016年5月30日~6月2日、世界最大の広告関連イベント、アドバタイジングウィークが東京・六本木で開催されました。アジア初開催となる今回、業界の最先端を走るさまざまなキーパーソンが登壇し、ブランド、メディア、マーケティング、テクノロジーや文化について熱い議論が交わされました。

今回は、6月1日に『エスタブリッシュの逆襲』と題し、\QUANTUM代表取締役兼CEOの高松充がモデレーターを務め、日本を代表する大企業で、従来の仕事の枠を超えてイノベーションを実践している2人をゲストに迎えて行われた博報堂DYグループのセミナーをレポートいたします。

モデレーター:
高松充(株式会社QUANTUM代表取締役社長兼CEO)
スピーカー:
秋山貴之(西日本電信電話株式会社 経営企画部広報室長)
柴崎辰彦(富士通株式会社 GSI部門 戦略企画統括部長)

大企業が挑むそれぞれのイノベーションのかたち

高松
イノベーションの代名詞であるシリコンバレーの特徴として、起業支援のエコシステムがあること、挑戦を称賛するカルチャーがあること、そしてイノベーションをけん引する移民の存在があります。最初の2つは日本でも育ってきましたが、3つ目は残念ながらそうではない。では日本のイノベーションをけん引するのは誰か。それは大企業であると考えます。今日はその大企業で、人材、技術、資金、ブランド、顧客、チャネルといった豊富な資産を活かし、今まさにスタートアップベンチャーとの共創によって日本流のイノベーションに取り組んでいるお2人に来ていただきました。

まず、モデレーターの私が社長を務める\QUANTAM(クオンタム)について説明させてください。クオンタムは4月1日にTBWA\HAKUHODOからスピンアウトしてできた会社です。広告会社のマーケティング、クリエイティブなどのリソースを活かしながら、業種業態が異なる大企業や、大企業とスタートアップ企業などの共創による、新しいサービスや製品開発、事業化を支援しています。

ではいよいよお2人に、現在の取り組みについてお話しいただきます。

秋山
NTT西日本の秋山です。弊社のような企業で新事業をやろうとすると、どうしても通信の領域を中から外へ広げるような事業が主軸になります。それなりに成功はしますが、より大きな事業にするために、まったく外の新しいビジネスと融合させられないかと思った。そこでクオンタムさんとともに取り組んだのが「Startup Factory ビジネスコンテスト」です。スタートアップ企業のスピード感とさまざまなアイデア、熱意と、NTTグループが持つ通信そのものやテクノロジー、いわゆる大企業がもつブランド力と資金力、販路等を融合させると何が生まれるだろうか、という思いで取り組みました。優勝者を決めて終わるのではなく、出資、提携、あるいは営業協力といった形で、実際にローンチさせることを目標としています。

柴崎
富士通の柴崎です。弊社の売上利益の半分以上を占めているのがソリューションビジネスで、約3万人のSEが屋台骨を支えています。ビジネスとしては主に企業の情報システム部門をはじ めとするお客様から仕事を受ける受託型サービスモデルを展開して来たわけですが、デジタルテクノロジーで世の中が大きく変わりつつある今、これまでの事業の先にいる生活者の方々にいかにIT、ICTを使ってサービスを届けていけるかが課題だと感じていました。

そんな折『オープン・サービス・イノベーション』(CCCメディアハウス)という本に出会い、これからのイノベーションに必要なのは「共創(コ・クリエーション)」であると考えました。そこで取り組んだのがオンラインとオフラインにまたがる共創の場づくりです。具体的にはメディア上でデジタルテクノロジーやソーシャルイノベーションについて議論する場( 「Digital Innovation Lab」と「あしたのコミュニティーラボ」)を設定したり、そこに社外から著名な方などを招き入れてディスカッションをしたりします。リアルの場としては、六本木の「HAB-YU platform(ハブ・ユー・プラットフォーム)」、モノづくり工房「TechShop」、SEとお客様が共創する「Knowledge Integration Base PLY」などを設置。こうした場を使って、2015年度、社内だけでも1500人がハッカソンに参加しました。

高松
お2人はそれぞれ宣伝とSEを統括される存在なはずなのに、話を聞いているとむしろ秋山さんが事業部長、柴崎さんが宣伝部長のような気がしてきます(笑)。

イノベーションを具体化するために

秋山
我々宣伝部門がなぜビジネスコンテストに取り組むのかというと、まず大企業で新規事業を起こそうとすると「成功するのか?」「儲かるのか?」と問われてしまうんですね。でもそんなにすぐうまくいくわけはありません。そこで、宣伝部門が事業化のゼロから1のステージを担う。仮に失敗しても、スタートアップに本気で取り組んでいる企業イメージづくりという広告宣伝の仕事として社内に理解してもらえるわけです。その上で、コンテストで優勝した事業アイデアをアクセラレーションすることで、事業化にも結び付けていく。

