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【博報堂生活総研酒井研究員が見た!SXSW視察レポート②】小さなキッチンスケールが料理を変える?テクノロジーがもたらす台所革命

2016.05.25
#クリエイティブ#テクノロジー

博報堂生活総合研究所の酒井崇匡です。

2016年3月に開催されたSXSW(サウスバイサウスウエスト)2016のレポート第二回目は、テクノロジーによって進化するキッチンの最前線についてのお話です。

前回の記事でもご紹介しましたが、SXSWとは米国オースティンで毎年3月に開催されている世界最大のクリエイティブ・ビジネス・フェスティバルです。私が参加したインタラクティブ部門のトレード・ショー(見本市)には毎年、新しいテクノロジーを活用した様々なプロダクトやサービスが出展されますが、今回はキッチン周りの新しいプロダクトについてご紹介していきます。

測らなくていいキッチンスケールが実現した“融通の効くレシピ”

料理をする時にクックパッドなどのレシピサイトを利用されている方も多いのではないでしょうか。私も料理をする時にはいつもレシピサイトを参考にしています。

料理の初心者にとってレシピはとてもありがたい存在ですが、書いてある通りに食材の分量を測るのはなかなか手間がかかりますし、何人分を作るかに応じて分量を計算しなくてはいけません。面倒臭くなって適当に計量した結果、変な味の料理を作ってしまった経験があるのは私だけではないはずです。

そんなレシピの面倒くささを解決してくれるのが、今回トレード・ショーに出展されていたdrop(https://www.getdrop.com/)というキッチンスケールです。発売は2014年ですが、SXSWへの出展は今回が初めてのようです。

写真注:写真左下の赤い製品がdrop本体

詳しくはこちらのデモ動画(https://vimeo.com/111679871 ←動画枠として出せますか?)を見て頂きたいのですが、dropはdrop recipesという専用のレシピアプリと連動しています。このアプリはユーザーが作りたい料理を選ぶと、調理の手順毎に何をすればいいか丁寧に教えてくれます。食材の計量はdrop本体の上にボールを置いて、アプリのメーターがOKを出すラインまで食材を入れれば良いので、具体的なグラム数を気にする必要はほとんどありません。何人前の料理を作るか入力すれば、もちろんそれに合った分量がレシピに反映されますし、本来の分量に足りない食材があった場合は調理の途中でも自動で他の食材の分量を調整してくれます。

不思議なことにdrop本体には重さを表示するモニター類は一切ありません。というより、このプロダクトがユニークなのは、食材の分量を測るキッチンスケールでありながら、できるだけユーザーが「測る」という行為をしなくて済むように設計されているところなんです。

キッチンメーターとしてのdrop本体に使われている技術はとてもシンプルで、取り立てて目新しいものは感じられません。しかし、「レシピを見ながらの料理」というユーザーの体験全体で考えるとどうでしょうか。これまでの「レシピを見ながらの料理」は、細かな分量をいちいち気にしなければならず、間違えると取り返しがつかない感じがしてしまうものでした。しかしdropは、それをもっと気楽で、融通が効くものに変えようとしています。私がこのプロダクトに魅力を感じたポイントはそこにあります。

そういう意味では、dropが提供しているのは「スマートなキッチンスケール」というより、「スマートなレシピ」と言った方が正しいかもしれません。出展企業によると、今後は他サイトとの連携を進めてレシピ数を大幅に増やす予定とのことでした。

地ビールならぬ自ビール?食のマス・カスタマイゼーション

次に取り上げたいのが、家庭用ビール醸造機として話題を呼んでいるpicobrew(https://www.picobrew.com/)です。麦芽やホップなどが入った専用のパッケージを入れ、苦みやアルコール度数を設定すれば自分好みのビールを自宅で簡単に作ることができます。“地”ビールではなく、“自”ビール製造機なんですね。これまではビールの醸造には大掛かりな装置と専門的なスキルが必要でしたが、テクノロジーがそれを小型化、自動化しているのです。(日本では酒造免許なく酒類を醸造することは法律で禁止されているため、個人がこの製品を利用することは難しいのですが。)

写真注:家庭用ビール醸造機picobrew

picobrewは単に醸造機を販売するだけでなく、世界各地のクラフトビールブランドのオリジナルパッケージを流通させるプラットフォーム(https://www.picobrew.com/BrewMarketplace)を作ろうとしています。トレード・ショー内で行われたプレゼンテーションによると、既に300を越えるクラフトビールが参加しているそうです。それだけでなく、個人の醸造家が考案したオリジナルパッケージも、このプラットフォームの中で流通させることを視野に入れているようです。

低コストな大量生産の体制を取りながらも、多様化する個々のニーズに応えようとするマス・カスタマイゼーションという考え方が最近注目を集めていますが、picobrewは食のマス・カスタマイゼーションの形を示しています。

XSW2016のトレード・ショーでは、picobrewの他にも、自分好みに炭酸の強さと味を設定できるlavít(www.drinklavit.com/)という炭酸飲料製造機も出展されていました。こちらも来年中に家庭用の製品を発売予定となっています。

写真注:炭酸飲料製造機lavít

テクノロジーが変える調理の未来

その他にも、3DフードプリンタのBeeHex(http://beehex.com/)など、トレード・ショーには様々な食関連のプロダクトやサービスが出展されていました。

家庭の中での新しいテクノロジーというとリビングに置かれたテレビなどのAV機器を思い浮かべがちですが、実はキッチンも電気レンジや冷蔵庫、炊飯器など家電の宝庫です。テレビのスマート化はどんどんと進んできていますが、今後はキッチンにもスマート化の波が起こってくるはずです。

写真注:3DフードプリンタBeeHex(左上)などの出展プロダクト、サービス)

キッチンでスマート化、IoTというと、「家の外にいながら冷蔵庫の中身をチェックする」とか「家に帰る前に炊飯器を遠隔で操作する」というような話がイメージされます。しかし、dropのようにスマホアプリとキッチン家電が接続することで料理や家事のプロセス自体が変わったり、細かい設定をスマホ側から行えるようになることで、それぞれの人の生活に合わせる「柔軟さ」を家電が身につけていくという点も大きな変化でしょう。

また、picobrewや3Dフードプリンタは、今まで限られた専門的な場所でしかできなかった加工や調理法を、テクノロジーの力で一般家庭に普及させていくという点でまた別の方向性を示しています。冷蔵庫や電子レンジの普及によって家庭料理のバリエーションは大きく拡がりましたが、今また次の波がやってこようとしているのかもしれません。

<執筆者>

酒井 崇匡(さかい・たかまさ)
博報堂生活総合研究所 研究員

マーケティングプラナーとして、教育、通信、外食、自動車、エンターテインメントなど諸分野でのブランディング、商品開発、コミュニケーションプラニングに従事。2012年より現職。著作に「自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃」(星海社)がある。

※本レポートは「THE HUFFINGTON POST」にも掲載されています
http://www.huffingtonpost.jp/takamasa-sakai/sxsw-kitchen-revolution_b_9763718.html

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