶということを真ん中におく。アレしろ、コレしろでなく、お互いに学び合えるということこそ大事』『平時の壁は厚い。非常時には、いろんなセクターを超えて対応しなければならない。特定の役割でなく、立場を超えてやる。そのための準備として、多様なキャリアを経験しておくことはチカラになる』などの言葉は、自分がいま直面している普段の仕事にも、まったく当てはまる教訓だと思い、平時・非常時の別なく『未来への準備の基本』を教えてもらったと感じました。
このような多くの学びを得る機会を、3回にも渡って与えてくださったアドミュージアムの皆さまに、本当に感謝したいです」。

 

イベント詳細はアドミュージアム東京のウェブサイトをご覧ください → こちら