高松
ゼロから1を宣伝部が、そして1から10をビ ジネスアライアンスや事業開発を担う部署がやられていて、社内の連携が非常にうまくいっていますね。柴崎さんも3万人のSEを統括する立場で、その文化を 変えていくというのは大変なんじゃないかと思いますが、そのあたりのコツ、やり方についていかがですか。

柴崎
同じSEといっても、金融、流通、製造業などとそれぞれ専門があって、サイロ化してしまっているのが現状です。ただ一方で、デジタル化が進むにつれその境目はいずれなくなるだろうと私は思っています。そんな中で、今社内メディアを使って互いの専門について学んだり、クオンタムさんのノウハウをお借りして、事業開発プログラムをテーマに頻繁に社内ハッカソンを行ったりしています。そうすることで、異なる専門分野同士のコラボレーションが生まれたり、自然発生的にイノベーションが生まれるような環境づくりを進めています。

これからの広告会社の役割

高松
受託型という意味で、広告会社の人間としてはSEの仕事にとても親近感を覚えます。ですからなおさら、3万人のSEを抱える富士通さんがそのように変化を起 こそうとしている姿は刺激的です。一方NTT西日本さんも、大企業としては異例の取り組みを行っている。こうした変化は両社にとどまることはないでしょう。では我々広告業界は今後どのように変わっていくべきでしょうか。

秋山
この商品を売りたい、このブランド を浸透させたいといったニーズがあったときに、宣伝部門であれ広告会社であれ、ただ受け身で仕事をしていていいのでしょうか。私が最初に社長から出された お題は、「世の中にNTTと組みたいと思わせるようなCMを」ということでしたが、社内で話をしても広告会社に相談してもなかなかうまくいかなかった。それをブレークスルーしようとして始めたのが「Startup Factory」です。さらにそれを単なる「祭り」で終わらせないために、クオンタムさんが力を貸してくれることになったわけです。これからの広告会社は、クライアントに求められた商品サービスをPRするだけではなくて、そのあとの事業展開まで、リスクをシェアしながらコミットしていくという道も目指すべきではないでしょうか。

柴崎
広告宣伝のノウハウを、マーケティング部門や宣伝部門だけじゃなくて事業部門の方々にも届けてほしいですね。我々がやっていることをサンプルにしながら、イベント運営ノウハウなどを通じてイノベーションを起こすことが可能なのだということを、より多くの企業の人間に知ってほしい。そうすることで日本企業にも、ひいては日本全体にも、何かいい変化が生まれるんじゃないかと思います。

高松
お2人とも、大企業のリソースは使い倒してほしいとのこと。スタートアップの方々は、まさに大企業をハックするくらいのスタンスで臨むことが大事かもしれません。広告会社の我々も学ぶことが多いセッションだったと思います。ありがとうございました。

<終>

《プロフィール》

高松充
株式会社QUANTUM代表取締役社長兼CEO

1989年、博報堂入社。営業職、経営企画職、在米日本大使館駐在を経て、TBWA\HAKUHODOの設立に従事。2006年の設立後は CSO、CFOを歴任。
2011年にHuman-Centered Open Innovation(HCOI)事業を立上げ、「ミライニホン」等、世の中を楽しく、日々の暮らしを豊かにする製品やサービスの開発に邁進。2014年、HCOIを実践する場「QUANTUM」を芝浦に開設。2016年4月、株式会社QUANTUMとして独立し、大企業、スタートアップ、ベンチャー企業との共創により、更に多くの事業を、連続的に生み出すべく奮闘中。

秋山貴之
西日本電信電話株式会社 経営企画部広報室長

1988年NTT入社。マーケティング分野で職歴を重ね、2014年7月より広報室長として着任。
「わくわく、ドキドキ」をテーマに「梅田お化け屋敷×ICT:ビビリ度測定」など新しいイベントを通じた新サービスの開発やビジネスモデル策定等広報室の枠を飛び越えた広告宣伝を展開。前職の高知支店長よりロードバイクを始め、現在はトライアスロンにも参戦。

柴崎辰彦
富士通株式会社 GSI部門 戦略企画統括部長

1987年富士通株式会社に入社。国際ディジタルネットワークビジネス、テレカンファレンスビジネス、CTIビジネス、CRMビジネスなど数々の新規ソリューションビジネス の立上げに従事。2012年同社のシステムインテグレーション部門戦略企画室にてコミュニケーション創発サイト「あしたのコミュニティーラボ」を立ち上げ、オープンイノベーションを実践中。著書に「勝負は、お客様が買う前に決める!」(ダイヤモンド社)がある。